県立高校体育祭における騎馬戦での落馬事故により重篤な後遺症が残った事例

2018.10.18 学校行事

福岡地方裁判所平成27年3月3日判決

事案の概要

本件は、福岡県立A高等学校の生徒であった原告が、平成15年9月7日の体育祭の騎馬戦において落馬して負傷し第7頸椎以下完全麻痺の後遺障害を負ったのは、被告の安全配慮義務違反及び同校の校長らの過失によるものであると主張して、被告に対し、安全配慮義務違反又は国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を請求した事案です。

事故状況について説明します。

原告が騎手を務める騎馬と、相手方の騎馬は互いに接近し、騎手同士が組み合いました。

試合が進むにつれ、原告は自分の騎馬が劣勢であると感じ、落ちないように相手の騎手の胴にしがみついて引き分けに持ち込もうとし、双方の騎手の頭部が馬の腰部より高い位置にあり双方の騎馬がともに本件敗北条件を満たしていない状態で膠着状態に陥りました。

その後、原告及び相手の騎手は、審判員が待機していない方向に落下したため、審判員は原告を受け止めることができず、原告は肩、首及び頭を地面で強打しました。

裁判所の判断

騎馬戦について

まず、裁判所は、本件における同行の校長や指導担当教諭らの過失の内容や程度を示すに当たって、次のように判示しました。

「そもそも騎馬戦とは、通常3名が手を組んで馬を作り、その上に1名の騎手が乗って1騎の騎馬を構成し、一定の勝敗条件の下で他の騎馬と優劣を競う競技である。勝敗条件としては、騎手が身につけた帽子若しくは鉢巻を取られ又は風船を割られた側を負けとするもののほか、騎手が落馬し又は騎馬が崩れた側を負けとするものが考えられる。

いずれの型の勝敗条件を採用するにせよ、複数名の人間が組むそれ自体安定した体勢とはいい難い騎馬が、少なくとも2騎、騎手同士互いに手の届く範囲で攻防を繰り広げる以上、馬の接触、騎手の落馬、騎馬の崩壊等の危険が生じうることは容易に想定できる。中でも後者の型は、騎手の落馬又は騎馬の崩落といった事態を生じさせることを競技の目標とするものであるから、このような危険の発生が当然に予定されているものといわざるを得ない。

ここで、本件敗北条件をみるに、騎馬が崩れたときという条件はもちろんのこと、騎手の頭部が馬の腰部を下回ったときという条件も、それが充足されたときの騎手の体勢は、正常であれば馬が組む手に乗る騎手の脚部が位置する高さであるところの馬の腰部よりも騎手自身の頭部が低くなるというものであって、騎手の落馬に直結する可能性が極めて高いから、本件騎馬戦は、騎馬の崩壊又は騎手の落馬といった事態の発生が当然に予定される後者の型に属するものというべきである。

加えて、騎馬戦は、例えばサッカー、野球及びバスケットボール等のスポーツと異なり、学校教育における通常の授業の種目として取り入れられることはまずなく、年に二度の運動会や体育祭の本番又はそれに向けた練習で経験するか否かという頻度でしか行われない競技であるから、生徒が騎馬戦に習熟しているといった事態は通常想定し難い。現に、A高校においてこれを上回る頻度で騎馬戦を実施していたといった事実は、何ら主張立証されていない。

このように、本件騎馬戦は、本件敗北条件のために騎手の落馬や騎馬の崩落といった事態が発生する蓋然性が極めて高度であったにも関わらず、実際に落下する生徒の側において騎馬戦におけるこのような事態に対処する経験をさほど積んでいないという性質の競技であったといえ、かつ、こうした事情は、体育祭における騎馬戦の実施を決定し、また本件敗北条件を含むルールを設定した指導担当教諭らにおいて当然に認識し得たものである。

したがって、本件騎馬戦の実施に当たっての本件義務の内容及び程度は、このような本件騎馬戦の性質を踏まえて検討するべきものである。」

騎馬戦の実施に当たっての本件義務の内容及び程度について

その上で、裁判所は、

「上記の本件騎馬戦の性質、とりわけ騎手が落下する高度の蓋然性を有していることを踏まえれば、本件騎馬戦を体育祭で実施するに当たり、騎手の落下に起因して生徒の生命身体の安全が害される事態を防止するために、校長及び指導担当教諭らが果たすべきであった本件義務には、少なくとも以下の内容が含まれる。」

として、以下の内容を示しました。

生徒に対し、騎馬戦の危険性及び安全確保の手段を指導する義務

騎手が落下する蓋然性が極めて高い競技であることを生徒に周知するとともに、競技中は騎手同士が互いの体に手を掛けて組み合っており、そのままでは手を地面につく等の危険回避行動が取れないことから、落馬時には必ず互いに手を放して、危険回避行動に移るべきことを繰り返し指導する。

生徒に十分な事前練習、とりわけ落下時の危険回避行動の練習をさせる義務

授業等の時間を用いて、騎馬戦に参加する全ての生徒に、事前に十分な練習をさせる。

特に、騎手が落下した際に危険回避行動を取れるよう、落ち方につき段階を踏んで入念な練習をさせるべきである。

具体的には、最初は畳やマットの上等転落時の危険が相対的に小さい場所で騎馬を組ませ、1騎の状態で騎手が転落時に取るべき行動を反復練習させる。次に、2騎を組ませた状態から、転落時に騎手が互いに手を放して危険回避行動を取る、その一連の動作を反復練習させる。騎手が危険回避行動に慣れるに従い、場所をグラウンドに移し、あるいは実戦形式を取り入れるなど、実際の体育祭に近い環境で練習させる、といった方法が考えられる。

本件騎馬戦の審判員を務める教員に対し、危険防止措置を取って生徒の負傷を防止できるよう指導、訓練する義務

審判員を危険防止措置が取れるよう配置し、また生徒に受傷の危険が発生した場合には審判員をして危険防止措置を取らせる義務

本件敗北条件の下で実施される騎馬戦における騎手が落下する態様としては、騎馬の崩落に伴う下方向への落下と、騎馬の形が維持された状態であっても、騎手が互いに相手の頭部を馬の腰部より下に下げようともみ合う過程でバランスを崩すことによる左右いずれかの方向への落下が想定される。そして、騎手は、足場が不安定な状態で、馬から落ちないよう相手から掛かる力に抵抗して反対の方向に力を入れる上、馬は、騎手の落下を避けかつ騎馬が崩れないように、騎手の動きに合わせるため力ずくで体勢を変化させるから、それらの力の均衡が崩れれば、騎手がもみ合っていた側とは反対の方向に急に落下することも十分に考えられる。

したがって、審判員が危険防止措置を取ることにより騎手の落下に伴う危険から生徒を守ろうとする場合には、そもそも騎手が落馬するおそれの低い段階で勝敗を決し対戦を止めるか、又はこのように急激な落下方向の変化が生じた場合にも生徒を受け止められるよう、対戦する騎馬1組に対し複数の審判員を配置することが求められていたというべきである。

校長及び指導担当教諭らの義務違反について

以上を前提に、校長及び指導担当教諭らの義務違反について、以下のとおり判示しました。

「本件騎馬戦に先立ち、参加する生徒全員に対してA高校が実施した練習又は説明は、9月4日の講習会及び同月5日の予行演習のみであった。講習会においては、G教諭が代表の生徒に騎馬を組ませて騎馬戦のルールや危険性の説明を行ったものの、原告を含む大半の生徒は騎馬を組むこともなく、また実戦形式の練習は行われなかった。また、予行演習においても、移動の仕方や審判の配置、判定位置等の確認こそ行われたものの、実戦形式での演習は行われなかった。

この程度の説明ないし練習の機会では、本件騎馬戦に参加する生徒、とりわけ騎手を務める生徒が、転落の危険を正しく認識し、かつそれに対処する能力を身につけるのに十分でないことは明らかであって、校長及び指導担当教諭らは、生徒に対して安全確保の手段を指導し、かつ生徒に十分な事前練習をさせる義務に違反したものである。」

「また、本件騎馬戦においては組み合う2騎の騎馬に対し1名の割合で審判員が配置されていたが、1名では、騎馬同士がもみ合うなかで騎手の落下する方向が急に変化し、審判員が予測した側とは反対の方向に落下した場合に騎手を受け止めることができないから、危険防止措置を取り得るよう複数の審判員を配置する義務に違反している。」

被告の主張に対する裁判所の判断

以上に対し、被告は、

「高校生である生徒には騎馬戦における騎手転落の危険性の認識及び相当程度の危険回避能力があり、それを前提とすれば本件義務の履行としては被告が実施した練習及び説明で十分であった」

と主張しました。

これに対し、裁判所は、

「しかしながら、高校生が一般に落下の際の頭頸部受傷の危険性及び落下時に手をつく等により危険回避できることを認識しているとしても、騎手は落下する直前まで相手の騎手と組み合っており、しかも自分が先に落下しないよう相手の騎手から最後まで手を離さないでおこうとする傾向の強い騎馬戦の競技中、落下までの僅かな時間で相手から手を放して危険回避行動に移る能力を有しているとまではいえない。」

と判示しました。

また、被告は、

「本件騎馬戦のルールを大将落としから一騎打ちに変更し、殴る蹴る等の暴力行為を禁止し、かつ騎手にはラグビーのヘッドキャップの着用を義務付けることで本件義務を果たした」

と主張しましたが、裁判所は

「しかしながら、当該ルールの変更により、3騎以上の騎馬が入り乱れることにより生じる危険を低下させることができても、2騎の騎馬が互いに相手の騎手の体勢を崩そうと組み合うことにより騎手が落下する危険性は変わらない。また、騎手や馬に暴力行為を禁じても、本件敗北条件の下では、騎手同士が体勢を崩すためにつかみ合う以上、騎手が落下する危険性は何ら減少しない。さらに、ラグビーのヘッドキャップは、その構造上、頭頂部、こめかみ、額及び耳の周辺を保護する機能を有するものではあるが、騎手が頭から落下した場合に頚部に掛かる負荷を著しく減らすものではないから、ヘッドキャップの着用義務付けによって騎手が落下する危険に対処する義務を履行したとは到底評価できない。」

と判断しました。

小括

裁判所は、以上のような事実認定を行った上で、

「本件事故は、校長及び指導担当教諭らにおいて、事前に生徒に騎馬戦の危険性及び転落時に取るべき安全確保の手段を指導し、かつ十分な練習をさせる義務に違反し、更に本件騎馬戦に当たり、騎手が落下する方向が急激に変化したとしても審判員が危険防止措置を取ることができるように、対戦する騎馬1組に対し複数の審判員を配置する義務に違反したことにより発生したというべきである。」

と判断しました。

過失相殺について

被告は、

「原告がテニスやスキーの経験者であって相当の危険回避能力を有していたにもかかわらず、本件事故時に相手の騎手から手を放して地面に手をつく等の危険回避行動をとっていないことを踏まえて一定の過失相殺をするべきである」

と主張しましたが、この点について裁判所は

「しかしながら、本件敗北条件の下で行われる騎馬戦は、そのルール上、騎手に対して、審判員に敗北と判定されるか規定の時間が経過しない限りは、相手の騎手と組み合い続けざるを得ないものである。また、原告が本件騎馬戦以前に騎馬戦を経験した機会は、A高校の1年生及び2年生の頃の体育祭に限られていて、しかもそのいずれにおいても馬を務めていたので騎手を務めたのは本件騎馬戦が初めてであった。加えて、前記認定のとおり校長及び指導担当教諭らが、原告を含む生徒に対し、落馬時に危険回避行動を取る練習を特段行わせていなかったことを踏まえれば、原告が本件騎馬戦において落馬時に適切な回避行動を取らなかったとしても、それを原告の落ち度として過失相殺を行うことは失当というべきである。」

と判断して、過失相殺を認めませんでした。

運動会・体育祭での安全対策について学校関係者に言いたいこと

運動会や体育祭での事故には、組体操だけでなく、本件のような騎馬戦を含め、他の種目でも起こっています。

共通しているのが、その結果が非常に深刻な事態であるということです。

本件における被害者は高校生で第7頚椎以下完全麻痺という、労働能力喪失率100%の後遺症が残りました。

これからの人生をどのように過ごしていくことになるのかを考えると、言葉を失ってしまいます。

運動会や体育祭も学校行事として必要なのでしょう。

しかし、学校関係者には、決して対岸の火事だと考えるのではなく、本件のような事故が起き、被害者に甚大な被害を与えているという現実を直視していただきたいと思います。

そして、学校関係者が児童・生徒の生命・身体の安全を守るためにとるべき安全対策とは何なのか、真剣に考えていただきたいと切に願っています。

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