大学アメフト部に所属していた原告が先輩である被告の暴力により傷害を負ったと主張した事案

2018.12.26 パワハラ・セクハラ・いじめ

東京地方裁判所平成28年7月11日判決

事案の概要

本件は、大学のアメリカンフットボール部に所属していた原告が、同部の先輩である被告の度重なる暴言、暴力等により、両側顎関節脱臼等の傷害を負い、精神的苦痛を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

原告は、平成24年4月、本件大学に入学し、アメリカンフットボール部(アメフト部)に所属していました。

原告は、アメフト部において、学年の取りまとめ役である「頭(かしら)」を務めていました。

被告は、本件大学の3年次に在籍し、原告と同じアメフト部に所属していました。

被告は、ポジションの責任者であるポジションリーダーを務めていました。

原告と被告のポジションは、いずれも、アメリカンフットボールのディフェンスライン(守備側の最前線)でした。

平成24年12月14日午後7時頃、原告と被告を含む、ディフェンスラインのポジションの選手らは、本件大学のアメフト部のトレーニングルームにおいて、ウェイトトレーニングを行っていました。

当時、アメフト部では、ベンチプレスのトレーニングで、自身の体重の120パーセントの重量を持ち上げることを各自の目標としており、原告はその目標を達成できていませんでした。

被告は原告に対し、練習態度に関して注意をし、「頭(かしら)をやめろ。」「お前はむかつく。」「ふざけているのか。」と言ったところ、原告は「はい。」と答えたため、その態度に腹が立った被告は、掌で原告の下顎から首の付け根辺りを叩き、トレーニングルームにあった樹脂製の棒で、原告の腹部辺りを突きました(本件行為1)。

原告は、平成24年12月15日、B整形外科を受診し、レントゲン検査等を行った上、「頭部・下顎打撲」の診断を受けた。

本件行為1の後、原告はアメフト部の練習に出なくなりました。

アメフト部のA監督は、原告を呼び出した上で事情を聞いたところ、原告は、被告から受けた仕打ちを記載した手書きのメモを持参し、「被告に叩かれた。棒で殴られた。電話になぜすぐ応答しないのかと言われた。」などと話しました。

また、原告は、母親とともに、A監督のもとを訪れ、被告と一緒の部活動をしたくないとの意向を示しましたが、A監督は、アメフト部の活動を続けることを勧めました。

原告の話を受けて、A監督は、被告に対して事実確認をしたところ、被告は、「原告に対して手を出したことはあった。」と答えました。

そこで、A監督は、原告と被告の話合いの場を設けるため、両者を呼び出し、その場において被告は原告に対し本件行為1について謝罪しました。

原告は、上記の話合いの場におけるやり取りを受け、平成25年2月26日、アメフト部の練習に復帰しました。

平成25年7月30日午後7時頃、アメフト部の部員らは、本件大学のグラウンドにおいて、ポジション別にまとまってそれぞれ練習に取り組んでいました。

原告と被告は、同じディフェンスラインのポジションであるD及びCとともに、4人1組で、「リアクション」と呼ばれる練習をしていました。

リアクション練習とは、ディフェンス役とオフェンス役が、腹部を下に向ける形で両手両足を地面につけた状態で向き合い、ディフェンス役は、オフェンス役の様々な動きに合わせ、的確に反応し、相手方の攻撃を防ぐ練習です。

ディフェンス役1名、オフェンス役2名及び練習のスタートを「ダウン、ハット。」という号令をかけて合図する号令役1名の4人1組で、2プレーごとに、ローテーションで役を交替して、練習を行っていました。

そのほか、練習をビデオで撮影する役が1名いました。

リアクション練習が始まってから6プレー目の際、原告はディフェンス役、被告及びCはオフェンス役、Dは号令役でした。

ディフェンス役の原告から見て、左側に被告、右側にCが位置していました。

原告は、マウスピース及びフェイスガードのチンベルトを装着しており、原告の両手首は、20センチメートルほど離れた状態で、それ以上外側に離れないように、ゴム状のバンドで固定されていました。

Dが「行きまーす。ダウン、ハット。」と合図すると、被告とCは、いずれも、原告から見て右側に動きました。

原告は、被告の身体を、原告から見て右斜め前の方向へ、5メートルほど押していきました。

被告は、原告に対し、「ちゃんとやれ。」と言いながら、左手の掌で、原告のフェイスガードの下顎部分を突きました(本件行為2)。

下顎部分を突かれた直後、その反動で原告の顔は上を向き、原告の上半身は背中側にのけ反りました。

本件行為2以降、原告は、リアクション練習の最後の16プレー目まで、5分程度、練習に参加しました。

原告は、リアクション練習の後、アメフト部のトレーナーに顎の痛みを訴え、練習を離れて病院に診察に行くこととなりました。

同日午後7時22分頃、原告は駒沢病院の整形外科を受診しました。

原告は、顎関節の痛み、開口障害を訴え、顎部、頸椎等のレントゲン撮影をしたところ、両側顎関節脱臼が疑われ、整復術を試みるも整復できなかったため、歯科口腔外科のある東京女子医大病院で受診することとなりました。

駒沢病院で撮影されたレントゲン画像によると、原告の右側顎関節は、関節窩内に収まっているものの、関節頭は関節窩内の前方に位置していることがうかがえました。

その後、原告は、東京女子医大病院の歯科口腔外科で診察を受けました。

同病院では、原告の顎について、徒手的整復術を試みました。

原告は、下顎部の強い痛みを訴えたことから、骨折の疑いもあったため、口腔部分のレントゲン撮影(パントモ)を行い、両下顎が整復されていることが確認されました。

なお、原告は、左頸部から肩にかけての疼痛と、肩をあげると特に痛むと訴え、左鎖骨の連続性が失われているとの所見を得られました。

同月31日、前日の東京女子医大病院歯科口腔外科での所見を受け、原告は、同病院の整形外科を受診しました。

原告は、左胸鎖関節部の圧痛、動作時の疼痛等を訴え、左鎖骨部分のレントゲン撮影を行ったところ、左鎖骨近位端に骨折線が認められました。

平成25年7月31日付で作成された東京女子医大病院歯科口腔外科の診断書には、「診断名:両側顎関節脱臼、顔面打撲」「2013年7月30日当院救急外来受診、上記診断にて徒手的整復術施行。1週間から2週間程度の療養安静を要する。」との記載がありました。

平成25年7月31日付で作成された東京女子医大病院整形外科の診断書には「診断名 胸部打撲」「平成25年7月30日受傷。同日当院救急外来受診。翌日当科初診。上記診断で受傷日より、約2週間の加療を要する見込みである。」との記載がありました。

本件行為2について、原告の母親から問合せを受け、練習中に撮影されたビデオ映像の確認と、当時同ポジションで練習をしていた学生に対する事情聴取によりコーチ陣を交えて状況確認を行いました。

その結果、コーチ陣の見解では、引き金となった原告の練習態度(内容)については、プレーミスに類する落ち度があったこと自体は事実といえますが、これに対し被告が無防備な状態の下級生に対し、ヘルメット越しに顔面を殴打して指導していたことを確認しました。

原告とその母親との面談、及び被告とその母親との面談を実施し、被告を無期限のクラブ活動への一切の参加禁止、A監督を一か月間(平成25年8月6日から同年9月6日)のクラブ活動への一切の参加禁止とする謹慎処分とする旨を部員らへ通告しました。

裁判所の判断

本件行為1について

裁判所は、本件行為1と原告の傷害の因果関係について

  • 被告は、平成24年12月14日午後7時頃、原告の練習態度に関して注意をし、「頭(かしら)をやめろ。」「お前はむかつく。」「ふざけているのか。」と言い、掌で原告の下顎から首の付け根辺りを叩き、トレーニングルームにあった樹脂製の棒で原告の腹部辺りを突いたこと(本件行為1)
  • 原告は、翌日受診したB整形外科において、「頭部・下顎打撲」と診断されたこと(原告の受傷)

がそれぞれ認められ、本件行為1と原告の傷害との間には因果関係が認めました。

そして、裁判所は、

「B整形外科を受診した当日、レントゲン検査をしたものの、頭部及び下顎の打撲と診断されていることに照らすと、原告の骨などに異常はなかったことが推認されること、原告は、当該傷害に関して、B整形外科において継続して通院治療を受けておらず、一度の通院治療のみを受けたにすぎないこと、同整形外科が作成した診断書にも、加療期間等の記載がないことにも照らすと、本件行為1は、指導として許される範囲を逸脱した重大かつ悪質なものであったとまではいえない。」

としながらも、

「原告の練習態度に問題があったとしても、暴力によってその態度を正したり、指導したりすることが正当化されるわけではない。」

として、

「被告が原告に対し、本件行為1により、頭部、下顎打撲の傷害を負わせたことにつき、不法行為が成立する。」

と判断しました。

本件行為2について

裁判所は、

「被告は、原告の下顎部分を突然突いており、その反動で、原告の顔は上を向き、原告の上半身は背中側にのけ反っていることが認められる。

このような行為態様に照らすと、被告は、原告の下顎部分をある程度強く突いたものといえる。」

と認定しました。

次に、本件行為2と平成25年7月30日に生じた症状の因果関係について、裁判所は

  • 平成25年7月30日に原告を診察した駒沢病院整形外科の医師は、レントゲン検査を行った上、原告の下顎部について、両側顎関節脱臼が疑われると診断して、下顎部の整復を試みたが整復できず、歯科口腔外科のある東京女子医大病院に転院させていること、東京女子医大病院において、歯科口腔外科の医師が徒手的整復を行っていることから、駒沢病院を受診した時点で、原告の下顎部は容易に整復できないような状況になっていたといえる。
  • また、平成25年7月30日、駒沢病院で撮影された原告の整復前の下顎部のレントゲン検査結果によると、原告の右側顎関節は、関節窩内に収まっているものの、関節頭は関節窩内の前方に位置していること、東京女子医大病院の歯科口腔外科の医師は、原告について両側顎関節脱臼、顔面打撲と診断していることに照らすと、東京女子医大病院を受診し、原告の下顎部の整復が完了した時点においても、原告の顎関節は、関節窩から完全に外れた状態にはなっていないものの、容易には通常の顎関節の位置に戻すことはできない顎関節脱臼に近い状況になっていたものと認められる。

と認定しました。

そして、裁判所は、

  • 確かに、原告らが行っていた練習は、頭部等が他の選手と接触するものであるが、本件行為2は、1つのプレーが終わった直後であって、両手首をゴム状のバンドで固定し、被告の掌を振り払うなどの防衛態勢を容易にとることができない状態であった原告の下顎部を被告がいきなり突いたものであって、その後のプレーにおける接触とは異質の衝撃を加えるものである。
  • 本件行為2の時点で、原告は、マウスピース及びフェイスガードのチンベルトを装着していたため、それらの保護具により顎に対する衝撃が幾分軽減されたものと考えうるが、他に、原告の顎部分に、本件行為2と同程度の力が加わったと思われる事象があったことを認めるに足りる証拠はない。
  • 原告は、本件行為2の後も、約5分程度プレーを継続していたこと、原告は、本件行為2の後、顎の痛みを訴えるまでの間、通常どおり発声できていたことが認められるものの、関節窩から完全に外れた状態にはなっていないことに照らせば、一定の時間、プレーを続行したり、発声したりすることは可能であると考えられ、特段矛盾するものではない。

として、

「本件行為2と上記の症状との間には因果関係が認められる。」

と判断しました。

本件行為2の違法性について、被告は、

「原告が練習において手抜きをしていたから、気合を入れる意味合いで、原告のフェイスガードを突いたのであり、その態様は軽微で、暴行の意図はなかったから違法性がない」

と主張しました。

この点について、裁判所は

「被告と原告が同じディフェンスラインのポジションであったこと及び被告はポジションの責任者であり、原告は学年のリーダーである頭を務めており、被告は『ちゃんとやれ。』と言いながら、リアクション練習の6プレー目の終了と同時に原告の下顎部分を突いていること、Dから見ても原告は練習に対して手を抜いていたように見えていたこと及びA監督としても原告の練習態度(内容)についてプレーミスに類する落ち度があったことは事実であるとして報告書を作成していることから、被告は、原告に対する指導の意味合いで、本件行為2に及んだと考える余地はある。」

としつつも

「指導の意味合いを含んでいたとしても、本件行為2の違法性がないということはできない。」

と判断しました。

以上より、裁判所は、

「本件行為2により、原告の顎関節は、関節窩から完全に外れた状態にはなっていないものの、容易には通常の顎関節の位置に戻すことはできない顎関節脱臼に近い状況になったという限度において、被告の不法行為が成立する」

と判断しました。

指導の意味合いを含んでいても違法である

本件では、部活動の先輩が後輩に対して、練習態度に問題があったとして、指導のために手を挙げた行為の違法性が問題になりました。

そして、裁判所は、

「原告の練習態度に問題があったとしても、暴力によってその態度を正したり、指導したりすることが正当化されるわけではない。」

「指導の意味合いを含んでいたとしても、違法性がないということはできない。」

と判示しました。

スポーツの現場では、選手の練習態度に問題があるという理由で、監督やコーチだけでなく、先輩からも、「指導のため」と称して暴力が振るわれることがあります。

しかし、裁判所がそのような行為について「違法である」と判断することは多いといえます。

その根底には「指導は暴力で行うべきではなく、口頭で行うべきである」という価値判断があるものと考えられます。

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