ゴルフのラウンド中に同伴プレーヤーに打球を衝突させて脳挫傷等の傷害を負わせた事故

2019.12.19 スポーツ中の事故

大阪地方裁判所平成17年2月14日判決

事案の概要

本件は、原告と被告とがゴルフのラウンド中に、原告が前方に立っていたにもかかわらず被告が漫然とショットをし、しかも、ボールが原告の立っている方向に飛んだにもかかわらず原告に対して大声を掛けるなどの危険を知らせる措置をとらなかったため、ボールが原告の頭部に当たり、原告が脳挫傷等の傷害を負ったとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

原告は、平成12年11月23日、被告、Aとともに、兵庫県宝塚市所在の本件ゴルフ場において、ゴルフのラウンドを行いました。

原告らの組には、キャディーとして、Bが付いていました。

原告の本件事故当時のゴルフ歴は約38年で、ハンディキャップは16でした。

被告の本件事故当時のゴルフ歴は約54年で、ハンディキャップは21であり、9番ウッドでショットをすると130ヤード程度の距離を飛ばすことができました。

原告と被告とは極めて多数回にわたって一緒にラウンドをしたことがあり、お互いの技量(どの場面で何番のクラブを使うのを好むか、ドライバーで何ヤードくらいの距離を飛ばすことができるのか、ミスショットが多いか少ないかなど)や競技進行の速さなどをよく理解していました。

本件ゴルフ場の新コース第11番ホールにおいて被告が第2打のショットをしたところ、被告のボールが右前方に飛び、被告の右前方に立っていた原告の左前側頭部を直撃した。

原告は、体と顔をグリーンと本件ショット地点の中間に向けた体勢で被告が第2打のショットをするのを見ていました。

本件ショット地点から原告が立っていた地点までの距離は約43.5メートルでした。

被告が本件ショットをした際、被告は、ボールを上から見ることはできましたが、深い草がグリーンとは反対方向を向いてボールに覆い被さっており、傾斜はつま先上がりでした。

被告は、本件ショットによってボールをグリーンに乗せようと考え、原告が被告の方を見ているのを確認したうえで、9番ウッドで思い切りショットをしたところ、ボールが右曲がりの弧を描いて原告の方向に飛び、原告の左前側頭部に当たりました。

その間わずか数秒でした。

原告は、立っていた地点から、本件ショットの瞬間まで被告の足下にあるボールの方向を見ていましたが、被告が本件ショットをした直後には逆光のためボールの行方を見失いました。

被告は、原告にボールが当たったのを認めるや、クラブを右手に持ち替え、大声を上げながら、原告の方に向かって走って行きました。

原告は、本件事故により、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、失語症、けいれん発作、てんかんの傷害を負い、同日から同年12月28日まで36日間の入院加療を受け、その後平成14年3月19日まで通院加療を受けました。

原告の本件事故による後遺障害の程度は、局部に頑固な神経症状(左側頭部違和感、耳鳴り等)を残し、かつ、外傷性てんかんで、投薬の継続により完全に発作が抑えられるものであって、自動車損害賠償保障法施行令別表第二(後遺障害別等級表)9級(「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」)に該当するものでした。

裁判所の判断

被告の注意義務違反について

裁判所は、

「一般に、ゴルフプレーにおいて、ショットをしようとする者は、まず同伴プレーヤーが自己の前方にいるか否かを確かめる義務を負うのは当然として、仮にいることを認めた場合には、自己と同伴プレーヤーとの間の距離、自己のボールの飛距離に鑑み、

①自己と同伴プレーヤーとの距離が離れていて、自己のボールが同伴プレーヤーの方向に飛んで行ったとしても、同伴プレーヤーがボールの行方を見ていさえすればボールの衝突を回避できる距離にいる場合には、自己がボールを打つところを同伴プレーヤーが見ていることを確認する義務を負うにとどまるが、

②自己と同伴プレーヤーとの距離が近く、自己のボールが同伴プレーヤーの方向に飛んで行ったならば、同伴プレーヤーがボールの行方を見ていたとしてもボールの衝突を回避できない可能性がある距離にいる場合には、同伴プレーヤーを安全な場所まで下がらせる義務があるというべきである。

そして、ミスショットの可能性、それによってボールが同伴プレーヤーの方向に飛ぶ可能性が否定できない場合には、それに応じて、この義務が加重されるというべきである。

また、ショットをした者は、③ボールが同伴プレーヤーに当たるまでの間に、「ファー」などの大声を掛けて警告を発すれば、警告を聞いてボールの飛来に気付いた同伴プレーヤーがボールの衝突を回避できる可能性がある場合には、自己のボールが同伴プレーヤーの方に向かって飛ぶとすぐに、「ファー」などの大声を掛けて警告を発する義務を負うというべきである。」

との注意義務の内容を具体的に示しました。

その上で、裁判所は、本件について

  • 本件ショットの際の被告のボールの状態は、深い草がグリーンとは反対の方向を向いてボールに覆い被さっており、打ちやすい状態とはいえないものであったのであるから、フェアウェイ上でボールを打つ場合と比べるとミスショットをする可能性が高かったこと
  • ミスショットをした場合には、被告から右側のかなり前方に原告が立っていたのであるから、原告のいる方向にボールが飛ぶ可能性も十分あったこと
  • 被告は9番ウッドでショットをすると130ヤード程度の距離を飛ばすことができたのであるから、被告が思いきり打ったボールがミスショットであった場合には、本件ショット地点から約43.5メートルしか離れていない原告が立っていた地点までボールが飛ぶ可能性は十分あること
  • ボールがフライ性の飛球とならずに飛んだ場合には約43.5メートル先の原告のところまでわずか2、3秒で到達しうること
  • ショットをしてからわずか2、3秒で衝突するボールは、たとえ原告においてその行方を目で追うことができていたとしても、衝突を回避できない場合も十分ありうること

からすると

「被告には、原告を安全な場所まで下がらせる義務があったというべきであり、これを怠って、原告を安全な場所まで下がらせないまま、漫然と本件ショットをした被告には過失があるというべきである。」

と判示しました。

なお、裁判所は、被告が、ボールが原告に当たる前に「ファー」などの大声を掛けて警告を発するということはしていない点について

「被告が本件ショットをしてからわずか数秒後にボールが原告に当たったことからすると、たとえ被告が警告を発したとしても、警告を聞いた原告がボールの飛来に気付いてボールの衝突を回避できた可能性はなかったというべきであるから、このような事実関係のもとでは、「ファー」などの大声を掛けて警告を発しなかったことが被告の過失になることはないというべきである。」

と判示しました。

過失相殺について

裁判所は、

  • 原告は、被告の本件ショットを見ていたこと
  • 原告は、被告と何度も一緒にラウンドをしたことがあり、被告がどの場面で何番のクラブを好んで使うのか、ドライバーで何ヤード飛ばすことができるのか等をよく知っていたのであるから、被告が本件ショットの際にグリーンに乗せるつもりでウッドを用いてボールを強打することは十分に予測可能であった
  • 原告の供述によると、原告が立っていた場所からは被告が本件ショットをしようとしているボールが見えたというのであり、そうであるとすると、そのボールに対して深い草が覆い被さっている状態も見えていたはずである。

とした上で、

  • ゴルフプレーにおいては、いかに上手なプレーヤーでも、まれにミスショットをすることがあり、特に深い草がボールに覆い被さっている状態ではミスショットをする可能性が高くなること
  • ミスショットをした場合には、ショットをした者よりも前方(厳密にいえば、後方に飛ぶことも皆無とはいえない。)であれば、いかなる方向にもボールが飛ぶ可能性があること
  • 被告がウッドでショットをした場合の飛距離を考えると、被告が思いきりショットをした場合には、ボールが原告の立っている地点まで飛んでくる可能性は十分あること
  • ボールが原告の方向に飛んできた場合には、最速でわずか数秒の間に原告の立っている地点まで到達しうること
  • たとえ、原告が被告の本件ショットをする動きを注視していたとしても、わずか数秒で到達し、しかも、スライス回転がかかっていて飛球の方向が正確に予測できないような場合には、衝突するボールを回避できない場合もあること

などを原告は十分に予測できたというべきであるとして、

「このように、原告の立っていた場所は危険な場所であり、原告はその危険を認識しつつあえてショットをする被告よりも前に出ていたのであるから、原告の過失は大きいといわざるを得ない。」

と判示しました。

加えて、裁判所は

「一般に、ゴルフプレーにおいて、同伴プレーヤーがショットをする者よりも前に出てはならないことは基本的なマナーとされており、それに対する被告、ひいてはプレーヤー全体の信頼をも保護すべき」

として、

「被告の賠償すべき損害の額を算定するにあたっては、6割の過失相殺をするのが相当である。」

と判断しました。

技術を身につけることと同時にマナーを身につけることも大事

今年(2019年)は、渋野日向子選手が全英女子オープンで日本勢42年ぶり、男女を通じて日本人史上2人目の海外メジャーを制覇したことで、女子ゴルフが大いに盛り上がった1年となりました。

これを機に、お子さんにゴルフを習わせようとする方もいらっしゃることでしょう。

しかし、技術面にばかり考えが及んでしまい、紳士淑女のスポーツと呼ばれるゆえんともいうべきゴルフのルールやマナーをないがしろにしてしまっては意味がありません。

ルールやマナーを守ることは自分自身の身を守ることにもつながります。

このような基本的なことを忘れないことが大事だと思います。

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