県立高校野球部員のスイング修正練習中に放投したバットが左眼にあたり失明した事故

2018.11.05 スポーツ中の事故

福岡地方裁判所小倉支部平成17年4月21日判決

事案の概要

本件は、被告の設置する福岡県立X高校の一年に在学中で野球部員であった原告が、野球部の練習中に他の野球部員の放投したバットが原告の左眼に当たってその左眼を失明したという事故について、同事故は本件高校のY教諭の職務上の過失により発生したなどと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項による損害賠償を求めた事案です。

本件事故が発生した当日に行われたティーバッティングの練習は、バックネットに向かって西側から、E及びBの組、A及び原告の組並びにC及びDの組の順で三組に分かれて行い、それぞれ、B、原告及びDがボールをトスし、E、A及びCがトスされたボールをバットで打っていました。

E、A及びCは、防球ネットからそれぞれ約2.8メートルの距離をとって5メートル程度の間隔でほぼ横一列に並び、ボールをトスしていた原告は、バックネットに背を向けて座ってボールをAにトスしており、また、原告がいた場所は、Eがボールを打っていた場所から防球ネットに向かって右斜め後方に位置していました。

当時、ソフトテニス部の顧問であったY教諭は、ソフトテニス部の練習後、野球部の練習を見に行ったところ、ティーバッティングの練習をしていたEを見つけ、Eに対し、バッティングについての指導を始めました。

Y教諭は、グリップの位置や手首の使い方などについての指導をしましたが、さらに、バッティングについての指導の一環として、ある練習方法をEに行わせることとしました。

その練習内容とは、バットでボールを打たせるのではなく、Eのスイングを改善するため、バットを振らせ、スイングの途中でバットを手離させて防球ネット方向にバットを放らせるというものでした。

Y教諭は、Eに本件練習方法を行わせる前に、まず、Y教諭自身が手本を示すこととし、EにボールをトスしていたBに安全のためそれまでいた場所から離れるよう指示し、その上で、Eがティーバッティングをしていたのとほぼ同じ場所に立ち、防球ネット方向にバットを放る本件練習方法を実践しました。

そして、Y教諭は、Eに、バットが防球ネットの正面に飛んでいったことを確認させ、バットを離すポイント等を説明し、合計4回程度、手本を示した上で、Eに本件練習方法を行わせました。

しかし、Y教諭は、Eに対してバットを振る速さについては指導しませんでした。

また、Y教諭は、Eに本件練習方法を行わせるに当たって、Bに対しては更に離れるように指示したものの、Eの東側にいたAや原告には声はかけませんでした。

そして、Eが実際に本件練習方法を行ったところ、その第一投目で、Eの放ったバットが、Eが本件練習方法を行っていることに気づかずにEの右斜め後方でティーバッティングのトスをする係として座っていた原告の左眼に当たりました。

原告は、本件事故のため、左眼を受傷し、入通院して治療を受けましたが、左眼を失明しました。

裁判所の判断

Y教諭の過失について

裁判所は、まず

「本件野球部の練習が、本件高校における教育活動の一環として行われる課外のクラブ活動であり、Y教諭によるEに対する本件練習方法の指導も本件野球部の活動の一環として行われたものであることは当事者間に争いがないところ、本件野球部の練習の指導に当たる者は、部員の生命や身体に危険が及ばないように配慮して事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うところである。」

とした上で、

「Y教諭がEに対して指導した本件練習方法は、バットでボールを打たせるのではなく、スイングの中途で重量約1キログラムあるバットを手離させてバットを放らせるというものであり、それ自体が危険性を伴う練習方法であることは明らかであり、また、本件練習方法は必ずしも一般的な練習方法ではなく、Eも本件練習方法をそれまで一度も行ったことがなかったのであり、Y教諭自身も、本件練習方法に慣れていないとバットが右や左に飛んでいったりすることがあると聞いていた旨の証言をするとおり、バットを振る速さについては指導を受けていなかったEの放るバットがEの右斜め後方約7メートルの原告がいた場所まで勢い余って飛んでいくことも十分に予想されたというべきである。」

として、

「Eに本件練習方法を指導し行わせたY教諭には、原告に対して注意を促し移動させるなどして原告の生命や身体に危険が及ばないように配慮をすべき職務上の注意義務があったと認められる。しかるに、Y教諭は、これを怠り、Bに対しては離れるように指示したものの、原告には声はかけずに注意を促したり移動させるなどの配慮を行わなかったのであるから、Y教諭には、職務上の注意義務を怠った過失が認められ、本件事故のために原告が被った損害について被告はこれを賠償すべき責任を負うというべきである。」

とY教諭の過失を認定し、被告の損害賠償責任を認めました。

過失相殺について

また、裁判所は、被害者である原告にも過失があるとの被告の主張について、

「確かに、原告は、練習中はボールから目を離してはいけない旨の指導を受けていたところであるが、原告らが行っていたティーバッティングの練習は、三組のバッターが5メートル程度の間隔をとって防球ネットに対して約2.8メートルの距離のところで行われていたのであるから、トスを上げる立場であった原告に、他のティーバッティングを行っている部員の打球の行方について特に危険を感じさせるような状況にはなく、さらに、原告は本件練習方法をそれまで一度も経験したことがなかったのであり、バットを放り投げるという本件練習方法が行われることをも想定して更に周囲の状況に注意すべきであったとまではいえないのであって、原告に過失相殺すべきとする事情は見当たらず、被告の過失相殺の主張は認める余地がない。」

と判断しました。

起こるべくして起きた事故

私自身、小学一年生の頃から野球をしていますが、本件のような練習方法をやったことはありませんし、何らかの機会に聞いたことがある程度のものです。

ただ、もし自分が今同じことをやってみたとして、指示をした教諭の意図したとおりのことを実行できる自信はありません。

おそらく、この生徒自身も初めてのことであり、恐る恐るやってみたことでしょう。

そして、その結果、仲間ともいうべき野球部員に失明という重い後遺症を残すけがをさせてしまいました。

きっとこのような事故を起こしてしまったことを後悔していることでしょう。

本件は、このような結果を招くことは容易に想像できたと思います。

まさに起こるべくして起きた事故といえるでしょう。

しかし、生徒(部員)の立場からすると、大人(教員)から指導を受ける場合には、それが野球部の顧問ではなかったとしても、やらないわけにはいきません。

ソフトテニス部の顧問でありながら野球の指導をしたということからすれば、野球のついて多少の知識はあったかもしれませんが、十分な知識と経験がないのであれば、指導は控えるべきだったといえるでしょう。

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