私立高校サッカー部の部長による体罰が認定された事例

2018.12.13 体罰

鹿児島地方裁判所平成24年1月12日判決

事案の概要

本件は、学校法人被告学園高等部においてサッカー部に所属していた原告が、被告学園の教員で同サッカー部の部長であった被告Y1から体罰やいじめ等の不法行為を受けたなどと主張して、被告Y1及び同サッカー部の監督である被告Y2に対しては不法行為に基づき、被告学園に対しては民法第715条1項の規定に基づき、慰謝料を求めた事案です。

原告は、平成19年4月1日、被告学園高等部に入学して男子サッカー部に入部し、1年生のキャプテンを務めていました。

また、原告は、被告学園高等部の寮に入って生活をしており、被告Y1は、その寮の寮監を務めていました。

原告は、同年5月22日、約1か月前からの腹痛と3週間前からの下血を主訴として、M病院を受診し、急性直腸炎との診断で経過観察とされました。

サッカー部の1年生部員は、同年7月中旬の1年生大会地区予選の前日、被告学園のグラウンドで練習を行っていましたが、全体的に覇気がなく、練習に取り組む態度が非常に悪い状況でした。

そこで、被告Y1は、1年生部員全員に対し、「練習への取組が悪い。」と言って怒鳴りつけ、グラウンドから寮まで走って帰るように命じました。

ところが、1年生部員の何人かが寮に帰ることなくスポーツ店に寄り道をしていたことから、被告Y1は、サッカー部の1年生のキャプテンであった原告を寮の前に呼び出し、原告の腹や胸の辺りを5、6回蹴りつけました。

サッカー部の1年生部員は、同年8月4日及び5日、練習試合を行うために鹿児島県の志布志に遠征をしました。

被告Y1は、志布志遠征の際、1年生部員に対し、サッカーノート(その日の練習メニューや対戦結果、それらに関する反省点等をまとめて記載することとなっている日記のようなもの)を提出するよう命じました。

原告は、被告Y1の指示に従ってサッカーノートを提出しましたが、1年生部員のうち数名の者は提出しませんでした。

また、1年生部員の中に顔を洗わずに朝食会場に来ていた者がいたことから、被告Y1は、同月5日、原告に対し、「他の生徒の代表だ」などと言いながら、原告の顔を濡れタオルで数回はたきました。

サッカー部は、同月6日から9日まで、練習試合を行うために福岡県のD高校に遠征をしました。

被告Y1は、福岡遠征の際、試合の準備を行っていた原告に対し、ホワイトボードを出すように命じました。

原告は、被告Y1の指示に従って、ホワイトボードを準備しましたが、ホワイトボードに記入をするために被告Y1がふだん使用しているペンを持ってきておらず、新しいペンを被告Y1に渡そうとしました。

これに対し、被告Y1は、原告に対し、ふだん使用しているペンを取りに帰れと命じたことから、原告は、練習試合着を着たままで靴を履き替え、携帯電話と財布だけを持って鹿児島中央駅まで戻ってきました。

なお、被告Y1は、自ら原告を引き止めることはありませんでした。

被告Y1は、同月10日頃、E整骨院のE医師から、原告の右膝の滑液包の水が多くなっており、膝蓋前滑液包炎を発症しているとの報告を受けました。

サッカー部の1年生部員は、同月16日から19日まで、1年生大会の県大会に出場するために鹿児島県の種子島に遠征をしました。

サッカー部の1年生部員は、同月16日の午後4時頃、翌日の試合に向けて練習を行っていましたが、練習に身が入っておらず、原告を含めた1年生部員全体にミスが目立っていました。

そこで、被告Y1は、原告が何度目かのミスをした際、原告に対し、「お前がいるとチームの雰囲気が悪くなる」などと言って練習から外れてグラウンドから出るように命じました。

しかし、原告が被告Y1の指示に従わなかったことから、被告Y1は、原告をグラウンドの外に連れ出し、原告に対してお菓子を投げつけるとともに、原告の下半身を10回以上蹴りつけました。

被告Y1は、翌17日、原告に対し、上記暴行について謝罪をしました。

なお、原告は、同日、2試合に出場しました。

原告は、同月20日頃、Sクリニックにおいて、右大腿部打撲との診断を受けました。

原告は、同年9月26日、腹痛、下痢及び血便を主訴として、M病院を受診し、大腸内視鏡検査によって潰瘍性大腸炎と診断されました。

原告は、同年10月3日から内服治療を開始し、同年12月3日頃には、その治療によって潰瘍性大腸炎の症状は緩解していました。

原告は、同年12月31日付けで被告学園高等部を退学しました。

そして、平成20年1月1日から、A高等学校に転入学し、同年3月20日からサッカー部に所属して練習を行うとともに、同年の夏頃からは、同校のレギュラー選手として公式試合に出場することもありました。

また、原告は、平成22年4月、スポーツ推薦によってF大学に入学し、サッカー部に所属してサッカーを継続しました。

裁判所の判断

サッカー部の部長である被告Y1の不法行為について

被告Y1が

  1. 平成19年7月中旬、原告に対し、同人の腹や胸の辺りを5、6回蹴りつけたこと
  2. 平成19年8月5日、原告の顔を濡れタオルで数回はたいたこと
  3. 平成19年8月16日、原告の下半身を10回以上蹴りつけたこと

について、裁判所は

「かかる行為は、いずれも学校教育法第11条ただし書の規定によって禁止されている「体罰」に該当する行為であり、原告に対する故意による不法行為に該当するといわざるを得ない。」

と、被告Y1の体罰を認定しました。

その一方で、原告が被告Y1の行為をいじめであると主張したのに対し、裁判所は

「被告Y1が本件不法行為を行ったことについては、1年生部員の練習態度が悪かったり、サッカーノートが提出されなかったりといった何らかの理由があったと認められる。そして、原告がサッカー部1年生のキャプテンであったこと等の事情を総合考慮すれば、被告Y1の本件不法行為が許されないものであることはいうまでもないが、原告に対するいじめであるとまでは評価できず、また、被告Y1が原告に対していじめ等の精神的加虐行為を繰り返したとの事実を認めるに足りる証拠はない。」

と判断しました。

また、原告は、

「被告Y1が、志布志遠征の際、原告の足の怪我が相当に悪いことを知っていたにもかかわらず、原告を5試合連続で出場させたことが被告Y1の原告に対する不法行為を構成する」

と主張しました。

しかし、裁判所は

  1. 被告Y1は、原告が30分間のハーフ5本に出場したとの供述をしており、そもそも原告が何試合に出場したかについては本件証拠上必ずしも明らかではないこと
  2. 証人Bは、原告が試合に出場することを嫌がっている様子はなかったとの証言をしていること
  3. 被告Y1は、原告の足の状態が悪いとの認識はなく、国体の監督に原告を見てもらう機会を多くしたいと考えて、原告を多数の試合に出場させたとの供述をしていること

等に鑑みれば、

「被告Y1が原告の足の状態が悪いことを認識しながら強制的に原告を試合に出場させたとの事実を認めることはできず、また、そもそも原告の上記主張事実をもって、被告Y1の原告に対する不法行為が成立するとは認められない。」

と判断しました。

さらに、原告は、

「被告Y1が福岡遠征の際にペンを取りに鹿児島まで原告を帰らせたことが不法行為に該当する」

とも主張しました。

この点について、裁判所は

「確かに、被告Y1の指示によって結果的に原告が鹿児島まで帰っており、また、被告Y1が自ら原告を引き止めていないことからすれば、かかる被告Y1の行為は、教員として不適切な行為であったといわざるを得ない。」

としつつも、

  1. 証人Bは、原告に対してペンを取りに帰れと言った被告Y1の口調はふだんと変わらないものであったとの証言をしていること
  2. 原告本人も、原告が帰ることを止めに入った先輩は、どうせ嘘だから帰らなくていいよと言ったとの供述をしていること
  3. 被告Y1は、本気で鹿児島までペンを取りに帰らせるつもりはなかったとの供述をしていること

に鑑みれば、

「本件証拠上は、被告Y1の上記行為が不法行為に該当するとまでは認められないというべきである。」

と判断しました。

サッカー部の監督である被告Y2の不法行為について

原告は、

「サッカー部の監督である被告Y2が、被告Y1の本件不法行為を防止すべき義務があったにもかかわらず、同義務に違反したことから、本件不法行為について被告Y1と共同して不法行為責任を負う」

と主張しました。

しかし、

  1. 被告Y1が本件不法行為を行ったとの事実は認められるものの、被告Y1が他の不法行為を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はないこと
  2. 被告Y1が本件不法行為を行ったことについては、1年生部員の練習態度が悪かったり、サッカーノートが提出されなかったりといった何らかの理由があったと認められること
  3. 被告Y2は、同人と被告Y1との間に上下関係又は指揮命令関係はなかったとの供述をしていること
  4. 被告Y2及び証人Gは、いずれも被告学園の学生の生徒指導については、生徒指導部が中心となって対応を行うこととなっているとの供述及び証言をしていること

を総合考慮すれば、

「本件証拠上は、被告Y2が、被告Y1の本件不法行為について、これらを防止すべき義務を具体的に負っていたとの事実を認めることはできないというべきである。」

とし、また、

「被告Y2は、被告Y1の本件不法行為を認識しつつ、これを長期間放置したり、助長したりしたことはないとの趣旨の供述をしている一方、かかる事実を認めるに足りる客観的な証拠はないことに照らせば、いずれにしても、被告Y2が本件不法行為について被告Y1と共同して不法行為責任を負うとの原告の上記主張を採用することはできないといわざるを得ない。」

と判断しました。

被告学園の使用者責任について

裁判所は

「被告Y1は、被告学園の教員の立場で、その職務の執行として本件不法行為を行っていることから、被告学園は、被告Y1の使用者として、原告に対し、本件不法行為について使用者責任を負うこととなる。」

として、被告学園の使用者責任(民法第715条1項)に基づく損害賠償責任を認めました。

体罰の被害を公表する勇気が必要

部活動における監督やコーチなどの指導者による部員への体罰に関する報道が後を絶ちません。

これだけの件数が事件として報道されておきながら、なぜ次から次へと体罰が起きているのか。

それは、指導者自身が体罰を未だに正当化しようとする姿勢を持ち続けていることが原因だと考えられます。

つまり、以前は仮に体罰が行われていたとしても、

  • 師弟関係にある指導者と部員の間では問題にはならなかった
  • それが当たり前だった
  • 口で言ってもわからなければ体で覚えさせるしかない

等々の理由をつけて、体罰を正当化しようとしているのです。

しかし、これらはすべて単なる言い逃れにすぎません。

以前は許されていたのではなく、以前から許されていなかったことを表沙汰にしたり問題視したりしてこなかっただけです。

口で言ってもわからないというのも、指導者自身にコーチング能力がないことを部員に知られないためのものにすぎないのです。

このような現状を打破するためには、体罰を加えた当該指導者に対して、自らの行いが到底許されるべきものではないということを自覚させるとともに、その事実を他の指導者に知らしめていくことが必要なのです。

部員が指導者の体罰を公表することは難しいだと思います。

しかし、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を送る権利を実現するためには、その勇気を持つことも必要だといえるでしょう。

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