市立中学校野球部の部活動でフリーバッティング練習の打球が直撃して網膜萎縮等の傷害を負った事故

2018.11.08 スポーツ中の事故

横浜地方裁判所平成25年9月6日判決

事案の概要

 

本件は、Y中学校の野球部に所属していた原告が、本件学校を設置管理する被告に対し、原告が本件野球部の練習において右眼にボールの直撃を受け、右網膜萎縮等の傷害を負った事故に関し、本件事故は本件野球部の顧問教諭らが防球ネットの配置を徹底せず、生徒に防具等を装着させず、複数箇所の同時投球を避ける等の指導監督義務を怠ったことに起因するなどとして、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を求めた事案です。

原告は、Y中学校に入学し本件野球部に入部しました。

原告は,本件野球部に入部する以前に野球の経験はありませんでした。

A教諭及びB教諭は、本件学校に勤務する教師であり、A教諭が本件野球部の顧問教諭に、B教諭が本件野球部の副顧問教諭の任に就いていました。

本件野球部は、本件学校の休業日以外は、始業前に朝練習を行っていました。

朝練習では、2つのレーンを用いてフリーバッティング練習が行われ、ピッチャーマウンドからホームベースに向かって右側のレーン(第1レーン)では、バッティングピッチャーがバッターに対してボールを投げる方法により、他方のレーン(第2レーン)ではピッチングマシーンがバッターに対してボールを発射する方法により行われました。

原告は,本件朝練習で行われたフリーバッティング練習において,第2レーンで、本件ピッチングマシーンにボールを供給する「ボール係」を担当しました。

本件野球部のフリーバッティング練習では、本件ピッチングマシーンの前面及び右前方に、2つの防球ネット(以下、前面の防球ネットを「前面ネット」、右前方の防球ネットを「側方ネット」という。)が、バッターの打球がボール係に衝突するのを防ぐために置かれることとなっていました。

本件フリーバッティング練習では、前面ネットは設置されていましたが、側方ネットは設置されませんでした。

また、原告は、本件フリーバッティング練習において、ヘルメット等の防具を着用していませんでした。

原告は、本件フリーバッティング練習でボール係を担当するよう本件野球部の2年生の1名から指示され、本件ピッチングマシーンにボールを供給するため、本件ピッチングマシーンの周辺においてボールを拾い集めていた際に、第1レーンのバッターの打球が,原告の右眼を直撃しました。

原告は、本件事故後、すぐに病院に搬送されました。

原告は、本件事故により、右眼球打撲、右眼左出血及び右網膜萎縮等の傷害を負い、右眼の視力低下(裸眼視力0.07、矯正視力0.1)及び右眼の視野狭窄(正常視野の約78%の視野となったこと)の後遺症が残りました。

裁判所の判断

 

顧問教諭らの過失について

まず、裁判所は、顧問教諭らの注意義務として

「本件野球部の活動は、教育課程外のいわゆる部活動であり、生徒の自主的、自発的な参加により行われるものであるとはいえ、教育課程との関連をもって学校教育の一環として行われる以上、本件顧問教諭らは、当該活動について生徒の安全を確保し、事故の発生を未然に防ぐべき一般的注意義務があるというべきである。」

と判示し、本件における顧問教諭らの注意義務違反の有無について

「野球の練習の中でもフリーバッティング練習は、ボール係や守備についている生徒にバッターが放つ高速の打球が衝突して生命身体に対する危険の生じる可能性が高い練習であって、特にバッターの正面の近距離に位置するボール係は、極めて高い危険に晒されることになるから、野球部の指導者である顧問教諭らとしては、安全指導の手引きにおける記載や本件ピッチングマシーンのパンフレットの記載等を参考にした上で、フリーバッティング練習において適切な位置に本件各ネットを設置しなければ、バッターの打球によってボール係の生命身体が害されるおそれがあることを容易に予見し得たといえる。」

とした上で、

「そうであれば、本件顧問教諭らには、フリーバッティング練習において、本件各ネットがボール係を打球から保護する位置に確実に設置されていることを同練習に参加して自ら又は他に野球の練習における安全指導の知識を有する教員に指示して確認するか、さもなければ同練習においては必ず本件各ネットが上記位置に設置され、ボール係が本件各ネットから出ることなく保護されている状態を維持するよう、本件野球部の部員らに対し、徹底した指導を行うべき注意義務があったといえる。」

との判断基準を示しました。

そして、裁判所は、

「本件顧問教諭らは、本件フリーバッティング練習に参加しておらず、本件フリーバッティング練習時に本件各ネットが部員らを打球から保護する位置に設置されていることを直接確認せず、他の教員に確認させることもなかった。」

「確かに、A教諭は、本件野球部の練習に参加した際などに、部員らに対し野球の練習の危険性やフリーバッティング練習における安全性の確保の指導を行ったことが認められ、その結果として、部員らがフリーバッティング練習において本件各ネットを設置する必要があることを知り、本件フリーバッティング練習以前において、本件各ネットが設置されずにフリーバッティング練習が行われた形跡がうかがえないことからすれば、A教諭の上記指導は、一定程度の効果を上げていたといえる。

しかしながら、

  1. 本件顧問教諭らは、朝練習に稀にしか出席せず、放課後の練習においても不定期に出席するのみであり、また、他の教員をして出席させることもしておらず、部員らに対し、定期的かつ計画的にフリーバッティング練習における安全上の注意点について注意喚起を行っていたとは認められないこと、
  2. 本件事故時において本件顧問教諭ら及びその他の教員に代わり部員らを指導監督するキャプテン等の責任者を指定するなどしておらず、本件顧問教諭らの指導を間接的に部員らに浸透させる態勢を整えていたとも認められないこと、
  3. 側方ネット及び本件ピッチングマシーンは、グラウンドのほぼ中心に位置しており、多くの部員らにとって、本件フリーバッティング練習において側方ネットが設置されていないこと及び原告が本件ピッチングマシーン後方でボールを拾っていたことは、容易に気付き得たと認められるにもかかわらず、本件フリーバッティング練習は、側方ネットが設置されず、かつ、原告がボールを拾っている状態で、漫然と本件合図が出て開始されたこと、
  4. 本件顧問教諭らは、本件野球部の1年生らの判断能力が未熟で、かつ、野球の経験が少ないことから、特に安全指導を行う必要性のあると考えられるにもかかわらず、何ら特別の安全指導を行っていないこと、
  5. 原告は、本件各ネットの設置について、本件顧問教諭らや本件野球部の上級生からの特別の指導によって学んだのではなく、同上級生が本件各ネットを設置しているのを真似て、分からない点について質問をすることにより覚えたにすぎないこと

などからすれば、部員らは、本件各ネットが有する安全上の重要性について十分に理解しないまま、慣例としてこれを設置していたにすぎなかったと評価するのが相当であり、本件顧問教諭らが、部員らに対し、フリーバッティング練習におけるボール係等の生命身体の侵害の危険性について、その高度な危険性を理解させるに十分な理解を得させる指導を行っていたとは到底認められない。」

との事実を認定し、

「本件顧問教諭らの指導によって、フリーバッティング練習において必ず本件各ネットを適切な位置に設置し、また、ボール係が本件各ネットで保護されるよう、同ネットから出ることのないよう、指導することが徹底されていたとはいえない。

よって、本件顧問教諭らには、本件野球部の活動について部員らの安全を確保し、事故の発生を未然に防ぐべき義務に違反した過失が認められる。」

と判断しました。

過失相殺について

他方で、裁判所は、

「原告には

  1. 以前に野球の練習中にボールを眼に当てて怪我をした経験を有しており、野球はボールが高速で身体に衝突することがあって危険が高いスポーツであることを知っていたと認められること、
  2. 原告は、本件ピッチングマシーン及び前面ネットの設置が行われた後に本件合図を聞いており、本件フリーバッティング練習がまさに開始されたことを知っていたにもかかわらず、本件ピッチングマシーン周辺のボールを拾うことを継続したこと、
  3. 原告は、ボールを拾う際に、第1レーンのバッターの打球を注視していなかったこと、
  4. 原告は、従来のフリーバッティング練習において、側方ネットを設置しなければいけないことを知っており、本件ピッチングマシーン周辺から側方ネットの設置の有無を確認することが容易であったにもかかわらず、本件フリーバッティング練習においては側方ネットが設置されていなかったことに気付かなかったこと

等の事情が認められるのであって、原告の上記各行為が本件事故の発生に少なからず寄与しているのは明らかである。」

とした上で、

「そうであれば

  1. 原告が野球の経験が浅く、
  2. 野球部に入部して間もなかったこと、
  3. 本件フリーバッティング練習の際に初めてボール係を務めたこと

といった事情を考慮しても、原告に生じた損害の全額を被告に負わせるのは不公平であるといえる」

として、

「本件顧問教諭らの上記過失の程度と比較し、本件損害のうち30%を過失相殺すべきである。」

と判断しました。

十分な安全対策ができていないのであれば朝練習は禁止すべき

本件の事故は、顧問教諭らが立ち会っていない朝練習中に起きたものでした。

本件において、裁判所は、部活動の練習に立ち会っていないこと自体を責めてはいません。

昨今の「ブラック部活動」問題とりわけ顧問教諭の過重労働を考慮すると、放課後に行われているであろう部活動の練習だけでなく、朝練習にも立ち会うように求めることは非常に酷です。

ただ、本件の朝練習が誰の発案により行われていたのかについては定かではありません。

中学生の部員達だけの意見として始めたのではなく、顧問教諭らが指示して行われていたのかもしれません。

そのことを考えると、顧問教諭らが立ち会うこともなく、また十分な安全対策ができていないのであれば、それが部員達だけの発案であれ、顧問教諭の指示であれ、朝練習は禁止すべきです。

部活動の顧問教諭の役割は、技術指導よりも、安全確保に重点を置くべきであると思います。

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