県立高校硬式野球部の打撃練習で投手の頭部に打球が直撃した事故

2018.10.23 スポーツ中の事故

静岡地方裁判所平成28年5月13日判決

事案の概要

本件は、静岡県立B高等学校の硬式野球部の部活動において、いわゆるハーフバッティングと呼ばれる、打撃投手と打者との距離が公認野球規則で定められた投手板の前縁の中央から本塁(五角形の先端)までの距離(18.44m)よりも短い打撃練習を行っていた際、3人が打撃投手が横に並ぶ様な形であったところ、原告は、その一人として最も三塁側寄りの場所で打撃投手を務めていました。

原告の前方及び左右には、それぞれ防球ネットが設置されていたところ、原告の前方のネットは、L字型ネットの代わりに、横2m、高さ2mの四角ネットが、横約1.7m、高さ約1mの二つのネットの右横に並ぶ形でL字型に設置されていました。

つまり、原告は高さ約1mのネットの上の部分からボールを投げていました。

原告は、打撃投手として約10球を投げた頃、打者が打ち返したボールが原告の右側頭部に直撃しました。

なお、打撃練習の際、原告はヘッドギアを着用していませんでした。

この点、高野連は、打撃練習時において「製品安全協会」のSGマークが付けられている投手用ヘッドギアの着用を義務付けています。

本件事故当時、本件野球部には、投手用ヘッドギアが存在していましたが、本件野球部の監督として指導を行っていたA教諭は、練習に立ち会っていながら、原告が打撃練習の投手を務めるに際し、原告に対し、投手用ヘッドギアを着用するよう指導していませんでした。

原告は、本件事故により、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫及び脳挫傷の傷害を負い、陳旧性脳挫傷及び脳波異常等の後遺障害が残存しました。

そこで、原告は、本件野球部の監督であるA教諭が打撃投手である原告にヘッドギアを着用させる義務に違反してこれを怠った旨を主張し、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

裁判所の判断

A教諭の職務行為の違法性について

裁判所は、

「高等学校における部活動は、高等学校学習指導要領に基づき、学校教育の一環として行われるものとされており、そのような観点から、高等学校の部活動について指導、監督に当たる教諭等は、部活動を行う生徒の生命及び身体の安全に配慮すべき義務を負うものと解されるところ、高等学校の野球部の練習活動に関しては、高野連が、打撃練習時において「製品安全協会」のSGマークが付けられている投手用ヘッドギアの着用を義務付けていることに鑑みると、A教諭は、本件事故の当時、本件野球部の監督として、本件野球部の部員が同部の活動として打撃練習を行う際には、打撃投手を務める生徒の頭部にボールが直撃し、当該生徒の生命及び身体に危険が生じることがないよう、投手用ヘッドギアを着用するよう指導すべき職務上の注意義務を負っていたと解するのが相当である。」

とした上で、

「本件事故当時、本件高校には投手用ヘッドギアが存在しており、A教諭も部活動に立ち会っていたにもかかわらず、A教諭は、打撃練習の投手を務めていた原告に対して投手用ヘッドギアの着用の指導を行っていなかったのであるから、その点の過失により上記職務上の注意義務に違反して本件事故を生じさせ、原告に損害を与えたものとして、公務員であるA教諭の職務行為の違法性が認められるというべきである。」

と判断しました。

過失相殺について

被告は、

「本件事故時、原告の前にはL字型にネットが設置されており、原告は、投球後に同ネットに頭部を隠すことで本件事故を回避することが可能であったこと、原告は中学校時代の三年間硬式野球部に所属し、その頃から投手を務めており、打撃練習における投手の危険性を予見することが可能であり、L字型に設置されたネットに身を隠すことも容易であったこと等を理由に、本件事故について原告にも過失が認められ、3割の過失相殺が認められるべきである」

と主張しました。

これに対し、裁判所は

「しかしながら、高野連が、硬式野球部の部活動において、打撃練習時に、打撃投手を務める者に対して投手用ヘッドギアの着用を義務付けたのは、硬式球が頭部に当たった場合には生命、身体に重大な危険が生じるおそれが高いところ、打撃投手を務める者と打者との距離及び打球の速さから、L字型ネットだけでは当該打撃投手が打球を避けられない場合があることによるものと解される。

しかも、本件の打撃練習はハーフバッティングによるものであり、打撃投手と打者の距離が公式ルールで定められた距離よりも短いことからすれば、L字型ネットだけでは打球を避けることができず、打者の打球が打撃投手の頭部に当たる可能性が一層高かったから、A教諭において、打撃投手を務める原告に対し、その生命、身体の安全確保のために、投手用ヘッドギアを着用するよう指導する必要性は高く、これを怠ったA教諭の過失は重大というべきである。」

として

「仮に原告がL字型に設置されたネットに頭部を隠すことが遅れたとしても、損害の公平な分担という見地に鑑み、本件事故において過失相殺を認めることは相当でないというべきである。」

と判断しました。

徹底した安全対策が必要

プロ野球やメジャーリーグの試合で、バッターの打球がピッチャーに直撃することがあります。

もちろん打球の速さは高校生とは異なるといえるでしょうが、だからといって、高校生の打球なら避けられるというものではありません。

ましてや、本件では、通常の距離よりも短いハーフバッティング中の事故でした。

そのことを考えると、避けられる可能性の方が低いといえるでしょう。

また、本件では、安全対策のために、打撃投手にヘッドギアの着用を義務づけていました。

ちなみに、私が母校の東筑高校野球部に所属していた当時は、このようなヘッドギアはありませんでした。

打球が打撃投手に直撃してけがをしたという事故が多発したことがきっかけになって、このような安全対策をとることが義務づけられたといえるでしょう。

そうした中で、実際に打撃投手用のヘッドギアを備え付けていたにもかかわらず、顧問教員がこれを着用するように指導しなかったというのであれば、その過失は重いといわざるを得ないと思います。

野球に限らず、各種スポーツ団体は、安全対策のための措置を提唱しています。

もっとも、それらを守ってさえいれば事故は起きない、あるいは事故が起きても大したけがをしないというものではありません。

あくまでも、最低限度の安全対策というべきものです。

部員や選手の安全面を考えると、対策は取り過ぎるということはありません。

むしろ、あらゆる事故を想定して、徹底した安全対策をとることが必要だといえるでしょう。

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