遊んでいた小学生が転倒したゴールポストの下敷きになって負傷した事故

2020.05.22 スポーツ中の事故

千葉地方裁判所木更津支部平成7年9月26日判決

事案の概要

本件は、被告が設立した中学校の校庭にあった球技用ゴールポストで遊んでいた小学生の原告が転倒したゴールポストの下敷きになって傷害を負った事故につき、原告が国家賠償法2条1項に基づき、被告に対して損害賠償を求めた事案である。

本件ゴールポストは、前面の10センチメートル角の中空の鉄製と、その他の部分のL字型鋼の組み合わせによって骨格が作られ、前部の高さが2.1メートル、幅が3.2メートルで、その奥行が最上部で0.9メートル、地面に接する最下部で1.1メートルとなっている。

その重量は相当な重さで、小学校2年生の男子が力一杯後ろから押しても前方に向けて転倒するものではない。

本件ゴールポストはもともとハンドボール競技用のものであるが、岩根中学校では生徒のサッカー練習用ゴールポストとして利用していたが、本来のサッカー用ゴールポストより高さがなく、練習中のゴールキーパーがその中にいると頭を打つ等の危険があり、これを防止し本件ゴールポストの前で練習させるため、その前部にネットが取付けられていた。

前部に取付けられていたネットは前部上部の柱の左右の隅に紐で結ばれ、さらに右側の柱の下部にも紐で結ばれ、この三隅で固定されていた。

またそのネットの中央部分には、証拠保全の際には上部から下部にかけてかなり大きな楕円形の破れ目があるが、本件事故前は、その楕円形の破れ目が上部の方にしかなかった。

本件ゴールポストは校舎正面の校庭内のグラウンドの決まった場所に常時置かれ、サッカーの練習に使用されていたが、本件事故当時たまたまグランド使用上の都合から、本件事故の起きた校舎裏側の校庭に一時的に移動していたものであり、一時移動した本件事故現場の地面は当時丈の短い雑草が生え、多少の凸凹があったものの、土の校庭に通常見られる程度のものに過ぎず、ゴールポストの転倒を誘発するような状況にはなかった。

平成3年6月14日午後4時50分ころ、小学校2年生の原告は同級生のAと一緒に、岩根中学校の校庭を探検するため、本件事故当時同校の裏側に設置されていた金網フェンスの破れ目から校庭内に入り、校舎裏側の校庭に本件ゴールポストが置かれているのを見付けた。

Aが本件ゴールポストの中に入り、前面に吊り下げられていたネットの中央部の上部の破れ目に後ろ向きで頭を入れ、足を地面に付けた形で、ブランコをする要領で前後左右にネットを揺らし始め、一方原告も本件ゴールポストの中に入り、Aと同様にネットを上下に右側柱に固定している右隅辺り(本件ゴールポスト前部から見て)で、ネットに自らの体重を乗せて、前後に揺さぶるようにして、2人で遊んでいた。

原告とAが本件ゴールポストに固定していたネットを利用し、ブランコの様にして遊んでいたところ、ゴールポスト自体にもその衝撃が伝わり、次第に前後へ揺れ始めたが、さらに原告らはネットを前後に揺さぶる遊びを続けたため、ゴールポストの前後の揺れの振幅が大きくなり、その結果ゴールポストが前方に転倒し、右側の前部柱の側にいた原告がその柱の下敷きとなり、入院治療25日間を要する脳挫傷、頭蓋骨開放骨折等の傷害を負った。

裁判所の判断

裁判所は、

  • 本件事故現場に一時的に置かれていた本件ゴールポストは、相当の重量があり、その奥行が地面に接する最下部で1.1メートル、幅が3.2メートルで、コの字型に地面と接していたもので、かつその置かれた地面に右ゴールポストの転倒を誘発するような凹凸もなかったから、小学校2年生の男子2名が右ゴールポストに固定されたネットに寄り掛かる程度の遊びをしたとしても、右ゴールポストが転倒する状況になく、右ゴールポストが転倒したことによる本件事故の原因は、原告ら2名がゴールポストに固定してあったネットをブランコの様に2人の体重掛けて前後に繰り返し揺さぶって遊んだことにより、その衝撃がゴールポスト自体に伝わり、そのためその前後に対する揺れの振幅を大きくした結果、これを転倒させるに至ったものであると認められる。
  • また、本件ゴールポストは、本件事故前に一時的に本件事故現場に置かれたものであり、この現場で原告らと同様の行動を従前他にもしていたと認めるに足りる証拠はなく、また本来置いていたグランドでも、本件事故前に、本件ゴールポストに固定していたネッ卜をブランコの様にして遊んでいた者がいたと認めるに足りる証拠もない。

と事実認定をしました。

そして、裁判所は、

「本件ゴールポストを設置した被告は、その設置管理者として、本件事故現場に一時的に置いた右ゴールポストが、その置いた状況で本来の用法に従って安全であるべきことについての責任を負担することは当然であるとしても、国家賠償法2条1項の責任は原則としてこれをもって限度とすべきものである」

とした上で、

「本件事故は原告らが本件ゴールポストに固定されていたネットを利用してブランコの様にして遊ぶという行動の結果であり、本件ゴールポストの本来の用法と異なることはもちろん、設置管理者の通常予測し得ないものであったといえる。」

として、

「本件事故は、本件事故現場に一時的に置かれていた本件ゴールポストの安全性の欠如に起因するものではないから、被告が原告に対して国家賠償法2条1項所定の責任を負うものではない。」

と結論づけました。

営造物責任における瑕疵の判断基準とは

国家賠償法2条1項は

「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」

と規定しています。

この場合の損害賠償責任は、無過失責任であるとされています。

この国家賠償法2条1項の「公の営造物の設置の瑕疵」については、「設計の不備、粗悪など設計・建造等に不完全な点のあること」をいい、「管理の瑕疵」とは、「その後の維持、修繕や保管に落度のあること」をいうとされています。

その設置、管理に瑕疵があるか否かは、営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等を総合して判断すべきであると解されています(最高裁判所昭和53年7月4日判決)。

また、瑕疵の有無は、通常有すべき安全性、すなわち「通常の用法に即して、通常予想される危険性に対して安全性を欠くか否か」によって判断されることになります。

したがって、通常予測しえないような被害者の行動によって人身事故が発生したような場合には、瑕疵が否定されるということになります(最高裁昭和58年10月18日判決、最高裁判所昭和60年3月12日判決など)。

本判決も、これらのような判例理論に従って、負傷した小学生の通常予測しえないような行動によって人身事故が発生したとして、本件ゴールポストの瑕疵を否定しました。

本件の小学生と同じような立場にならないためにも、通常の用法に反するような行動や、通常予測し得ないような行動は厳に慎むべきだと思います。

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