試合開始前に監督がノックした打球が三塁コーチス・ボックスにいた生徒にあたって負傷した事故

2020.05.18 スポーツ中の事故

広島高等裁判所平成4年12月24日判決

事案の概要

本件は、昭和60年7月3日も行われたM高校野球部の試合開始前のノックの際、同部のT監督が、レフトノックのための球を打ち損じ、ライナー性の打球が左側にそれ、三塁コーチス・ボックス方向に飛んだため、三塁手の控えの選手として三塁コーチス・ボックス付近にいた原告の顔面右眼付近を直撃し負傷した事故について、野球の守備練習をしていた同部監督が、ノックする打球の方向にいる他の選手の動静に注意しその安全を確認したうえノックすべき注意義務を怠ったとして、国家賠償法に基づき、被告広島県に対し、損害賠償を請求した事案です。

M高校野球部の練習のうち「試合前7分間のノックによる守備練習」は、その方法及び手順が定められており、内野ノックに次いで外野ノックが行われることとなっていました。

外野ノックを始めるにあたっては、監督あるいは選手等がノックを受ける選手に予め声を掛け、連携プレーの内容を指示するなど、各選手間の意思の疎通を計りなから、反復練習を繰り返してきたものでした。

本件当時、T監督は、本来レフト方向のファウル・ラインにライナー性の打球をノックするつもりであったのに、ノックした打球は左側にそれて三塁のコーチス・ボックス付近に飛び、同所において、レフト方向を見て「レフト」と声を掛け、本塁方向に振り向こうとしていた原告の顔面右眼付近を直撃しました。

原告が右打球を避け得なかったのは、同人がレフトの外野手に声を掛け、本塁方向に振り向こうとした瞬間であって、ノックの瞬間を見ていないことと、打球がライナー性のものであったことによるものでした。

裁判所の判断

T監督の過失について

裁判所は、

「野球の守備練習のためにノックをするに際しては、ノックを受ける選手が所定の位置につき、その準備が整ったことを確認し、十分意思の疎通を計ってからノックをすべきことは言うまでもないところであるか、同時に打球の方向にいる他の選手の動静にも注意を払いその安全を確認したうえノックをすべきであって、各選手の態度如何によっては、ノックを一時中止してその注意を喚起し、危険の発生を未然に防止すべき義務があるものと言わなければならない。」

とした上で、

  • T監督は、内野のノックを終え、レフトへの外野ノックを始めるに際し、捕手が『レフト、ボールセカンド』と指示し、三塁コーチス・ボックス付近にいた原告らも、これに合わせてレフト方向を見ながら外野手に声を掛けているにもかかわらず、三塁コーチス・ボックス方向に打球を飛ばすことはないものと過信し、原告らの動静に注意を払うことなく漫然とノックを開始したものであること
  • 右レフトノックの一本目はレフトのファウル・ライン付近のクッションボールの守備練習のためであって、三塁ベース付近を抜けるライナー性の打球を想定してノックされたものであるが、T監督はこれを打ち損じたため、ノックしたライナー性の打球は左側にそれ三塁コーチス・ボックス方向に飛んだこと
  • 右打球は本塁方向に振り向こうとしていた原告の顔面を直撃し、本件事故が発生したものであること

が認められるとして、

「しからば、本件事故は、T監督がレフトへのノックを開始するに際し、自己の技量を過信し、三塁コーチス・ボックス方向に打球を飛ばすことはないものと考え、原告らの動静に注意を払うことなく、漫然とノックをし、誤って同方向にライナー性の打球を飛ばした過失と、原告がT監督のノックの瞬間を見ていなかったことからこれを避け得なかったことにより発生したものであって、同監督は本件事故の発生につき過失責任を免れることはできないものと言わなければならない。」

と判示しました。

原告の過失について

被告は、

「原告には、ボールから目を離した過失がある」

と主張しました。

これに対し、裁判所は、

  • 「試合前7分間ノックによる守備練習」は、その方法、手順が定められており、連携プレーを要求されるなどその内容も多様であるから、短時間に能率良く実施する必要があり、T監督のノックは相次いでかなりスピーディーに行われていたこと
  • 他方原告は内野ノックが一巡し、外野ノックが始まる際には三塁のコーチス・ボックス付近に退避し、普段の練習の時と同じように、外野に向かって声を掛けていたため、捕手からT監督にボールが渡り、同監督が外野ノックの態勢に入っていることはもとよりノックの瞬間を見ていなかったこと

が認められるとした上で、

「右事実によれば、「試合前7分間ノック」が所期の成果を挙げるためには、各選手が監督の一挙手一投足に細心の注意を払い、その指示に的確に反応し、ボールから目を離すことなく、それぞれ期待される最善のプレーに徹することが必要不可欠である。」

「また、一般にノックに熟達している監督といえども誤ってノックを打ち損じ、思わぬ方向に打球を飛ばすこともあり得るところであるから、各選手は特にノックの瞬間には注意を払い、危険な打球に対し、自らを守り事故の発生を未然に防止する注意義務があるものと言うべきである。」

として、

「しかるに、原告は極めて僅かな時間ではあるが、外野に声を掛けている間、監督がノックの態勢に入っていることに気付かず、原告が本塁方向に振り返ろうとしたところへ、ノックしたライナー性の打球がきたためこれを避け得なかったものと認められ、原告にも注意に欠ける点がなかったものとは言い難く、本件事故発生につき原告にも過失があったものと言わなければならない。」

と判示しました。

他方で、裁判所は、

「しかしながら、原告は予めレフトへのノックに備え、三塁ベースから、4、5メートル離れたコーチス・ボックス付近に退避していたのであり、外野ノックが始まる時には内野手は一斉にレフトの選手に声を掛けることが普段から行われていたのであるから、原告がその僅かな間ボールから目を離していたからといって、その過失を重くみることはできない。」

として、

「そうすると、本件事故の発生につき、T監督の前記認定の過失の内容と対比すると、原告の過失割合は2割程度と認めるのが相当である。」

と判示しました。

部活動やクラブチームの練習再開にあたって注意してほしいこと

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの部活動が練習等を自粛していたことと思います。

緊急事態宣言解除を受け、学校が再開されるようになったと同時に、練習を再開することになった部活動も少なくないことでしょう。

しかし、活動自粛により思うような行動が取れないことが容易に想像できます。

それは、生徒・選手だけでなく、顧問や監督・コーチも同様です。

自らの技量を過信することなく、生徒・選手の安全を第一に考えて、活動を再開していただきたいと思います。

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