私立高校サッカー部に所属していた原告が先輩部員らから暴行を受け傷害を負った事案

2019.12.10 パワハラ・セクハラ・いじめ

東京地方裁判所立川支部平成30年6月28日判決

事案の概要

本件は、被告が設置及び管理運営する本件高校のサッカー部に所属していた原告が、平成25年5月7日にサッカー部の部員らから暴行を受けた結果、右軽度感音難聴等の傷害を負ったと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案です。

原告は、平成25年4月、スポーツ推薦によって本件高校に入学し、サッカー部に入部しました。

A及びBは、いずれも、本件当時、本件高校に在籍(Aは3年生、Bは2年生)し、サッカー部に所属していました。

サッカー部では、平成17年9月6日、3年生部員4名が、2年生部員4名に対し、部室内で顔や腹を殴る、蹴る等の暴行をし、けがを負わせた事件がありました。

当時のサッカー部監督であったH監督が同事件を受けて部員の保護者宛てに作成した同年10月20日付けの「サッカー部の今後の改善方針」と題する書面には、サッカー部内の暴力行為を抑止するための対策として、

  1. 更衣場所の選定及び予算上の設備費等に調整が必要なために時間がかかるが、学年ごとの更衣場所を指定すること
  2. 練習又は自主練習が終了するまで監督及びコーチが常駐すること
  3. 監督のメールアドレスを部員及び保護者に公開すること
  4. 学年間の融和を図り、相手の立場を尊重する教育を徹底すること

が記載されていました。

しかし、H監督は、上記の事件発生から、本件暴行があった平成25年5月まで、サッカー部の部員に対し、上級生が下級生に暴力をふるっていないかどうか個別に聞くなどして、サッカー部内において暴力行為が行われているかどうかにつき、調査をしたことはなく、練習又は自主練習が終了した後、体育武道館の非常階段を見回ることもありませんでした。

少なくとも平成25年当時にサッカー部に所属していた部員らは、下級生部員の態度が悪いときや、下級生部員がやるべきことをやっていないときなどに、複数の上級生部員で1人の下級生部員を呼び出し、まずは口頭で注意し、それでも態度が改善されないような場合には殴る蹴る等の暴行をすることがあり、これを「ピン集」と呼んでいました。

本件当時サッカー部の3年生部員であったAは、1、2年生時に、7、8回くらい「ピン集」として上級生部員に呼び出され、そのうち半分くらい殴られたり蹴られたりしたことがありました。

原告は、平成25年5月7日頃、サッカー部の練習が終わり、着替えをした後である午後1時か2時頃、同級生のサッカー部の部員から、先輩が部室の前に来いと言っていると言われ、体育武道館の2階の部屋前に行くと、2年生部員から、A及びBのほか6名の2年生部員らが集まっていた非常階段の3階踊り場まで連れて行かれました。

Aは、原告に対し、「先輩の悪口を言っただろ」などと申し向けた後、Bから命じられて正座している原告の顔面を右足で振り抜くように蹴った上、同人の髪をつかんで立たせ、胸を左右の膝で複数回蹴り、更に胸倉をつかんで同人の顔面を左右の手で複数回平手打ちするなどしました。

そして、Aから「あとは2年でやっとけ」と言われたBは、「俺の悪口を言っただろう」などと申し向けた後、原告に対し、顔面を左右の手で複数回平手打ちし、右足で腕を蹴り、胸を前蹴りするなどしました。

原告は、A及びBらから本件暴行を受けた場所が腫れたりあざができていましたが、Bから「明日学校を休んだり、誰かに言うようなことするな。」と言われ、平成25年6月末日頃までは、サッカー部の活動を休むことはなく、公式戦にも数試合出場しました。

原告は、同年6月19日、3日前からの右耳の難聴を訴えて耳鼻咽喉科を受診し、医師からストレスが原因と言われ、右急性感音性難聴との診断を受けました。

裁判所の判断

裁判所は、

私立学校の設置者は、在学契約及び教育基本法等の法令に基づき、学校における教育活動及びこれと密接な関係にある生活関係について、生徒による加害行為から他の生徒を保護すべき安全配慮義務を負っており、同義務の履行補助者かつ被用者である私立学校の教職員が同義務を怠ったときは、当該学校設置者は、在学契約に基づく付随義務としての安全配慮義務違反による債務不履行責任を負い、又は、使用者責任による不法行為責任を負う。

としたうえで、被告の教職員にかかる安全配慮義務(損害発生防止義務)違反があったか否かにつき検討することとしました。

この点、裁判所は、

  • サッカー部においては、平成25年4月から同年6月までの間、複数名の上級生部員が下級生部員を呼び出し、指導ないし注意のため暴行する事件が本件暴行を含めて5件あったこと
  • 当時の部員らが、複数の上級生部員が下級生部員を呼び出して口頭で注意をし、場合によっては暴力を振るうことを「ピン集」と呼称していたこと
  • Aも自身が1、2年生であったときに「ピン集」で上級生部員から暴力を振るわれたことがあること
  • 1年生部員に対する「ピン集」をやらなければ3年生部員から自分たちが暴力を受けるなどと2年生部員が考えていたこと

が認められるとした上で、

「これらの事実からすれば、原告が本件暴行を受けた当時、サッカー部においては、上級生部員の下級生部員に対する暴行が常態化していたものと評価せざるを得ない。」

と事実認定しました。

そして、裁判所は、

「サッカー部においては、平成17年にも複数の上級生部員による下級生部員に対する暴力傷害事件が発生し、被告の教職員であるサッカー部の指導者らもその事実を把握して一定の対策を練っていたというのであり、本件暴行直後にも、本件暴行のA及びBであるAがサッカー部の下級生部員に暴力を振るって停学処分を受けたことがあったというのであるから、被告の教職員は、本件暴行当時、サッカー部内で上級生部員による下級生部員に対する暴力行為が行われることを認識し、若しくは容易に認識し得たと認められ、かつ、サッカー部での暴力行為の有無について部員に対する聴き取り調査を定期的に実施するなどして、上級生部員による下級生部員に対する暴力行為の実態を具体的に把握し、暴力行為を禁止する指導を徹底するなどしてこれを防止するための適切な措置を執るべき注意義務を負っていたものというべきである。」

と判示しました。

そして、裁判所は、被告の教職員が上記注意義務を尽くしていたかどうかについて

「サッカー部においては、平成17年の暴力傷害事件を契機として暴力行為を禁止する指導を行うための一定の指針が設けられ、以降、同指針に沿って、監督の連絡先(Eメールアドレス)を部員及び保護者に公開するなどの対策を実施していたことが認められるものの、学年ごとに更衣場所を指定することは実現されなかった上、本件暴行があった平成25年5月までの間、部員間の暴力行為の有無つき調査がされたことはなかったというのであるから、被告の教職員は前記注意義務を尽くしていなかったというべきである。」

として、

「したがって、被告の教職員が安全配慮義務(損害発生防止義務)を怠ったと認められ、被告は、原告がA及びBらから本件暴行を受けたことにつき、在学契約に基づく付随義務としての安全配慮義務違反による債務不履行責任を負い、又は、使用者責任による不法行為責任を負う。」

と判断しました。

被告は、

  • サッカー部ではけがで練習ができない部員のけがの状態を把握しているが、暴力等によるけが人がいなかったこと
  • 本件暴行がA及びBらの私的な感情を理由とするものでサッカー部の活動とは直接関係がないこと
  • 教職員の目を盗んで秘密裏に行われた暴行につき認識することは不可能であること

等を理由に、

「被告の教職員らにおいて本件暴行を具体的に予見することはできなかった」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

「そもそもサッカー部の指導者らがいかなる方法で部員のけがの状態を把握していたのかは証拠上明らかでない上、部員間の暴力行為によって生じたけがが常に練習ができない程度であるとは限らないことからすれば、練習ができない部員のけがの状態を把握するだけでは部員間の暴力行為の有無を認識するのに十分であったということはできない。」

「本件当時、サッカー部で、練習終了後など部活動と密接に関連した時間帯に『ピン集』がしばしば行われており、本件暴行も『ピン集』として行われたものといえるのであるから、本件暴行が、A及びBらの私的な感情によるものであることを理由にサッカー部の活動とは関係がないなどとはいえない。」

「Bが『ピン集』を行う場所について、人目につかない場所を選んでいたわけではない旨や、先生たちに見られるかどうかというのは特に考えていなかった旨を供述し、Aも、隠れてやっていたというわけではない旨を供述していることからすれば、『ピン集』が第三者の目に触れないように秘密裏に行われていたとはいい難い上、部員間の暴力行為が教職員の目を盗んで秘密裏に行われるものであったとしても、部員に対する聴き取り調査や指導者らによる見回り等を実施することにより、暴行の事実を把握することは十分に可能であったといえる。」

として、被告の主張を排斥しました。

また、被告は、

「サッカー部では平成17年の暴力傷害事件を契機に暴力等の問題行為を根絶するために一定の指導を行ってきており、平成17年度以降は1件も暴行事件が認識されていない」

と主張しましたが、裁判所は

「上記のとおり現に本件暴行があった当時に部員間での暴力行為が常態化していたと評価せざるを得ないのであるから、被告が暴行事件を把握していなかったとしても、このことをもって上記注意義務が尽くされていなかったとの判断が左右されるものではない。」

として、被告の主張を排斥しました。

以上より、裁判所は

「原告が本件暴行を受けたことにつき被告に安全配慮義務(損害発生防止義務)違反が認められるのであるから、被告は、本件暴行と相当因果関係を有する損害について、債務不履行責任又は不法行為に基づき賠償する責任を負う。」

と結論づけました。

実態の把握が急務である

本件は、サッカー部において上級生部員の下級生部員に対する暴行が常態化していたにもかかわらず、 学校の教職員らにおいて本件暴行を具体的に予見することはできなかったと主張した点を、裁判所が断罪したものといえます。

部員間の暴力行為の有無つき調査がされたことはなかったということですので、本件における裁判所の判断は当然の結論であると言えるでしょう。

本件と同じように、選手同士による暴行が常態化しているにもかかわらず、その実態を把握しないまま放置されているケースは多いのではないでしょうか。

このようなことは、部活動に限らず、民間のスポーツクラブでも起こりうることですし、スポーツの種目を問わないことです。

好きなスポーツに励もうとする選手が暴力によりその道を断たれることがないように、実態の把握が急務であると思います。

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