小学生が蹴ったサッカーボールが職員室の窓から室内に入り非常勤講師の頭部に当たり負傷した事故

2018.11.13 スポーツ中の事故

大分地方裁判所平成25年6月20日判決

事案の概要

本件は、小学生であるEが、放課後に別府市立F小学校の校庭においてサッカーの自主練習をしていた際に、運動場に設置されたサッカーゴールに向けてサッカーボールを蹴ったところ、そのボールがサッカーゴール上方に逸れ、開放されていた職員室の窓から同室内に入ってしまい、当時非常勤講師として勤務していた原告の頭部に当たり、原告が頚椎捻挫等の傷害を負ったとして、被告別府市に対しては国家賠償法2条1項に基づき、Eの親権者である被告Y1及び被告Y2に対しては民法714条1項本文に基づき、損害賠償を請求した事案です。

F小学校の運動場は、放課後は、児童らがスポーツなどをすることができるように開放されていました。

Eは、学校外のサッカーチームに所属し、チームの全体練習のない木曜日の放課後には、毎週F小学校の運動場で自主練習をしていました。

Eは、運動場の南北に設置されたゴールのうち、南側に設置された本件ゴールに向かって、ボールを置いた状態や、ドリブルをしながらの状態から、シュートを打つ練習を行っていました。

本件事故の5分ないし10分前に、Eの蹴ったボールが、職員室の開いている窓から職員室内に飛び込みました。

このとき、F小学校の教職員がEに注意をしてボールを返しました。

午後4時頃から、職員室において職員会議が開催されており、原告もその会議に参加していました。

当時、職員室内のいずれかの窓が開放されていました。

本件事故は、職員会議が始まって間もない頃に発生しました。

Eは、本件ゴールに向かい、本件ゴールから更に約9メートル離れた位置からサッカーボールを蹴り、シュートの練習をしていたところ、Eが蹴ったサッカーボールが、ゴールの上部を越え、開放されていたいずれかの窓から職員室内に飛び込みました。

ボールは、緩い放物線を描いて職員室に入り、原告の頭部に当たり、負傷しました。

裁判所の判断

被告別府市の責任について

裁判所は、被告別府市には、以下の理由により、F小学校の校舎及び運動場の設置又は管理に瑕疵があったと認められるから、原告に対し、国賠法2条1項に基づく損害賠償責任を負うというべきであると判断しました。

  • 国賠法2条1項にいう公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠くことをいう。

  • F小学校の教室棟の1階の北側には職員室があり、教室棟の北側の窓(職員室の窓)は、運動場に面しており、運動場との距離は、車両通行用の通路を挟んで約5メートルであった。また、運動場内の、教室棟の窓から約9メートル(上記の約5メートルを含む)離れた所には、本件ゴールが設置されていた。そのため、教室棟の北側の壁の職員室の窓が本件ゴールの後方に位置している状態にあった。

  • 運動場には、放課後に、サッカー等の練習をする児童が出入りをすることが許容されており、実際にサッカー等の練習をする児童がいた。

  • このような本件ゴールの位置、運動場の使用状況に照らせば、放課後に、児童が、サッカーの練習等を行い、本件ゴールに向かってサッカーボールを蹴ることは、通常あり得ることであったと認められる。そして、教室棟の窓と本件ゴールの距離、位置関係からすれば、本件ゴールに向けて蹴られたサッカーボールが本件ゴールを逸れて教室棟の窓に達し、教室棟の窓に当たり、又は窓が開いている場合にその窓から職員室の中に飛び込むことは、十分に想定し得ることであった。

  • F小学校では、平成3年頃まで、教室棟の運動場に面した北側の壁の窓にネットが設置されていたが、その後、同ネットは取り外され、教室棟の運動場に面した窓のガラスが強化ガラスに入れ替えられたことからすると、被告別府市は、運動場で使用されているボール等が教室棟の窓に達する可能性があることを認識していたものと推認される。

  • 職員室は、教職員らが常時デスクワーク等の職務に従事している場所であり、常に在室者があるものと推認され、職員室の窓からサッカーボール等が飛び込んできた場合には、それが直接教職員等の身体に当たってその身体を傷害し、又は室内の設備や物品に当たってその破損等を生じ、それによって教職員等の身体を傷害する危険性があることは明らかである。窓ガラスが強化ガラスに変更されていたことから、ボールが窓ガラスに当たって窓ガラスが割れる危険性が低くなっていたとしても、F小学校の校舎のうち職員室を含めたほとんどの部分には冷房施設がなく、夏季に窓を開けて執務することは当然に予想されており、上記のとおり、教室棟の窓と本件ゴールの距離、位置関係からすれば、本件ゴールに向けて蹴られたサッカーボールが、開放された窓から職員室に飛び込むことは十分に想定し得ることであったといえる。ところが、本件事故当時、夏季に窓を開けて執務する際に、窓からボールが飛び込むことを防止するための措置は何ら取られていなかった。

  • 以上によれば、F小学校の校舎及び運動場は、本件事故当時、通常有すべき安全性を欠く状態にあったものと認められ、被告別府市によるF小学校の校舎及び運動場の設置及び管理には瑕疵があったものというべきである。

この点につき、被告別府市は、

  1. 通常の小学生の脚力はそれほど強くないこと

  2. 職員室の窓と本件ゴールは約9メートル離れており、職員室の窓は地上約1.4メートルから3メートルの高さに設置されていたこと

  3. 窓の開口部は本件ゴールに向かって右側に8組、左側に4組あるが、その全ての窓が開放されていたわけではないこと

  4. 窓のうち2組は本件ゴールの真後ろにあり、サッカーボールが入ることは予見し難いこと

などを挙げて

「通常の放課後の運動場の使用状況を前提とする限り、仮に職員室の開放可能な全ての窓が開放されていたとしても、あえて窓を狙ってサッカーボールを蹴り込むというのでなければ、職員室の窓からサッカーボールが飛び込んでくることは考え難い」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

「サッカーゴールは、まさにそこをめがけて、様々な角度からボールを蹴り込むことが当然に予定されており、蹴り込んだボールがゴールを逸れて後方に飛んでいくことも当然に予想されるものである。小学生であっても、高学年には、相当の体格と体力を有する者がいるから、小学生の脚力がすべて弱いということはできず、職員室の窓と本件ゴールが約9メートル離れており、職員室の窓が地上約1.4メートルから3メートルの高さに設置されていたことによって、ボールが本件ゴール後方の職員室の窓に当たり又は窓から飛び込む危険性を回避できるという自然科学的な根拠があったとは認められない。また、頻繁に職員室の窓にボールが飛び込む程の状況にないとしても、通常有すべき安全性を欠く状態にあるということはできる。」

として、被告別府市の主張は採用できないと判断しました。

以上より、裁判所は

「本件事故は、放課後、サッカーの練習をしていたEが本件ゴールに向けて蹴ったサッカーボールが窓から職員室内に飛び込み、職員室内にいた原告に当たって原告が傷害を負ったというものであり、このような本件事故の態様に鑑みれば、本件事故は、F小学校の校舎及び運動場の設置及び管理の瑕疵により起こったものと認められるから、F小学校の設置及び管理の主体である被告別府市は、原告に対して、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償責任を負う。」

と結論づけました。

被告Y1及びY2の責任について

まず、裁判所は、Eの注意義務違反の有無について

「他人の身体を傷つけてはならないことは、社会の基本的な規範であり、Eは、サッカーの練習をするに当たっても、他人の身体を傷つけることのないように注意すべき義務があったものと認められる。」

とした上で、

「本件事故の5分ないし10分前に、Eの蹴ったボールが、職員室の開いている窓から職員室内に飛び込み、教職員がEに注意をしてボールを返したものであるから、Eは、それによって、本件ゴールに向かって漫然とシュートの練習をしていると、ボールが職員室に飛び込んで在室者の身体を傷つける可能性があることを認識することができたものと認められる。

したがって、Eには、ボールが職員室に飛び込んで在室者の身体を傷つけることのないように注意してシュートの練習を行うべき注意義務があったものと認められる。」

「ところが、Eは、その後も本件ゴールに向かってシュートの練習を続け、再びボールが職員室に飛び込んで本件事故を生じたものであり、1回目にボールが職員室に飛び込んだ後、Eが、ボールが職員室内に飛び込まないように注意してシュートの練習を行ったことを窺わせる事情はない。」

「したがって、Eは、ボールが職員室に飛び込んで在室者の身体を傷つけることのないように注意してシュートの練習を行うべき注意義務に反したものと認められる。」

と判示しました。

もっとも、裁判所は

「Eは、本件事故当時、年齢が11年11か月で、F小学校の第6学年であったから、いまだ、事故の行為の結果、どのような法的責任が発生するかを認識する能力はなく、責任能力はなかったと認められる。したがって、Eは、民法712条により、損害賠償責任を負わない。」

としました。

その上で、

「本件事故により原告に生じた損害については、親権者としてEを監督すべき義務を負っていた被告Y1及び被告Y2が民法714条1項本文に基づいて損害賠償責任を負うというべきである。」

と結論づけました。

加害者が責任能力のない子供である場合の親の責任

民法712条は、

「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」

と規定しています。

ここにいう「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」のことを責任能力といいます。

この条文により、加害者に責任能力がないと認められる場合には、加害者本人は損害賠償責任を負わないこととなります。

責任能力については概ね11~12歳程度が目安だとされています。

つまり、小さな子供が第三者にけがをさせたとしても、子供には責任能力がないため損害賠償責任を負うことはありません。

しかし、そうなると被害者の保護に欠けることになります。

この点について、民法714条1項は

「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」

と規定しています。

この規定により、けがをさせた子供が責任無能力者であるために損害賠償責任を負わないという場合でも、その監督義務者である親が損害賠償責任を負うことになります。

もっとも、民法714条1項には

「ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

という規定があります。

したがって、親が子供に対しての監督義務を怠っていないか、もしくは監督義務を怠らなくても第三者がけがをしたという場合には、損害賠償責任を免れることになります。

この親の監督義務が問題になった事案についての最高裁判決がありますが、それについては別途紹介したいと思います。

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