高校の野球部先輩から暴力を伴ういじめを受けたため野球部を退部し高校を退学した事案

2018.12.06 パワハラ・セクハラ

神戸地方裁判所平成25年11月7日判決

事案の概要

本件は、当時高校生であった原告が、野球部の先輩で、寮の同じ部屋で生活する被告から、長期間連日のように暴力を伴う陰湿ないじめ行為を受けた結果、学校生活及び寮生活に耐えきれず、野球部を退部し、高校を退学せざるを得なかったなどとして、被告に対し、不法行為(民法709条)による損害賠償を求めた事案です。

裁判所の判断

裁判所が認定した内容

裁判所が認定した事実は、以下のとおりです。

  • 原告は、平成22年4月に本件高校のスポーツ芸術コースに入学した。被告は、当時、本件高校の2年生であった。
  • 原告と被告は、ともに本件高校の野球部に所属し、野球部の他、サッカー部、卓球部等の部員も入る寮の本件部屋で一緒に生活していた。
  • 当時、野球部で入寮していたのは、3年生4名、2年生2名及び1年生4名で、うち2年生は、被告及びFであり、1年生は、原告、G、H及びIで、原告と被告が同室、FとGが同室、HとIが同室であった。
  • 平成22年4月9日ころ、本件寮で新入生の歓迎会が行われた。歓迎会の中で、3年生が1年生に対して質問し、該当する1年生が挙手するというゲームが行われた。原告は、事前に被告とFとが「俺らの時は全部手を挙げたよな」と話しているのを聞いて、全部手を挙げなければいけないと思い、全部の質問について挙手した。質問の中で、「先輩をウザイと思ったことがある人」との質問があり、原告だけが挙手したため、3年生が「誰かに手を挙げるように言われたのか」と聞くと、原告は「Dさん(被告)に言われました」と答えた。歓迎会の後、本件部屋に戻り、被告が原告に「俺がそんなん言ったか」と聞き、原告が「Dさんなら大丈夫だと思った」と答えたところ、被告は、壁を殴ったり、物に当たり散らすなどした。その後、被告とFは、Fの部屋に、原告を含む野球部の1年生全員を呼び出し、原告らに、15分ほど正座させた。
  • 被告は、歓迎会後も、挨拶ができていないとか、野球部の準備に不足があったとか、整理整頓ができていないとか、点呼に遅刻したにもかかわらず、遅刻していないと言うなどのことがあると、Fと一緒に、ほぼ3日に1回の割合で、本件部屋やFの部屋において、原告を含む野球部の1年生4人を、正座させた。
  • 被告は、時に、本件部屋で、原告だけを正座させることがあった。その際、被告は、「何で先輩に挨拶せんかったんや」などといい、原告が黙っていると、原告の肩やみぞおちを多数回蹴るなどした。
  • 原告は、同月21日、母親に「寮に迎えに来てほしい。しんどい」と電話して、母親とともにQ市の実家に帰省し、母親に学校に行きたくないと訴え、翌22日、学校を欠席した。原告の母親が、同月23日、本件高校の野球部の顧問であるJに電話し、膝が悪いので原告に正座させないで欲しいと伝えたため、Jは、野球部全体及び寮生全員に対し、正座による指導はやめるよう注意した。原告は、同月24日に、母に連れられ寮に戻った。被告は、その際、原告に対し「俺が先生に怒られた」「何でチクッとん」と言った。
  • 5月以降、原告は、被告から正座をさせられることはなくなったが、原告が先輩に対して決まった挨拶をしなかったこと、部屋の掃除ができていないこと、野球部で禁止されている言葉遣いをしたこと、キャッチボールで被告が要求する場所に原告が球を投げなかったことなどを理由に、週に数度の割合で、肩、みぞおち等を殴る蹴るの暴行を加えた。また、被告が原告の頭をオロナミンCの瓶の底で数回こづくこともあった。
  • 同年5月ころ、原告は、被告に命じられ、全裸で、本件寮の廊下を端から端まで、1往復走らされた。
  • 同年6月以降、原告は、被告から、被告が舌打ちをしたら「すみません」と言うよう言われ、言わないとみぞおちや肩を数発殴られるということがしばしばあった。
  • 原告は、同月13日、野球部の練習が休みだったので実家に帰省し、母親に「学校をやめたい」と言った。原告の母親は、翌14日、原告を学校に連れて行った後、原告のクラス担任であるKに電話し、原告が学校を嫌だと言っている趣旨のことを伝えた。Kは、同日、休み時間に原告を呼び出し、学校の廊下で、10分から15分程度話をした。原告は、その際、Kに対し、「学校がしんどい。寮生活がしんどい」、「寮に入ってすぐに同室の被告から正座させられたり、殴られたりしている」などと言った。Kは、「辛かったやろうな」「先生から野球部の先生に伝えておく」と言ったところ、原告は、「イジメがひどくなるから、言わないでほしい」と泣きながら言った。
  • その後、Kは、野球部の顧問であるJに連絡し、Jに対し、原告と二人で話をしたこと、原告が部活動の練習も先輩達も厳しく学校生活がつらいと言っていたことなどを伝えるとともに、原告本人は顧問であるJに話してほしくないと言っていたので、自分からそういう話を聞いたということは言わないでほしいと伝えた。Kは、同月16日、原告の母親に対し、電話で、原告は、原告がKに学校生活が辛い旨言ったことを野球部の顧問の先生には伝えないで欲しいと言っていたが、野球部のJ先生には伝えておいた旨連絡した。
  • 原告は、6月、寮生であるサッカー部2年生のUに命じられ、本件部屋のドア近くから、本件部屋にいた被告をからかうような言葉をかけたところ、被告が怒って廊下まで追いかけ、その際、廊下にあったパイプで顔を打ちつけて転倒した。Uは、原告に「お見舞いです」と言って消臭剤を渡すように命じたため、原告は、洗面所の鏡で顔の打ちつけた部分を見ていた被告に対し、「お見舞いです」と言って消臭剤を渡した。被告は、怒って洗面所にあった洗濯ブラシを原告に投げつけたところ、原告の後頭部にあたり、出血した。被告は、慌ててそばにいた下級生に保冷剤を取りに行かせるとともに、原告を本件部屋に入れて部屋の鍵を閉め、ごめんと謝罪するとともに、原告に対し、先生には絶対言うなよと口止めした。
  • 原告は、同年7月1日の野球部の練習が終わった午後8時ころから11時にかけて、被告から殴る蹴るなどの暴行を受けた。この時に受けたけがのアザは、同月29日に原告がRクリニックを受診した時まで残っており、原告は、同日、同クリニックで、左上腕打撲挫傷との診断を受けた。
  • 原告は、同年7月ころ、本件部屋の収納棚に乗っていた芳香剤を誤って落としてしまった。
  • 部屋の異臭に気づいた被告は、原告に「落としたか」と聞いたところ、原告は「落としてない」と答えた。被告がしつこく追及したところ、最終的に原告が「落とした」と答えたため、被告は、原告が嘘をついていたとして立腹し、原告に手拳で殴ったり、蹴ったりした。
  • 原告は、同月9日、朝の点呼に遅刻した。原告は、同日、被告から「ミスしたことを言ってみろ」と言われたが、怒られるのを恐れて本当のことを伝えなかった。夜になって、原告は、被告に問い詰められて、本当は点呼に遅刻したことを言うと、嘘をついたとして被告から顔を多数回殴られた。その結果、翌10日には、原告の顔は腫れてしまった(原告は、同日、携帯電話で自らの顔を写真に撮った)。
  • 原告は、同月16日ころ、被告から言われ、本件部屋で腹筋をさせられた。被告は、「上がりが少ない」などと言って、原告の腹を殴った。原告は、被告に対し、「腰が痛いからやめて下さい」などと言うと、被告は、プロレス技のキャメルクラッチを原告にかけた。その後、このようなことは何度かあった。
  • 原告は、同月16日ころから同月24日ころにかけて、数回にわたって、HとIが同室する部屋や本件部屋で、被告から、服を脱げ、四つん這いになれなどと言われ、言うとおりにすると、後ろからお尻の穴などにエアーサロンパスをかけられた。
  • 原告は、同年7月16日ころから同月24日ころにかけて、野球部の練習後、本件寮の隣の小体育館でティーバッティングの自主練習中に、球出しの場所が悪いといって、被告から木製バットで頭を多数回こづかれた。これにより、原告は頭にたんこぶが重なり、血が出たこともあった。
  • 原告は、同年7月ころ、被告の風呂上がりのストレッチを手伝っていたところ、被告から1分間を計るよう言われ、計った時間が1分間から少しでも短いと、被告に怒られ、複数回、みぞおちや肩などを殴られた。このようなことは数回あった。
  • 被告は、原告に無断で、原告所有の電動眉毛剃り機を使用したことがあった。
  • 原告は、同月25日、野球部の遠征からの帰りの車内で、母親に「学校をやめたい。」と言い、寮に戻らずに実家に帰った。それ以降、原告が寮に戻ることはなかった。
  • 原告の母親は、同月27日、奈良県に出張していたJに電話し、原告がいじめられており、寮には絶対に帰らないと言っていると伝えたところ、Jは、夜学校に帰ったら、Dに言っておく旨述べた。
  • 同日、原告と原告の母親、野球部監督のVの3人で面談した。原告の母親は、原告が学校に戻りたくない原因は被告のいじめであると説明した。Vは、事実確認して被告を指導する旨述べるとともに、寮の部屋を変えることを検討する旨述べた。Vは、同月28日、原告の母親に電話で連絡し、「部屋を変えるのは無理である。」旨伝えた。
  • 同月29日、V、J及び原告の3人で面談した。原告は、学校生活に復帰できる環境をつくるので寮に戻ってくるよう説得され、その場で、一旦は学校に戻る旨返事した。しかし、原告は、同日、翻意して、原告の母親に対し、「いやだ。行きたくない。足が震える。力が抜ける」と言い、心療内科と外科を受診した。
  • 同年8月1日、原告及び原告の母親は、本件高校の会議室においてJと面談し、原告が被告から受けたいじめについて伝えた。被告は、同日、本件高校の会議室において、Jの立ち会いのもと、原告に対し、謝罪をした。
  • 被告は、同年7月28日から同年8月7日まで野球部練習禁止処分を、翌同月8日から同月22日まで無期限自宅謹慎処分をそれぞれ受けた。
  • 原告は、平成23年1月に本件高校を辞め、その後、別の高校に転学した。

裁判所が認定した根拠

被告は、原告に洗濯ブラシを投げつけたこと、芳香剤の件で1回殴ったこと以外の行為をした事実を否認し、本人尋問においても、その旨供述しました。

これに対し、裁判所は

  • 原告本人尋問の結果中上記の認定に沿う部分は、被告による暴行のいきさつ、暴行の態様等について、具体的で、かつ、実際に経験した者でなければ供述できないような迫真的な内容を含んでおり、Rクリニックの医師作成に係る診断書等によっても裏付けられ、証人K、同Jの各証言とも矛盾せず、全体として信用できるものである。
  • 他方、被告の上記供述は、具体的な暴力行為に関する質問に対し、分からない、覚えていないなどと、あいまいな部分が多く、例えば、本件高校側の事情聴取の際に、腹筋はトレーニングとしてよく原告と二人でしていたと述べていたが、本人尋問では、腹筋のトレーニングを本件部屋で原告と二人ですることはなかったと述べるなど、一貫性に欠ける部分があるばかりか、1年生の野球部員が、本件高校側の事情聴取に際して、被告がエアーサロンパスを手に取って原告のズボンの中に突っ込んでシュッと吹きかけるところを見たと述べているが、この供述の信用性に疑いを生じさせるような事情はうかがえないところ、被告は、本人尋問において、原告のズボンの中にエアーサロンパスを突っ込んで吹きかけたことはない旨上記供述と矛盾することを述べるなどしているもので、このことに、被告の供述する程度の行為で原告が学校や寮に戻れない状態となるとはにわかに考え難いこと(原告が学校や寮に戻れなくなったことが上記認定に係る被告の行為以外の事情によるものであることをうかがわせるような証拠は見当たらない。)、被告が供述する程度の行為は、被告が本件高校から受け被告も受け入れた上記認定の処分内容とも整合しにくいこと等を考え併せると、被告の上記供述は、全体として信用性は乏しいといわざるをえない。

とした上で、

「被告本人尋問の結果中、上記の認定に反する部分は直ちに採用し難く、他に上記の認定を覆すに足りる証拠はない。」

として、原告が主張するいじめの内容が真実であると認定しました。

不法行為の成否について

その上で、裁判所は

「被告は、原告が入学した直後から、本件高校の寮内において、原告に対し、長期間にわたり、上記認定に係る一部傷害を伴う暴力行為に及んだものであり、その執拗、かつ、原告の人格をないがしろにするような態様等に照らすと、原告は、これにより、学校生活及び寮生活に耐えられなくなり、野球部の退部を余儀なくされ、本件高校を辞め、転学せざるを得なくなったものというべきである。」

として、

「被告の原告に対する上記暴力行為は、原告に対する不法行為を構成し、被告は、原告に対する上記不法行為により原告が被った損害を賠償する責任を負うものというべきである。」

と判断しました。

いじめが認定されるために必要な証拠とは

いじめの被害を受けた被害者が加害者に対して損害賠償請求をする場合、いじめを受けたことを主張・立証する必要があります。

その前提として、被害者は「いつ、どのような言動があったか」という事実を主張する必要があります。

そのような事実があったことを加害者が認める場合には、その事実に関する立証をする必要はありません。

他方で、加害者が、被害者の主張するような言動はなかったという場合、被害者の方で、実際にそのような言動があったことを立証する必要があります。

これが、被害者にとってハードルが高いことは理解できます。

しかし、それが民事訴訟のルールである以上、そのルールに従って立証活動を行わなければ、いじめの被害を受けたことが裁判所に認められることはありません。

したがって、加害者による言動が実際にあったことを立証するための証拠が必要になります。

では、どのような証拠が必要になるでしょうか。

この点の理解を深めるためには、民事裁判における証拠の種類と必要性についてを参考にしていただければと思います。

まず、加害者から被害者に対して渡された手紙やメールなどは、その記載内容からいじめがあったことを証明できる場合には証拠になります。

また、暴行を受けたことによりけがをしたという場合には、そのけがの状況を撮影した写真も証拠になります。

ただし、写真については、例えば練習中にけがをすることもありますので、いじめを受けたことそのものの証拠とはいえないケースもありますので、注意が必要です。

さらに、いじめを受けていた際に加害者の発した言葉を録音したという場合でも、その録音データは証拠になります。

なお、録音に関しては、相手に無断で会話を録音した場合は違法?証拠になる?を参考にしていただければと思います。

ただし、録音データに関しては、録音されたもの以外の加害者の発した言葉についても証拠になるわけではありません。

その意味では、過去に遡っていじめがあったことを立証することはできないことになります。

では、証拠として何が重要になってくるでしょうか。

私の結論は、当事者である被害者本人が証拠だということです。

本件でも、裁判所は

「原告本人尋問の結果中上記の認定に沿う部分は、被告による暴行のいきさつ、暴行の態様等について、具体的で、かつ、実際に経験した者でなければ供述できないような迫真的な内容を含んでおり、Rクリニックの医師作成に係る診断書等によっても裏付けられ、証人K、同Jの各証言とも矛盾せず、全体として信用できるものである。」

と判示した一方で、

「被告本人尋問の結果中、上記の認定に反する部分は直ちに採用し難く、他に上記の認定を覆すに足りる証拠はない。」

と判示しています。

つまり、書証や録音データなどの客観的な証拠がない場合はもちろん、証拠としてはあるもののそれがいじめの事実を立証するのに不十分であるという場合には、被害者本人による言葉が最も重要な証拠となるのです。

その意味では、いじめの事実を立証するための証拠集めをすることよりも、いじめの被害に遭った本人から、ゆっくりと時間をかけて聞き取っていくことの方が大事だと思います。

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