県立高校の野球部員がフリーバッティング練習中に打球を受けて負傷した事故

2018.11.25 スポーツ中の事故

神戸地方裁判所尼崎支部平成11年3月31日判決

事案の概要

本件は、原告が被告の設置するA高等学校での野球部のバッティング練習中に負傷したことにつき、原告が被告に対し、高等学校の教諭の指導に過失があった又はバッティング練習に使用した用具に瑕疵があったとして、国家賠償法1条1項又は2条1項に基づき、損害賠償を請求している事案です。

原告は、A高校の第一学年に在籍し、部活動として野球部に所属していました。

乙川教諭は、A高校の保健体育科の教諭であり、A高校の野球部の監督をしていました。

平成6年11月2日、原告は、A高校のグラウンドで行われた野球部の練習に参加し、乙川教諭は、グラウンド内において、原告ら部員に対し練習を指導していました。

野球部員が集合して準備運動やキャッチボール等の練習をした後、午後4時すぎから、乙川教諭の指示によりフリーバッティングの練習が開始されました。

A高校の野球部で行われていたフリーバッティングの練習方法は、通常、三か所のバッティングゲージを設置し、それぞれのゲージの前に、バッティング側から見て、左側に投手、中央に直球用マシン、右側に力ーブ用マシンを設置し、マシンにはそれぞれマシンにボールを入れる部員を配置し、投手とマシン二台から順にボールを投げ、それぞれ正面のバッティングケージに立った三人の打者が打ち、内、外野のそれぞれのポジションに一人から数人配置した守備係が飛んできた打球を受けるというものでした。

このような形式のフリーバッティング練習は、ごく一般的なものです。

フリーバッティング練習の開始に先立ち、いつものとおり、原告を含む一年生の部員によりマシンや防球ネットが設置され、本件ネットAと本件ネットBが設置された。

「ネットA」は約3メートル四方の鉄枠とポリエステル60本を束ねて作った約3センチメートル四方の多数の網目とでできたものであり、「ネットB」は縦約1.75メートル、横約1.5メートルの鉄枠と同様に多数の網目とでできたものですが、中央にマシンのボールを出すための穴(縦約1.05メートル、横約0.3メートル)が開けられていました。

ネットAは、主として他のマシン等により打撃練習をしている打者の打球を防ぐためのものであり、ネットBは、正面の打球、すなわち自分が操作しているマシンの打撃練習をしている打者の打球を防ぐためのものでした。

原告は、バックネット側から見て右側のマシンにボールを入れる係を担当していました。

もう一台の中央のマシンでは、本件事故当時、A高校二年生であり、3番バッターであった左打ちの丙田がバッティング練習をしており、乙川教諭がその打撃フォームの指導をしていました。

そして、フリーバッティングの練習が開始されてまもなく、丙田の打ったボールが、本件ネットAの中央の斜め上付近の損傷していた箇所を通過した上、本件ネットBの中央の穴が開いた部分を通り、原告の操作していたマシンに当たり、それが跳ね返って原告の左眼に当たりました。

なお、原告は、屈んでマシンに入れる次のボールを取り上げていたため、丙田が打った瞬間は見ておらず、顔を上げたときには丙田の打球が左眼に当たる直前であり、その打球を避けることができませんでした。

なお、当時、A高校にはネットAは10台ほどあり、普段グラウンドの隅に置かれており、フリーバッティングの練習をする際に、部員がその中から4台をもってきて所定の位置に設置していましたが、ネットAは、他の部活動や体育の授業でも利用されており、また生徒がもたれたりするために、損傷箇所のあるものもあり、中には穴が開いて野球のボールが通過する危険なものもありましたが、部員は、フリーバッティングの際には10台の中から損傷箇所の少ないものを選んで設置していました。

当日も、原告は、本件ネットAにボールが通過しかねないほどの損傷箇所があることは認識していましたが、偶然そこから打球が飛んでくることはないという意識があり、特に危険であるとは思っていませんでした。

また、ネットの補修については、乙川教諭の実家が漁師であることから、主としてそこから送ってもらった漁業用の紐を使っていました。

そして、毎年7月末に一、二年生による新チームが結成されたときに、全部員によりネットの補修をしていましたが、それ以降は、冬のシーズンオフにまとめて補修をするまで、野球部のマネージャーの生徒がたまに補修をする程度であり、部員が補修をすることはありませんでした。

また、乙川教諭も、たまにネット等の用具類の点検を部員に指示することはありましたが、特に厳しく指導をすることはなく、本件事故当日も、特に指導はしませんでした。

裁判所の判断

被告の損害賠償責任について

裁判所は、

「A高校の野球部は、教育課程外の部活動であるが、学校教育の一環として行われるものである以上、その実施について、指導教諭は生徒である野球部員を指導監督し、事故の発生を防止すべき注意義務があるというべきである。」

と顧問教諭に注意義務があることを示したうえで、

「本件で行われたように2台のマシンを使って二人の打者が打撃練習をするフリーバッティングの方法は、ごく一般的であり、問題とすべき練習方法ではないが、そもそもマシンの操作係は、危険な打球に対しては防球ネットに身を隠すことが予定されているのであり、損傷箇所のある防球ネットを使用した場合はマシンの操作係の生命身体に対する危険性が極めて高いのであるから、指導教諭としては、自ら防球ネットの損傷の有無を確認するか、あるいは部員に対し絶えず確認し損傷がある場合には必要な補修をするように指導すべき義務があるというべきである。」

と本件における具体的な注意義務の内容を示しました。

そして、裁判所は

「乙川教諭は、たまにネット等の用具、類の点検を部員に指示することはあったが、特に厳しく指導をすることはなく、本件事故当日も、特に指導はしておらず、自らも損傷の有無を確認していなかったこと、部員は、フリーバッティングの練習に際しては、適宜損傷箇所の少ないものを選んで使用していたが、乙川教諭は、そのことを知らず、防球ネットの安全性に対する注意を怠っていたこと、防球ネットには耐久年数があるのに、乙川教諭は本件ネットAの購入時期等を把握していなかったことなど、前記認定の事実関係の下では、乙川教諭には安全配慮に欠ける点かあったというべきであり、乙川教諭の過失を認めることができる。」

と顧問教諭の過失を認め、

「そうすると、乙川教諭は被告の公務員であるから、被告は、国家賠償法1条1項に基づき、本件事故により原告が被った損害の賠償をすべき責任がある。」

と判断しました。

過失相殺について

他方で、裁判所は、

「原告が丙田の打球を注視していなかったことは前記認定のとおりであるが、フリーバッティング練習においては、隣りの打者の打球に対してはネットAで防ぐことができるようになっているのであり、本件ネットAに損傷がなく正しく設置されている限り、隣りの打者の打球がマシンの操作係に当たることはないのであるから、原告が丙田の打球を注視していなかったことをもって、原告に過失があるということはできない。」

としたものの

「他方、原告は、本件ネットAにボールか通過しかねないほどの損傷箇所があることを認識していながら、偶然そこを打球が通過することはないという意識から特に危険であるとは思わずに使用したことは、前記認定のとおりであるところ、原告は、既に高校生であり、フリーバッティングにおいて損傷箇所のある防球ネットを使用することの危険性は十分に認識し得たはずであるから、原告にも本件事故を招来した過失があるというべきである。」

とし、

「本件損害賠償額を算定するに当たっては、5割の過失相殺をするのが相当である。」

と判断しました。

使用する道具の点検は常に行うべき

私が高校野球部に入部していた際、担当の部員が、練習に使用する防球ネットなどのひもが切れていないかを確認し、破れている箇所を発見した際には補修するということを、毎日行っていました。

この経験からすると、本件では半年ほどほとんど補修することがなかったということには大変驚きましたし、本件のような事故が発生しても不思議ではないと思いました。

裁判所の判断は至極当然のことだと思います。

他方で、部員自身もそのことに気づいておきながら、「偶然そこを打球が通過することはない」と考えていたというのもまた注意が足りなかったと思います。

道具は選手の生命や身体を守るためのものです。

その道具が壊れているのであれば当然補修するべきです。

常に点検を心掛け、壊れている状態のまま使用し続けるのは、生命や身体への危険が日に日に増しているということを自覚するべきだと思います。

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