県立高校陸上部の顧問教諭の体罰、屈辱的発言等に誘発されて陸上部の女子高校生が自殺するに至った事案

2018.12.08 体罰

岐阜地方裁判所平成5年9月6日判決

事案の概要

本件は、原告らの子Aが岐阜県立甲高校陸上競技部に所属して、顧問教諭である被告Yの指導の下に毎日やり投げの練習に励み、県高校選手権大会で優勝するなどして活躍していたが、昭和60年3月23日早朝、被告Yの過酷な練習、暴力・暴言等に耐えかね、自宅の自分の部屋で首をつって自殺するに至った事件について、被告YのAに対する暴力・暴言等は極めて執よう悪質であって、違法性の強いものであるから不法行為を構成すると主張し、被告岐阜県に対しては国家賠償法1条により、被告Yに対しては民法709条により、それぞれ損害賠償を請求した事案です。

なお、原告らは、被告Yの暴行・傷害等とAの自殺との間に相当因果関係が存することからAが死亡したことによる損害(死亡による逸失利益や慰謝料など)を主位的に請求するとともに、仮に被告YのAに対する暴行・傷害等とAの自殺との間に相当因果関係が認められない場合でも、被告Yの行為自体、教育的配慮の全くない暴言・暴力であり、陸上部顧問と部員というAにとっては抵抗の余地のない上下服従関係の下で繰り返された極めて悪質な違法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料を予備的に請求しました。

Aは、小さいころから運動能力に優れ、高校入学後は陸上競技を本格的にやってみたいと考え、岐阜県では有数の伝統と実績を誇る本件陸上部に入部することを決意し、昭和58年4月に甲高校に入学すると同時に本件陸上部に入部しました。

Aは、入部後しばらくしてやり投げの選手となりましたが、たちまち頭角を現し、一年生のときは岐阜県大会新人戦で、二年生のときには県高校選手権大会でそれぞれ優勝し、さらに、昭和59年10月の奈良国体に出場するなどの優秀な成績をおさめ、高校生のやり投げ選手としてはレベルの高い選手でした。

本件陸上部の顧問は、昭和58年から昭和60年3月までの期間については、本件高校の保健体育担当の教諭でもあった被告Y及び同じく同校の教師であったM教諭の二人でしたが、両者にはそれぞれ顧問としての役割分担があり、被告Yが陸上部全般と女子の指導、種目としては主に投てき、跳躍という部門を受け持ち、M教諭が男子の長距離及び駅伝といった部門を受け持っていました。

したがって、やり投げの選手であったAは、はじめから被告Yの指導を受けていました。

本件陸上部は、岐阜県でも高いレベルの陸上競技部であるという実績と伝統を持っていたこと及び被告Yら顧問の指導方針もあって、練習は他の運動部に比べて厳しく、部活動の練習時間は、始業前は午前7時30分から午前8時10分までの約40分間、放課後は午後4時から、冬期は午後6時30分ころまでで、夏期は午後7時ころまでの約2、3時間の外に、休日も欠かさず練習があり、土曜日は午後2時から午後5時くらいまで、日曜日は午前10時から午後5時までという状況で、ほとんど毎日が練習でした。

また、本件陸上部では、単に練習が厳しいだけではなく、生活指導の面でも厳しく、部員がつけるべき日誌としてブロック日誌と個人日誌とがあり、部員は日誌を毎日付けることが厳しく義務付けられていたばかりか、その他に精神鍛練と称して、顧問の教師の自家用車を洗車したり、運動着を洗濯したりさせられていました。

さらに、陸上部顧問の被告Y及びM教諭の生徒に対する指導は厳しく、練習中、生徒が少しでも気を抜くと大きな声で怒鳴るばかりか、時には、平手で生徒をたたくこともありました。

そして、Aは優勝経験を持つ優秀な選手であったため、被告Yの期待も高く、それだけに、その練習方法、練習量及び生活指導のいずれにおいても他の部員より厳しい指導を受けていました。

昭和58年8月10日、被告Yは、練習中のAに対し、「もうやらなくていい。」といい、翌11日には、「おまえはばかだから。何度いったらわかるんや。やめろ。」といいました。

さらに、同年9月16日、Aが腰が痛いのを顔に出したとして「やめていけ。」と怒鳴ったので、このとき、Aは、他の部員の前で「やらせてください。」といって土下座して被告Yに謝りました。

Aは、昭和59年2月中旬ころから右足に疼痛を覚えたので、同年3月6日、医師に診察してもらったところ、右第二中足骨の疲労骨折と診断され、同医師から、2か月間練習をしないようにいわれましたが、翌7日に、Aが疲労骨折のことを被告Yに話したにもかかわらず、同人は、医師の診察を無視し、Aに対し、やり投げ、変形ダッシュ及びフロートといった足を使う練習を続けさせました。

同年5月16日、被告Yは、他の陸上部員が病院に行くことをAが知りながらそれを止めなかったことに関し、「痛いときに痛いかと聞くのではなく、一日でも練習を休ませないのが本当のおもいやりだ。」などと申し向け、「練習をみない。」といいました。

本件陸上部では、昭和59年7月26日から、本件高校の第二グラウンドにある合宿所において合宿をはじめましたが、その合宿の3日目である同月28日、被告Yは、A、T及びIの3名の女子部員が昼食時ご飯を一杯しか食べなかったことに立腹し、3名を床に正座させたうえ、手に持っていた竹の棒で、同女らの頭部を数回ずつたたきました。

その際、竹の棒はTの頭部をたたいていたときにその衝撃で割れて飛び散り、最後には、同女らは泣きだしてしまいました。

その後、Tは6杯、Aは5杯、Iは4杯、それぞれ無理してご飯を食べました。

同年8月1日、その日は合宿直後の夏休み中の日曜日であり、本来登校して自主トレーニングをすることになっていましたが、AとTは、被告Yに無断で、多治見市まで映画を見に行き、さらにその後Hと合流して、恵那市の文化会館で開催されていたコンサートに出かけ、夜遅く帰宅しました。

しかし、そのことは直に被告Yに発覚するところとなり、翌2日、被告Yは、陸上部の先輩らの前で、その件に関しAを厳しくしかり、その際「もう練習をみてやらない。」と言いました。

Aは、そのことを大変気に病み、翌3日早朝、先生や親の期待を裏切ったから反省の意味で遠くへ行ってくる旨の両親宛及びT宛の手紙を残して家出をしました。

心配した原告ら、Aの友人及び被告YがAの行方を探すという事態になりましたが、結局、Aはその日のうちに帰宅し、その後、両親らの説得で同月7日から陸上部の練習に復帰しました。

ところが、今度は、Aの一年後輩で同女の推薦で本件陸上部に入部したNが家出をするという事件が起こりました。

その家出は、厳しい陸上部の練習から自由になりたいということがその原因であって何らAの責任ではありませんでしたが、その後、AがNの母親に頼まれて被告Yに「Nは風邪をひいて寝ているだけだ」と虚偽の報告をしたことが発覚したこともあって、被告Yは、Nが練習に出てこなくなったのはAの責任であると決め付け、同月11日、体育教官室で、そのことで約2時間にわたってAを責め立てたので、Aはその場で土下座をして謝りました。

責任を感じたAは、その後も、退部しないように何度かNの説得を試み、同月13日には無断で陸上部の練習を休んでまでもNに面会し説得を続けましたが、結局、Nは退部しました。

翌14日、被告Yは、前日Aが無断で練習を休んだこと、Nの退部の件及びやり投げの記録が伸びないなどの理由で、第二グラウンドで練習中のAの頭部を、ジュラルミン製の試合用のやりで数回たたきました。

その結果、Aの頭部は幅2ないし3センチメートル、縦10センチメートルにわたり腫れ上がりました。

奈良国体を間近にした同年10月8日、被告Yは、Aがなかなか記録が伸びないにもかかわらず反省の日誌をつけなかったことに激怒し、体育館で、同女の顔面を少なくとも2回殴打しました。

そのため、Aの左目のあたりは紫色に変色し、右のほおのあたりも赤く腫れ上がりました。

同月23日、被告Yは、Aのフォームが定まらず、また、一年生のころに比べて記録が伸びないことなどから、「のらくらでぐず。」「心の中が腐っている。」「猿の物まねしかできない。」などといいました。

Aを含む本件高校の二年生は、同年11月2日から同月5日まで、広島県の大久野島方面への研修旅行に行っていましたが、その2日目の同月3日、被告Yは、研修旅行に参加していた陸上部員が朝の練習を怠ったことに立腹し、男子7名及び女子6名の部員を宿泊先の旅館の玄関に正座させ、その際、研修旅行前に旅行に参加せず学校に残って練習することを申し入れていたA及びLの両名を足で蹴りました。

特にAに対しては、被告Yは、正座している同女の右大腿を、その衝撃で同女の体が左に約90度も回転してしまうほど数回強く蹴りました。

そのため、Aの右大腿部には、長径約7センチメートル、短径約5センチメートル程度の青あざができました。

昭和60年1月31日、被告Yは、Aが日誌を提出しなかったといってしかり、翌2月1日には、陸上部におかないといって練習に参加することを禁止しました(ただし、被告Yは翌2日にはAが練習に参加することを許しました。)。

Aは、昭和60年3月9日から同月13日にかけて実施された学年末試験において、計算実務という科目で欠点をとったので、終了式の前日にあたる同月22日の午前中に追試験を受けました。

Aはその試験に辛うじて合格しましたが、15問中3問しか正解することができませんでした。

その後、同日午前11時ころ、Aは、任意に体育教官室に行き、追試験の結果を被告Yに報告しましたが、同人は、Aを直立させたまま、勉強の成績が悪いことや計算実務の勉強に関し担当の教師に聞きに行かないで別の教師に聞きに行ったことなどについて、大声で同女を怒鳴りつけるなどして、同日午後0時過ぎまで説諭しました。

その間、被告Yは、やり投げの練習をさせないなどとAに申し向けたので、Aは、グラウンドの片隅ででもいいから練習をさせてほしい旨懇願しましたが、結局、被告YはAが練習に参加することを認めませんでした。

その後、Aは昼食もとらずに、同日午後1時過ぎころから理科準備室において、Aの担任教諭と話をしましたが、その際、Aは、被告Yにしかられてつらかったこと、もう同人にやり投げの面倒を見てもらえないことなどを話し、かなり気を落として涙を流していたので、担任教諭は、やり投げをやりたい気持ちがあるならその旨を被告Yにはっきりと伝えてくるように促すなどして、Aと同日午後2時過ぎころまで話していました。

そこで、Aは、同日午後3時半ころ、再び体育教官室に行き、被告Yに対し練習に参加させてくれるように懇願しました。

しかし、被告Yは、Aが今回の追試験で15問中3問しか正解することができなかったことなどを理由に同女を直立させたままなおも説諭を続け、その際、「おまえは、おれがいじめているとか、そういうことを親に告げ口しているだろう。」などといって同女を責め立てました。

その問、Aは、舌が紫色に変色するほど歯を食いしばって被告Yの説教に耐えていましたが、結局、被告Yは、Aが間近に迫っていた合宿等の練習に参加することを許可することなく、「お前なんかもう知らん。おまえの顔など見たくない。」などといって、同日午後5時過ぎに退出しました。

その後、AはM教諭と少し話した後、再び担任教諭のところヘ行き、これから被告Yの家に行く旨伝えると、同日午後6時ころ、体育教官室における被告YのAに対する説諭の様子をみて同女を心配して待っていたRと一緒に下校しました。

下校途中、Aは、Rに対し、陸上部には戻れないかも知れないとか、家に帰ってからもう一度被告Yの家へ謝りに行くなどと話し、かなり落ち込んだ様子でした。

Aは、帰宅してからもひどく落ち込んだままほとんど話をすることなく、夕食もとらずに自室に引きこもりました。

同日午後10時ころ、心配した父である原告X1が、Aの部屋に同女を慰めに行きましたが、その際、Aは、明日被告Yに謝りに行く旨を話す程度で、後はただ涙を流すばかりでした。

原告X1は同日午後11時ころ退室しましたが、その後、結局、Aは全く食事をとらずに電気を消して床につきました。

そして、翌23日午前5時30分ころ、母である原告X2が、Aを起こすために同女の部屋に入ったとき、首をつって自殺しているAを発見しました。

同女の死亡推定時刻は同日午前3時ころでした。

裁判所の判断

部活動における教師ないし顧問の懲戒行為の違法性について

裁判所は

「部活動が学校教育活動である以上、部活動における教師あるいは顧問の指導ないし懲戒行為についても、学校教育法11条ただし書が適用され、部活動で行われる「体罰」ないし正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為は違法というベきである。」

とした上で、

「ただし、部活動には、クラブ活動とは異なり、学習活動やクラブ活動にはないある種の厳しさが存在することも確かであり、部活動に参加する生徒もそのような厳しさを求めて参加することもあると思われる。しかしながら、部活動の教育的意義に鑑み、そこにいう部活動の厳しさとは、生徒各人がそれぞれ自己の限界に挑むという汗まみれの努力を通して、より深い人間的つながりを形成しながら、それを基盤として助け合い、励まし合う中で、生徒が自己の限界に厳しく取り組み、それを自分の力で克服していくという意味の厳しさであって、決して、指導者の過剰な叱責やしごき、無計画に行われる猛練習や長時間の練習といったものを意味するものではないというべきである。したがって、高等学校における部活動では、特別活動であるクラブ活動とは違った意味での厳しさがあり、それゆえに教育課程における教師と生徒の関係とは異なった側面が存在するとしても、被告岐阜県が主張するような、多少のしごきや体罰近似の指導を事前に生徒が包括的に甘受するといった相互了解があると認めることは到底できず、また、そのような相互了解があってはならないのであって、仮に部活動に参加する生徒が具体的にそのような指導を自ら承諾していたとしても、それが、学校教育の場で行われかつ学校教育法11条ただし書に規定されている「体罰」ないし正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為である以上、違法との評価を免れるものではないと解すべきである。」

としました。

そして、裁判所は

「何が学校教育法11条ただし書に規定されている「体罰」に当たり、正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為にあたるか否かについては、当該生徒の性格、年令、行動、心身の発達状況及び非行の程度等、諸般の事情を総合考慮して、指導者の言動により予期しうべき教育的効果とそれによって生徒が被るべき権利侵害の程度とを比較して決する以外にないが、少なくとも、殴る、けるなどの身体に対する侵害はもちろんのこと、罰として正座、直立など特定の姿勢を長時間にわたって保持されるなど、生徒に肉体的苦痛を与えること及び食事をとらせずに特定の部屋に長時間留めておくことなどは「体罰」ないし正当な懲戒権の範囲を逸脱した行為として、違法であるというべきである。」

との判断基準を示しました。

以上の一般論及び前記認定の事実を総合考慮して、次に、被告YのAに対する言動について、その違法性の有無を検討しました。

被告YのAに対する「ブス」との発言について

裁判所は

「確かに「ブス」という表現も、その発言された状況あるいはその場の雰囲気によって、それが相手に対する侮辱的な表現とは受け取られないこともまれにあるとは思われるが、「ブス」という表現は、一般的には相手の容貌に対する侮辱的な表現でしかないこと、被告Yは選手の練習中に面と向かって発言しているが、それが、陸上競技における選手の能力ないし技能とは何ら関係がないこと、Aが17歳という多感な思春期の少女であることを考えると、右表現は前述した部活動における厳しさとは全く無縁のものであって、単なる生徒を侮辱する発言であり、教師あるいは陸上部顧問の発言としては、極めて不適切であるといわざるを得ない。」

と判断しました。

被告YのAに対するその他の発言について

裁判所は、

「これらの表現は、前述の部活動における厳しさとは全く無縁のものであり、単に生徒の人格を傷付け、自尊心を損なうだけの表現である。特に、「のらくらでぐず。」「心のなかが腐っている。」「猿のものまねしかできない。」という表現は、前述の「ブス」と同様に侮辱的な表現であり、不適切との非難を免れない。」

「また、Aは本件陸上部で陸上競技に打ち込むために本件高校に入学してきたのであるから、そのような生徒にとって指導者から陸上部をやめろといわれることがどれほど精神的苦痛を与えるものであるかは、Aが被告Yからそのようにいわれた際土下座して謝ったことなどからも容易に推認しうるところである。」

と判断しました。

また、裁判所は

「土下座という行為がいかに屈辱的な行為であるかは多言を要しないのであって、本件の場合、たとえAが許しを乞うため自発的に土下座したものとしても、そのような生徒の土下座を容認し、生徒がそうしなければ許さないという被告Yの姿勢そのものが、もはや教育的配慮の全く欠けた、極めて不適切な指導方法という以外にない。」

とも付け加えました。

被告Yが正座しているAの頭部を竹の棒で数回たたいたことについて

裁判所は

「いかに陸上競技選手にとって栄養の摂取が重要であるといっても、高校の部活動において、生徒がご飯を一杯しか食べないというだけで顧問の教師が生徒を正座させたうえ、その頭部を竹の棒で強打するという行為は異常というほかなく、それが違法な体罰であることは疑いを入れる余地がない。」

と判断しました。

被告YがNの退部に関しAを約2時間にわたり責め立てたことについて

裁判所は

「土下座に関しては、極めて不適切な指導方法というべきであるばかりか、単に後輩が練習の厳しさについていけなくなって自主的に退部したことに関し、その先輩であるAの責任であるとして約2時間にもわたって説諭すること自体長時間にわたる身体的拘束であって、もはや正当な懲戒権の範囲を逸脱した違法な身体の拘束といわざるを得ない。」

と判断しました。

被告Yがジュラルミン製の試合用のやりでAの頭部を腫れるほどたたいたことについて

裁判所は

「Aの責任ではないNの退部の件や練習中の記録が伸びないとの理由で、女子生徒の頭部をジュラルミン製の試合用のやりで腫れるほどたたくという行為が違法な体罰であることは疑う余地がない。」

と判断しました。

反省の日誌をつけなかったとして被告YがAの顔面を殴打したについて

裁判所は

「殴打の回数はともかく、顔が腫れ上がったこと及びその状態については、証拠上明らかであり、Aの顔面が左右とも腫れ上がっていることからすれば、その際、被告YはAを少なくとも二回は殴打したものと認められる。このような被告Yの行為が違法な体罰に該当することは疑う余地がない。」

と判断しました。

研修旅行中、被告Yが正座しているAの右大腿部を同女の体が左に約90度も回転してしまうほど強く蹴ったこと

裁判所は

「研修旅行先において朝の練習をしなかったという理由のみで、正座させたうえ生徒の大腿部をけることが違法な「体罰」に該当することは疑う余地がない。」

と判断しました。

被告Yが追試験の成績等に関しAを直立させたまま、午前中約1時間・午後約1時間30分の長時間にわたって説諭したことについて

裁判所は

「本件では、いずれの場合もAが自発的に体育教官室の被告Yのところへ赴いたものであって、被告Yが同女を呼び付けたものではないことが認められる。しかしながら、そうであったとしても、被告YがAを説諭した主な理由は追試験の成績がよくなかったこと及び計算実務の担当の教師に聞きに行かずに他の教師に聞きに行ったことであると認められるが、そのいずれの理由も懲戒の対象になるようなものではないこと、その際、被告YはAに対し、直立という特定の姿勢を連続して長時間保持させたまま、執ように怒鳴るなどして説諭を続けたことを総合考慮すると、右被告Yの行為は、もはや正当な懲戒権の行為を逸脱した違法な懲戒行為であるといわざるをえない。」

と判断しました。

総括

裁判所は、

「前記認定の被告YのAに対する言動のうち、各有形力の行使はいずれも明らかに体罰であり、しかもその違法性も相当強く、また、各身体の拘束は正当な懲戒の範囲を超えた違法な身体的拘束である。」

「そして、被告YのAに対する侮辱的発言については、それぞれについて単発的な発言ととらえるのは妥当ではなく、前述の身体に対する侵害とも併せて一連の連続した行為ととらえて評価するのが相当であり、そのように解する限り、このように執ような侮辱的発言はAの名誉感情ないし自尊心を著しく害するものであって違法行為に該当するというべきである。」

とし、

「以上により、これら被告YのAに対する侮辱的発言や体罰等は、被告Yの故意又は過失に基づく、本件高校の教師ないし陸上部顧問としての違法行為であると認めるのが相当である。」

と判断しました。

被告Yの行為とAの自殺との因果関係について

裁判所は

「被告YのAに対する言動が違法行為であるとしても、被告岐阜県がAの死亡に対して損害賠償責任を負うというためには、被告YのAに対する違法行為とAの自殺との間に相当因果関係の存在することが必要であり、また、不法行為による損害賠償についても民法416条の規定が類推適用されるというべきであるから、特別の事情によって生じた損害については、加害者において右事情を予見することが可能であった場合に限り、賠償の責めを負うものと解すべきである。」

との判断基準を示しました。

そして、裁判所はまずAの自殺の原因について

  • Aの自殺した前日である昭和60年3月22日の状況、つまり、同日の体育教官室における被告Yの午前中約1時間及び午後約1時間30分、合計約2時間30分にわたる違法な身体的拘束の下での説諭、その際あるいは担任教諭と話合いをしていたときのAの落胆した様子、特に同女が被告Yの説諭の際に舌が変色するほど歯を食いしばって悔しさを我慢していたこと
  • 下校途中でRに対し、「もう陸上部に戻れないかもしれない。」「家に帰ってからもう一度被告Yの家に謝りに行ってくる。」などと漏らしていたこと
  • 帰宅後、食事もとらずに自分の部屋に引きこもってしまったこと

など当日の一連の状況を考慮すると、

「その時間的接着性の程度及び内容から考えて、右同日の被告YのAに対する長時間に及ぶ違法な身体的拘束下での説諭、特に、被告Yが最後までAを許さず、陸上部の練習に参加することを認めなかったことが、Aの自殺の原因であり、その間には条件関係があると考えるのが相当である。」

としたものの、

  • 昭和60年3月22日以前の被告Yの度重なる侮辱的発言や体罰がAの自殺の直接の原因であるかどうかについては、これら被告YのAに対する言動とAの自殺との間にはかなりの時間的な隔たりがあること
  • 被告YのAに対するそれら度重なる侮辱的発言や体罰の後も、Aは一応普通に日常生活を送っており、本件陸上部の練習にも参加していたこと
  • 特に自殺の2日前の同月21日にAは両親に対し、今年はインターハイに出場する旨の将来の抱負を語り、近所の小学校のグラウンドで自主練習に励んでいたこと

から、

「被告Yのそれら侮辱的発言や体罰自体がAの自殺の直接の原因であるとは認め難いといわざるをえない。

ただし、一連の被告YのAに対する度重なる侮辱的発言や体罰の蓄積がAの自殺の遠因になっていることは容易に推認しうるところである。」

として

「Aの自殺による死亡は、被告Yの同女に対する体罰ないし侮辱的発言を遠因とし、昭和60年3月22日の被告YのAに対する説諭により誘発されたものであると認めるのが相当である。」

としました。

そして、裁判所は

「自殺という行為は、その原因が何であれ、最終的には本人の意思決定による行為であるから、本人の性格及び意思の強弱によって決定的に左右されるといわざるをえない」

とした上で、本件においては、

  • 本件高校入学直後に実施された性格検査において、Aは、自分の性格、能力及び容姿について悩みをもっており、死んだほうがましだとときどき思うとか、ほんとうに自殺しようと思うときがあるなどと回答していたこと
  • AとTは、既に高校一年生のときに高校三年生の夏に一緒に自殺しようと話し合っており、少なくともTは本気で約束したという認識をもっていたこと
  • 昭和60年2月末ころ、Aはタオルでの自殺の仕方を原告X2に執ように聞いており、Aの自殺を心配した原告X2がTに相談したことがあったこと
  • Aは男子のような肉付きの自分の体型を気にしていたこと
  • 二年生の二学期ころから学科の成績が下がっていたことや被告Yや両親の期待するほどやり投げの記録が伸びないので悩んでいたこと
  • Aが自殺する直前に書いたと思われる個人的な日誌の3月22日欄にも自殺の原因を窺わせるような明確な記載がないこと

が認められ、これらの事実を総合すると、

「Aは、自殺を志向しやすい性格で以前から自殺について強い関心を持ち、しかも思春期の少女として多くの悩みを抱えていたことも事実であり、結局、被告Yの言動に加えて、これら複数の原因が複雑に絡み合った状況でAは自殺を決意したとみるのが相当であるから、必ずしも昭和60年3月22日の被告YのAに対する説諭あるいはそれ以前の侮辱的発言及び体罰のみが唯一の自殺の原因であると断定するのは相当ではないというべきである。」

と判断しました。

また、裁判所は、

「陸上部顧問ないし教師の体罰ないし懲戒によって生徒が自殺するということは極めて特異な出来事であって、通常生ずべき結果ではないというべきであるから、Aの死の結果についても賠償義務があるというためには、被告Yが、行為当時、Aの自殺という結果について予見可能であったことを要するというべきところ、自殺という行為は最終的にはその人の意思決定によるものであるから、人がどのような事態を直接的な契機として自殺を決行するに至るかを第三者が認識することは極めて困難であるばかりか、本件においては、本件の現れた全証拠をもってしても、被告Yが、前記認定のAの個人的な特殊事情を把握していたとは認められないこと、昭和60年3月22日の説諭の際に違法な身体の拘束があったことは事実であるが、その際、被告YがAに対して体罰を加えた証拠はないから、従前の被告YのAに対する言動と比較して、このときの言動が突出して強烈なものであったわけではないことを考慮すると、被告Yが、昭和60年3月22日の説諭の際に、自己のAに対する行為が同女の心理に決定的な影響を与え、その結果同女が自殺を決意する可能性があると予見することはおよそ不可能であったというべきである。」

と判断しました。

その結果、裁判所は

「被告YのAに対する違法な言動とAの自殺との間には相当因果関係は存在しないといわざるを得ない。」

として、原告の主位的請求(死亡に伴う損害の賠償請求)は理由がなく、予備的請求について判断することとなりました。

被告岐阜県の責任

原告らは、被告岐阜県に対し、第一次的に、国家賠償法1条にもとづく請求をしていることから、まず、前記認定の被告Yの違法行為が同条に規定する「公権力の行使」に該当するか否かが問題となるところ、裁判所は

「およそ国公立学校における学校教育活動は非権力的作用をその本質とするものではあるが、国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」とは、国又は公共団体の行う権力作用に限らず、純然たる私経済作用又は同法2条の営造物の設置管理作用を除く非権力作用をも含むものと解するのが相当であるから、国公立学校の教師の生徒に対する懲戒行為及び命令的指示などの教育活動は「公権力の行使」に該当するというべきである。」

としました。

そして、本件においては、部活動における陸上部の顧間としての生徒に対する指導が「公権力の行使」に該当するか否かが問題となるところ、裁判所は

「部活動も学校教育活動の一環である以上、そこにおける教師の生徒に対する関係も前記と同様の理由で「公権力の行使」に該当するというべきである。」

としました。

その結果、裁判所は

「被告岐阜県は、被告YのAに対する前記違法行為によってAが被った精神的損害を賠償する責任がある。」

として、被告Yによる体罰や侮辱的発言などによって被った精神的苦痛に対する慰謝料のみを認めました。

被告Yに対する請求について

原告らは、被告Yに対しても不法行為を理由とする損害賠償を求めていました。

この点について、裁判所は

「およそ公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき故意または過失により他人に損害を与えた場合には、国または公共団体が賠償の責めに任ずるのであって、当該公務員個人は直接に被害者に対し賠償責任を負担しないものと解するのが相当である。なぜなら、このような場合、国家賠償法1条1項により、完全な賠償能力のある国または公共団体が賠償の責任を負うから何ら被害者の救済に欠けるところがないのに、そのうえさらに当該公務員個人にまで直接責任を肯定しても、それは被害者の報復感情を満足させるにすぎないところ、損害賠償制度は本来損害の填補が目的であって加害者に制裁を加えることを目的とするものではなく、そのような報復的な賠償責任を認めるのは妥当でないからである。」

とした上で、

「本件においては、 原告らの主位的請求は理由がなく、また、予備的請求については、被告YのAに対する違法行為が公権力の行使に該当する結果、被告岐阜県が賠償の責めに任ずるのであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告Y個人に対する請求は理由がない。」

として、被告Y個人に対する損害賠償請求を認めませんでした。

私からの願い「自殺だけはしないでほしい」

顧問教諭による度重なる体罰や侮辱的発言に耐えられなかった女子高校生の心中を思うといたたまれません。

しかし、だからこそ、生きていてほしかった。

このような教諭のために自らの命を犠牲にする必要はありません。

どんなに辛いことがあったとしても、生きてさえいれば明日は「明るい日」になります。

もし同じような状況に苦しんでいるようであれば、連絡してください。

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