市立中学校の体育祭競技のむかで競争の練習中に生徒が転倒し負傷した事故

2018.11.01 学校行事

神戸地方裁判所平成12年3月1日判決

事案の概要

本件は、市立A中学校に在学していた原告が、体育祭競技のむかで競争練習中に転倒負傷したのは、指導教諭に指導上の落ち度があったためであるとして、被告(自治体)に対して、国家賠償法1条1項に基づき、その損害の賠償を請求した事案です。

A中学校では、平成6年9月18日に体育祭が行われ、そのクラス対抗競技の一つとして、むかで競争が行われる予定でした。

むかで競争は、学級の男子生徒、女子生徒で各一組になり、リレーする方式で、最初に男子組が約40から50メートルの距離にある折り返し点に向かって走り、同折り返し点を回って出発点に戻ったところで、女子組がスタートして折り返し点までを往復してゴールとなり、その速さで勝敗を決める競技でした。

体育祭競技の中で得点の高い競技であり、各学級とも体育祭前から早朝、放課後に練習をしていました。

むかで競争は、原告の学級では38人の生徒が男女別に約20人一組のむかでを組み、先頭の生徒の片足(例えば左足)を次位の生徒の片足(左足)と日本手ぬぐいで繋ぎ止め、次位の生徒は前位の生徒と結んだ足(左足)と反対側の足(右足)を後位の生徒の片足(右足)と繋ぎ止め、以下同様に、先頭から順に片足ずつが交互に繋ぎ止める型でむかで状態となり、足を揃えて駆け足で走るものです。

むかで競争では、足が揃わないと転倒したりして、擦過傷や捻挫などの傷害を負う生徒がいました。

A中学校では、体育祭の早朝練習には担任か副担任が立ち会うことと体育祭の練習期間が決められていましたが、むかで競争の練習方法については格別の申し合わせ等はありませんでした。

原告にむかで競争練習の指導をした学級担任のB教諭は、平成6年9月5日から体育祭の早朝練習を始めました。

生徒達は一年次にもむかで競争を経験しているので、競技ルールの説明のほかは、

  • ふざけてしないこと
  • 足を揃えるためにかけ声を出すこと
  • 体を密着させること

の注意がなされました。

B教諭は、練習初日には、最初に足を繋ぎ止めてむかで状態での足踏み、歩行から始めた後、実際の競技と同様に駆け足の練習を実施し、走破タイムから目標タイムを設定して、目標タイムを切ることを目標に何度か走らせ、徐々に目標タイムを速くしていく方法で練習し、翌日以降も目標タイムを設定しての練習を行いました。

原告は、平成6年9月6日、むかで競争の早朝練習で、むかでの女子の組が転倒し、同級生のCが負傷した際の転倒で、前の生徒の上に倒れないにように左側に避けたために左尻から尻餅をつく形で倒れ、倒れた原告の上に、後位の生徒たちが覆い被さって倒れてきました。

原告は、本件事故により、腰椎椎間板ヘルニアの傷害を負い、平成6年9月12日から平成10年6月22日に症状固定の診断を受けるまで断続的に通院しました。

その間、原告は、平成7年4月5日から同年6月4日まで、同年7月5日から同年8月25日まで、平成8年7月9日から同月29日までの3回、合計134日(約4か月半)間入院治療し、平成8年7月11日に椎間板摘出術の手術を受けました。

裁判所の判断

裁判所は、本件のむかで競争事故に関する被告の過失について

「本件のような20人近くの集団でもって走る早さを競うむかで競争は、足が揃わず転倒するおそれがあり、転倒に至れば転倒した生徒に他生徒が将棋倒し様に倒れかかるなどして、生徒が負傷する危険が容易に予測でき、むかで競争競技の実施自体に危険が伴うものである。その危険性にかんがみると、むかで競争の練習を指導するについては、なによりも競技の危険性に配慮して、勝敗よりも安全確保に留意し、歩行から駆け足へと段階的に十二分に練習を積んだ後に、競技形式と同様の練習に移行すべきであり、目標タイムを設定しての競技形式と同様の練習は、生徒が競技に十分習熟した練習日程の最終段階において行うべき義務があるというべきである。」

とした上で、

「A中学校においては、平成6年の体育祭の早朝練習には担任か副担任が立ち会うことは実行されていたが、むかで競争の具体的な練習方法について、安全に配慮して段階的に練習することの申し合わせや指導がなされていないこと、B教諭は、原告を含めたクラスの生徒に対し、足踏み、歩行、駆け足の順に実技練習させているが、安全に関しては、ふざけてしないこと、かけ声を出して足を揃えること、体を密着することの注意をした程度で、負傷をしないように速度を抑えることや、当初はゆっくり走らせる工夫や注意をすることなく、練習初期の段階から目標タイムを設定し、実際の競技と同様になるべく速く走らせる方法によって練習を実施指導していたものであり、B教諭には、むかで競争の危険性を配慮した練習方法をとるべき注意義務を尽くさなかった過失があるというべきである。」

と判断しました。

また、被告が

「市内の他の中学校においては、むかで競争が実施されており、むかで競争自体が危険な種目でない」

と主張し、B教諭も

「A中学校以外でもむかで競争が実施されており、危険であるとの認識を有していなかった」

と証言しましたが、裁判所は

「本件のようなむかで競争は危険性が存する競技であると認められ、危険な競技でないとの認識自体が学校管理者や指導担当教諭の安全配慮不足の基因とはなりえても、B教諭の過失を否定する論拠とならないことは明らかである。」

と被告の主張やB教諭の証言を排斥しました。

学校関係者の安全に対する配慮の欠如

むかで競争は、生徒の足を日本手ぬぐいやタオルで結んで固定した上で、全員が呼吸を合わせて、可能な限り早く前進する集団競技です。

したがって、少しでも生徒間の呼吸が乱れてしまうと、足が固定されているために自由が効かず、多数の生徒が倒れ込むことになります。

また、可能な限り早くしようと走るように前進することが考えられるため、転倒した際の衝撃はより強くなると考えられます。

しかも、転倒した場合には後続の生徒が覆い被さるように倒れてくることになり、相当な圧力を受けることになります。

このことを考えると、重傷を負うケースも当然に予想できます。

このことからすると、学校関係者は、むかで競争の指導にあたり、事故が発生しないように可能な限りの最善の注意を尽くすべきであるといえるでしょう。

ところが、本件では、むかで競争の具体的な練習方法について、安全に配慮して段階的に練習することの申し合わせや指導がなされておらず、また担任教諭も練習初日から目標タイムを設定して、そのタイムをクリアするまで複数回に渡り練習を繰り返させました。

その結果、生徒の一人が転倒してしまい、その生徒に倒れかからないようにした原告に後続の生徒たちが覆い被さって重傷を負うこととなりました。

このような事故が発生することは容易に想像できることです。

しかし、被告(自治体)や担任教諭は「他の学校でも実施されているから、むかで競争は危険ではない」と主張しました。

裁判所はこれを「むかで競争は危険な競技でないとの認識自体が学校管理者や指導担当教諭の安全配慮不足の基因」と断罪しました。

運動会や体育祭では事故の危険がある競技が多く行われています。

しかし、学校関係者は「他の学校でも実施されているから危険ではない」と考えて、児童や生徒にその競技をやらせているのかもしれません。

運動会や体育祭で事故が頻発している根本的な原因は、このような「学校関係者の誤った認識」にあるのではないかと思えてなりません。

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