私立大学アメフト部の部員が先輩のいじめによる極度のストレスにより建物から飛び降りて骨折等の傷害を負った事例

2018.12.27 パワハラ・セクハラ・いじめ

神戸地方裁判所平成24年10月18日判決

事案の概要

本件は、私立大学のアメリカンフットボール部の部員であった原告が、平成19年4月から同年10月20日まで、同部の先輩であった被告からいじめを受け、原告はそのいじめが原因で急性ストレス反応を発症して建物の3階から飛び降りて骨折等の傷害を負い、右足の可動域に後遺障害が残ったと主張して、民法709条に基づき、損害賠償を求めた事案です。

原告は、幼稚園のころから水泳を始め、中学と高校では水泳部に所属し、アメフトの知識や経験はありませんでしたが、被告に勧誘されて興味を持ち、平成18年4月、アメフト部に入部しました。

なお、アメフト部の部員の8割(被告を含む。)は、同部に入るまではアメフトの経験がありませんでした。

アメフト部は、月曜日と金曜日以外の平日は午後4時30分からグラウンドで練習が始まり、午後7時から午後8時までに始まる1時間のミーティングを経て、トレーニングルームで筋肉トレーニングを行い、土日祝日は午前9時から午後1時ころまでグラウンドで練習をし、その後、夕方までミーティングを行っていました。

アメフト部では、監督が練習の際に指導に来ることはなく、4回生が練習の内容を決め、部員が遅刻した時やミスをした時等に「ペナルティ」と称して、坊主にする、眉毛を剃る、タイヤを押しながらグラウンドを走らせる等の罰則を課す習慣がありました。

アメフト部には、平成19年4月当時、4回生がキャプテンのE、副キャプテンの被告及びMの3名、3回生がF1名、2回生が原告を含む10名、1回生が11名の合計25名が選手として在籍していました。

原告は、アメフト部に入部してから1年間は、オフェンスラインのポジションを担当していましたが、平成19年4月から、被告と同じディフェンスラインのポジションを担当することになり、被告が、原告の指導係として、同月以降、自己の判断又はEの指示で、原告にペナルティを課すようになっていきました。

原告は、アメフトの試合で必要なプレーを覚えたり、作戦を考えたりすることが苦手であったため、他の選手よりペナルティを課されることが多くありました。

以下はその内容です。

  • 被告は、原告が試合や練習中でミスをした時、ミーティング中に作戦に関する質問に対して適切な答えをしなかった時、仮病を使って練習を休んだ時などに、ペナルティと称して、少なくとも10回程度、シャワー室かアメフト部の部室において、原告の頭髪の片側の側頭部のみをバリカンで刈ったり、眉を剃ったりし、原告を見て笑い、自分のストレスの発散もしていた。原告と同回生の中では丸刈りの者が他に2名おり、その他の同回生は丸刈りを強く拒否して丸刈りを免れ、被告から頭髪を刈られるのは原告のみであった。原告は、当時、レンタルビデオ屋でアルバイトをしており、頭髪や眉毛が刈られた状態でアルバイトに行くことを苦痛に感じていた。
  • 被告は、クラブ館のシャワー室で原告の膝に排尿し、その場にいた部員と、原告が驚いたり、嫌がったりする様子をみて笑うことがたびたびあった。被告は、原告以外の下回生にも排尿をすることがあった。
  • 被告は、原告が筋力トレーニングをしている際に、ほぼ毎日、ウエイトトレーニングの際に腰部に巻くベルトの金具の部分で臀部や太腿を殴打した。原告は、声も出ないくらい激しい痛みを感じ(その痛みは、痛みが引くのに数日かかる程度のものであった。)、被告は、原告が痛がっている様子をみて笑っていた。
  • Eや被告は、原告以外の部員にも、上記ベルトの金具部分で臀部や太腿を殴打することがあった。
  • アメフト部では、試合が近くなると、ポジションごとに敵チームの動きなどを撮影したビデオを観て研究するスカウティングという作戦会議を行っており、原告と被告を含むラインのポジションの部員8名ほどで、平成19年8月ないし9月ころ、1回生のNの自宅で、複数回、スカウティングを行っていた。その際、被告は、原告がスカウティングの最中に居眠りをしたり、メモを取らずに漫然とビデオを観たりしている時だけでなく、スカウティングが煮詰まった時など、原告に特に理由はないのに、ライターの火で原告のすね毛、頭髪、足の裏をあぶるなどをし、原告が止めるように頼んでも、一時的に止めるだけで繰り返し行った。被告は、その場にいた他の部員に同様の行為をすることはなかった。
  • 被告は、平成19年8月末ころから同年10月上旬までの間に、少なくとも3回、原告が着ていたTシャツを引き裂き、そのTシャツの切れ端を結んでつなぎ合わせた状態で、「これ着て帰れや。」などと笑いながら原告に言った。
  • 原告は、EからもTシャツを引き裂かれたり、油性マジックで落書きされたり、座布団で叩かれたり、裸で正座をさせられたり、筋肉トレーニング中に首に腕を回されて締め上げられたりすることがあった。原告は、MやFからも首に腕を回されて締め上げられるなどの嫌がらせを受けることもあったが、MやFからの行為は単発的であった。
  • 原告は、平成19年9月、被告から「Fをタオルで叩いてこい。」と唆され、Fをタオルで叩いたところ、Fから仕返しとして、そのタオルで首を絞められて、失神した。
  • 原告は、EとMに、3回ほど、アメフト部を辞めたいと打ち明けたが、Eから「お前は逃げるのか」と言われ、辞めることができなかった。また、原告は、被告やEから受ける行為について、同回生に相談したこともあったが、同回生からは「嫌だとはっきり断ればいい」などと言われて、一人で悩むようになり、被告を避けてクラブ館の4階の踊場付近で一人でいることが多くなっていった。

平成19年10月20日、原告は、アメフト部のミーティングで他大学との試合に備えてビデオを観ていた際に、Eからアメフトに関する質問をされましたが、それに答えることができませんでした。

被告は、ミーティング終了後、ペナルティとして原告の眉毛を剃ることとし、他の部員がシャワー室に向かう中、原告がクラブ館4階の踊り場に行こうと4階の渡り廊下を歩いているところを発見し、「どこ行きよんねん、お前、クラブ残るんか、残らんのか、はっきりせい。」と原告を呼び止め、「結局、お前は何も出来へん奴やな、シャワー行くで。」と声をかけました。

原告は、これまで、前記の状況に耐えてきましたが、被告の上記発言で、被告からペナルティを課せられるものだと直感し、被告から離れたいという極度の精神的ストレスから、無意識的にその場から逃走し、クラブ館の3階の東側窓から飛び降りました。

その結果、右足ショパール関節脱臼骨折、右踵骨開放骨折、左第2、3、4、5中足骨骨折、左リスフラン関節脱臼、右肘挫創の傷害を負いました。

原告は、平成22年2月25日、右足間節可動域制限(背屈:右0度、左5度、底屈:右45度、左80度)の後遺障害が残存して症状が固定した。

なお、原告は、本件飛び降り行為の直前に急性ストレス反応を発症したと主張しました。

この点について裁判所は、

「急性ストレス反応の発症原因となるストレスは、例外的に強い身体的、精神的ストレスであって、患者本人等の安全あるいは身体的健康に対する重大な脅威(たとえば自然災害、事故、戦闘、暴行、強姦)を含む圧倒的な外傷体験や肉親との死別の重複、自宅の火災のような患者の社会的立場や人間関係の非常に突然かつ驚異的な変化によるストレスとされていることに照らすと、これを急性ストレス反応と認定することはできない。」

としつつ、

「しかしながら、前記の事実以外に本件飛び降り行為の原因となるような事情は見当たらず、それらの事実によって原告は相当強度の精神的ストレスを受けていたことが認められ、そのような場合に逃避的行動を行うことも十分に考えられることであるので、それらの事実と本件飛び降り行為の間に相当因果関係は認められる。」

と判断しました。

なお、アメフト部は、平成19年12月3日に廃部となり、被告とEは、大学から無期限の停学処分を受け、その後、自主退学しました。

裁判所の判断

裁判所は、被告の原告に対する各行為、すなわち、

  • 頭髪や眉毛を剃る
  • 尿をかける
  • ベルトの金具部分で臀部や大腿を叩く
  • ライターの火ですね毛等をあぶる
  • 着ているTシャツを引き裂く

という行為について

「原告にアメフト部の部員としてのミスがあって行われたペナルティとして行われたものであるか否かにかかわらず、各行為の具体的態様やその頻度に照らせば、原告に身体的及び精神的苦痛を与えるものであって、不法行為を構成するというほかない。」

と判示しました。

この点、被告は、

「本件不法行為をペナルティや悪ふざけでやっていた、本件不法行為のような行為がアメフト部において余興のように流行していたのであり、民法上の不法行為としての違法性を欠く」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「前記認定の本件不法行為の内容及び程度に照らすと、大学のアメリカンフットボール部に所属する一般的な部員が、ペナルティや悪ふざけとして甘受しうる程度を超えており、それらを理由として本件不法行為を許容できるものでないことは明らかであり、本件不法行為が違法性を欠くということはできない。」

と被告の主張を排斥しました。

次に、本件不法行為と本件傷害及び本件右足後遺障害との因果関係について、裁判所は

「原告は、平成19年4月以降、EからもTシャツを引き裂かれる、座布団で叩かれる等の暴行を受けたり、MやFから単発的に首に腕を回されて締め上げられるなどの嫌がらせを受けたりすることもあったが、被告から、継続的に本件不法行為を受けていたものであり、その態様、頻度に照らせば、本件不法行為により、本件飛び降り行為に及んだものとして、本件傷害及び本件右足後遺障害によって発生した損害については、本件不法行為との間に相当因果関係が認められるべきである。」

と判示しました。

これに対し、被告は、

「被告には原告が本件飛び降り行為を行うことについての予見可能性がない」

と主張しました。

これに対し、裁判所は

「なるほど、本件飛び降り行為は一般的に通常生じうる事態とはいいがたく特別の事情というべきものであるので、本件不法行為と本件傷害及び本件右足後遺障害との間に相当因果関係を認めるためには、本件飛び降り行為について被告に予見可能性があることが必要であるというべきである。

しかし、被告は、アメフト部では4回生、原告が2回生という立場で、平成19年4月から同年10月20日まで、原告に対し、一部の髪の毛を残して頭髪を剃る、眉毛を剃る、排尿をする、ベルトの金具部分で臀部や大腿を叩く、ライターの火ですね毛等をあぶる、着ているTシャツを引き裂くといった行為を繰り返し行っていたものであり、このような行為が数か月間にわたって続き、さらにアメフト部を辞めたくても辞められない状況に陥って追い詰められれば、原告の精神的、身体的苦痛が累積、増加して、原告に何らか精神的な傷害が生じたり、場合によっては、自殺のような重大な結果を招く行為に及んだりすることが社会通念上十分に考えられ、被告は本件飛び降り行為について予見可能性があったというべきである(本件飛び降り行為は、幸いにも原告が傷害を負ったにとどまり、死亡に至らなかったにすぎない。)。」

として、被告の主張を排斥しました。

また、被告は、本件飛び降り行為の予見可能性がないことの根拠として

「被告の原告に対する各行為は、アメフト部では慣行的に行われていたもので、ペナルティか悪ふざけで行われたものにすぎない」

ことを主張しました。

しかし、裁判所は

「原告以外の部員に対してどのようなペナルティや悪ふざけが行われていたかはともかく、本件不法行為の内容、程度に照らせば、大学のアメリカンフットボール部に所属する一般的な部員が、ペナルティや悪ふざけとして甘受しうる程度を超えるものであったといえ、本件飛び降り行為に至ることについて予見可能性があったことを否定することはできない。」

として、やはり被告の主張を排斥しました。

以上より、裁判所は

「被告は、本件飛び降り行為によって生じた本件傷害及び本件右足後遺障害による損害も相当因果関係がある損害として不法行為責任を負う。」

と結論づけました。

いじめは絶対に許してはならない。

本件では、原告は、度重なる先輩からのいじめによって精神的に追い詰められ、極度の精神的ストレスを受けていたことから、無意識的に建物の3階から飛び降りるという行為に及びました。

幸い命を落とすということはありませんでしたが、それでも後遺障害が残るという結果になっています。

被告は悪ふざけのつもりだったでしょうが、もし原告が亡くなっていたとしたら、被告はそれでも悪ふざけであったなどといえるでしょうか。

本件のようなスポーツの現場に限らず、学校や職場などでもいじめは存在します。

加害者は悪ふざけや面白半分のつもりかもしれません。

しかし、被害者にとっては苦痛以外の何物でもありません。

そのようなことは、ほんの少しの想像力を働かせれば誰にでも理解できるはずです。

いじめは被害者を不幸にしかしません。

だからこそ、絶対に許してはならないと思います。

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