私立高校野球部で上級生からいじめを受け退学したことについて学校及び顧問の責任が問われた事例

2018.12.12 パワハラ・セクハラ・いじめ

大阪地方裁判所平成12年9月13日判決

事案の概要

本件は、被告学校法人が設置し経営する本件高校の野球部に所属していた原告が、本件野球部において、被告Yを含む上級生の野球部員から暴行を受けたり、使い走り等の雑用の命令を受けるなど、いわゆる「いじめ」を受けたことにより、精神疾患に陥り本件学校を退学することとなったと主張して、被告Yに対しては、いじめ行為を行ったことを理由として不法行為に基づき、被告学校法人及び被告学校法人の教師で本件野球部の監督であった被告Zに対しては、保護監督義務違反又は安全配慮義務違反を理由として債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案です。

原告は、平成8年4月に本件高校に入学し、本件野球部に入部しました。

入部当初は特に問題はありませんでしたが、平成8年6月ころから、以下のように、2年生から1年生に対する暴力行為が散見され始めました。

  1. 原告は、平成8年6月ころ、昼休みに更衣室において、2年生の甲山から、練習態度が悪いことを理由に、腹部や顔面を殴打された後、同更衣室において被告Yから、濡れたモップで顔面や腹部を4、5回押しつけるように叩かれました。
  2. 被告Yは、同年6月ころ、更衣室において、丁川以外の1年生を退室させた上、丁川に対し、練習態度が悪いということを理由に、その胸部を数回足蹴にしました。暴行を受けてよろめいた丁川は、更衣室内のロッカーに倒れかかり、ロッカーともども、床に倒れ落ちました。原告は、更衣室から退室する際に、この様子の一部を目撃しました。
  3. 原告は、同年7月ころ、被告Yに、昼休みにビニールテントに呼び出され、練習態度、殊に返事の仕方が悪いことを理由として、テント内で、腹部を4、5回殴打され、1、2回膝で蹴られました。さらにその後、原告は、被告Yに、バックネット裏にある監督用の控え室の建物(スーパーハウス)の裏に連れて行かれ、正座させられた上、顔面を7、8回殴打され、胸部を3、4回足蹴にされました。
  4. 被告Yは、本件暴行以外にも、練習中又は練習後に、原告に対し、頬を平手で張るなどの程度の軽い暴力を振るったことがありました。
  5. 被告Yは、同年9月ころ、寮内の部屋において、1年生の甲川に対して、態度が悪いということを理由に、胸部を数回蹴りつけ、その肋骨にひびを入らせるという傷害を負わせました。
  6. 同年9月11日の夕方の練習後、2年生が1年生に対して、腕立て伏せを200回行うように命令しました。命令を受けて1年生が腕立て伏せを行っていましたが、1年生の戊原は、途中で力尽き、腕立て伏せを継続できなくなりました。すると、2年生の丙田が、うつ伏せになって倒れている戊原の胸部や腹部を数回足蹴にしました。
  7. 原告は、同年5月か6月ころから頻繁に、被告Yやその他の2年生から頼まれて、授業の休憩時間や練習終了後などに、カップラーメン、パン、ジュースなどの買い物、食堂での昼食後の食器の返却等の後片づけ、スパイク・グローブの手入れなどの雑用を行いました。

被告Zは、同年9月、戊原から、丙田により暴行を受けた旨の申告を受けました。

その数日後、野球部の2年生と1年生をグラウンドに集めて、2年生と1年生から別々に集団で事情聴取し、1年生に対し、戊原以外に2年生から暴力を受けた者の有無を確かめたところ、丁川、丙山、甲川及び原告が、それぞれ、暴力を受けたことがある旨の申出をしました。

そこで、被告Zは、暴力を振るった2年生を注意するとともに、暴力を振るわれた1年生と握手させて謝罪させ、今後このようなことがないように注意しました。

また、戊原の申告により被告Yが甲川の肋骨にひびを入らせるという傷害を負わせたことを知った被告Zは、被告Yの父親に事情を説明し、甲川の親に謝罪をさせました。

そして、被告Yを含めて暴行を加えた2年生に反省文を書かせた上、1か月間ユニフォームの着用を禁じ、秋の公式戦への出場を禁止するという厳重な処分を与えました。

被告Zは、同年10月ころ、本件高校の食堂の職員から、原告が2年生から昼食の後片づけを強要されていることの報告を受けました。

そこで、被告Zは、報告を受けた当日、原告に対し、事実関係を確かめたところ、原告は、たまに用事を言われることもあるが頻繁ではないし、他の子もやっているので何とも思っていないと答えたため、原告に対して、今後後片づけを強要されることがあれば、明確に断るように注意し、また、自分に報告するように指示しました。

また、被告Zは、当日、2年生の丁野に対して、事実関係を確かめるとともに、今後、2年生が1年生に食事の後片づけをさせることがないようにと注意し、何かあれば、自分に報告するように指示するとともに、放課後、2年生と3年生を集合させ、自分のことは自分でするよう注意しました。

さらに、被告Zは、その後何度か昼食時に食堂の様子を観察に行き、また、食堂の職員に食堂での野球部員の様子を確認したところ、じゃんけんで負けた者が食器の後片づけをすることはあるが、以前のように特定の生徒に後片づけを要請している様子はないとのことでした。

原告は、平成9年1月ころから精神的に不安定となり、学校を休みがちになりました。

被告Zは、原告の父に連絡をとったところ、不登校の理由が分からないとのことでした。

そこで、被告Zは、同年1月17日ころ、原告方を訪れ、原告に対し、登校を促すとともに、野球部での悩み等について尋ねましたが、原告は、これに対して明確に回答せず、原告がその際「自分がいると皆に迷惑がかかる。」と言っていたこと、本件野球部内での原告の技術が相対的に低かったことから、被告Zは、本件高校の野球部での練習が厳しく、ついてこられないのではないかと考えました。

なお、このとき被告Zは、2年生による暴力の問題は、前年9月の措置により、その段階で既に解決済みになったと思っており、また原告がこの措置をとった際に暴力を受けたことがある旨の申出をしたことを明確に記憶していなかったこともあって、原告に対してはこのことを尋ねませんでしたし、原告も聞かれなかったので、このときには自分から被告Zに話すことはありませんでした。

原告の父は、同年1月中旬ころ、本件高校を訪れ、原告の担任教諭と面談し、原告が野球部での悩み等のため、体調が不良である旨告げました。

同年2月中旬、原告の父は、本件高校を訪れ、原告の不登校及び進級の問題について話し合いました。

その際、原告の父は、原告が野球部内で暴力を振るわれたり、雑用を命じられたりするため、精神的に影響が生じ、精神科に通院していることを告げるとともに、原告の2年生への進級を熱望しました。

原告は、被告学校法人の内規に定める進級に必要な出席日数を充たしておらず、本来なら進級することはできませんでしたが、被告学校法人は、原告の父が進級を熱望していること、原因はともかく原告が精神的な問題から登校できないこと、原告は2学期までの4回の定期考査のうち3回は受験しており、第3学期の見込点の算出は可能であること及びその他の教育的配慮の必要性等を総合的に判断して、原告の1年の3学期の欠席を公傷に基づく欠席(公欠)として扱い、2学年へと進級させることにしました。

原告の第2学年における退学するまでの出席日数は、授業日数129日中9日間でした。

被告学校法人は、欠席中の原告に対して、レポート課題を課しましたが、原告は、レポートを1度も提出しませんでした。

原告は、同年10月20日、大阪府立中宮病院において、不安神経症との診断を受け、同年10月31日をもって、本件高校を退学しました。

裁判所の判断

被告Yの違法な加害行為(いじめ行為)について

裁判所は、被告Yについて

「被告Yは、原告に対し、本件暴行を加えたものであり、その行為がいわゆる「いじめ」に該当するか否かはともかく、社会的相当性を逸脱した違法な行為であるから、被告Yは、原告が被告Yの不法行為によって被った損害を賠償すべき義務を負う。

もとより、高校の野球部等において上級生が下級生を指導する際、説諭・訓戒・叱責の意味を込めてある程度の有形力が行使される場合も見受けられるところであり、その多くは違法性を有することが多いとしても、有形力の行使は指導上必要な注意喚起行為ないし覚醒行為として機能し、適切な効果が期待できる場合もあるのであるから、そのすべてが直ちに無条件に違法となるわけではなく、その程度、目的等の具体的状況に照らして、社会的相当性を逸脱しないと認められる場合などは違法性を欠き、不法行為を構成しないと解すべきであるが、本件暴行の態様は、濡れたモップで顔面や腹部を4、5回押しつけるように叩いたり、顔面ないし腹部を数発殴打、足蹴にするというように、程度の強い執拗でかつ精神的屈辱を与えるもので行われるなど陰湿なもので、その目的も、客観的態様から見て適切で指導的な説諭・訓戒・叱責の意味を有するものとは認めがたいことからすれば、本件暴行は社会的相当性を明らかに逸脱した違法な行為と言わざるを得ない。」

として、不法行為に基づく損害賠償責任を認めました。

なお、原告は、

「本件暴行以外に雑用(上記7)の要請行為も不法行為に当たる」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「上下関係の礼節を重んじる体育会系の部活動などにおいて、下級生が上級生の要請に応じて雑用を行うことはまま見受けられないものではなく、上級生が下級生に対して雑用を要請することは、それが自由意思によって任意に受諾され履行される限り、直ちに違法ということはできない。

もっとも、要請する目的、要請される雑用の内容や要請方法、期間等に照らし、当該雑用の要請行為が社会的相当性を逸脱して被害生徒の心身に耐え難い精神的苦痛を与えるものであるような場合には、当該行為が違法と評価され得るというべきである」

としましたが、

「前記認定事実を前提としても、いまだ被告Yが原告に対して買い物等の雑用を要請した行為が原告に対する違法行為に該当するとまで評価することはできない。

そして、このことは、平成8年10月ころ、原告が被告Zから、本件高校の食堂で2年生から昼食の後片づけを強要されていることの事実確認をされた際にも、原告は、たまに用事を言われることもあるが頻繁ではないし、他の子もやっているので何とも思っていないと答え、雑用の要請行為について被告Zに訴え出ていないことによっても裏打ちされるし、その他、雑用の要請行為を違法と評価すべき事情の存在を認めるに足りる証拠はない。」

として、原告の主張を採用しませんでした。

被告学校法人及び被告Zの保護監督義務違反ないし安全配慮義務違反の有無について

裁判所は、

「私立学校の教職員は、教育基本法及び学校教育法等の法令並びに在学契約の趣旨、その職務内容・性質等に鑑み、学校における教育活動のみならず、課外のクラブ活動などこれと密接に関連する生活関係について、生徒によるいじめその他の加害行為から生徒を保護すべき義務があると解され、私立学校の教職員が保護監督義務を怠ったときは不法行為責任を負い、当該学校設置者は使用者責任による不法行為責任又は在学契約に基づく付随義務としての安全配慮義務違反による債務不履行責任を負うと解すべきである。」

としつつ、

「もっとも、本件のように、心身が相当程度発育し、是非弁別もわきまえた高校生の指導に当たっては、生徒1人1人の人格と自主性を尊重する必要もあり、教師による生徒の学校生活への過度の介入は必ずしも適当とはいえず、教師としても、生徒の自律を信頼し、期待し得べき状況にあるといえるのであって、より低年齢の生徒を指導する場合と比較して保護監督義務及び安全配慮義務の程度も相対的に低いというべきである。」

と指摘しました。

その上で、裁判所は、被告Zの保護監督義務違反及び被告学校法人の安全配慮義務違反について、まず平成8年9月ころの暴力行為発覚までに関し、

「被告Zは、本件野球部内の状況の把握に努めていたにもかかわらず、平成8年9月ころまで、甲川や丁川などから暴行の事実についての申告がなされず、本件高校においても、機会を設けて学校内の状況把握に努めていたが、特に目立った暴行事件が発生しておらず、その他、本件全証拠によっても、被告Zにおいて、本件野球部内での原告に対する暴力行為及びその他の嫌がらせ行為の存在に疑いをもってしかるべき事情があったとは認められないから、原告の本件野球部入部後から平成8年9月ころの暴力行為発覚までの間の被告Z及び被告学校法人の対応につき、保護監督義務違反及び安全配慮義務違反を認めることはできない。」

としました。

また、暴力行為発覚後については

「被告Zは、本件野球部員から上級生による暴行を受けたことの申告を受けて数日後には、2年生と1年生から別々に事情聴取を行って暴行の事実の有無を確認した上、2年生に注意を与えて被害を受けた1年生に謝罪させ、さらに、暴行を加えた2年生にユニフォームを着せず、公式試合の出場も禁止するなど、甲子園を目指して練習に取り組んでいる野球部員にとっては相当厳重な処分を与えて再発防止に努め、原告が2年生から昼食の後片づけを強要されているとの報告を受けた際にも、以後そのようなことがないよう2年生を指導し、また、原告が不登校がちになった際には、原告から個別的に事情聴取し、さらに家庭訪問をするなどして事案の解明及び改善に努めていたものであること、本件高校及び被告Zにおいて、種々の機会を捉えて学校内及び本件野球部内の状況の把握に努めていたところ、前記認定の暴行以外には特に目立った暴行事件は発覚していなかったこと、発覚した暴行も、肋骨にひびを入らせたもの以外は比較的程度が低く、偶発的なものであり、集団的、連続的に行われたものではなく、本件野球部内で一部の生徒に対する集中的な暴力行為の危険性が切迫していた状況にあったとは認められないことをも総合すれば、被告Zとしては、原告を含む本件野球部員の安全保護のために、当時予見可能な範囲内でなし得る相当な措置を講じたものと評価することができる。」

としました。

以上より、裁判所は、

「被告Z及び被告学校法人に保護監督義務違反及び安全配慮義務違反は認められず、被告Z及び被告学校法人に不法行為及び債務不履行は成立しない。」

と判断しました。

本件高校における取組について

本件高校では、いじめの問題について、生徒の人権問題として重要視し、その対処として、以下の施策を採っていました。

  1. 生徒に対し、学校内で問題と思われる点に気付いたときは、速やかに担任、その他の教師に報告するよう指導する。
  2. 各学級において、学級日誌を備え付け、生徒間で日替わりで担当する日直に、その日の出来事や連絡事項を記載させ、右記載から、いじめに限らず、何らかの問題となる情報が得られたときには、担任、学年主任及び生徒指導部長等の教師が事実を調査し、生徒を指導したり、保護者を呼び出し、注意を与える。
  3. 各学級において、毎週月曜日の一時間目にロングホームルームの時間を設け、生徒間で互いに人格、個性を尊重するよう指導し、いじめの防止を図っている。
  4. 各教師が、当番制で休み時間に校内を巡回し、生徒の言動を把握し、また、登校時や下校時に駅や校門において、生徒指導を行うなどして、問題行動の発見に努める。時には、電車通学者の言動を把握するため、下校時に教師が電車に乗車することもある。
  5. 寮生については、寮長、舎監、住み込みの教員が寮生の言動の把握に努め、また、教員の数名が寮生と同じ食堂で昼食を摂り、その言動に注意する。
  6. 入学式、始業式、終業式及び毎月一回開催される全校集会において、学校長が折に触れていじめ問題の重大性を説諭する。

この点を踏まえて、裁判所は、判決において「本件高校においても、機会を設けて学校内の状況把握に努めていた」として、「保護監督義務違反及び安全配慮義務違反を認めることはできない。」と判断したものと考えられます。

この方法がいじめ対策として万全であるといえるかどうかは定かではありませんが、少なくとも、学校として、いじめ問題を生徒の人権問題として重要視して取り組んでいるという点は評価されるべきであると思います。

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