ゴルフ教室の受講生が他の受講生の所定の場所以外でのクラブ・スイングにより傷害を負った事故

2019.12.02 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成2年9月19日判決

事案の概要

本件は、原告Xが被告Y4の経営するゴルフ場で開催されていた被告Y1主催のゴルフ教室を受講し、Y3の指導の下にレッスンを受けていたところ、同じく受講生であるY2の振ったクラブを項部に当てられ、項部挫傷・頚椎症の傷害を負い、入通院を余儀なくされ、後遺症も残る状態となった事故について、直接の加害者であるY2(民法709条)、ゴルフ教室講師であるY3(同709条)、ゴルフ教室を経営していたY4(同415条・715条)、ゴルフ場を経営していたY1(同415条・715条)に対して、損害賠償を請求した事案です。

※以下では現場図面を参照しながら読んでいただけると理解しやすいと思います。

原告Xは、昭和60年10月28日、Kカントリークラブ付設ゴルフ練習場二階練習打席(別紙現場図面③)において、被告Y2はその隣接打席(別紙現場図面④)において、それぞれ1番ウッド(ドライバー)の練習をしていました。

本件ゴルフ練習場二階打席における各打席は、グリーンに面して、幅員2.6メートル、奥行2.5メートルであり、その各打席間は黄色の線で画され、その中に幅員約1メートル、奥行約2.5メートルの歩径路マット、幅員約0.6メートル、奥行約1.25メートルの打席マット、幅員約0.25メートル、奥行約0.75メートルのアイアンマット、幅員約0.5メートル、奥行約1メートルのティマットの順に並べられていました。

右ティマット上には、端で同マットに固定されている長さ約0.25メートルの、ゴム製のゴルフティが設けられていました。

そして、練習者は、通路から自分の歩径路マットを経て、打席に入り、アイアンマット又はティマットにゴルフボールを置いて、クラブを振って練習することとなっており、所定の打席で練習する限り、クラブが他人に触れることはない構造となっていました。

原告Xと被告Y2が練習していた際、練習場通路(別紙図面「通路」)を巡回指導中の被告Y3が、原告Xのフォームを矯正すべく被告Y3自らフォームを示して指導するため、原告X打席(別紙現場図面③)に入り、原告Xから同人所持のウッドクラブを受け取り、原告Xを被告Y3と向き合う形で、原告X打席ティマット上(同図面②)にゴルフティを跨ぐ格好で立たせて、身体のひねり、クラブフェイスの被り等の手本を示していました。

当時、被告Y2は、練習打席を離れ、歩径路マット上(別紙現場図面①の位置)において原告X等の方を向きながら、被告Y3の説明を聞いていました。

その後、被告Y3が、原告Xの足元にあるゴルフティ上にゴルフボールを乗せ、ウッドクラブでこれを軽く打ちました。

その直後、被告Y2の振り回したウッドクラブのヘッド部分が、原告Xの項部に当たり、原告Xは、同人と被告Y2の各打席の間にある被告Y2側の歩径路マット上(別紙現場図面⑤付近の位置)に倒れ込みました。

本件事故は、別紙現場図面①の位置で、被告Y3の原告Xに対する指導を聞いていた被告Y2が、その場でその指導を実践してみようとして、原告Xらと反対方向に振り向きざまクラブを軽く振ったところ、そのクラブヘッドが、丁度その時、原告Xの足元のゴルフボールを打つために振り降ろされた被告Y3のスイングに驚いて、同図面⑤付近に後退りした原告Xの項部に当たって発生したものと認定されました。

裁判所の判断

被告Y2の責任

裁判所は、

「ゴルフ練習場においては、他人にクラブやボールが当たることを避けるため、練習者は、所定の打席でクラブのスイングをすべき義務があるところ、被告Y2は、右のとおり、所定の打席ではなく、歩径路マットの上でクラブを振ったものである。」

とし、また

「そして、当時、被告Y2は、原告Xが別紙現場図面②付近にいることを認識していたものと推認されるところ、このような場所にある原告Xが数歩程度被告Y2の歩経路マットに進入してくることを想定し、歩径路マット上でクラブのスイングをする場合には、数歩原告Xが後退してきても同人と接触することのない場所及び方法でクラブのスイングをすべき義務があったところ、漫然と歩径路マットの上でドライバーをスウィングしたため、そのドライバーのヘッドが原告Xの頸部に当たったものである。」

として、

「本件事故は、被告Y2の右のような過失によって惹起されたものと言わねばならない。」

と判断しました。

被告Y3の責任

裁判所は、

「被告Y3は、被告Y1主催のゴルフ教室の講師であり、同教室受講者全員の生命・身体を損なうことのないよう各受講者の資質・能力・受講目的に応じた適切な手段・方法で指導をなすべき注意義務を負っている。」

とした上で、

「しかるに、被告Y3は、原告Xを指導するに当たり、原告Xが他人の打席に入り込んで他人の振るクラブや、打ったボールに当たることがないように配慮して、指導を受ける位置を指示すべき義務があるのに、危険性の伴う被告Y2側の歩径路マットの近く(別紙現場図面②)に立つように指示しており、原告Xがこの位置にいなければ本件事故は回避されたと推認されるので、被告Y3には、不適切な指示をしたという過失がある。」

と判断しました。

また、裁判所は、

「原告Xの足元のゴルフティにゴルフボールを置き、そのボールをドライバーで打つと、原告Xが恐怖のため数歩被告Y2側の歩径路マット上に後退りすることを想定すべきであり、そのような場所に立たせたまま、ドライバーを振ってはならない義務があるのに、被告Y3は、漫然と、原告Xをその場所(別紙現場図面②)に立たせたまま、ドライバーでゴルフティ上のゴルフボールを打った過失があり、その結果、原告Xが後退りして本件自己が発生したものであるので、被告Y3に本件 故につき過失があると言わねばならない。」

とも判断しました。

なお、裁判所は、

「確かに、被告Y2が所定の打席で通常のスイングをしていたのであれば、本件事故の発生はなかったものと推認され、本件事故は、偶々被告Y2が所定の打席でない位置でクラブを振ったという過失が重なって発生したものである

と一定の理解を示しつつも、

「ゴルフ練習場では、他人の歩径路マット上に侵入すること自体が危険な行為であり、被告Y3がゴルフ練習の指導者として、そのような事情を十分認識し、そのような事態を発生させないよう指導すべき立場にあったことを考慮すると、本件事故が被告Y2の前記した過失と競合して発生したものとしても、被告Y3に事故発生についての責任を認めざるを得ない。」

とも判断しました。

被告Y1の責任

  • 被告Y3が、被告Y1主催のゴルフ教室の講師として、同教室の受講者の指導をしていたこと
  • 本件事故が右ゴルフ教室の講習中に、その講習の指導に当たっていた被告Y3の過失により発生したこと

から、裁判所は

「被告Y1は、被告Y3の行為につき、民法715条の使用者としての責任を負うものと言わねばならない。」

と判断しました。

なお、

  • 被告Y3は、本件事故当時、被告Y4が経営するKカントリークラブに雇用され、同クラブから給与の支払を受けていたこと
  • 被告Y1は受講生を募集して、同クラブ練習場に受講生を送り込むことだけを業務内容とし、その後の受講生の指導は、同クラブに全て委ねられていること

が認められるとしましたが、裁判所は

「そのような事情の下でも、被告Y3は、被告Y1の行う講習会の実施に当たる被用者の立場にあるものとして、被告Y1も使用者としての責任を負うものと言うべきである。」

として、被告Y1の使用者責任を認めました。

被告Y4の責任

  • 被告Y3が、被告Y4経営のKカントリークラブに雇用されたものであること
  • 同クラブが被告Y1からの委託を受けた講習実施中に、被告Y3の過失により本件事故が発生したこと

から、裁判所は

「被告Y4も、被告Y3の行為につき、民法715条の使用者としての責任を負うものと言うべきである。」

と判示しました。

周囲の安全を十分に確認するという基本

ゴルフにおける事故で多いのは、打球が第三者に当たって負傷させてしまうというケースです。

ゴルフコースで被告が打った球が同伴競技者の左眼に直撃して後遺症が残った事例

ゴルフプレーヤーの打球が同組の他のプレーヤーに当たり受傷させた場合のキャディ及びゴルフ場運営会社の責任

ゴルフ場のコースにおいて次のホールへの歩道を歩行中に別の組でプレイしていた者の打球が直撃した事故

ゴルフ場においてプレーヤーのバンカーショットの打球が当たりキャディーが失明した事故

これに対し、本件は、スイングしたゴルフクラブが第三者に当たって負傷させたというケースです。

ゴルフに限らず、野球やソフトボールであればバットを、テニスやバドミントンであればラケットを、剣道であれば竹刀を振る場合には、周囲に人がいないかを確認したり、近くに人がいる場合にはその人に対して注意喚起したり自ら距離を置いたりして、第三者に当たらないようにするのが基本です。

この基本的なことをないがしろにしてしまうと、事故が起きてしまいます。

今年(2019年)は、全英女子オープンで日本勢42年ぶり、男女を通じて日本人史上2人目の海外メジャーを制覇したり、賞金女王争いが熾烈になり最終戦までもつれるなど、女子ゴルフが盛り上がった1年となりました。

これを機に、ゴルフブームが再燃したり、お子さんにゴルフを習わせようとする方もいらっしゃるかもしれません。

だからこそ、周囲の安全を十分に確認するという基本を常に念頭において、事故を未然に防ぐようにしていただければと思います。

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