公立高校野球部のハーフバッティング練習中、打者の打ったボールが頭部に当たって投手が負傷した事故

2018.12.28 スポーツ中の事故

宇都宮地方裁判所平成4年12月16日判決

東京高等裁判所平成6年5月24日判決

事案の概要

本件は、原告が昭和62年2月当時、栃木県立高校に在学し、同校野球部に所属していたが、同月17日午後、同校野球部練習場において、A監督立会指導のもとで野球部の練習に参加し、ハーフバッティング投手として投球したところ、打者Bが打ち返したボールを右側頭部に受け、頭蓋骨骨折、脳挫傷等の傷害を負ったことから、原告は、同校野球部の監督指導にあたっていたA監督とC野球部長の練習方法の指導に過失があったなどと主張し、被告栃木県に対し、国家賠償法1条に基づき、損害賠償を請求した事案です。

本件事故当日の本件高校野球部の練習は、ランニング、準備体操、キャッチボール、トスバッティングの順で行われ、その後、投手及び捕手を除く野球部員が二組に別れて、一組がA監督立会の下にハーフバッティング練習を行い、もう一組は外野グラウンドでYコーチの指導の下に守備練習を行っていました。

同校野球部で行われていたハーフバッティング練習は、練習参加者が二組に別れて、グラウンドに固定されたホームベースの両側(一塁側と三塁側)に、バックネットに向けてバッティングケージを設置し、更にその中に可動式のホームベースを置き、各組ごとに、ケージ内に打者と捕手が構え、各投手はバックネットを背にして、交互にケージ内の自分の組の打者に対して投球し、打者は、これをバックネット方向に向かって打ち返すという方式のものでした。

なお、各投手の前方にはL字型の、隣の組の打者方向斜め前方には矩形型の防球ネットがそれぞれ設置されていました。

ハーフバッティング練習において、当時の野球部員は、投手になるときは概ね全力の7、8割程度の力を入れるとの意識で投球をし、打者になるときは、個人差はあるが、概ね実戦の7割前後の力加減との意識でボールを打っていました。

また、ハーフバッティングの打者は、この練習を、ジャストミートを心がけ、インコースの球は引っ張り、真ん中のコースの球はセンター返し、アウトコースの球は流し打ちというように、コースによって打ち分ける練習であると心得ていました。

ハーフバッティングの投手、打者、捕手の分担は、野球部員間で適宜交替して決めていましたが、本件事故当時は、一塁側の組では、原告が投手(右投げ)を、Nが捕手を努め、Bが打者(左打ち)となって練習をし、A監督は、バッティングケージの後方でハーフバッティング練習を指導していました。

本件事故当日午後5時5分ころ、原告の投じたボールをBが打ち返したところ、これがライナーとなって原告の右側頭部を直撃し、その瞬間大きな音がするとともに、原告はその場に倒れました。

A監督は、野球部員らに指示して、原告を三塁側ベンチに運ばせた後、A監督所有の乗用車に乗せ、Yコーチに運転させて整形外科病院に搬送させました。

その後、原告は、同病院から脳神経外科病院に救急車で転送されて、治療を受けましたが、本件事故により頭蓋骨骨折、急性硬膜下血腫、脳挫傷の傷害を負いました。

裁判所の判断

ハーフバッティング投手(原告)と打者(B)の距離について

本件では、ハーフバッティングの投手を務めた原告と打者Bの距離が争点になりました。

この点について、裁判所は、関係者の証言を詳細に検討した結果、

「本件事故当時ハーフバッティングの投手をしていた原告と打者との距離は、多少の誤差はありうるものの概ね12メートル程度であったと推認するのが最も合理的である。」

と判示しました。

そして、本件ハーフバッティング練習の危険性について、

  • 本件事故の際の投手と打者との距離は、正規の投手とホームベースとの距離(18.44メートル)の約3分2二ということになり、この距離は、投手に向かってライナー性の打球が飛来した場合には、投手が瞬時に回避措置を採ったとしても確実に打球を避け得るに足りる距離とは認められず、二方向に防球ネットが設置されていたことを考慮しても、本件事故当時行われていたハーフバッティング練習は安全性を備えた練習方法とはいいがたい。
  • ハーフバッティング練習においては、打者は、7、8割程度の力で、投球コースによって打ち分けることを意識しており、試合時やフリーバッティングに比べると速い打球が飛ぶことは少ないと考えられるが、そもそもハーフバッティング練習の定義自体が必ずしもはっきりしないうえ、力加減については個人差があるから、ジャストミートを心がける以上、球足の速い打球となることは十分ありうるところと考えられる。

などの事実を踏まえ、裁判所は

「野球を含めたスポーツが、一般に事故発生の危険性を内包していることは否定できないところであるが、本件事故時の投手と打者との距離は試合時の3分の2程度しかなかったこと及び硬球が頭部を直撃した場合に生じることが予測される結果の重大性に鑑みると、本件事故当時の練習方法の危険性は、スポーツが常に内包する危険性を超えていたものと言わざるを得ない。」

と判示しました。

A監督の過失の有無について

以上の事実を踏まえ、裁判所は

「A監督は、野球部監督として練習方法を指示するに際して、ハーフバッティング練習の投手と打者との位置について、生徒の身体に対する危険性を有した距離を指示して、右練習を行わせたか、少なくとも、投手と打者との間に安全な距離が採られないままハーフバッティング練習が行われていたにもかかわらず、その現場に立会いながら何ら的確な指示を出さず、危険な練習方法を続行させたものであって、いずれにしても、本件高校教諭(被告の公務員)としての指導上の過失があったと言わざるを得ない。」

と判断しました。

そして、裁判所は

「本件事故は、A監督の右指導上の過失に起因して生じたというべきところ、国家賠償法1条にいう公権力の行使には公立学校における教師の教育活動も含まれると解されるから、被告は、同条に基づき、原告か本件事故によって被った損害を賠償する責任があるというべきである。」

と結論づけました。

これに対し、被告は、

「本件事故は、原告がボールから目を離すべきでなかったにもかかわらず、これを怠ったために発生したものであって、原告自らの過失に起因する事故である」

と主張しました。

また、被告は、

「原告は右側頭部に打球を受けているところ、被告は、右事実から原告がボールから目を離した過失があることを推認できる」

とも主張しました。

しかし、裁判所は、

「右投げの投手の場合、投球は、右肩が前方に出る形になるところ、原告が、このような状態でライナー性の打球を避けるため、身を屈めて防球ネット下へ隠れようとしたうえで反射的に顔を背けたとすれば右側頭部の後寄りの部位に打球を受けることも十分ありうることであって、打球の衝突部位から、原告がボールから目を離したと推認することはできない。

なお、原告は、打球の衝突寸前には、ボールの方向を向いていなかったこととなるが、顔面正面への打球直撃を回避するための反射的動作として顔を背けることは人間の自然な行為であり、これをもって、原告に過失があったと評価することはできない。」

として、被告の主張を排斥しました。

東京高等裁判所平成6年5月24日判決

控訴審である東京高裁は、打者と投手の間の距離については原判決と同様に約12メートルであったと認定しました。

そして、裁判所は

「ハーフバッティングで投手と打者との距離を12メートル程度にして練習している学校もないではないが、どちらかといえば13、4メートル以上としている学校が多く、12メートルという投球距離は、他に比較して短い方であると認められる。」

と判示しました。

また、本件事故当時の明るさについて、裁判所は

  • 本件事故は、昭和62年2月17日午後5時過ぎに発生したが、その日の日没の時刻は、午後5時13分であった。
  • 天候は、曇っており、事故後雪が降ってきた。どんよりとして暗い天候であった。
  • 冬の日没時刻で光は西から東に射すこととなるが、投手の側から打者をみると北西をみることとなり、後記のテープ録画の検証結果によると、投手から見るボールは黒く、打者から見るボールは比較的白く見える。このことは逆光であったことを示している。
  • 当時練習で使われていたボールは、グラウンドがぬかるんでいたため、泥で汚れ見えにくかった。

との事実認定をし、さらに

  • 日没時間が本件事故当日と同じ平成5年10月3日の事故現場でのハーフバッティングの様子を撮影したテープ録画の検証の結果によると、事故の起こった時間の前後に次第に薄暗くなり、道路を往来する自動車が前照灯などを点灯する状況が写されているが、このような薄暮の時間帯は、人間の眼の特性からみて遠近感をつかみにくく、飛んでくるボールなどが最も見えにくいことは経験則上明らかである。
  • さらに投手の頭部・顔面を直撃するライナー性の当たりの場合は、投手はボールの進行方向の真正面でみるためその速度や位置をつかむことが困難であり、本件事故の場合は少なくなった光のもとで、しかもその光が投手からみて逆光の状態にあったのであるから、泥で汚れたボールは、投手にとって、極めて見にくい状況にあったものと認められる。

としたうえで

「薄暮の時間帯に行われていた本件の練習方法の危険性を検討する場合には、これらのことを看過することはできない。」

と判示しました。

その上で、本件ハーフバッティング練習の危険性について、控訴人(被告)は、

「ハーフバッティングの場合の打球の速度は、投手の全力投球、打者の全力打撃の場合の球速の3分の2程度にとどまる」

と主張しましたが、裁判所は、

  • 現実に行われていたハーフバッティング練習が控訴人のいう定義どおりのものであったと断定する証拠はなく、本件事故当時のハーフバッティング練習で投手の投げる球のスピードにしても、時速100キロ前後であった可能性は高く、必ずしも7、80キロどまりの緩い球だけが投げられていたとは限らない。
  • そして、ハーフバッティングの練習でも、打者がジャストミートするならば、その球速が投球のスピードを大きく上回ることは見やすい道理である。
  • 野球の専門家でも打球の速さを測ることは容易ではないようであって、本件事故当時の打球の速さを確定することは困難であるが、仮に控えめにみて時速120キロメートル程度であったとしても、秒速は、33.33メートルであり、打者と投手の距離が12メートルとすると、0.36秒で投手に達する。人の反応時間は、0.4ないし0.8秒という説のほか、0.6ないし0.8秒という説もあるが、仮に野球選手の反応時間が短く、控訴人主張のとおり0.39秒であるとしても、12メートルの投球距離で頭部・顔面を直撃する時速120キロの打球を安全に処理することは、相当に困難な面があることを否定できない。
  • 本件事故の場合は、冬の雪空が薄暗くなりつつある夕暮れ時であり、そのうえ投手からみて逆光で泥に汚れたボールは特に見えにくいうえ、ボールは投手が最も距離や速度を把握しにくい真正面をつくライナー性の当たりであった。このように悪条件が重なれば、投手の打球に対する反応が、ボールが間近に迫ってからになる場合もあり得ないではなく、その場合には、もはやこれを安全に避ける時間的余裕が失われてしまうといわねばならない。

とした上で、

「このように見てくると、ハーフバッティングは、それ自体は効果的な打撃練習方法の一つとして広く行われているものであって、一般的には是認されるものであるとしても、実施の時間帯や方法の如何によっては投手にとり危険性の高い練習方法であって、投球距離を短くしてハーフバッティングを実施する場合には、投手が投球後直ちにL字型防球ネットの高い部分に身を隠すよう指導するほか、必ず明るさなどの条件がよい時間帯に行い、投手の投球距離等についても状況に応じた調整をするなど、きめこまかく安全に配慮したうえ実施するべきものである。」

との判断基準を示しました。

その上で、裁判所は

「本件では、投球距離を他よりも比較的短い12メートル程度にしてハーフバッティングをしているのに、暗い曇天(雪空)の薄暮の時間帯になってもやめず、また投球距 や打撃の方法等についても前記のような当時の状況に応じた格別の指導をすることなく練習を継続させたのであり、この点において、安全配慮に欠けるところがあったものと評価せざるを得ない。」

として、A監督の過失を認定しました。

詳細な事実認定を行った東京高裁判決

一審判決は、ハーフバッティングの距離が約12メートルと他に比較して短い点を主としてとらえて結論を出しました。

これに対し、控訴審判決は、上記の距離だけではなく、実施の時間帯や方法なども考慮に入れて、その安全性について判断するという態度をとりました。

そして、一般的には安全として広く行われている練習方法であっても、明るさなどの条件の良い時間帯に行い、安全のため距離を調整するなどの配慮をするべきであり、これに欠ける本件では過失ありとされてもやむを得ないと判断しました。

この東京高裁判決は、 スポーツにおける安全配慮について詳細な事実認定を行い判断をしたといえ、非常に参考になります。

安全配慮義務違反を問うべき事案の場合には、このようなきめ細かな事実調査が必要であるということを再認識しました。

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