ゴルフ場においてプレーヤーのバンカーショットの打球が当たりキャディーが失明した事故

2018.11.18 スポーツ中の事故

名古屋地方裁判所平成14年5月17日判決

事案の概要

本件は、ゴルフ場のキャディーをしていた原告が、競技者である被告が打った球が左眼球に当たって失明したとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

被告ほか3名は、本件ゴルフ場南コース4番ホールにおいて順次競技をし、グリーン周りに至り、被告を除く3名は、Aを最後に全員がグリーンに球を上げ終わり、グリーン内に設けられたバンカーに球を入れた被告のプレーを待つ態勢に入りました。

被告の球のあった地点は、バンカー中からもう少しピンよりで、ピンまでの距離は約13メートル、原告とBのいた位置まではピンに向かって右に約70度の角度の方向で距離は約11メートルであって、Bは、グリーン上の自球の位置にマークして球を拾い上げ、手に持っていました。

なお、Cは被告の位置からピンに向かって左斜め前方、Aは左真横の方向の、いずれもグリーンの端付近に立っていました。

上記バンカーは、一番低い地点からグリーンまでの深さが約1.29メートルあり、被告の球は同地点からややピンに近い、上り斜面の途中にありました。

そのため、右利きの被告としては、左足と左肩が上がった状態で打つことになり、バンカーの切り立った斜面が間近にある上に、ピンまでの距離が目測で数メートルに思われ、強く打ちすぎると球がグリーンを超えてしまう恐れがあると思われました。

そこで被告は、軽く打ってピンの手前に球を落とし、ピンの方向へ転がせようと考え、何度もピンの方向と足場等を見比べ、足場が悪いので普段より慎重に足場を固め、サンドウェッジのクラブを持って打つ態勢に入りました。

そのとき、被告は、背後にいるAは見えず、左斜め後ろにいるCが自分の方を見ていることには気づいていましたが、Bが自分の方を見ているかどうかは気づいておらず、原告の位置については特に意識していませんでした。

被告は、Cが自分の方を見ていることや、同人を含む他の競技者らの位置関係から、自己の打球によって他者に危険が生じるとは思わず、特に声や動作によって注意を与えることもなく、球を打ったところ、思いがけず球が右にほぼ直角に近い方向へかなり高速で飛び出したため、とっさに球の行方を目で追いましたが、一瞬のうちに球は原告に衝突していました。

被告が打球動作に入る前、原告は、グリーンから離れた位置にカートを置き、Bの位置が他の2名より被告から遠く、場所からいっても球が飛んでくる確率が低いと判断して、グリーンの外周沿いに、Bに近づいて行きました。

原告がBに近づきながら被告の方を見ると、被告はバンカー内で打つためのスタンスを考えているところに見えたので、原告は、被告が実際に球を打つまでにはまだ時間があるものと判断し、被告から目を離してBに近づき、「ボールをお拭きします」と言って手を差し出して球を受け取りました。

その直後、被告の打った球が飛来し、原告が全くよける動作をする間もなく、左眼に衝突しました。

裁判所の判断

被告の過失について

裁判所はゴルフにおける注意義務に関して

「ゴルフ競技においては、使用される球の性質上、競技者の打った球が他の者に当たった場合、重大な傷害を負わせるおそれがあることは明らかであるから、競技者が球を打つ場合は、四囲の状況、殊に飛球の方向や距離から推測して、同伴競技者等に当たらないように十分注意を払う義務がある。」

「一方、ゴルフ競技は、複数の競技者相互間で規則や礼儀を守ることを前提に、互いの信頼関係の上に立って行うスポーツ競技であるのだから、ある競技者が打球動作に入る場合は、他の競技者においても、その妨害となる行為を行わないようにすることはもちろん、自らも飛球衝突事故を回避するよう十分注意を払う義務があるというべきである。」

と競技者だけでなく同伴者の注意義務の内容を指摘しました。

そして、裁判所は、

「競技者が飛球衝突事故回避のために払うべき注意義務は、競技者と同行するキャディーに対しても同様であるし、逆にキャディーは、競技者の補助や介添えを行うという職務上からも、自分自身はもちろん、他の競技者等のためにも事故が起きないよう、十分に注意を払う義務があるものと解すべきである。」

とキャディーに対する注意義務とキャディーが負うべき注意義務の内容を指摘しました。

その上で、本件事故についての被告の過失の有無について

「被告は、グリーン直前の深いバンカー内の傾斜して足場の悪い位置から、眼前の急斜面を飛び超えて十数メートル先のピンに寄せるという、相当困難な条件下に球を打たなければならなかったものであるから、球が正確にクラブに当たらず、シャンクその他の不規則な飛び方をするおそれが通常より相当高かったものといえる。

しかも、他の競技者らは既にグリーン上に球を乗せ、グリーン周りの比較的近い位置に集まって来ていたのであるから、このような場合、事故の起きる可能性はより高く、それだけに被告としては、他の競技者や原告の動静に普段以上に十分な注意を払い、後方など完全に安全な位置にいるか、あるいは飛球を避けられる程度の位置・距離にいて打球動作を注視しているかを確認し、もし少しでも不安が残る時には、声をかけるなどして自分が球を打つことに注意を喚起する義務があったものというべきである。

ところが、被告は、左真横(打球姿勢をとった場合の背後)にいたA、左斜め前方(同じく斜め後ろ)で被告を注視していたCはともかく、右真横からやや前方にいたBについては、被告を注視しているかを確認しておらず、Bとほぼ同じ位置にいた原告については意識におくことすらないまま、球を打ったものであるから、上記のような注意義務に違反したものといわざるを得ない。」

として、

「被告は、本件事故につき過失による不法行為責任を免れない。」

と判断しました。

過失相殺について

他方で、原告について

「一般に、あるゴルフ場に所属して経験の豊富なキャディーは、そのゴルフコースに不慣れな競技者に比して、当該ゴルフ場のコースに精通しており、それだけに、事故発生の可能性が大きい競技の局面を見極め、自らそれを回避するよう務める余地が大きいものといえる。

したがって、競技者としては、キャディーが第一次的には自己の判断で危険を回避するための適切な動作をするものと予想することも、あながち不当とはいえない。」

とした上で、

「本件においても、原告は、本件ゴルフ場におけるキャディーとしての経験も3年以上あり、ゴルフ競技者としての経験も約15年間あったものであるから、本件事故発生直前の被告のおかれた競技条件の困難さ、それに起因する不規則な飛球による事故発生の危険性等の諸事情については、十分窺い知ることができたものと推認される。そして、原告は、キャディーとしての職務上、一般競技者以上に、事故、とりわけ自分自身被害者になる(その反面、競技者を加害者にする)ような事故の発生回避には十分注意を払うべき立場にあったものといえ、実際にもそれが不可能であったとは認められない。

ところが、原告は、まだ被告の球がグリーンに乗っていないのに、これを注視することなく、被告の位置からピンに向かって右に約70度の角度で、距離約11メートルの地点において待機していたBに近づき、とりわけ急ぐとも思えない球を拭くサービスをしようとした点で、キャディーとしての本来の職務の見地から、不注意であったといわざるを得ない。

そして、原告が被告の打球動作から目を離していなかったとしたら、本件事故は回避できたと推認されるから、原告の不注意が本件事故の一因となったものであることは否定できない。」

として、

「本件事故の発生については原告にも過失があり、その過失割合は相当に高いものと認めざるを得ない。」

と指摘しました。

そして、裁判所は、被告及び原告の各注意義務違反の程度・態様その他の諸事情を総合考慮して、

「原告の過失割合を5割として損害額を算定することが相当であると認める」

と判断しました。

被害者がキャディーであることの特殊性

本件事故の被害者は同行していたキャディーでした。

裁判所も指摘しているように、キャディーは競技者の補助や介添えを行うという職務上から、自分自身はもちろん、他の競技者等のためにも事故が起きないよう、十分に注意を払う義務がありますし、実際にその義務を履行していることでしょう。

その意味では、キャディーが被害者になるということ自体が特殊な事故だといえるでしょう。

しかし、被害者が同行中のプレイヤーであれ、また別の組のプレイヤーであれ、競技者が第三者に打球が当たらないように十分に注意する義務があり、その第三者にはキャディーも含まれることは当然のことといえます。

「キャディーだからちゃんと注意して見ているはずだ」という思い込みで確認もしないままだと思わぬ損害賠償責任を負うことになりかねません。

一打ごとに十分な安全確認を行うことをルーティンにすることが大切だといえるでしょう。

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