公立高校アメリカンフットボール部の練習中に生徒が倒れ死亡した事例

2018.11.19 スポーツ中の事故

京都地方裁判所平成19年5月29日判決

事案の概要

本件は、被告の設置するA高校のアメリカンフットボール部(アメフト部)の合宿における練習中に急性硬膜下血腫の傷害を負い死亡したB の両親である原告らが、同部の顧問及び監督であるC教諭には、同部における指導を行うにあたり頭部外傷事故を防止する注意義務を怠った過失があると主張して、被告に対し、国家賠償法1条に基づき、B の死亡による損害の賠償を求めた事案です。

アメフト部は、平成16年8月14日から同月19日までの間の予定で、本件グラウンドにおいて合宿を行いました。

8月16日、午前9時ころから午前11時30分ころまで午前の練習を行いました。

昼食及び休憩の後、午後3時ころから午後の練習を開始し、ウォーミングアップ、ストレッチ、反応練習、ダッシュ等をした後、午後3時30分ころから10分間の予定でオクラホマ練習を行いました。

オクラホマ練習とは、アメリカンフットボールにおける練習の一種であり、オフェンス(攻撃)側2名(ブロッカー役及びキャリア〔ランニングバック〕役)、ディフェンス(防御)側1名の合計3名で行い、ブロッカー役とディフェンス役が当たり押し合っている間に、その横をキャリア役がボールを持って突破する練習です。

その内容は次のとおりです(以下「当たり練習」といいます。)。

  1. ブロッカー役とディフェンス役が向かい合い、いずれも手を地面についた姿勢で構え、ブロッカー役の後ろにキャリア役がボールを持って立つ。
  2. ディフェンス役は、キャリア役にタックルするなどして、キャリア役の突破を阻止する。
  3. ブロッカー役は、ディフェンス役に当たり、ディフェンス役がキャリア役に対しタックルを行うのを阻止する。
  4. キャリア役は、当たり押し合っているディフェンス役とブロッカー役の横を突破する。
  5. なお、ディフェンス役は、ブロッカー役が動き出すまでは動くことができない。

B は、10分間の予定であった本件オクラホマ練習が間もなく終了する午後3時39分ころ、OB のIに頭痛を訴え、ふらついた状態で歩いていました。

これを見たC教諭は、B に声をかけ、地面に仰向けに寝かせ頭部の冷却を行うなどの応急措置を行いました。

その後、B の意識がほぼなくなったため、C教諭は、Iに救急車の出動の要請を指示し、これを受けたIは午後3時51分ころ119番通報を行い、救急車は、午後4時14分ころ到着してB を収容し、午後4時23分ころ、G顧問及びマネージャー1名を同乗させ、病院に向け出発しました。

B は、救急車内で既に両側瞳孔が散大しており、午後4時52分ころ病院に搬送された時点では、すでに昏睡状態になっており、急性硬膜下血腫と診断され、午後7時52分ころから午後9時16分ころまで、開頭血腫除去術及び減圧開頭術を受けたが、翌17日午後0時50分ころ死亡しました。

裁判所の判断

C教諭の注意義務違反の有無について

まず、裁判所は、アメリカンフットボールについて

「アメリカンフットボールは、数あるスポーツの中でも、競技者が互いに激しく接触、さらには衝突することが避け難いだけでなく、むしろ本来的に予定されている競技であるから、接触・衝突に付随して様々な事故が生じ、競技者の身体・生命に危害が及ぶことの高度の危険性を内在している。したがって、アメリカンフットボールを高等学校における教育の一環である部活動として行う場合には、生徒の指導にあたる顧問の教員は、アメリカンフットボールに内在する危険を可及的に排除すべく、最大限の注意を払うべき義務を負っているものというべきである。そして、本件オクラホマ練習のごとく、参加者同士の身体の衝突を不可避とし、生徒の身体・生命に危害が加わる危険性が特に高い練習を行わせる場合には、その指導にあたる教員には、特に高い注意義務が要求されるものというべきである。」

とし、さらに、

「単純型の急性硬膜下血腫の発症の経緯に照らせば、頸部の筋力が不十分である者は単純型の急性硬膜下血腫発症の危険性がより高いものと考えられるところ、成長過程にあり頸部の筋力も未熟な高校生がアメリカンフットボールを行う場合には、大学生や社会人が行う場合にも増して、頭部の衝突から生じる危険につき、より一層の注意が払われなければならないものといえる。」

と判示しました。

その上で、裁判所は、

「当たり練習については、頭部のみをもって相手方の身体(頭部を含む。)から衝突することは頭部外傷発生のおそれが高い危険な当たり方(ヒッティングフォーム)であることは自明であるところ、公式規則の改正により、本件事故当時、腕全部を伸ばし掌を相手に向けて当たることが許されていたのであるから、アメフト部の顧問であったC教諭は、事故防止の観点から、部員に対し、頭部よりも手を先に相手の身体に当てるヒッティングフォームを徹底して指導すべき注意義務、具体的には、当たり練習を実施するにあたり、まず、①頭部から当たることの危険性(ヘルメットをかぶっていても危険であること)を部員に説明し、理解させ、②フォームタックル及びフォームブロックの練習を十分に行わせることにより正しいヒッティングフォームを身に付けさせ、③部員が正しいヒッティングフォームを身に付けたか否かにつき注意を払い、危険なヒッティングフォームで当たっている部員に対しては、適時、適切に、注意及び指導を行い、④正しいヒッティングフォームを身に付けたことを確認した上で、本格的な当たり練習を行わせるべき注意義務を負っていたものというべきである。」

と注意義務の具体的な内容を示しました。

そして、裁判所は、まず

「C教諭は、新入生に対し、顔を上げ、掌を相手に向けて前に差し出して当たるという安全なヒッティングフォームを正しいヒッティングフォームとして指導しており、また、当たり練習についても段階的に行っていたものと認めることができるから、その指導方法が直ちに誤っていたものということはできない。」

としましたが、

「しかしながら、C教諭は、主として、戦術面での有利さを考えて正しいヒッティングフォームの指導をしており、新入生に対し、頭部から当たることの危険性、そして正しいヒッティングフォームで当たることが事故防止の観点からいかに大切であるかについて説明し、新入生に理解させる努力を十分に行っていたものとはいえないし、そのため、本件合宿においても、Hコーチは頭と手の3点で当たるように指導し、また、本件オクラホマ練習において手よりも頭が先に当たった場合においても、C教諭、Hコーチ及びOB がその都度適切な指示を行っていないなど、C教諭の正しいヒッティングフォームについての指導は徹底していなかったものというほかない。」

として

「この意味において、C教諭には前判示の注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない。」

と判断しました。

因果関係の有無について

本件では、C教諭の過失とB死亡との因果関係が問題となりました。

裁判所は、

  • B が、本件オクラホマ練習中に頭痛を訴え、その後意識を失っていること
  • 解剖の結果、B の死因は「頭部外傷(推定)による急性硬膜下血腫」とされていること
  • B が頭部に疾患を抱えていたことを窺わせる事情が存在しないこと

からすれば、

「B は、本件オクラホマ練習における何らかの頭部打撲により、急性硬膜下血腫の傷害を負ったものと認めることができる。」

としながらも、

  • 単純型の急性硬膜下血腫は、比較的軽度の衝撃でも発生しうること
  • 頭部よりも手を先に相手の身体に当てる正しいヒッティングフォームで当たっても、頭部が相手の身体(頭部を含む。)に当たること自体は避けられないこと
  • B がどのような態様で急性硬膜下血腫の原因となる頭部打撲を被ったのかについてその具体的な状況を認めるに足りる証拠が存在しないこと

からすれば、

「C教諭の上記注意義務違反の結果、B 又は練習相手が、頭部から当たる危険なヒッティングフォームで練習相手又はB と当たったとも、さらに、頭部から当たる危険なヒッティングフォームで当たった結果、B が、急性硬膜下血腫の原因となる頭部打撲を被ったものとも認めることができない。」

として、

「したがって、前判示のC教諭の過失とB の死亡との因果関係を肯定することはできず、アメフト部の指導にあたってのC教諭の注意義務違反を理由とする原告らの請求には理由がない。」

として、原告らの損害賠償請求を棄却しました。

損害賠償請求が認められるためには因果関係が認められることが必要

本件では、顧問であるC教諭の過失については認められたものの、C教諭の過失とBの死亡との因果関係が否定されたことから、原告らの請求は棄却されました。

スポーツ中の事故についての損害賠償を請求するにあたっては、加害者にどのような過失があると認められるかや、債務者にどのような義務違反が認められるかを検討することは必須です。

しかし、それだけでなく、加害者の過失や債務者の義務違反と被害者の死傷との因果関係についてもまた十分に検討する必要があります。

スポーツ中の事故については、加害者の過失や債務者の義務違反が争点になることが大半ですが、その点だけに目を向けてしまい、因果関係についての主張・立証がおろそかにならないようにする必要があります。

その意味でも、本件裁判例は大変参考になる事例だといえます。

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