中学生が一般公開前の市営多目的広場に置かれたサッカーのゴールを倒して同級生を死亡させた事故

2018.11.30 スポーツ中の事故

鹿児島地方裁判所平成8年1月29日判決

事案の概要

本件は、原告らの子であるAが、被告が建設した一般公開前の多目的広場において、一緒にサッカーの練習をしていたBらがサッカーゴールを一旦倒してから移動させることとして前方に倒しかかったところ、リフティングをしていたAの腹部にクロスバーが当たり、Aは救急車で病院に運ばれたが、間もなく死亡した事故について、原告らが、被告には本件ゴールの設置又は管理に瑕疵があったと主張して、被告に対し損害賠償を求めた事案です。

Aは、平成6年5月28日(土)下校後の午後1時30分ころ、同日は中学校の教職員が不在となるため、校内でのクラブ活動が禁止されていたので、サッカーの練習をするため、中学校でサッカー部に所属していた同級生のB、C及びDとともに本件広場に行きました。

本件広場のある国分運動公園は、被告により設置された公園であり、平成4年5月、本件広場の建設に着工し、平成5年7月にラグビーやサッカーで試験的に使用した後、同年8月の豪雨により被害を受けたため、その復旧工事を行い、平成6年3月までに大方の工事を終え、同月芝生を植え替え、その養生中でした。

本件広場は、平成6年3月以降、被告の都市計画課が施設管理課に委託して管理しており、芝の刈込み、施肥、巡視等の管理が行われていました。

また、本件広場の六箇所の出入口(①・②・③・④・⑤・⑥の箇所)のうち、三箇所(①・②・⑥)は門扉を閉じて施錠し、二箇所(②・⑤)にはそれぞれ目につくところに「芝養生のため立入禁止」と記載した看板を掲げ、一箇所(⑥)にはロープ二条を張っていました。

しかし、二箇所(③・④)には、立入禁止の看板もロープもなく、巡視等がない時間帯に同広場に立ち入る者がいた場合でも、それを阻止することができる状況にはありませんでした。

Aらは、本件広場に、同年2月ころから、7回程度、無断で立ち入った上、サッカーをしており、他にも大学生や高校生らが同様にサッカー等をしていました。

被告の都市計画課及び施設管理課の職員らも、無断で本件広場に入る者がいたこと、サッカー等をする者もいたことを認識しており、その対策として、③・④の二箇所の出入口にロープと立入禁止の看板を設置する準備をしていたところでした。

Aら四人は、同広場が立入禁止であることを知りながら、同広場の南東側の二箇所の出入口のいずれかから同広場内に入り、当初、北東端のダッグアウト前付近で各自ボールを蹴ったり、リフティングをしたりして遊びました。

そのうち、ゴールキーパー役をするつもりのBは、同ダッグアウト前に二基並べて置いてあったサッカーゴールのうち、北側にあった本件ゴールの位置がダッグアウトに近く、自分が後ろに倒れると危ないと考え、同ゴールを前に動かそうと提案して、「分かった」といったDと二人で同ゴールを押して動かそうとしました。

しかし、同ゴールが動かなかったので、Bは、同ゴールをいったん倒してから2~3メートル前方に移動させ、再度立てて使用しようと考え、Dに対し、「倒すが」と声を掛けた上、同ゴールに向かって右側のゴールポストを引っ張り、Dがその背後のゴール支柱(つっかえ棒)を持ち上げて、同ゴールを前方に倒しにかかりました。

ところが、同ゴールの前方で両名とは別にリフティングをしていたAの方向に、同ゴールが急きょ倒れてしまい、気づいたAは、咄嗟に両手を上に出して倒れてきたクロスバーの直撃を避けようとしましたが避けきれず、腹部にクロスバーの直撃を受け、下敷きとなりました。

その後、B及びCは急いで同ゴールを持ち上げ、DがAをクロスバーの下から引きずり出し、DはAの傍に付き添ったまま待機し、B及びCはAの自宅に連絡に行き、Aは、間もなく到着した救急車で病院に搬送されましたが、同日午後3時30分、この事故による腹部打撲の傷害に起因する腹腔内出血により死亡しました。

本件ゴールは、被告が国分運動公園の陸上競技場及び本件広場で使用する目的で発注し製作させた四基のうちの一基で、アルミ丸パイプ製(一部ステンレス製)の、全体の重さが142.76キログラム、下端が地上2.44メートルである水平なクロスバー、7.32メートルの間隔(内側面の間隔)をもつ二本の垂直なゴールポスト、奥行き1.8メートルからなっており、後部のゴール支柱(つっかえ棒)を52~54センチメートル持ち上げれば、同ゴールは自動的に倒れ、クロスバー及び両ゴールポストが重量の大半を占め、比重が前部にかかっており、中学一年生が2~3名で倒したり移動させたりするには危険を伴いました。

被告は、平成5年3月、本件ゴールを含むサッカーゴール四基の納品を受けた当初、本件広場の北東側空き地に四基並べて、クロスバーとゴールポストを地面に着けた状態(倒した状態)で保管し、その後は、本件ゴールを含む二基のサッカーゴールを本件広場内において同様の状態で保管していましたが、本件事故当時は、右二基とも、地面に接するパイプ部分に杭を打ち込んで固定することも、倒した状態にすることもなく、同広場の北東端にそれぞれ向きを違えて立てた状態にありました。

裁判所の判断

本件ゴールの設置又は管理の瑕疵について

裁判所は

  1. 本件事故当時、本件広場は、未だ一般公開前であったが、同年3月には芝の植え替えを終え、同事故当時はグラウンドとして十分使用可能な状況にあった上、同広場が県下でも珍しい全面芝のグラウンドであって、本件ゴールを含むサッカーゴール二基が置いてあり、サッカー少年らの興味をひき易いことに加え、事実上自由に出入りができた③・④の二箇所の出入口があり、同広場周辺には学校や城山団地があることを合わせ考えると、付近の中学生や高校生(好奇心の強い年頃である)等が同広場を訪れ、サッカーをするために無断で立ち入り、本件ゴールを使用する可能性があったこと
  2. Aらは、同広場において、本件事故以前に7回程度、サッカーをしたことがあったこと
  3. 高校生や大学生等も同広場でサッカーをしており、管理者である被告の職員らもその事実を認識していたのであるから、同広場に立ち入った者が本件ゴールを使用する可能性を認識しえたこと
  4. 本件ゴールはクロスバー及び両ゴールポストが重量(142.76キログラム)の大半を占め、比重が前部に掛かっているため、後部のゴール支柱(つっかえ棒)を52~54センチメートル持ち上げれば、自動的に前方に倒れ、その場合には、その重量、形状からみて、人に死傷の結果を生じさせる可能性があったこと

が認められるとした上で、

「そうとすれば、事実上、③・④の二箇所から立入りが自由であった本件広場内において、本件ゴールを保管する被告は、同ゴールの転倒による危険が生じないように、立てた状態であればもちろん、倒しておく場合でも、地面やフェンス等に金具等で固定して保管しておく必要があったというべきであるところ、被告は、右のような保管方法をとらず、本件ゴールを含め二基を同広場内にて立てたまま又は単に倒したまま放置していたのであるが、B及びDが行おうとしたゴールをいったん倒してから移動させるという方法は、ゴールの取扱いとして通常予想されるものであって、異常な行動とはいえないと解されることを合わせ斟酌すれば、被告は、本件ゴールを通常備えるべき安全性を欠いた状態に置いていたといえるから、同ゴールの設置又は管理には瑕疵があった(国家賠償法2条1項)というべきである。」

と判断しました。

過失相殺について

まず、サッカーゴールを移動させようとしたB及びDの過失について、裁判所は

「民法722条2項にいう『被害者』とは、被害者本人のみならず、これと身分上ないしは生活関係上一体をなすものをも含むと解すべきである(最高裁判所昭和34年11月26日判決・民集13巻12号1573頁、同昭和42年6月27日判決・民集21巻6号1507頁、同昭和51年3月25日判決・民集30巻2号160頁参照)」

とした上で、

「B及びDが、Aの同級生で、かつ同じサッカー部に所属していたことから、Aと身分上ないしは生活関係上一体をなす者とは認められないから、その過失を本件損害額の算定の際に斟酌するのは相当でない。」

と判断しました。

次に、裁判所は、Aの過失について

「Aは、本件事故当時、本件広場が一般公開前で立入禁止であることを知りながら、同広場に立ち入ってサッカーの練習をし、また、B及びDが本件ゴールを移動させようとする前に、Bが『倒すが』と予告した声がAには聞こえていたと推認されるにもかかわらず、同ゴール転倒の危険性に思い至らず、同ゴールの近くで漫然とリフティングを続け、その結果、転倒した同ゴールの直撃を受けて本件事故に遭遇したものと認められるから、同事故の発生には、Aの右の不注意な行動も寄与しているものというべきである」

として、これを同ゴールの設置又は管理の瑕疵の程度とも対比して、2割の過失相殺をするのが相当であると判断しました。

管理者の認識次第では認められなかった可能性も

公の営造物の設置の瑕疵とは、設計の不備、粗悪など設計・建造等に不完全な点のあることをいい、管理の瑕疵とは、その後の維持、修繕や保管に落度のあることをいうとされています。

その設置、管理に瑕疵があるか否かは営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等を総合して判断すべきであると解されています。
また、瑕疵の有無は、通常有すべき安全性、すなわち通常の用法に即して、通常予想される危険性に対して安全性を欠くか否かによって判断されることになりますので、通常予測しえないような被害者の行動によって、人身事故が発生したような場合には、瑕疵が否定されるということになります。

本件では、一般公開されていたわけではなく、むしろ立ち入りを禁止していました。

その意味では、無断で立ち入った上で死傷したとしても、「通常予想しえない被害者の行動」として、営造物責任は認められないと考えることもできます。

もっとも、裁判所が事実認定したところによれば「高校生や大学生等も同広場でサッカーをしており、管理者である被告の職員らもその事実を認識していた」ということですので、そうであれば「通常予想できた」との判断になったのでしょう。

つまり、この裁判は、立入禁止の場所に無断で入り込んだ行為を管理者が認識していたか否かで判断が異なっていた、もし全く見つからずに遊んでいて事故に遭っていたとするならば、「通常予想しえない被害者の行動であった」として、損害賠償請求は認められなかったと考えられるのです。

このような事故を未然に防ぐには、「そもそも立入禁止の場所には立ち入らない」ということをきちんと守ることが必要だと思います。

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