公立高校ボクシング部の高校生が練習中に倒れ硬膜下出血により死亡した事例

2018.11.04 スポーツ中の事故

札幌地方裁判所平成9年7月17日判決

事案の概要

本件は、北海道A高校のボクシング部に所属していたXが、平成5年2月5日、同部での練習中に倒れ、同月8日、硬膜下出血により死亡した事故につき、Xの両親である原告らが、同校の設置者である被告北海道に対し、国家賠償法1条に基づいて、損害賠償を請求した事案です。

Xは、平成4年4月、A高校に入学し、同校ボクシング部に所属していました。

平成5年2月5日、A高校ボクシング部の練習は、午後2時25分ころから同校格技場において、当時三年生のY及びXを含む部員5名とマネージャー1名とで開始されました。

顧問のB教諭は、午後2時30分ころから職員会議に出席するため、同部の部長である生徒にスパーリング(グローブを着け実戦形式で打ち合う練習方法)をする際には呼びにくるよう指示して職員室へ行きました。

それから午後3時15分ころまで、各部員は、ランニング等の準備運動の後、縄跳びやシャドーボクシング(一人で相手を想定しながら攻撃や防御を行う練習方法)を行いました。

午後3時20分ころ、職員室から戻ったB教諭の立会いのもと、スパーリングの練習を開始しました。

Xはスパーリングには参加せず見学していました。

午後3時40分ころから、XとYはマスボクシング(グローブを着け、二人一組で互いに一定の距離を保ち、実際にパンチを当てずに、タイミングをはかりながら攻撃や防御を繰り返す練習方法)を開始した。

マスボクシングは、従来より他の部員及びマネージャーがロープを手に持って立ち、仮装のリングを作るという方法で行われていたが、このときも同様の方法で行われました。

なお、このときB教諭はそのロープ内でレフェリー役を務めており、B教諭と、X及びYとの距離は、約2メートルでした。

XとYとは大きく離れても1メートル程度の互いに手を出せば当たる距離内におり、いずれもマウスピースを着けていましたが、ヘッドギアは着けていない状態でマスボクシングを行いました。

ところが、マスボクシングを開始してから約1分後、Xは腰を後ろに引く形で、床に膝をつき、前方にかがむように倒れました。

倒れてから約25分後、Xは救急車で病院に搬送されそのまま入院しましたが、3日後である平成5年2月8日午後4時39分、硬膜下出血により死亡しました。

裁判所の判断

本件事故の態様について

本件では、まず、本件の事故がどのようにして起こったのかが問題となりました。

この点について、裁判所は

  • マスボクシングにおいても繰り出したパンチが練習相手に当たることは従前からあったこと
  • 本件ボクシング練習においても、YとXとの距離は離れたときでさえせいぜい1メートル程度であって、繰り出したパンチが相手に当たる程度の距離であったこと
  • Xは一年生で入学前にボクシングの経験がなく平成4年5月21日からボクシング練習を始めたばかりであり、しかも本件事故前の平成5年1月22日から同月末日までは体調不良のためボクシング練習をしておらず、同年2月1日から軽い練習を再開したばかりであったのに対し、Yは三年生でインターハイや国体出場経験を有し、全国の高校で5位の成績を収めたことがあるのであって、その技量はXのそれを相当上回るものであったこと

などの事実を認定し、さらに

「一般的にマスボクシングは相手があって互いに相手の動きを見ながらパンチを出すものである以上、当てるつもりはなくとも相手が自分の予測と違った動き方をすればパンチが当たってしまうことがあるのは経験則上あり得ることと考えられる。」

として、

「Yの繰り出すスピードのあるパンチに未熟かつ練習不足のXが対応できず、頭部又は顔面に当たった事実が推認できるというべきである。」

としました。

B教諭の過失について

まず、裁判所は

「公立学校の教師は、その職務上生徒に対し教育活動を行うに当たり、教育活動によって生じる危険から生徒を保護すべき注意義務が課せられているというべきであり、この義務に違反すれば設置者たる国又は地方公共団体は、国家賠償法1条の責任を負うというべきである。」

との一般的な注意義務の内容を示したうえで、

「そもそもボクシング競技は、グローブをはめた手で相手の顔面及び上半身という身体の枢要部を殴って、一時的ダメージを与える等して勝敗を競うスポーツであり、殴打された者が死亡したり極めて重症の障害を負うに至ることもままあるものであって、各種スポーツの中でもその危険性は他に比類するものがない程高いものであることは、公知の事実である。

このような極めて危険性の高いスポーツを高校教育の一環である部活動において行う場合には、これを指導監督する者は、極めて高度の注意義務を負うものであって、一般的な練習方法の策定実施において注意すべきはもちろんのこと、具体的な練習のケースにおいて、そのケースに即した指示ないしアドバイスを発する等して、ボクシングに伴う重大な事故を招来しないようにする注意義務を負っているというべきである。

また、繰り出すパンチのスピード、これを見分ける動体視力、そしてこれに従ってパンチを回避する運動能力等において、上級者とそうでない者とは隔絶の差があることも公知の事実であるから、上級者とそうでない者とが互いにパンチの当たる可能性のあるボクシング練習をする際には、より一層の注意義務が要求されているというべきである。」

との具体的な注意義務の内容を示しました。

その上で、本件について

「Xは、相手方と打ち合うという本格的な練習を始めてから日が浅く、技術的に極めて未熟な初心者であり、しかも本件ボクシング練習日の数日前までの10日間にわたりボクシング練習を休んでいたのみならず、本件ボクシング練習の行われた当時も体調不十分であったのであり、B教諭も本件事故の2日前に提出された参加同意書にただし書がついていること等から、当然に認識できたはずである。」

「一方、Xの本件ボクシング練習相手となったYは、相当高度の技術を持ち、高校生としては上級のレベルにある者であり、両者の間には隔絶の技量差があったというべきである。

したがって、以上のような状況の下では、指導担当者としては右のような技量差等のある者同士がパンチの当たる可能性のあるマスボクシング練習を行うことを避けるか、行うにしても少なくとも技量的体調的に劣るXにヘッドギアを装着させたり、Yに対して絶対にパンチを当てることのないように改めて注意する等して、ボクシングにおいて生じがちな重大な事故を未然に防止する高度の注意義務があったというべきである。」

「ところが、B教諭は、右のような注意義務を怠り、Xにヘッドギアを装着させることなく、しかもYに対し特別な注意を与えることなく漫然と本件ボクシング練習を開始し、そのためYをしてXが技術的に未熟であり体調が不十分であるから絶対にボクシングパンチを当ててはならないとの意識を十分に醸成することがなく、その結果本件事故を招来させたというべきである。」

として

「B教諭には国家賠償法1条1項にいう、職務を行うについての過失があったと認められる。」

と判断しました。

B教諭とX死亡との因果関係について

そして、裁判所は

「XとYとの間の本件ボクシング練習を行わなければ、あるいは、ボクシング練習を行ったとしても、Yに対しXにパンチが当たらないように指示を徹底すれば、本件事故は回避できたということができるし、また、本件事故後のXの脳は、右大脳半球が非常に腫脹して中央構造物を右から左へ押し、右大脳半球の表面に出血が認められるという状態にあったのであり、これは、通常のむち打ちが起こる程度の力よりも強い外力が加わったことによるものと推定されるから、少なくともXが頭部等を保護するための防具であるヘッドギアを装着していれば、右外力による頭部等に対する衝撃が、ヘッドギアに吸収されることによって緩和され、死亡という重大な結果を回避できたと認められる。」

として

「B教諭の過失とXの死亡との間には因果関係があるといえる。」

と判断しました。

控訴審判決

控訴審である札幌高裁は、平成10年2月24日判決において、指導者にはヘッドギアを装着させる義務はないとして、指導者の注意義務を怠った過失を否定しました。

Contact

お問合わせ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-9367

受付 9:30~18:00 (月〜金)
定休日 土日祝

フォームでのお問い合わせはこちら

Contact Us

Top