高校生が野球部のダブルプレーの練習中に投球を右眼に受け失明した事故

2020.06.11 スポーツ中の事故

大阪地方裁判所平成11年7月9日判決

事案の概要

本件は、原告が、平成7年5月18日、被告とともに在籍していた本件高校野球部の練習中、被告が誤って投げた球が原告の右眼に当たり、その結果右眼が失明する等の傷害を負ったとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

被告は、小学生のころから野球をしており、中学生のころは三塁を守るレギュラー選手であり、ときには投手もする、足も速く肩も強い選手として、S監督の目にとまり、本件高校に入学しました。

本件高校野球部では、1年生部員らは、入部して間もない4月から5月くらいまでの間は、雨天練習場等で体力造りの練習を中心とした、ランニング、筋力トレーニング、ティーバッティング等の練習を行う等、2年生部員ら及び3年生部員らの練習とは個別の練習を行った後、上級生部員らと合同で練習をしていました。

そして、1年生部員らのみの練習においても、ダブルプレーの練習は行われており、その内容は、上級生部員らが行うそれと変わらないものでした。

また、1年生部員らの練習は、上級生部員らのそれよりも早く終わることもあったため、そのような場合には、1年生部員らは、上級生部員らの練習を見学することもありました。

本件事故当日の放課後から、上級生部員らはキャッチボールをした後、守備練習(ノック)を始めました。

その際、上級生部員らは内野と外野の練習に分かれ、内野の守備練習については外部コーチのAがノッカーとなって練習を行いました。

そして、原告は1塁手であったので、内野の守備練習に参加しました。

内野の守備練習は、ノックを受けた者がボールを本塁に送球する「ボールバック」、ノックを受けた者がボールを一塁に送球する「ボールファースト」の順に行われました。

そして、上級生部員らが練習を行っている間、1年生部員らは、上級生部員らとは別に、ランニング、体操、ダッシュ等の練習を行っていました。

上級生部員らのボールファーストの練習が終わると、ノッカーがAからS監督に代わり、1年生部員ら約30名の中から、被告を含む6名がS監督から選ばれ、上級生部員らの守備練習に参加することとなりました。

その際、被告は、多数いる1年生部員から自分が選ばれたことにうかれ、興奮していました。

そして、S監督が、練習内容をダブルプレーに変えることを指示すると、捕手が、その指示を周知徹底させるため、大きな声で「ゲッツー」と叫んで指示を出しました。

これに対し、内野守備に参加していた部員らは大きな声を出してこれに応えました。

その際、一塁の守備練習をしていた者は、ダブルプレーの練習に備えるため、ノッカーからのボールを受ける者と、二塁手ないし遊撃手からの送球を受ける者に分かれ、ノッカーからのボールを受ける者は、二塁手等からの送球を受ける者よりもやや前方向に位置をとりました。

そして、原告は、本件事故の際は、ノッカーからのボールを受ける者として、一塁ベースのやや前方向に位置をとっており、被告は、三塁の守備練習に参加しました。

三塁の守備練習には約6名が参加しており、先頭から順にS監督のノックを受けることとなっていましたが、被告の順番は、前から3番目または4番目でした。

また、このようなダブルプレーの練習では、三塁守備についた者は捕球した後は二塁に送球しなければならないものであり、ノックしたボールをノーバウンドで直接捕球するような例外的な場合を除いては、直接一塁に投げるようなプレーを選択する余地のないものでした。

そして、ダブルプレーの練習の趣旨がそのようなものであることは、本件事故当時、被告も認識していました。

S監督が三塁手方向にノックをすると、被告より順番の早い上級生部員らは、いずれもボールを捕球すると、これを二塁に送球しました。

被告は、上級生部員らの練習を見て、非常にレベルが高いと感じ、その雰囲気に圧倒され、「こんな中で、ついていかなあかんのか。」、「エラーしたらどうしよう。」などと考えました。

そして、自分が1年生部員らの中から選ばれたことに対する興奮等とあいまって、S監督がダブルプレーの指示を出したことがまったく耳に入っていない状態であったため、被告は、S監督からのノックをきちんと捕ってファーストに投げよう、と考えていました。

そして、S監督が被告に向けてノックをして捕りやすいゴロを送ったところ、被告は、ボールを捕球すると、これを自らが考えていたとおりに一塁方向に投げ、通常の守備位置よりも前に位置をとり、次にS監督からノックを受けようとして態勢を整えていた原告の右眼付近にそのボールを当てました。

その結果、原告は右眼失明等の傷害を負いました。 

裁判所の判断

被告の過失について

裁判所は

「被告は、ダブルプレーの練習においては、三塁手はノックのボールを捕球した後、二塁に送球しなければならないということを認識していながらS監督や捕手の、ダブルプレーを行う旨の指示を不注意で聞いていなかったため、ノックのボールを捕球した後、漫然と右ボールを一塁方向に投げて原告の右眼付近に当てたことは明らかである。」

として、

「被告の本件行為は、過失によるものと認めるのが相当である。」

と判示しました。

スポーツ行為として違法性が阻却されるか

被告は、本件事故は硬式野球というスポーツを行う際に発生したものであり、その競技の性質上、傷害の危険が内包されていること被告は硬式野球のルール上許された行為をしていたにすぎないことを理由に、

「被告が本件事故を発生させた行為は、違法なものではない」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

  • 本件事故当時、本件高校で行っていたダブルプレーの練習は、試合におけるような、ルールに反しない限りで、自らが行うべきプレーを選手各自が選択することができる場合とは異なり、三塁手がS監督のノックを受けた場合は、これを二塁に送球するというように、各自の行うべきプレーが固定化又は定型化された練習方法であったことが明らかである。
  • そして、右のような練習方法をとった場合、右練習に参加する者らは、定型化されたプレーに反する行動をとる者が出ることを予想していないのが通常である。
  • その結果として、右のような練習方法において定型化されたプレーに反するプレーをすることについては、試合におけるような、当該試合に出場している各選手がそれぞれ取るべきプレーを選択しており、他の者も、当該選手が選択するプレーが自らの予想に反することがありうることを前提としている場合に比して、その危険性は極めて高いというべきである。

とした上で、

「したがって、本件事故当時の練習態様、右練習の中で被告が行ったプレーに照らすと、被告の行為は違法なものであると評価せざるを得ず、本件事故が硬式野球というスポーツを行う際に発生したものであり、被告が行ったプレーが硬式野球のルール上許されたものであるからといって違法性が欠けるものではない。」

と判示し、被告の主張を排斥しました。

以上より、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。

頻繁に発生しているのではないかと危惧される事故態様

本件のような事故は、決して珍しいものではなく、むしろ頻繁に発生しているのではないかと思われます。

定型的な方法を反復継続することによって習得することを目的としている練習は多いと思います。

しかし、普段なら間違えるはずがないことであるのに「思わずやってしまった」ということはよくあるのではないでしょうか。

そして、なぜそのような違うことをやってしまったのか、その理由を具体的に説明できないこともあるでしょう。

「思わずやってしまった」ことが、重大な結果を発生させてしまうかもしれないことを知っておくだけでも、一つ一つのプレーに集中するきっかけになるのではないかと思い、本件のケースを紹介することにしました。

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