サッカーの社会人リーグにおける試合中に左脛部を蹴られたことにより重傷を負った事例

2018.10.16 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成28年12月26日判決

事案の概要

本件は、サッカーの社会人リーグにおける試合中、原告が、相手チームに所属する被告から左脛部を蹴られたことにより、左下腿脛骨骨折、左下腿腓骨骨折の傷害を負ったと主張し、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案です。

サッカーの試合中に選手同士が接触してけがをするということはよくあることだと思います。

それが実際の裁判で争われたということに興味を持つ方も多くいらっしゃることでしょう。

そこで、事故の具体的な状況について説明したいと思います。

原告は、相手チームが2点先行している状況下で、後半の途中から出場しました。

本件事故の直前、相手チームの選手が原告所属の味方チーム陣内でフリーキックを行い、キーパーが弾いたこぼれ球を、味方チームの選手が、自陣右サイド奥から自陣右サイド前方へと蹴り出しました。

その時点で、味方チーム陣内でフリーキックが行われたために両チームのほとんどの選手が味方チーム陣内にいたことから、味方チームがボールを保持した場合には、カウンター攻撃を狙って相手チーム陣内に攻め込もうという戦況にありました。

自陣前方中央付近にいた原告は、右サイドに移動してボールに追いついて右太腿でボールをトラップし、自身の体よりも1メートルほど前方にボールを落とすと、バウンドして膝の辺りの高さまで浮いたボールを左足で蹴ろうとして、軸足である右足を横向きにして踏み込み、左足を振り上げました。

他方、被告は、カウンター攻撃を阻むべく、原告の方に走り込んでくると、その勢いを維持したまま、左膝を真っ直ぐに伸ばし、膝の辺りの高さまでつま先を振り上げるように突き出して、足の裏側を原告の下腿部の方に向ける体勢になりました。

ボールは原告の左足が触れるよりもわずかに早く被告の左足の左側面付近に当たってはじき出されたものの、被告が左足の裏側を原告の下腿部の方に向けて突き出していたため、振り上げた原告の左脛部がちょうど被告が伸ばした左足の裏側に入り込む位置関係になり、原告はその左脛部で被告の左足のスパイクシューズの裏側を勢いよく蹴り上げ、反対に、被告はその左足のスパイクシューズの裏側で原告の左脛部を下方に向けて勢いよく蹴りつけることになりました。

その結果、原告が左脛部に装着していたレガースが割れて脛骨及び腓骨が折れ、原告の左脛部がつま先側に湾曲するほどの力が加わりました。

本件事故により原告はその場に倒れ込み、試合は一時中断されましたが、本件行為に対して審判によるファウル判定、警告及び退場処分はなく、原告がフィールド外に運び出されると、ドロップボールにより試合が再開されました。

裁判所の判断

被告の故意または過失の有無について

まず、原告が

「原告は、本件行為の時点では原告がボールをコントロールしている状況にあったことに加えて、被告が、体を投げ出し、足の裏側を向けるなど、原告の安全性を顧みていないことや、ボールをミートしにいっていないことなどから、本件行為は、故意に原告の左足を狙った行為である」

と主張したのに対し、裁判所は

「しかしながら、ボールは原告の前方1メートルほど離れた位置に落下しており、必ずしも原告がボールをコントロールしていたといえる状況にはないし、ミートはしていないながらも被告がボールに触れて弾き出していることに加えて、審判がファウルの判定すらしていないことなどから客観的に考察すれば、被告がボールに対して挑んだのではなく、故意に原告の左足を狙って本件行為に及んだとまで断定することはできない。」

と判断して、被告が故意つまりわざと原告の左足を狙ったとは認められないと判断しました。

他方で、裁判所は

「もっとも、被告が原告のところまで走り込んでいった時点では、原告が先にボールに追いついてトラップし、次の動作に入ろうとしている状況にあった上に、原告が左足を振り上げる動作と、被告が左足を伸ばす動作とがほぼ同時に開始されていることからすると、被告は、トラップして手前に落ちたボールを原告が蹴り出そうと足を振り上げることは当然認識、予見していたはずである。

それにもかかわらず、被告は、走り込んで来た勢いを維持しながら、膝の辺りの高さまでつま先を振り上げるようにして、足の裏側を原告の下腿部の位置する方に向けて突き出しているのであって、そのような行為に及べば、具体的な接触部位や傷害の程度についてはともかく、スパイクシューズを履いている自身の足の裏が、ボールを蹴ろうとする原告の左足に接触し、原告に何らかの傷害を負わせることは十分に予見できたというべきである。

そうであれば、無理をして足を出すべきかどうかを見計らい、原告との接触を回避することも十分可能であったというべきであって、少なくとも被告に過失があったことは明らかである。」

として、被告の過失を認めました。

本件行為の違法性が阻却されるか

被告は、

「サッカーは競技者同士の身体的接触による危険を包含しており、競技中に被害者が受傷した場合であっても、加害者に故意又は重大な過失によりルールに反したと認められるような特段の事情がない限り、被害者も当該危険を受忍したものといえ、違法性を欠く」

と主張しました。

これに対して、裁判所は、

「確かに、サッカーは、ボールを蹴るなどして相手陣内まで運び、相手ゴールを奪った得点数を競うという競技であるから、試合中に、相手チームの選手との間で足を使ってボールを取り合うプレーも想定されているのであり、スパイクシューズを履いた足同士が接触し、これにより負傷する危険性が内在するものである。

そうであれば、サッカーの試合に出場する者は、このような危険を一定程度は引き受けた上で試合に出場しているということができるから、たとえ故意又は過失により相手チームの選手に負傷させる行為をしたとしても、そのような行為は、社会的相当性の範囲内の行為として違法性が否定される余地があるというべきである。

そして、社会的相当性の範囲内の行為か否かについては、当該加害行為の態様、方法が競技規則に照らして相当なものであったかどうかという点のみならず、競技において通常生じうる負傷の範囲にとどまるものであるかどうか、加害者の過失の程度などの諸要素を総合考慮して判断すべきである。」

との判断基準を示しました。

そして、裁判所は、サッカー競技規則12条(ファウルと不正行為)で

  1. 競技者が、不用意に、無謀に、又は過剰な力で、相手競技者を蹴り、若しくは蹴ろうとする、相手競技者に飛びかかる、相手競技者をチャージするなどしたと主審が判断した場合、直接フリーキックが相手チームに与えられる。
  2. 競技者が、著しく不正なファウルプレーや乱暴な行為をした場合は、懲戒の罰則として、退場を命じられる。

とされていることを引用した上で、

「被告による本件行為には、本件事故時点において主審によりファウルや反則行為との判定はされていないことから、これを当時に遡って競技規則に違反する行為であったということはできない。本件事故時のようなプレーの局面で、被告の立場に置かれた選手が足を出してボールに触れようとすること自体は、相手選手にかわされる危険を伴うために戦術として不利になりうることはあっても、これが競技規則上想定されていない行為とまでいうことはできない。

しかしながら、被告は、原告がボールを蹴るために足を振り上げるであろうことを認識、予見していたにも関わらず、走ってきた勢いを維持しながら、膝の辺りの高さまで左足を振り上げるようにして、左足の裏側を原告の下腿部の位置する方に向ける行為に及んでおり、このような行為が原告に傷害を負わせる危険性の高い行為であることに疑いはない。

左下腿脛骨及び腓骨の骨折という重篤な結果が生じていることからしても、被告の本件行為は、原告が足を振り上げる力の方向とは反対方向に相当強い力を加えるものであったと推察される。

そうすると、そもそも本件行為のような態様で強引にボールに挑む必要があったのか否か甚だ疑問であり、競技規則12条に規定されている反則行為のうち、不用意、すなわち注意、配慮又は慎重さを欠いた状態で相手競技者を蹴る行為であるとか、相手競技者に飛びかかる行為であると判定され、あるいは著しく不正なファウルプレー、すなわちボールに挑むときに相手方競技者に対して過剰な力を加えたものであると判定され、退場処分が科されるということも考えられる行為であったと評価できる。

そして、原告は、左下腿脛骨及び腓骨という下腿部の枢要部分を骨折した上に、入院手術及びその後長期間にわたるリハビリ通院を要するほどの傷害を負っているのであり、相手競技者と足が接触することによって、打撲や擦過傷などを負うことは通常ありえても、骨折により入院手術を余儀なくされるような傷害を負うことは、常識的に考えて、競技中に通常生じうる傷害結果とは到底認められないものである。

被告は、不用意にも足の裏側を原告に対して突き出すような態勢で挑んだために原告に傷害を負わせているのであって、故意までは認められないとしても、被告の過失は軽過失にとどまるものとはいえない。

以上の諸事情を総合すると、被告の本件行為は、社会的相当性の範囲を超える行為であって、違法性は阻却されないというべきである。」

として、被告の行為が違法であると判断しました。

過失相殺について

被告は、

「被告が先にボールを蹴り出した後に、原告の左足が被告の左足の裏に入り込んでいることから、本件事故は原告に起因するところが大きいなどとして、過失相殺が相当である」

と主張しました。

この点について裁判所は、

「原告は、先にボールをトラップし、ボールを蹴り出すための動作を開始していた状況にあり、本件事故直前に原告が左足を振り上げる動作と、被告が左足を伸ばす動作とがほぼ同時に開始されていることからすると、原告の方が被告の動きを見てボールへの接触を控えるべきであったなどという状況にはない。そうすると、原告が不注意にも自身の左足を出したがために本件事故が起きたなどということはできず、過失相殺を講じることが相当とはいえない。」

として、過失相殺は認めませんでした。

加害選手に対する損害賠償請求が認められるか

スポーツ中の事故によって対戦相手や第三者がけがをしたり死亡した場合に、不法行為(民法 709 条)に該当するものとして、被害者やその遺族が加害者に対して損害賠償を請求することが考えられます。

この不法行為に基づく損害賠償請求については、加害者に故意または過失が認められ、かつ加害者の行為が違法であることが必要です。

故意または過失について

しかし、実際には、スポーツの現場で故意が問題になることはほとんどなく、通常は「過失」の有無が問題になります。

「過失」とは、簡単にいうと、注意義務違反のことです。

具体的にいうと、スポーツの最中に事故が発生する危険があることを予見でき、かつ、事故が発生しないようにする具体的な措置を執ることが可能であったにもかかわらず、事故を回避するための措置を執らなかった結果、事故が発生してしまった場合に、注意義務違反があったとして、過失が認められることになります。

この場合の注意義務の内容については、スポーツの種類、行為者の属性(性別、年齢、体格差、経験の有無など)、施設の環境(気象状況など)といった諸般の事情を考慮して、個別具体的に判断されることになります。

違法性について

スポーツは身体運動を伴う競技であるため、生命や身体を侵害する事故が発生する危険性を有しています。

そこで、スポーツ活動中に競技者同士の事故が起こった場合でも、そのスポーツのルールに従っていた場合には、正当な行為あるいは社会的に相当範囲内の行為として違法性が否定されることがあります。

これを違法性阻却事由といいます。

本件の裁判では、社会的相当性の範囲内の行為か否かについては、当該加害行為の態様、方法が競技規則に照らして相当なものであったかどうかという点のみならず、競技において通常生じうる負傷の範囲にとどまるものであるかどうか、加害者の過失の程度などの諸要素を総合考慮して判断すべきであるとしています。

認められるかどうかはケースバイケースである。

このように、スポーツ中の事故により加害者が損害賠償責任を負うか否かについては、加害者に故意または過失が認められるか否か、加害者の行為が社会的相当性の範囲内の行為か否かについて、個別具体的に判断されることになります。

その意味では、スポーツ中の事故により相手選手にけがをさせられた場合に、加害選手に対して損害賠償を請求したとしても、事案によって認められるケースもあれば認められないケースもあります。

もっとも、被害者からすれば、けがをさせられた上に将来的にプレーすることができなくなってしまうことも当然にあり得ます。

そのことに納得ができないという場合には、一度ご相談いただいた方がよいと思います。

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