ゴルフ場のコースにおいて次のホールへの歩道を歩行中に別の組でプレイしていた者の打球が直撃した事故

2018.11.15 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成18年7月24日判決

事案の概要

本件は、日曜日である平成12年10月1日の午前、本件ゴルフ場のコースにおいてキャディなしで2人でプレイしていた原告が、3番ホールを終え、4番ホールのティーグラウンドに行くために本件歩道を歩行していたところ、別の組で同コース5番ホールでプレイしていた被告の第2打の打球が原告の胸部中央右寄りを直撃した事故について、被告は、自己の打球の最大飛距離内に他の競技者がいることを確認し、少なくとも他の競技者の近くに打球が飛ばないように打球すべき注意義務があるのにこれを怠り、何の確認もせずに力いっぱい強打した過失により本件事故を生じさせたとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

本件ゴルフ場のコースの5番ホール(573ヤード)は、4番ホール(339ヤード)及び3番ホール(163ヤード)と隣接しており、3番ホールのグリーンを出て4番ホールのティーグラウンドに行くために本件歩道が設けられていました。

5番ホールのプレイ進行方向からみて右側は小高い丘となっていて多数の樹木が生育し、本件歩道はその丘の上部の林間を貫いており、本件歩道付近一帯はOBの区域でした。

被告が5番ホールの第2打を打った地点は、プレイ進行方向からみてフェアウェイを右側にはずれた位置にあり、原告が本件歩道を歩いていた地点に近づく位置関係にありました。

その間の正確な距離はおおよそ70ないし80メートル程度でした。

被告はキャディの合図後、第2打を強打しましたが、打球はねらった方向よりも右にそれ、原告を直撃しました。

被告は、第2打の際、打球の飛んだ方向に原告がいるのに気付いていませんでした。

原告は、本件事故当日及び翌日は痛みをこらえていましたが、痛みがひどくなったため、平成12年10月3日、かかりつけの病院で受診したところ、胸部のゴルフ球の当たった部分に跡が残っており、右肋軟骨骨折、頸椎症、頸椎捻挫、両腕神経症、右胸部挫創と診断されました。

裁判所の判断

被告の過失について

被告は、

「本件歩道は通常、プレーヤーが通行しないところであり、付近は樹木に覆われ、被告から見通すことができず、被告が人影に気付く可能性はなかったから被告に過失はない」

と主張しました。

これに対し、裁判所は

「本件歩道は3番ホールから4番ホールへ移動するために設けられた歩道であり、当日が一般に客の多い日曜日であったことからすれば、他の組の者が本件歩道を歩いていることは客観的に予想されたところであり、また、本件事故現場付近には樹木が生育していたが、被告が第2打の前に本件歩道方向を十分に確認すれば、原告がいるのを認識することができたものと認められるから、被告に本件事故の予見可能性がなかったということはできない。」

と予見可能性があることを前提に

「強打したゴルフ球が人に当たれば危険であることは自明であるから、ゴルフ場でプレイする者は、ゴルフ球を打つ際は、そうした危険が生じないように自己の技量に応じて打球の飛ぶ可能性のある範囲を十分に確認すべき義務がある。被告は、その第2打がねらいをはずれて本件歩道の方向に飛んでしまう危険性を認識することができたと認められるところ、周囲の安全確認を怠り、原告の存在に気付かずに、ねらった方向からそれた打球が原告を直撃したのであるから、被告には過失があるというべきである。」

と判断しました。

慰謝料について

裁判所は、原告の本件事故による負傷の程度、通院加療の経過(※本件事故当日から症状が固定した平成13年1月18日までは110日間である)を踏まえつつ、

  • 医師の原告に対する説明によると、ゴルフ球が当たった位置がたまたま肋軟骨の部位であったからよかったが、これが肋骨の部位であれば、折れた肋骨が肺を損傷して大事に至るおそれがあったこと
  • 原告は、高等学校のころからゴルフを続け、ハンディキャッププラス2となるなどアマチュアゴルファーとして有数の実力を有するに至り、原告にとってゴルフ競技を楽しみ、その技量を維持、向上させることは生き甲斐であったが、本件事故により長期間ゴルフの練習、競技を中断せざるを得ず、従前の実力を回復するに至らない状態となったこと
  • 原告は、株式会社Bの代表取締役として同社を経営していたが、同社は原告の個人企業であるため、本件事故により安静を指示され、通院治療するため業務に支障が生じ、焦燥、不安の精神的苦痛を受けたこと

が認められるとして、これらの事情を総合して考慮し、

「慰謝料の額は150万円と認めるのが相当である。」

と判断しました。

スポーツを楽しむことの価値が評価された裁判例

不法行為や債務不履行に基づく損害賠償を請求する際、その損害の1つとして、けがをしたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料を請求することになります。

この慰謝料がどのくらい認められることになるのか、慰謝料の相場がどのくらいなのかが気になるところだと思います。

裁判実務においては、交通事故によりけがをした場合の慰謝料が問題になった場合、いわゆる裁判基準(通称「赤本」)というものがあります。

裁判基準においては、けがの治療のために必要となった入院日数や通院日数に応じて慰謝料の金額が定められています。

また、通常は、赤本の「別表Ⅰ」を使用して慰謝料金額を算定することになります。ただし、傷害がむち打ち症で他覚症状がない場合には、赤本の「別表Ⅱ」を使用して慰謝料金額を算定するものとされています。

この別表Ⅰと別表Ⅱを比較した場合、別表Ⅰの方が金額が高く定められています。

本件では、被害者は右肋軟骨骨折、頸椎症、頸椎捻挫、両腕神経症、右胸部挫創のけがをしました。

この場合には別表Ⅰを参考にすることになります。

そして、被疑者は本件事故当日から症状が固定した平成13年1月18日までは110日の通院治療が必要でした。

これを前提とすると、裁判基準では、通院期間を4ヶ月としたとしても、90万円となります。

しかし、本件では、裁判所は、慰謝料算定の根拠として

「原告は、高等学校のころからゴルフを続け、ハンディキャッププラス2となるなどアマチュアゴルファーとして有数の実力を有するに至り、原告にとってゴルフ競技を楽しみ、その技量を維持、向上させることは生き甲斐であったが、本件事故により長期間ゴルフの練習、競技を中断せざるを得ず、従前の実力を回復するに至らない状態となったこと

を挙げ、その他の事情も考慮した上で、慰謝料を150万円としました。

このことは、裁判所が「スポーツを楽しむこと」に法律上保護すべき価値があることを認めたものと評価することができます。

大変参考になる裁判例だと思います。

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