高校の体育授業において行われたバスケットボールの試合中に同級生により顔面を蹴り上げられた事案についての学校法人の責任

2018.12.17 学校行事

鹿児島地方裁判所平成23年11月22日判決

事案の概要

原告と被告Y1は被告学校法人Y2が設置する私立Z高校に通う同級生であったところ、原告が、平成17年11月17日の体育授業において行われたバスケットボールの試合中に、被告Y1により顔面を蹴り上げられて脳脊髄液減少症等の傷害を負ったと主張し、また、被告学校法人Y2は生徒に対する監督を怠り本件事故の発生を防がなかったと主張して、被告らに対し、不法行為による損害賠償を求めた事案です。

原告及び被告Y1は、本件事故当時、Z高校1年3組に在学中でした。

Aは、被告学校法人Y2に雇用されていたZ高校の体育教諭であり本件授業の責任者でした。

また、Bは、平成16年4月から1年間、体育授業の教務サポーターとして被告学校法人Y2に雇用された後、Z高校体育助手として被告学校法人Y2に雇用され、本件事故当時も体育助手でした。

平成17年11月17日午後1時から午後1時50分まで本件授業が行われました。

これは原告及び被告Y1の属する1年3組と1組との合同授業であり、A、B及びC教諭が担当していました。

本件授業は、男子については、サッカーとバスケットボールのうち希望する競技を行うことになっており、原告と被告Y1はバスケットボールを選択しました。

なお、本件授業においては、体育の授業で使用するトレーナーの購入のための採寸も並行して行われていました。

午後1時15分頃から体育館において、Bも加わり、バスケットボールの試合形式での練習が始まりました。

一方、Aは体育教官室においてトレーナー購入の事務手続きをしており、Cはサッカーの指導に当たっていたため、いずれも本件事故の際には体育館にいませんでした。

また、本件事故の数分前から、Bは女子生徒からのトレーナー採寸の相談を受けるためバスケットボールの試合から離れてコートの外にいました。

コートから出る際、Bはバスケットボールを行っている生徒らに対し、コートから出る旨を告げました。

Bが練習から離れた後の午後1時40分頃、被告Y1の右足が原告の顔面に当たり、原告は傷害を負いました。

本件事故後、被告Y1はBに対し、「つい、かっとなって」などと故意に蹴ったことを認めるような発言をし、それを受けてBは被告Y1に正座を命じました。

また、本件授業後、被告Y1は友人であるE及びFに対して、「かっとなった」あるいは「ラフプレイがうざいので」などと、故意に蹴った旨の発言をしていました。

原告は、本件事故によって、歯牙脱臼(3本)、歯槽骨骨折(歯3本分)、歯牙破折(1本)及び頸椎捻挫等の傷害を負い、脳脊髄液減少症、外傷性頸性神経痛症候群に罹患しました。

原告は、本件事故によって生じた傷害の治療のため、入通院しましたが、その間、脳脊髄液減少症の治療として、5回にわたりブラッドパッチ手術が施行されました。

原告は、平成19年9月22日、脳脊髄液減少症による長時間の起立保持不能、体力低下、倦怠感、頭痛及び記銘力障害を残し、症状が固定しました。

原告は、平成20年4月、鹿児島県から、外傷による両下肢の機能障害(6級)に該当するとの認定を受けました。

なお、本件事故について、被告Y1は平成20年3月24日に傷害罪で起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けました。

この刑事手続における被告人質問において、被告Y1は、ねらった所はともかく、少なくとも故意に原告を蹴ったことは認めました。

裁判所の判断

Y1の不法行為責任について

裁判所は、

「本件事故で生じた傷害は重いものであり、たまたま原告の口唇部と被告Y1の右足が当たった結果生じたものとは考え難く、被告Y1が故意に原告の顔面を蹴った結果生じたと考えるのが自然である。」

として、

「被告Y1が原告を故意に蹴ったと認めるのが相当である。」

と判断しました。

これに対し、被告Y1は、

「原告とボールを奪い合う際にボールに向けて右足を振り回した結果、倒れかかってきた原告の口唇部に右足がぶつかって本件事故が生じた」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「被告Y1の上記供述は、試合を止めるために、目をつぶりながらボールをコートの外に蹴り出そうとしてボールを蹴ったところ、たまたま原告にぶつかったというものであり、そもそもバスケットボールの試合でボールを蹴ろうとすること自体通常考えられない上、ボールをコートの外に出すためだけなら、原告が受けたような重い傷害を生じさせるほどの力をこめる必要は認められないし、目をつぶりながらというのもはなはだ不自然であり、容易に採用することはできない。」

「また、被告Y1は、一番近くで本件事故を目撃したEが横に足を振るような態様で足を振った高さは太ももぐらいと述べていることを指摘するが、Eは被告Y1が原告を蹴ったということ自体は認めている上、その供述内容は、原告の頭は被告Y1の腰より低い位置にあり、被告Y1が足を振り上げた高さは太ももぐらいというのであるし、現に被告Y1の足が原告の顔面に当たっているのであるから、被告Y1が足を振り上げた高さは、丁度、原告の頭のあった高さといえ、被告Y1が原告の顔面を蹴ったという上記認定を左右するものではない。」

として、被告Y1の主張を排斥しました。

以上より、裁判所は、被告Y1の原告に対する不法行為に基づく損害賠償責任を認めました。

被告学校法人Y2の安全配慮義務違反について

まず、裁判所は、以下の事実を認定しました。

  • 本件事故当時のZ高校の1年生の体育の授業における指導は、授業の開始に当たって、具体的な注意がなされていた訳ではなく、多くの場合、怪我のないようにという程度の注意がされた後に、生徒がそれぞれ試合形式の練習に進むというものであった。
  • 原告は体育の授業において、バスケットボールに一生懸命になるあまり、荒っぽいプレーに出ることが多く、本件授業においても同様であった。そして、本件事故当時、Bはそのことを認識していた。
  • 他方、被告Y1は本件事故の数箇月前にトイレのベニヤ板の壁を殴って壊す事件を起こしており、Bは本件事故当時そのことを知っていた。

その上で、原告が主張した被告学校法人Y2の安全配慮義務違反について、以下のとおり判断しました。

授業計画に不備があり、事前指導も怠っていた点について

裁判所は、

  • バスケットボールがそれ自体特に危険の大きいスポーツであることの立証はなく、かえって、小学校の体育の授業にも取り入れられているスポーツであることからみても、その危険性は必ずしも大きいとはいえない。原告は、身体的接触の多さなどから、暴行に及びやすいなどと主張するが、抽象的でかつ飛躍があり、採用できない。
  • 体育の時間中の怪我に注意しなければならないこと、荒っぽいプレーが危険であることは高校1年生にとっては容易に認識できることからすると、原告が指摘するような高校1年生という年代の特徴(感情制御の困難)が仮に認められるとしても、本件事故のように重大な結果が生じる事故の発生を予見して、授業の都度、具体的な注意を与えなければならない注意義務があるとまではいい難い。
  • Z高校の体育の授業においては、授業の開始に当たり、怪我をすることのないようにという注意はなされていたのであるから、事前指導に欠けていたとまでいうことはできない。
  • 原告の主張中、危険の予見の程度に応じて学校に要求されるべき対応の程度が設定されるということ自体は否定されるものではないが、上記のとおりバスケットボールの危険性に関する原告の主張は採用の限りではない。

として、被告学校法人Y2の授業計画に不備があったとはいえず、事前指導を怠っていたともいえないと判断しました。

また、原告は、トレーナーの採寸が並行して行われていた点を指摘しましたが、裁判所は

「バスケットボールの試合にはBが立ち会うこととされていたのであるから、トレーナー採寸を並行して行うことで何らかの事故が発生する危険が増すと考えるべき根拠はないと解される」

として、原告の主張を排斥しました。

さらに、原告は、

「教員資格のないBに本件授業におけるバスケットボールへの立ち会いを委ねていたことも注意義務違反である」

と主張しましたが、裁判所は

「Bは1年間の体育教務サポーターの経験を積んだ上で体育助手を務めており、上記認定のバスケットボールの危険性の程度も考慮すると、このことによってバスケットボールの試合における安全確保に特段の問題が生ずるとまでは解されず、この点に関する原告の主張も採用できない。」

として原告の主張を排斥しました。

試合中に適切な指導を怠った点について

裁判所は

  • Bは、原告が荒っぽいプレーに出ることが多いことや、被告Y1がトイレの壁を損壊した件を認識していたものであるが、これらの事実から直ちに、原告のプレーをきっかけに被告Y1が本件事故のような重大な結果が生じる暴行に及ぶことを予見することは困難と解され、さらに、これまでの授業において本件事故のような暴行事件が起きていないこと、また、本件事故までに原告と被告Y1との間で特段の諍いの存在が認められず、被告Y1が他人に対する暴行に及んだことがあったともうかがえないことに鑑みると、本件事故の前に原告がある程度荒っぽいプレーに出ていたとしても、あえて試合を止めて注意を与えるまでの注意義務がBにあったとは認めることができず、Bが試合中に適切な指導を怠ったともいえない。
  • また、バスケットボール自体特段危険なスポーツとはいえないこと、上記のとおり被告Y1が重大な結果が生じる暴行に及ぶことを予見することが困難であることに照らすと、その時点で暴行の発生等を予見するに足りる特段の事情のない限り、Bがトレーナー採寸についての相談を受けるため数分程度コートの外に出たことも安全配慮義務違反に当たるといえない。

として、Bが試合中に適切な指導を怠ったともいえないと判断しました。

これに対し、原告は

「Bが審判兼選手として試合に関与していたために、生徒らに対する十分な監視が行えなかった」

と主張しましたが、裁判所は、

「Bは、審判を主とし、選手としてはパス回し程度のプレーしかしていなかったと認められ、また、危険が生じるのは主としてボールを扱っているプレーヤー周辺と解されることに照らすと、審判兼選手として試合に関与したからといって、生徒らに対する監視がおろそかになるとは必ずしもいえない」

として、原告の主張を排斥しました。

また、原告は、

「被告Y1がBに対して原告の荒っぽいプレーについての不満を示しており、本件事故の前にも被告Y1は顔を赤くし、不満を小言で漏らすなどの苛立ちの徴候を示していた」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「被告Y1本人尋問の結果によっても、被告Y1が不満を伝えたのは『しっかりと話したことはないんですけど、笑いながら話したりはしてましたね』などという程度のものであるから、仮に、このような事実があったとしても、被告Y1が重大な結果につながる暴行に及ぶことをBにおいて予見することは極めて困難といえ、Bに試合を止めて原告に注意を与える注意義務が生じていたとはいえない。さらに、本件事故前の被告Y1の態度について、証人Dの証言には原告の上記主張に沿う部分があるが、仮にそうした事実があったとしても、そのことから被告Y1が重大な結果につながる暴行に及ぶことをBが予見できたとはいえず、Bに試合を止めて原告に注意を与えるべき注意義務が生じるものとはいい難い。」

として、原告の主張を排斥しました。

被告学校法人Y2の注意義務違反と本件暴行及び傷害結果との因果関係について

被告学校法人Y2の注意義務違反が認められない以上、原告の被告学校法人Y2に対する損害賠償請求は認められないはずですが、裁判所は、仮に被告学校法人Y2に注意義務違反が認められるとした場合、その注意義務違反と結果との因果関係についても判断しました。

授業計画の不備及び事前指導の不備と傷害結果との因果関係

裁判所は

「仮に、Aが実際に行った指導に加えて原告主張のような安全に対する指導をし、あるいは被告学校法人Y2においてトレーナーの採寸とを並行させず、Aがバスケットボールの試合に立ち会ったとしても、原告又は被告Y1に対しどの程度自制を促す効果があったかは明らかでなく、これらによって直ちに原告が荒っぽいプレーをやめ、被告Y1が本件暴行に及ぶことがなかったとまではいえない。」

として、

「そうすると、原告の主張する授業計画の不備及び事前指導の不備と傷害結果との因果関係は認められない。」

と判断しました。

試合中に適切な指導を怠ったことと傷害結果との因果関係

また、裁判所は

「仮に、バスケットボールの試合中にBが原告の荒っぽいプレーに対して注意を与えていたとしても、原告がバスケットボールの試合に一生懸命に取り組むあまり、再度このようなプレーをした可能性は否定できず、また、原告がある程度自制していたとしても、被告Y1が激高し、原告に対する暴行に及び傷害結果が生じた可能性は否定できないから、試合中に指導をしなかったことと傷害の結果との因果関係は認められない。」

「Bが試合を離れコートの外に出たことで生徒に対する抑止力が低下したと認めるに足りる証拠もないから、Bが試合から離れたことと傷害結果との因果関係も認められない。」

「証人Dは、Bが試合を止めていれば本件事故が避けられた可能性があると述べるが、回顧的な願望の域を出るものではなく、上記結論を左右するものではないし、Bが試合から離れて雰囲気が軽く緩んだ旨も述べるが、具体性を欠き、同証人の意見の域を出るものではない。」

として、やはり因果関係を否定しました。

故意による不法行為を未然に防止するための安全配慮義務

本件では、私立高校の教諭における安全配慮義務違反はないと判断されました。

部活動や体育の授業における事故に関して、顧問教諭や体育教諭が負っている安全配慮義務は、スポーツや当該競技において通常発生することが予想される事故を想定した上で、その事故を未然に防ぐためにいかなる方法を採るべきであったかが念頭に置かれます。

逆にいうと、スポーツや当該競技に通常は想定し得ない事故が発生した場合には、予見可能性がないために安全配慮義務は負わないとの判断されることとなります。

本件では、体育の授業において、同級生が故意に暴行を加えてけがを負わせることまで予測することはできないとして、担当教諭の安全配慮義務はないものと判断されたことになります。

もっとも、例えば、原告と被告Y1とが非常に仲が悪く、日頃から衝突を繰り返していたというような場合には、たとえ体育の授業であったとしても、被告Y1が原告に対して粗暴な言動をとることは十分に予測できることから(逆も同様)、そのようなケースでは担当教諭に安全配慮義務違反が認められる余地があるものと考えられます。

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