バトミントンのペアを組む被告のラケットが原告の左眼に当たり受傷した事案

2018.10.09 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成30年2月9日判決

※平成30年11月26日、東京高等裁判所平成30年9月12日判決について追記しました。

事案の概要

本件は、原告が、被告とペアを組んでバドミントンのダブルス競技を行っている際に被告のラケットが原告の左眼に当たったことについて、被告に過失があると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案です。

裁判所の判断

事故状況

まず、裁判所は、本件事故の状況について、以下のとおり事実認定しました。

「平成26年12月4日午前9時30分頃、本件体育館内において、原告と被告はペアを組み、A及びBのペアとバドミントンのダブルス競技を開始した。

同日午前9時40分頃、原告が前衛でショートサービスライン前後で左右方向の中央からやや右寄りの位置に、被告が後衛で原告の約3メートル後方の位置でセンターライン付近の位置にいるときに、コートの左側にいた相手方ペアのAがシャトルを打った。

Aが打ったシャトルは山なりに原告被告ペアのコート側に飛来し、同コートの左側、かつ、前後方向の中央よりやや前方のショートサービスライン付近に飛来した。

被告は、シャトルを打ち返そうとして左前方に移動し、右手のバックハンドでこれを相手方コートに打ち返したが、被告の振ったラケットのフレームが原告の左眼に当たった。」

「原告は、Aの打ったシャトルを打ち返そうという体勢をとった旨主張し、ラケットを振った記憶はないが打つために足を動かして手を伸ばそうという状況であったと思う旨供述するのに対し、被告は、原告が打つ体勢をとらなかった旨主張し、これに沿う供述をしている。

そこで検討するに、Aが打ったシャトルは、被告よりも原告に近い位置に飛来したと認められるところ、原告のバドミントン経験を踏まえると、原告はAの打ったシャトルを打ち返すことが十分可能な位置にいたというべきである。」

「本件証拠上、体勢を崩していたなど、当時の原告に上記シャトルを打ち返す動作を選択することを躊躇させるような事情が認められないにもかかわらず、1年を超えるバドミントン経験を有する原告が十分対応可能な位置に飛来したシャトルに対して全く反応せず、腰を落として構えるといったこともせずに立ったままで、かつ、ラケットを持つ右手を構えることもなく下に向けたまましばらく動くことがなかったということはおよそ考え難い。

そうすると、原告は、Aの打ったシャトルを見送るのではなく、これを打ち返すために足や手等の身体を動かしていたと認定するのが相当である。」

「もっとも、原告はラケットを振った記憶はない旨供述していることに加え、シャトルの飛来位置が原告の左側であったことから、原告がこれを打ち返すには右手に持ったラケットを身体の左側に移動させてバックハンドで打つか、シャトル飛来位置よりも自身が左側に移動してフォアハンドで打つ必要があるところ、被告がシャトルを打ち返すために振ったラケットが原告のラケットと接触することなく原告の左眼に当たったというのであるから、原告が右手に持ったラケットをバックハンドでシャトルに向けて振る段階など、原告の動きがシャトルを打ち返す直前の段階に至っていたとは認め難く、原告の上記シャトルを打つための動きはそのような段階に至る前の段階にとどまっていたと推認される。」

「以上によれば、Aが打ったシャトルに対し、原告はこれを打ち返すために動いていたものの、ラケットをシャトルに向けて振るといったシャトルを打ち返す直前の段階に至る前に、被告が振ったラケットのフレームが原告の左眼に当たったと認めるのが相当である。」

※平成30年11月26日追記

東京高裁は、本件事故状況について

「Aが打ったシャトルは、控訴人(一審被告)よりも被控訴人(一審原告)に近く、被控訴人において十分対応可能な位置であり、かつ、前衛である被控訴人が打ち返すべき位置に飛来したものであり、しかも、控訴人が声かけをした事実は認められず、その他、被控訴人が上記の位置に飛来したシャトルを打つための動作を開始せず、あるいは途中でこれを止めたと認めるべき事情が見当たらない以上、被控訴人の供述により、被控訴人は、控訴人がシャトルを打ち返した時点で、身体を動かす動作を始めて同シャトルを打ち返すことが可能な位置にいた」

と認定しました。

被告の過失の有無について

次に、裁判所は、被告の過失について、上記の事実認定をもとに、以下のとおり判断しました。

「原告が前衛、被告が後衛に位置し、両者はほぼ前後に並ぶ位置にいたのであるから、原告は被告の動静を把握することができないのに対し、被告は原告の動静を把握することができたといえる。

このような状況において、Aの打ったシャトルは被告よりも原告に近い原告が対応できる位置に飛来し、被告も原告が対応できると認識していたのであるから、被告は、原告がシャトルを打つために動く可能性が高いことは十分に予見できたというべきである。

また、被告がシャトルを打つために振ったラケットが身体に当たった場合に傷害の結果が発生するおそれがあることを予見できたことも明らかである。

したがって、上記のような状況において、被告がAの打ったシャトルを打ちに行くのであれば、前方にいる原告の動静に注意し、自身が持っているラケットが原告に衝突しないよう配慮しながら競技を行うべき注意義務を負うものというべきである。

そして、原告はシャトル飛来位置から離れるように退避する動きではなく、シャトルを打つために足や手等を動かしていたところ、被告の振ったラケットのフレームがその左眼に当たったというのであるから、被告が上記義務を尽くしていれば前方にいる原告の動きを把握した上でラケット操作を行うことにより本件事故を回避することができたというべきであり、被告には上記注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない。」

「被告は、狭いコートの中ではペアの競技者が常に近くにいるのであるから、そのような距離内にペアの競技者がいる事実を前提として予見可能性を認めて過失があると判断することは、ラケットがペアの競技者に当たり怪我をさせた場合に常にラケットを振った競技者に結果責任を負わせることに等しい結果となり、許されない旨主張する。

しかし、本件においては、原告と被告との距離のみならず、原告と被告との位置関係、シャトルの飛来位置等の本件事故当時の具体的状況に照らして被告に注意義務違反が認められるのである。

そして、事故当時の位置関係等の具体的状況に照らして予見可能性が認められるにもかかわらずラケットを振って衝突事故を生じさせた場合にもコートが狭いことをもって一切責任を負わないとするのは相当でないことは明らかであり、被告の主張は採用できない。」

「被告は、被告が確認した後に原告が遅れて動き出してシャトルを打ちに行く可能性まで考慮して予見義務を認めるのは相当ではないとも主張する。

そこで検討するに、本件事故は、飛来するシャトルへの対応が間に合わないことが明らかな状況にある段階に至ってから原告が被告側に動き出したことにより生じたというものではなく、原告は、シャトルの飛来位置により近い位置にいたのであるから被告よりも動き出しが遅くとも間に合う状況にあったといえ、現に被告自身も原告が打たないと判断した時点では原告が動き出せば間に合う状況であったことを認めている。

そして、原告が打つことはないとの被告の判断に合理的な根拠があったと認めるに足りないことは前記の検討のとおりである上、被告が原告に対して声掛けをしたと認めることもできないのであるから、原告が打つことはないと被告が判断した時点より後の原告の動作について予見可能性を認めることは相当でないとの被告の主張は採用することができない。

そして、被告は、原告が動き出せば間に合う状況であったにもかかわらず、原告が打つことはないと軽信し、その後の原告の動きを確認することを怠ったのであるから、被告には前記注意義務違反があったといわざるを得ない。」

違法性が阻却されるか

さらに、裁判所は、被告による行為の違法性が阻却されるか否かについて、以下のとおり判断しました。

「被告は、バドミントンのダブルス競技では予見される傷害を負う事故の危険性を受忍した上で競技を行うことになるから、ダブルス競技中のプレーにより加害行為があったとしても、そのプレーがルールに著しく違反することがなく、かつ、通常予測され許容された動作に起因するものであるときは、違法性が阻却されるところ、本件では、被告に著しいルール違反はなく、通常予測され許容されたプレーを行ったにすぎないから、違法性が阻却される旨主張する。

そこで検討するに、バドミントン競技においても傷害の結果を伴う事故が一定の頻度で発生していることが認められ、事故発生頻度や結果の重大性といった危険性の程度は競技者同士の身体接触を前提とする競技(ボクシング、レスリング、ラグビー等)と比較すると低いものの、バドミントンも競技に伴う危険性が存する競技であるとはいえる。

しかし、公益財団法人日本バドミントン協会の競技規則においては、ペア同士の衝突等の危険のある行為を制限するルールは存在しないことが認められるところ、同規則に著しく反しないプレーである限り違法性が阻却されると解すると、ダブルスにおいてペアの一方によるシャトルを打ち返す際のプレーにより他方を負傷させた事故についてはどのような態様であっても違法性が否定されることになる。

バドミントン競技が一定の危険性を伴う競技であることを考慮しても、上記のようなルールに著しく反しない行為である以上、どのような態様によるものであってもそれにより生じた危険を競技者が全て引き受けているとはいえないことは明らかである。

そうすると、競技者がバドミントン競技に伴う危険を引き受けていることを前提として、上記のようなルールに著しく違反しない限り、違法性が阻却されると解することは相当ではないというべきである。」

「また、被告は、シャトルを打ち返す動作は通常予測され許容された動作にすぎないから違法性が阻却されるとも主張するが、バドミントン競技者が、シャトルを打ち返すための動作である限り具体的な行為態様等にかかわらず当該動作により生じる危険を全て引き受けて競技を行っているとはいえないことは明らかであり、シャトルを打ち返すための動作である限り通常予測され許容された動作であることを理由に違法性が阻却されると解することも相当ではない。」

「被告は、一定の危険を伴うスポーツの競技中に事故が発生した場合に常に過失責任が問われることになれば、国民のスポーツに親しむ権利を萎縮させ、スポーツ基本法の理念にもとる結果になるから、本件については違法性が阻却されるべきであると主張する。

しかし、本件事故は、当時の具体的状況に照らし、競技中の事故であることを踏まえても被告に予見可能性及び結果回避可能性が認められ、過失があるというべきである。

かえって、本件のように結果回避可能性が認められる場合についてまで、スポーツ競技中の事故であるからといって過失責任を否定することは、スポーツの危険性を高めることにつながりかねず、国民が安心してスポーツに親しむことを阻害する可能性があるというべきであり、被告の主張は採用できない。」

「以上のとおり、被告の加害行為が、ルールに著しく違反するものではなく、かつ、通常予測され許容されたプレーであることから、違法性が阻却される旨の被告の主張は採用できない。」

過失相殺について

裁判所は、以上のとおり、被告の過失を認め、違法性は阻却されないと判断しましたが、他方で、過失相殺について以下のとおり判断しました。

「バドミントン競技は一定の頻度で事故発生の危険を伴うものであるが、これにより被告の行為の違法性が否定されないことは検討したとおりである。

しかし、バドミントンのダブルス競技が狭いコート内で各自が動く場所を制限されずに互いに前後左右に動きながらラケット及びシャトルを用いて競技するものである以上、原告も前記危険を一定程度引き受けた上で競技に参加しているということができること、被告には過失があると認められるものの、被告は故意をもって原告を負傷させたものではなく、飛来したシャトルを打ち返すためにラケットを振るという競技の流れの中で本件事故が発生したものと評価できることに鑑みると、本件事故により発生した損害の全部を加害者である被告に負担させるのは損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するといわざるを得ない。

そこで、本件については、民法722条2項を類推適用して被告が賠償すべき損害の額を定めるのが相当であり、本件に現れた一切の事情を考慮し、被告には原告に生じた損害の6割を負担させるのが相当である。」

※平成30年11月26日追記

東京高等裁判所は、平成30年9月12日、

「バドミントン競技は一定の頻度で事故発生の危険を伴うものであり、また、特に、バドミントンのダブルス競技の場合、ダブルスのペアは、自陣の狭いコート内を各自が動く場所を制限されずに互いに前後左右に動きながらラケット及びシャトルを用いて競技するものであるから、ダブルスのペア同士での身体の接触、ペアの一方が振ったラケットのペアの相手方への接触、ペアの一方が打ったシャトルのペアの相手方への接触といった事故が不可避的に発生する可能性があることも否定できないが、バドミントン競技の場合、ボクシング等の競技とは異なり、バドミントン競技の競技者が、同競技に伴う他の競技者の故意又は過失により発生する一定の危険を当然に引き受けてこれに参加しているとまではいえず、また、本件事故につき、被控訴人に過失があるとは認められず、さらに、本件記録を精査しても、その他、損害の公平な分担の見地から、本件事故により生じた被控訴人の損害の一部を同人に負担させるべき事情が同人側に存在すると認めるに足りる証拠も見当たらないから、過失相殺ないし過失相殺類似の法理により本件事故により生じた被控訴人の損害の一部を同人に負担させる理由はないというべきである」

と判示して、控訴人(一審被告)が全責任を負うべきと判断しました。

加害者にとっても被害者にとっても注目すべき判決

バドミントンをやっている選手やそのご家族からすると、本件のような事故は想定しうるものではないでしょうか。

実際に、私のもとにバドミントン中の事故に関して相談された方も、本件と同様に、ダブルスのペアを組んでいた選手のラケットが当たってけがをしたという案件でした。

そして、事故の具体的な状況によっては、加害者に過失が認められ、かつ違法性が阻却されないために損害賠償責任を負うことになること、また被害者も事故の具体的な状況によっては過失相殺として損害の一部は自己責任と判断される場合があることを、この裁判例は示しています。

この結論に驚かれた方も多いのではないかと思われます。

このような事故を防ぐためには、お互いに声を掛け合うことが重要だと考えられます。

本件でも被告が声掛けをしたか否かが問題となりましたが、裁判所は

「シャトルを打ちに行く際に『はい』と声掛けをした旨の被告の供述はたやすく信用することはできず、その他被告が『はい』と声掛けしたことを認めるに足りる的確な証拠はないから、被告がシャトルを打ちに行く際に声掛けをした事実を認めることはできない。」

と判断しています。

もし被告が声掛けをしていたならば、原告としてもその声に反応して自らがシャトルを打ち返そうとする動作をしなかったかもしれません。

そうであれば本件事故は防げたでしょうし、原告が左眼を負傷することもなかったでしょう。

バドミントンに限らず、スポーツの現場では、常日頃から声掛けをするように指導・注意がなされていると思います。

プレーに集中するあまりつい忘れがちかもしれませんが、声を掛け合うという単純かつ簡単な方法で事故の加害者にも被害者にもならなくて済むかもしれないのです。

その意味でも、本件は注目に値する裁判例だと思います。

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