公立中学校1年生であった原告がバドミントン部の部活動中に熱中症になり脳梗塞を発症した事案における校長の過失

2018.12.10 熱中症・自然災害

第一審 大阪地方裁判所平成28年5月24日判決

控訴審 大阪高等裁判所平成28年12月22日判決

事案の概要

本件は、A市立B中学校のバドミントン部に所属していた原告が、部活動中に熱中症に罹患し、脳梗塞を発症したのは、校長による熱中症予防対策が不十分であったことによるなどと主張して、B中学校を設置する被告に対し、国家賠償法1条1項による損害賠償を求めた事案です。

原告は、平成22年8月30日の本件事故当時、B中学校1年生でした。

本件バドミントン部の指導教諭(いわゆる顧問)は、C教諭でした。

本件事故当日の午前11時10分、原告は、部活動を開始し、体育館の外で、ランニング3往復と体操を行いました。

原告は、体育館内に移動し、フットワーク4方向(左右前後)を3セット行いました。

この間、本件体育館の窓、暗幕カーテン及び出入口は全て開いていました。

午前11時45分頃、C教諭は、原告ら部員に対し、5分間の休憩及び水分補給を指示し、原告は、少し水を飲み、2、3分で練習に戻りました。

この間、本件体育館の窓、暗幕カーテン及び出入口は全て開いていました。

午前11時50分頃、原告は、2人組のペアになって、基礎打ち(打ち合い)の練習を行いました。

この間、本件体育館の下部の窓は開いていましたが、バドミントンのシャトルが風で飛ばされないようにするため、その他の窓、暗幕カーテン及び出入口は閉められていました。

午後0時20分頃、C教諭は、原告ら部員に対し、5分間の休憩及び水分補給を指示し、原告は、少し水を飲み、2、3分で練習に戻りました。

この間、本件体育館の窓、暗幕カーテン及び出入口は全て開いていました。

午後0時25分頃、原告は、シングルスの試合形式の練習(1セット10~15分)を開始し、1試合目は主審を担当しました。

この間、本件体育館の下部の窓は開いていましたが、その他の窓、暗幕カーテン及び出入口は閉まっていました。

午後1時前頃、原告は、2試合目の試合形式の練習に参加しました。

原告は、その途中、地面に落ちたシャトルを左手で拾おうとした際に、これを拾い損ねることがありましたが、その後も試合形式での練習を継続し、得点を得ることもできていました。

しかし、原告は、その後、再び地面に落ちたシャトルを拾い損ねたため、C教諭は、不審に思い、直ちに試合を止めて、原告の様子を確認したところ、原告が、「頭が痛い。しんどい。」と訴えたため、体育館の脇に移動させて水分を取らせました。

その後、C教諭は、原告を体育館内の教官室へ移動させ、スポーツドリンクを飲ませるなどしました。

このとき、原告は、汗をかいていたものの、顔の左側が引きつっており、左足のつま先が内側に向いて、左腕も脱力し、左手の握力もない状態でした。

原告は、「大丈夫」と言って笑っていましたが、上手く話せておらず、顔の左部分が上手く動いていなかったことから、C教諭は、原告を直ちに病院に連れて行くことにしました。

原告は、C教諭とともにタクシーでD病院を受診し、アテローム血栓性脳梗塞の診断を受け、同病院に入院しました。

裁判所の判断

B中学校長の過失について

裁判所は、熱中症の発症予防に関する一般的注意義務について、

「B中学校のような公立中学校の部活動は、学校教育の一環として行われる以上、学校設置者である地方公共団体は、部活動に際し、生徒の生命、身体の安全を確保するよう配慮すべき義務を負うことになる。学校設置者の上記義務の履行は、教育委員会による監督を受けつつ各学校の校長及び教員が行うことになるから、各学校の校長及び各部活動の指導教諭は、学校設置者の履行補助者として、部活動中の生徒の生命、身体の安全確保に配慮すべき義務を負うものと解される。熱中症は、重篤な場合には死に至る疾患であることからすれば、校長及び指導教諭は、上記安全配慮義務の一環として、熱中症予防に努める義務を負うものと解される。」

と指摘しました。

そして、裁判所は

「ところで、熱中症は、体内の熱量に比して水分が不足することによって生じる疾患であるから、運動等を行う温度及び湿度、行う運動の内容や種類、それが身体に及ぼす影響の程度、補給する水分量などを踏まえて、その発生を未然に防止することが必要となるものと考えられる。本件指針(注 平成6年に財団法人日本体育協会が作成・発表した熱中症予防運動指針)は、上記のような諸要素を踏まえて、スポーツ活動に携わる者がとるべき行動指針を示したものであって、その内容は、熱中症予防の観点から合理性を有するものといえる。」

とした上で、

  1. 平成6年には、本件指針及びこれに解説を付した「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」が発行されて広く学校関係者に周知され
  2. 平成15年には、文部科学省が監修し、日本体育・学校教育センター(JSCの前身)が作成した「熱中症を予防しよう-知って防ごう熱中症-」(そこには本件指針が参考資料として引用転記されている。)が発行され、これまた広く学校関係者に周知され
  3. 平成19年には、大阪府教育委員会において、府立学校における本件指針の実施状況を調査し、温度計の設置等の具体的対策を行う必要があるとの意見が表明され
  4. 平成22年7月には、A市教育委員会から同市立学校の校園長に対し、上記2を引用しての熱中症対策に万全を期するようにとの通知がされ、同年5~7月の同校園長会においても、同旨の指導が行われていたこと

が認められることから、

「これらの事情を踏まえれば、平成22年8月の本件事故当時、部活動に関わる指導教諭及びこれを指導する校長は、部活動中の生徒の生命、身体の安全確保に配慮すべき義務の一環として、生徒の熱中症発症を予防すべく、本件指針に準拠し、その趣旨を踏まえて熱中症予防策をとるべき法的義務を負っていたものと解するのが相当である。」

と判示しました。

そこで、本件における具体的注意義務について、裁判所は

「本件指針は、WBGTの数値を主たる基準として、部活動等の指導者がとるべき対応についての指針を示すものである。したがって、本件指針の趣旨を踏まえて熱中症予防を実現する措置をとるには、その前提となるWBGT又はこれに相当する湿球温度又は乾球温度(以下「WBGT等の温度」という。)を把握することがまずもって必要となり、そのためには、部活動を行う室内又は室外に黒球温度計、湿球温度計又は乾球温度計のいずれかを設置し、各指導教諭がWBGT等の温度を把握することができる環境を整備することが不可欠であったといえる。したがって、B中学校において部活動の指導教諭を監督する立場にあったB中学校長には、上記温度計を設置する義務があったというべきである。」

「また、本件指針の趣旨を実現するには、各部活動の指導教諭が本件指針の趣旨を理解し、これを実際の部活動の各場面・状況に応じて適切に活用し、熱中症予防のための行動をとることが必要となるから、B中学校長には、部活動の指導教諭に対し、本件指針の趣旨と内容を周知させ、これに従って行動するように指導する義務があったというべきである。」

とした上で、

「しかるに、本件事故当時、B中学校の本件体育館には、黒球温度計及び湿球温度計はもとより、一般の乾式温度計も一切設置されていなかったのであり、本件指針の趣旨に従って熱中症の予防に配慮する前提となるWBGT等の温度を認識することのできる環境が全く整備されていなかったことになるから、B中学校長が上記の義務を怠っていたことが明らかである。」

「また、B中学校では、本件事故前の平成22年8月5日、B中学校長から各教諭に対し、熱中症対策として、練習内容、健康観察、水分補給、休憩、早い対応などについての指導があったと認められるものの、B中学校には乾式温度計すら設置されていなかったことを踏まえると、WBGT等の温度を基本として対応を検討すべきものとする本件指針の趣旨と内容が周知・徹底され、これに従って行動するよう指導されたとは考え難く、それに及ばない一般的指導がされたに止まったものと認められるから、上記の義務をも怠ったものというべきである。」

と判断しました。

これに対し、被告は、

「本件事故当時、多くの中学校では、温度計を必要な場所すべてに置いて厳密な温度の確認による管理を行うとの実態はなかったもので、それを行うべきものとするのは理想論に止まる」

などとして、B中学校長には前記各義務違反がなかった旨を主張しました。

しかし、裁判所は

「平成22年までに、本件指針に準拠した熱中症対策を行うべきことが広く周知され、教育関係者において負担すべき一般的義務となっていたと解される以上、多くの中学校における熱中症対策が不十分であったからといって、上記義務が軽減されるいわれはない。

確かに、部活動の現場で、温度を管理しながら運動の可否・内容を決することには、煩雑な部分があることは否定し得ないが、だからといって、児童生徒の生命・身体の安全を疎かにすることがあってはならず、できる限り危険の発生を回避すべく、温度管理を基本としながら、冷房機や冷風機などを用いて極力気温を下げたり、風を循環させたりする工夫をした上で、それでも気温が高い場合には、運動を回避又は軽減したり、休憩や水分・塩分の補給等に慎重な配慮を巡らせる等のきめ細かい対応を検討しつつ、部活動をできる限り安全に実施することが求められていたものというべきであるから、これらの工夫をすることなく、現状のまま部活動を実施することもやむを得ないという被告の主張は採用できない。」

として、被告の主張を排斥しました。

以上より、裁判所は

「B中学校長には、上記の各注意義務を怠った過失があるというべきである。」

と結論づけました。

大阪高等裁判所平成27年1月22日判決

被控訴人(一審被告)は、控訴審において

「部活動の指導教諭を監督する立場にある被控訴人中学校長には温度計を設置すべき義務があり、部活動の過程でWBGT等の温度を把握すべき義務があるとすると、部活動の指導教諭は、部活動の過程で常に温度計の示す温度を確認しながら、部活動の実施の可否、内容及び程度を決定すべきことが義務付けられることになるが、これは、本件事故発生当時を基準とすれば、個別部活動の活動実態を無視した余りに硬直的な判断であって不当である」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

「スポーツ活動中の熱中症を予防するための措置を講ずるには環境温度を認識することが前提となり、その把握が極めて重要であることは、平成二二年当時において学校関係者に既に周知されていたと認められるから、被控訴人中学校長には部活動を行う室内又は室外に温度計を設置すべき義務があり、部活動の過程でWBGT等の温度を把握することができる環境を整備すべき義務があったと解しても何ら不当ではないというべきである。」

と判断して、被控訴人の主張を排斥しました。

本件過失と本件脳梗塞との間の因果関係について

裁判所は、 本件過失と熱中症との間の因果関係について、

「B中学校長が上記の義務を履行することにより、WBGT又は気温を計測できる温度計を設置し、かつ、本件指針の趣旨・内容を踏まえた対応を行う旨の指導を行っていたとすれば、C教諭は、本件指針の趣旨・内容を踏まえ、本件事故当日の練習時に、本件体育館内の温度を確認し、運動を中止するか又は軽めの運動に止める旨の判断をしたであろうと推察される。

すなわち、本件事故当時、WBGTが31℃を超えていたとまでは断定できないものの、30.2℃ないし30.8℃といった31℃に極めて近い程度であったことが推認される。また、仮に、本件体育館に乾式温度計のみが設置されていた場合には、平成26年8月20日の計測結果(35.2℃ないし36.0℃)から推察して、WBGTに換算すると31℃を超えていると判断された可能性が高かったといえる。

そうすると、C教諭は、本件事故当日、窓とカーテンを閉めて練習を開始した午前11時50分頃からそれほど間がない時点で、WBGTが31℃を超えるか又はそれに極めて近い状況にあることを認識し、本件指針の趣旨・内容を踏まえて、練習の中止又は内容の軽減を検討・実施したものと考えられるから、少なくとも本件事故前に実際に行った基礎打ち及び試合形式の各練習を平常どおり行うことはなかったはずであり、そうであれば、原告が熱中症に罹患することもなかったものと推察される。」

として、

「B中学校長が上記の各義務を履行していれば、本件事故前にしたものと同様の通常の練習をしなかった結果、原告が熱中症にり患することもなかったと考えられるから、上記義務違反の過失と原告が熱中症に罹患したこととの間には因果関係があると認められる。」

としました。

また、裁判所は、熱中症と本件脳梗塞との間の因果関係について、

  • 原告は、本件事故当時、熱中症による脱水症状を来していたこと
  • 体が脱水症状に陥ると、アテローム血栓性脳梗塞の原因となる血栓ができやすくなること
  • 原告は、若年であり脳梗塞の原因となる高血圧、糖尿病等の基礎疾患を有していないこと
  • 原告のプロテインSの数値は低値であるものの、それにより本件事故以前に脳梗塞等の血栓塞栓性の疾患を生じたことはなかったこと

などからすると、

「本件脳梗塞は、本件事故当時の熱中症による脱水症状がなければ生じることはなかったものと認められる。」

として、

「過失と本件脳梗塞の発症との間には因果関係があると認められる。」

と判断しました。

顧問教諭だけでなく校長の過失が問われることもある

部活動中の事故の場合、その多くが部活動の顧問教諭の過失が問題となっています。

しかし、本件において裁判所は「学校設置者の安全配慮義務の履行は、教育委員会による監督を受けつつ各学校の校長及び教員が行うことになるから、各学校の校長及び各部活動の指導教諭は、学校設置者の履行補助者として、部活動中の生徒の生命、身体の安全確保に配慮すべき義務を負うものと解される。」とされているように、顧問教諭だけでなく校長にも安全配慮義務があることを明確にしました。

そして、本件では校長の過失を認定している一方で、顧問教諭の過失については

「C教諭には、本件体育館内に温度計の設置がない状況下で、本件指針の趣旨・内容を踏まえた運動の中止又は軽減等の判断を適切に行うことは困難であったと認められる」

として、C教諭が具体的注意義務を負っていたとは解されないと判断しました。

このように、部活動中の事故においては、顧問教諭だけでなく、校長を含めた事故関係者すべてについて、「誰が、どのような安全配慮義務を負い、それを履行していれば事故を未然に防ぐことができたのか」という観点から、事故関係者の過失を検討することが必要になります。

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