県立高校の野球部員が練習における罰走中に熱中症を発症して死亡した事故

2019.12.18 体罰 熱中症・自然災害

高松高等裁判所平成27年5月29日判決

事案の概要

本件は、徳島県立高校の硬式野球部に所属していたAが、本件野球部の練習中に熱中症に罹患し、その約1か月後に死亡した事故につき、Aの両親が、本件高校の保健体育科教諭であり、また本件野球部の監督であるB監督に部員に対する安全配慮義務を怠った過失があり、これによりAは死亡したなどと主張して、徳島県に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

Aは、本件高校の2年生であり、硬式野球部に所属していました。

本件野球部は、平成23年6月6日午後4時頃、本件高校のグラウンドで、その日の練習を開始しました。

B監督は、

  1. 平成23年6月3日の県高校総体直前に1年生部員1名が野球部員でない同クラスの子を1回蹴ったことから、野球部員が暴力行為等の不祥事を起こすと本件野球部が出場辞退を余儀なくされることもあり、今後こういうことが起きないように部員に徹底させるため
  2. 春季大会の成績は良かったが、その後の練習試合で連敗し、県高校総体でも大敗したのは油断があったと考えられることから、もう1回初心に返って気を引き締め直すため
  3. 夏の甲子園の予選大会まで1か月以上ある時期に体力作りをするため

などの理由から、同日はボールを使わない練習をすることとし、100mダッシュ50本を含む練習内容を決定しました。

B監督は、練習内容とその理由をAを含む部員にあらかじめ説明していました。

なお、100mダッシュ合計50本を、Aを含む本件野球部の1、2年生の部員が行ったことはありませんでした。

午後4時頃から午後4時30分頃まで石拾いが行われました後、午後4時30分頃から午後4時50分頃までの間に持久走2km(1周200m×10周)が行われました。

Aは、持久走の9周目くらいから遅れ始め、その息も大分荒い状態でした。

B監督は、部員が持久走をしている場所の付近で、持久走の様子を見ていましたが、普段のAの様子と比べて特に遅れたようには見えませんでした。

午後4時50分頃から5分間、ストレッチ、腹筋及び背筋各10回が行われた後、100mダッシュ(休憩を挟み合計50本)が開始されました。

B監督は、その様子をダッシュが行われている場所の付近で見ており、手を抜いている部員がいたら「しっかり走れ」と声を掛けていました。

Aは、100mダッシュ前半25本が終わり、テントの下で5分間の休憩に入る際、テントまで走らずに歩いて移動して、最後にテントに入り、息が大分荒く、まともに話せる状態ではありませんでした。

Aを含む部員達は、この休憩の際、練習開始後初めて水分を補給しました。

B監督は、休憩している部員全員に対し、比較的強めの口調で「しんどかったらどいとけ」と言いました。

B監督がこのような発言をしたのは、前半の中で、だらだら走っている部員がいたことから、全員に対してやめることもできると心に余裕を持たせるためと、走ることに対して意欲を前向きにさせるためでした。

休憩終了後100mダッシュの後半が開始されました。

Aは、100mダッシュ後半5本目(通算30本目)くらいのとき、Cに話し掛けたものの、Cは、Aが何を言っているのか全く分からなかったので、「せこいんだったら休んどけ(「せこい」とは苦しい・疲れたの方言)」と言いました。

また、Aが100mダッシュ後半15本目(通算40本目)くらいにとりかかったとき、DがAに向かってやめるよう言い、Aは、100mダッシュを行うのをやめました。

Aは、膝に手をついて、息を落ち着かせようとしていました。

B監督は、当時、100mダッシュをしていた場所から約72~86m離れたバックネット裏でダッシュの様子を見ていたため、Aが100mダッシュをやめた理由が分かりませんでした。

Aは、100mダッシュをやめた後、他の部員が100mダッシュ練習を続けている間、前半でダッシュを中断した1年生部員の横で、立った姿勢で「頑張れ、頑張れ」と言っていました。

B監督は、他の部員が100mダッシュを終える直前の午後5時47分頃、Aを呼び、Aは、B監督のいるバックネット裏へ走って行きました。

Aは、B監督が「お前なんで走らんの?」と言ったのに対して「足がつりました。」と答えました。

B監督が「今はどうなんな?」と問うと、Aは、「今はいけます。」と答えました。

続いてB監督は、比較的強めの口調で「E(当時高校1年生)でも走ったんぞ、4番のお前が走れな勝てんぞ。」と言いました。

B監督は、足がつったのはAの言い訳だと思い、また、Aの体調にも問題がなく走れるのであれば走らせるべきと考え、4番バッターとしてチームを引っ張っていく立場にあるAに対してやる気を促し、他の部員が走れたのに当日の部員の中では上級生に当たる2年生のAが走れなかったことについて悔しいという気持ちを持ってほしいために上記のような発言をしました。

B監督は、その際のAの様子について、汗をかいていたが異常と感じる程度のものではなく、また受け答えもはっきりしていたと認識していました。

Aは、他の部員が100mダッシュを終えて休憩に入った午後5時50分頃、100mの目安として置かれていたカラーコーンを片付けようとしていたFに「コーン置いといて」と言い、給水もせずに、100mダッシュを再開しました。

一人で100mダッシュを始めたAの走る様子は変であり、足を上げても足が余り前に出ておらず、遅すぎるという状況でした。

B監督は、約72~86m離れたバックネット裏から、Aの様子と他の部員の状況の両方を見ていました。

B監督は、午後6時頃、「Aを呼べ」と他の部員に言い、呼びに行かせましたが、Aは、再開後約8本目の段階で、よれよれっという様子で倒れかけて、地面に手をついた状態となったものの、まだ走ろうとする様子でした。

他の部員がAを押さえてもまだ走ろうとし、他の部員が「落ち着けえ」と言ってもなお「走るんじゃあ」と言っていましたが、その後グラウンド上に倒れ込み、「あぁあぁ」とうなるのみで会話が成立しませんでした。

B監督は、Aを止めに駆け付けた上で、Aに対し、息をゆっくり吐くよう指示しました。

B監督は、部員に、「保健の先生を呼んで来い、携帯持って来い」と言い、部員が持ってきた携帯電話で、119番通報しました。

Aは汗をたくさんかいて顔色が悪く、B監督が冷たい麦茶を飲ませようとしましたが、Aの呼吸は荒く麦茶を飲めるような様子ではありませんでした。

B監督は、本件事故の日が6月上旬であったこととそのときの体感温度から、Aが熱中症であることを疑わず、むしろ過呼吸を疑い、Aを移動させず、その場でベルトを外し、横向きにさせて呼吸が楽にできる状態を取らせました。

職員室から教頭ほか3名の教職員がAのそばに来ましたが、誰一人熱中症を疑った者はおらず、午後6時16分頃に救急車が到着するまでAに対して熱中症の応急処置は取られませんでした。

Aは、午後6時51分に病院に搬送され、同病院に入院し、意識不明のまま、平成23年7月3日、死亡しました。

死因は熱中症を原因とする多臓器不全、汎発性血管内血液凝固症、肺出血でした。

なお、本件事故当日の午後4時(練習開始時)から午後5時(100mダッシュ50本を開始した直後)まで、本件グラウンドの気温は29℃以上あったと認められ、熱中症予防運動指針に照らし、同指針の「警戒」の区分に該当する状態にあったといえ、熱中症の危険が増す状態にありました。

第一審裁判所(徳島地方裁判所平成26年3月24日判決)は、「Aが熱中症に罹患して死亡したことについて、B監督に注意義務違反すなわち過失があるということはできない。」として、Aの両親の請求を棄却したため、Aの両親が控訴しました。

裁判所の判断

裁判所は、

「B監督は、本件高等学校の教員であり、本件硬式野球部の監督でもあるから、部活動の実施により部員の生命・身体に危険が及ばないよう配慮し、危険を防止するとともに、何らかの異常を発見した場合には、その容態を確認し、必要に応じて、運動の禁止、応急処置、医療機関への搬送等の措置を取るべき一般的な注意義務を負っていた。

そして、B監督は、このような注意義務の一環として、部活動の実施により部員が熱中症に罹患することのないよう配慮し、危険を防止するとともに、熱中症を予見させる異常の発見に努め、何らかの異常を発見した場合には、部員の容態を確認し、必要に応じて、運動の禁止、応急処置、医療機関への搬送等の措置を取るべき熱中症に関する一般的な安全配慮義務を負っていたといえる。」

と判示して、B監督の具体的な安全配慮義務違反について検討しました。

100mダッシュ50本を練習内容として決定したことについて

控訴人らは、

「B監督は、本件事故当日の本件グラウンドの気温に鑑み、熱中症防止の観点から、100mダッシュ50本を含む練習内容を決定すべきではない義務を負っていた」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「確かに、100mダッシュ50本は激しい運動に当たるというべきである。」

としながらも、

「しかしながら、本件事故当日の午後4時から午後5時までの本件グラウンドの気温が31℃以上であったことが確実であるとまではいえないから、熱中症予防運動指針の「厳重警戒」の区分にまでは達していなかったというべきである。

そして、同指針の「警戒」の区分においては、同指針も激しい運動を避けるべきとはしていないから、B監督が100mダッシュ50本を練習内容に採用したことが熱中症予防に関する注意義務に違反したとはいえない。」

として、この点についての控訴人らの主張を排斥しました。

100mダッシュ25本終了後の休憩時について

控訴人らは、

「B監督が熱中症の危険性を意識してAの状況を観察していれば、100mダッシュ前半25本終了後の休憩時においてAに熱中症の兆候及び症状があったといえるから、B監督にはスポーツドリンクを飲ませ、又はその後の練習を休ませるなど、熱中症の予防のための適切な措置を講ずべき義務があった」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「確かに、熱中症予防運動指針の「警戒」の区分に該当する以上、B監督には熱中症の危険性を意識して部員の状況を観察すべき注意義務があったといえるから、他の部員が認識していたAの状況、すなわち①Aが、持久走9周目くらいで遅れ始め、息づかいも荒かったこと及び②Aが、100mダッシュ前半25本を終えて休憩する際、テントまで走らずに歩いて移動して、最後にテントに入り、息が大分荒く、まともに話せる状態ではなかったことを、B監督が認識すべきであったといえる。」

としながらも、

「しかしながら、持久走に関しては、その正確な時速が不明である上に、Aが他の部員と比べ持久走を苦手としていたといえることからは、仮にB監督が上記①の事実を認識したとしても、これを熱中症の兆候と評価することは困難であったというほかない。

また、上記②のうちAがまともに話せなかった理由は、100mダッシュ25本による疲労によるものとも考えられるから、Aがまともに話せなかったことが熱中症の兆候ないし症状である唇のしびれであると認めることはできない。

そのほか、上記②の時点において、Aは休憩の際に水を飲むことができていた上に、Aにはめまい、頭痛、吐き気などの訴えや、発汗の異常があったとは窺われないから、Aが他の部員と比べ持久走を苦手としていたことをも踏まえると、B監督が上記②の事実を認識していたとしても、B監督がAに熱中症の兆候や症状があると判断しなかったことに注意義務違反があるとはいえない。」

として、控訴人らの主張を排斥しました。

100mダッシュ後半約15本までの時点

控訴人らは、

「B監督は、Aの後半の100mダッシュの状況を観察した上で、Aに対し、ダッシュを中止させるべきであったにもかかわらず、これをいずれも怠った」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

「Aは他の部員から声を掛けられて、ダッシュを中止したのであるから、控訴人らが主張するB監督の上記注意義務違反とAの熱中症による救急搬送ないしAの死亡との間に相当因果関係は認められない。」

としました。

もっとも、裁判所は、

「B監督には熱中症の危険性を意識して部員の状況を観察すべき注意義務があったにもかかわらず、前半とは異なりバックネット裏から観察するにとどまっており、B監督は観察方法を変更したことについて合理的理由を説明しない。

したがって、B監督には、かかる観察の方法において注意義務違反があったというべきであり、B監督が前半と同様の位置から部員の状況を観察していれば認識することができたAの状況は、後の時点における注意義務の有無の判断における前提となるというべきである。

そして、本件の証拠関係上、Aが他の部員に話し掛けた位置は明らかではないから、100mダッシュをしている場所の近くでB監督が観察していたとしても、Aと他の部員の会話内容が聞き取れたということはできないが、他の部員が供述するとおり、Aのペースが一気に落ちたことをB監督は認識することができ、また認識すべきであったというべきである。」

と判示しました。

100mダッシュを再開させたことに過失はあるか

裁判所は

  • Aは、約10本を残して、100mダッシュを中断していたから、他の部員が100mダッシュをしている間に一応の休息を取れたものである。
  • そして、Aは、他の部員達に対し、頑張れと声を掛け、その声はダッシュの場所から約72~86m離れたバックネット裏で様子を見ていたB監督にも聞こえる程度の大きさであった。
  • また、Aは、B監督からの呼び出しに走っていき、B監督から「今はどうなんな?」と尋ねられると、「今はいけます。」と答えており、その受け答えの状況もはっきりしていた。

との事実認定のもとで、

「このような状況からすれば、B監督が、Aの素直で真面目な性格を熟知しており、比較的強めの口調で「Eでも走ったんぞ、4番のお前が走れな勝てんぞ。」と言ったことが、Aに対して、実質的に100mダッシュを再開するよう命ずるものと評価でき、かつ、B監督がAの熱痙攣を認識し得たとしても、B監督が、Aは休憩を取った以上100mダッシュ残り約10本を無事にこなすことができると考えたとしても無理からぬと評価する余地もあり、B監督がAに100mダッシュを再開させた点に注意義務違反があったとまでは断定し難い。」

と判示しました。

100mダッシュ再開後

裁判所は

  • Aは走れるような状態まで回復したとはいえ、熱痙攣の状態に陥っていたのであり、そのことはB監督も認識することができたこと
  • また、他の部員が100mダッシュを終了した後にAは一人で100mダッシュを再開しようとしていたのであるからB監督がAの状況を注視することも容易だったといえること

に照らすと、

「B監督はAに100mダッシュを再開させる以上、熱中症を念頭に置いてAの状況を注視し、Aに少しでも異常な状況があれば即座にAの100mダッシュを中止させ、給水・塩分摂取・休憩を命じ、必要に応じ、熱中症に対する応急処置や病院への搬送措置を講ずるべき注意義務を負っていたというべきである。

そして、100mダッシュを再開した後間もない段階でAの走る様子は変であり、足を上げても足が余り前に出ておらず、遅すぎるという状況であり、このような状況は他の部員が認識していたというのであるから、B監督がAの状況を注視していれば、同様の状況を認識することができたものというべきである。」

として、

「したがって、B監督は、この時点で、Aに対し、100mダッシュを中止させる注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、Aの100mダッシュを続行させた点に過失がある。」

とB監督の過失を認定しました。

応急処置について

また、裁判所は

  • 本件グラウンドのダッシュ開始時の気温が29℃以上で「警戒」の区分にあり、熱中症の危険性が増している状態にあったこと
  • Aが倒れ込んだときにAの意識は混濁しており、発語も異常であり、大量発汗し、顔色が青ざめているといった状況

からすれば

「Aが倒れ込んだときにB監督はAが熱中症であると判断した上で、Aの身体を冷やすなどの応急処置を速やかに取るべき注意義務を負っていたということができ、B監督はこれを怠ったのであるから、この点においても注意義務違反があったというべきである。」

と判示しました。

結論

以上より、裁判所は、

「B監督には、Aに100mダッシュを再開させた後、Aの異常に気づき即座に100mダッシュを中止させるべきであったのにこれを怠った点及びAに対して熱中症の応急処置を取らなかった点において過失がある。」

と判断しました。

そして、裁判所は

「仮にB監督がAの100mダッシュを即座に中止させ、Aの身体を冷却するなどの応急処置を講じ、直ちに病院に搬送するなどすれば、Aが死亡することはなかったと考えられる。」

とB監督の上記過失とAの死亡との相当因果関係を認め、

「被控訴人は、国家賠償法に基づき、Aの死亡と相当因果関係のあるA及び控訴人らの損害を賠償する責任を負う。」

と結論づけました。

罰走は体罰である

「体罰」というと、「暴力を振るうこと」というイメージがあると思います。

本件におけるB監督は、生徒に指示した罰走が体罰にあたるという認識はなかったと思われます。

そもそも体罰とは「私的に罰を科す目的で行われる身体への暴力行為」と定義されています。

その成立要件は

  1. 懲戒の対象となる行為に対して、
  2. その懲戒内容が、被罰者の身体に対する侵害を内容とするか、被罰者に肉体的苦痛を与えるようなものであり、
  3. その程度があくまでも「罰」の範疇であること

とされています。

罰走を命じるということは、生徒にとっては肉体的苦痛を受けることになりますから、当然に体罰にあたることになります。

したがって、罰走だけではなく、肉体的苦痛を受けるような過酷な練習メニューを課した場合には体罰に該当することになります。

もし同様の誤解をしているということであれば、体罰に対する認識を改める必要があると思います。

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