サッカーの練習試合中に受けたスライディングにより重傷を負った事例

2019.12.17 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成30年2月28日判決

事案の概要

本件は、所属するサッカーチームの練習試合中に転倒して、右足関節開放性脱臼骨折の傷害を負い、創痕、伏在神経支配領域の知覚脱失及び足関節背屈時の趾屈曲現象の後遺障害を負った原告が、対戦チームに所属する被告に対し、原告の負傷は被告の危険なスライディングによるものである旨主張して、不法行為による損害賠償を請求した事案です。

原告は、東京都社会人サッカーリーグ4部に属するクラブチームである原告側チームに所属していました。

被告は、東京都社会人サッカーリーグ1部に属するクラブチームである被告側チームに所属していました。

被告は、本件の事故に至るまで、原告との面識はありませんでした。

また、被告は、本件の試合の当時、原告よりも足が遅い状況でした。

平成25年3月24日午後7時頃、東京都杉並区に所在する運動場サッカーグラウンドにおいて、原告側チームと被告側チームとのサッカーの合同練習が行われました。

午後8時頃、合同練習の最後に、本件ピッチにおいて、原告側チームと被告側チームとの間で、サッカーの練習試合が行われました。

原告は原告側チームの選手として、被告は被告側チームの選手として、本件試合に出場しており、原告はフォワード、被告は左センターバックでした。

本件試合の開始後すぐに、被告側チームのゴールに向かって右側のタッチラインの、センターラインより原告側チームの陣地に1メートル程度入った位置から、ボールが本件ピッチ外に出たため、被告側チームによるスローインが行われることとなりました。

被告側チームのAは、同地点のタッチラインから、被告に対してボールを投げ、スローインを行いました。

スローインの際、被告は、被告側チームの陣地で、Aから5メートル程度、センターラインから5メートル程度離れた位置におり、原告は、センターサークル付近にいました。

被告は、Aのスローインにより、被告のいる方向に投げられたボールを、右足でトラップしようとしましたが、トラップミスをして、被告側チームのゴール方向にボールを逸らすこととなりました。

そこで、被告は、Aの方に向けていた体を右に約90度転回し、ボールを保持するため、ボールを追いかけて走りました。

一方、被告に向かってボールが投げられたことや被告のトラップミスを確認した原告も同様にボールに向かって走りました。

原告は、被告に先駆け、最初にボールに触れました。

被告は、原告がボールに触れるのとほぼ同時に、原告の進行方向に向かって右側(右斜め後方を含む。)から、原告とボールとの間ではなく、原告及びボールの前に被告の足が入る形で、被告が左足を伸ばして、本件スライディングを行いました。

原告は、本件スライディングによって、ボールに足が突っかかるなどしたことにより転倒し、本件傷害を負うに至りました。

本件傷害は、原告の右足の腓骨が、右足の内側方向、すなわち脛骨の方向に折れて粉砕骨折を生ずる状態となり、脛骨が内側方向に脱臼するという態様のものでした。

そして、これらのことからすれば、脛骨と足の根元にある距骨とをつなぐ三角靭帯及び腓骨と脛骨とをつなぐ脛腓靭帯がいずれも断裂する態様でした。

本件事故の後、原告は救急車により病院に搬送され、被告は自車で病院に赴きました。

その後、原告は、同病院において手術を受け、16日間の入院治療を受けました。

原告は、本件傷害に伴い、足関節内外側に計5ミリメートル×21センチメートルの創痕、受傷時による伏在神経損傷による同神経支配領域の知覚脱失及び長趾屈筋腱、長母趾屈筋腱の癒着による足関節背屈時の趾屈曲現象の後遺障害を負うに至り、平成26年11月20日に症状固定となりました。

サッカー競技規則第12条には、ファウルと不正行為について、次のとおり定められています。

  1. ボールがインプレーで、競技者がボールに挑むとき、相手競技者に対して過剰な力や粗暴な行為を加えた場合、著しく不正なファウルプレーを犯したことになる。
  2. 相手競技者の安全を脅かすタックルは、著しく不正なファウルプレーを犯したことで罰せられなければならない。
  3. いかなる競技者もボールに挑むときに、過剰な力や相手競技者の安全を脅かす方法で、相手競技者に対し、片足若しくは両足を使って前、横あるいは後ろから突進した場合、著しく不正なファウルプレーを犯したことになる。

裁判所の判断

まず、裁判所は

「被告は、被告の足が原告の足に直接衝突するような形で本件スライディングを行ったものとは認められないから、これを前提とする原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。」

としつつ、

「もっとも、本件スライディングが契機となって、本件事故が発生していることを踏まえ、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求が認められるかについて検討する。」

としました。

まず、原告は、

「本件スライディングが、本件傷害の発生について認識、認容がある状態で行われた故意の不法行為である」

と主張いました。

しかし、裁判所は

「本件スライディングがされたのは本件試合開始後すぐであったこと、本件事故に至るまで原告と被告との間に面識はなかったことからすれば、原告に本件傷害を負わせる被告の動機は乏しく、本件スライディングの態様も併せて考えれば、被告の故意を基礎付ける事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。」

として、本件スライディングが故意の不法行為であるとする原告の主張を排斥しました。

次に、裁判所は、本件が過失による不法行為に該当するかついて検討しました。

まず、予見可能性について、裁判所は、

「サッカーが一定程度身体的接触を伴うスポーツであり、1個のボールを巡り、ボールの保持等を目的としてスライディングが行われることからすれば、スライディングによって選手同士の身体の距離が急激に接近することは通常のことであるから、スライディングを巡る身体的接触等による負傷の可能性が存在すること自体は否定し難い。スライディングを行った者としても、およそ身体的接触が起こり得ないような状況にあれば格別、上記負傷が起こり得ること自体は予見し得るというべきである。」

とした上で、

「本件において、当事者双方が1個のボールを巡って競っている状況なのであるから、本件スライディングに起因して本件傷害が発生することについて、被告の予見可能性は認められるというべきである。」

と判示しました。

次に、結果回避可能性について、裁判所は、

「スライディングによって、相手チームの選手の生命、身体等に危険が生じる場合には、スライディング自体を行わないことによって、その危険を回避することができる」

として、被告の結果回避可能性についても認められると判示しました。

そこで、結果回避可能性が認められることを前提に、被告に結果回避義務があるかが問題となりました。

この点について、裁判所は、

「原告の進行方向からみて右斜め後方からされた可能性を否定できない本件スライディングは、原告のプレーの状況により、原告の視界に入るかは明らかでなく、スライディングへの対処や身体的接触が生じた後の受け身等の危険を回避する行動をとるタイミングが遅れ、負傷につながる危険性を有すること自体は否定し難い。」

としつつも、

「しかしながら、本件スライディングは、原告の身体の向きからみて、どの方向からされたものであるか判然としないものの、少なくとも、原告の真後ろのように、原告の視界の外で、およそ原告が認識し得ないような位置からされたものであるとは認められない。」

と判示しました。

また、裁判所は、

「原告は、被告がトラップミスによりこぼれたボールを追いかけていたという本件スライディングに至る経緯を認識していたことからすれば、被告が原告によるボール保持を阻止するためのスライディング等のプレーを行うことも、当然に予想し得る状況にあった。」

と判示し、さらに

「そして、競技規則においてファウルないし不正行為と評価されるのは、身体的接触の有無そのものではなく、過剰な力や粗暴な行為や相手チームの選手の安全を脅かす方法でのプレーであって、身体的接触が起こり得るプレーが一切許されないわけではない。」

とした上で、

「以上のことからすれば、サッカーにおいて、スライディングにより身体的接触があり、その結果負傷することも一定程度予想され得るものであること、原告において、被告による本件スライディングを予想することができ、本件スライディングから生じ得る危険を回避するための行動をとり得る状況にあったことは否定できないことからすれば、被告において、スライディングをしてはならないという状況、すなわち、スライディングを行ってはならないという結果回避義務を課すべき状況にあったとまでは認めるに足りない。」

と判示して、

「したがって、被告には、スライディングをしてはならないという結果回避義務を課すことはできないのであるから、本件スライディングが過失の不法行為であると認めることはできない。」

と結論づけ、原告の被告に対する本件スライディングを原因とする損害賠償請求を認めませんでした。

損害賠償請求が認められるか否かはケースバイケースである

サッカーの社会人リーグにおける試合中に左脛部を蹴られたことにより重傷を負った事例」で紹介した事故に関しては、加害選手に対する損害賠償請求が認められました。

本件とは、東京都社会人サッカーリーグに所属するチームの選手であることや、ほぼ同じ時期に発生した事故であること(上記事例は平成24年6月の事故であるのに対し、本件は平成25年3月の事故)、いずれも試合中の事故であること(なお、上記事例は公式戦であるのに対し、本件は練習試合でした)等が共通しています。

しかし、裁判所の判断は分かれ、本件については加害選手に対する損害賠償請求を認めませんでした。

このことは、事故状況によって損害賠償請求が認められるか否かが異なること、つまりケースバイケースであることを表しています。

そのため、「あの事故について損害賠償請求が認められたのであれば、自分が被害に遭った事故も損害賠償請求が認められる」と安易に考えてはなりません。

事故に関する具体的な状況を詳細に確認・検討した上で、加害選手に対する損害賠償請求が認められるか否かを慎重に検討することが大事だといえます。

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