県立高校硬式野球部の練習中に監督のノックの打球が生徒の頭部を直撃して負傷した事故

2018.10.08 スポーツ中の事故

徳島地方裁判所平成26年3月24日判決

事案の概要

本件は、徳島県立高等学校の硬式野球部のシートノック練習中、同校の教諭であり、かつ同部の監督でもあるA監督がノックした打球が同校生徒であり同部部員である原告の頭部を直撃した事故について、原告が、A監督に部員に対する安全配慮義務を怠った過失があると主張して、被告である徳島県に対し、国会賠償法1条1項に基づき、損害賠償を請求した事案です。

原告は本件高等学校の2年生であり、同校の硬式野球部に所属していました。

本件硬式野球部監督は、同校教諭であるA監督でした。

本件硬式野球部は、平成21年8月12日午後1時頃、本件高等学校グラウンドにおいて、練習試合前の守備練習の一環としてシートノックを行っていました。

原告は、ファーストの守備を担当していました。

本件硬式野球部における本件事故当時のシートノックは、A監督がノックを行い、まず内野手のシートノックを行った後、外野手のシートノックを行うという手順でされ、外野手のシートノックは、レフト、センター、ライトの順に行うというものでした。

本件事故は、既に内野へのノックが終わり、外野へのノックに移った後であり、具体的にはセンターへのノックがなされ、センターの守備選手がバックホームをした後、ライトへのノックとして打球が打たれた際に発生したものであり、次にライトへのノックがなされることは、原告も認識していました。

センターへのシートノックの際、一塁手は、センターからのバックホームをカットする場合に備えてファースト付近からピッチャーマウンド付近まで位置を変更し、次にライト方向へのノックがなされる前後にピッチャーマウンド付近から一塁側へ走り、フィールド外に離脱するのが通常でした。

もっとも、一塁手がフィールド外に離脱するタイミングについては、一律に決められていたものではなく、一塁手がノッカーの動きをみて、既にノックしようとしているか、まだ次のノックまで間があるかのタイミングを図って自らの判断で決定していました。

他方で、ノックをするA監督も、一塁手が待機しているか走り出そうとしているかを見てノックをするか否かを判断しており、ノックをしようとしているときに一塁手がフィールド外に走り出そうとしている場合には、一塁手に対し、その場に待機するように指示を与えることもありました。

原告は、普段から、フィールド外に離脱する場合、離脱目標となるフィールド外の方向を向いて全力疾走しており、ノッカーの方を見ていませんでした。

A監督も、原告が、普段ノッカーの動きを見ないで全力疾走して離脱しようとしていることを認識していましたが、原告がノッカーの方向を見ずに離脱方向に向かって全力疾走していること自体を従前咎めたことはありませんでした。

原告は、センターへのシートノックの際、センターフライのカットプレイのためにファースト方向からピッチャーマウンド方向に移動していました。

次に、原告は、ピッチャーマウンド付近からファースト方向に戻ろうとしました。

その頃、A監督は、ライト方向にノックを打とうとしていました。

A監督は、本件事故の際、原告がピッチャーマウンド付近にいたのを見た後、その後原告の方を見ないまま、ライト方向を狙って、ライナー性のノックをしました。

A監督としては狙い通りの打球が打てたと認識していましたが、これがピッチャーマウンド付近からファースト方向に走っていた原告の右頭部に直撃しました。

原告は、本件事故により、急性硬膜下血腫等の傷害を負いました。

裁判所の判断

A監督の安全配慮義務

裁判所は、A監督の安全配慮義務に関して

「硬式野球で使用するボールの性状に照らせば、練習中に打球が選手の身体に衝突した場合に身体に傷害を及ぼすおそれがあること(場合によっては生命の危険があること)については、硬式野球部の監督であれば当然認識していたというべきである」

としたうえで、

「ライト方向にライナー性のノックをしようとしていたA監督としては、そのままノックを続ければ、ピッチャーマウンド付近にいる原告が一塁側のフィールド外に向かって全力疾走し、その結果、原告にノックの打球が衝突して原告が負傷するかもしれないことを予見することができたというべきであり、そのような立場にあるA監督として、ノックを打つ前に原告の方を見て原告の動静を確認し、原告が走り出そうとしているのであればノックを止めるか、原告が走ろうとするのを止めることも可能であったと認められる」

として、

「A監督は、ノックをする上で、原告の方を見て原告の動静を確認し、原告の状況によっては、原告に注意を喚起するかノックを一時中止して打球の衝突による危険を防止すべき注意義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、A監督は原告の方を見ないままにノックをしたというのであるから、A監督には上記の注意義務を怠った過失があるというほかはなく、被告は、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。」

と判断しました。

過失相殺

他方で、裁判所は、原告について

「硬式野球で使用するボールとりわけ打球が身体に衝突した場合に身体に傷害を及ぼすこと(場合によっては生命の危険があること)については、監督のみならず硬式野球部に所属する高校生であれば当然認識していたというべきところ、上記のとおり、シートノックにおいては、ノッカーが守備選手の動きに意を払うと否とにかかわらず打球が衝突して負傷する危険性があることは明らかであり、原告は、センターへのノックが終了した次には、ライト方向にノックの打球が打たれることを把握していたのであるから、原告としても、ピッチャーマウンドからファースト側のフィールド外に出るに当たって、A監督の動きを更に確認することで本件事故の発生を防ぐことができた可能性が高いから、信義則上、原告の被った損害については過失相殺を行うのが公平の観点から相当である。」

と判示しました。

その上で、裁判所は、

「もっとも、上記A監督の注意義務違反の程度その他監督と選手の関係であること、A監督が原告の普段の練習態度ないし離脱態度を認識していたことなど上記認定の事実を総合して勘案すれば、原告に斟酌すべき過失割合はこれを1割に止めるのが相当である。」

と判断しました。

選手側の過失が認められることも

部活動の練習中に事故が発生した場合、顧問である教員の安全配慮義務違反が認められる一方で、部員である生徒側の過失が認められることがあります。

この場合、公平の観点から、部員が負った損害の一部については部員自身が負担するべきであると判断されることになります。

これを過失相殺といいます。

顧問が部員の安全に配慮した練習を行ったとしても、部員側が自らや他の部員の安全に配慮して練習を行わなければ、事故が起きてしまいます。

双方の安全配慮への注意が欠けているようであれば、事故が発生する可能性が高くなるともいえるでしょう。

そして、部員の過失の割合が大きければ大きいほど、損害賠償請求できる割合が少なくなってしまいます。

本件では部員側に1割の過失が認められましたが、事案によっては部員(生徒)側に7割の過失があると認められたケースもあります。

事故の発生を未然に防ぐという観点はもちろんのこと、十分な損害賠償を請求できるようにするためには、部員(生徒)自身が安全に配慮した活動を行うべきだといえます。

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