隣接コースのゴルファーの打球によりキャディーが受傷した場合のゴルフ場会社の責任

2020.06.05 スポーツ中の事故

横浜地方裁判所平成4年8月21日判決

事案の概要

本件は、原告が昭和63年6月15日、被告会社の経営する本件ゴルフ場の相模コース9番ホール(以下「相模9番」といいます。)においてキャディーとして勤務中、被告Yが同ゴルフ場の城山コース1番ホール(以下「城山1番」といいます。)ティーグランドから打ったゴルフボールを前頭部に受け、頭部挫傷の傷害を負った事故について、

  1. 本件ゴルフ場の城山1番は、ティーグランドからの打球が左側に隣接する相模9番に飛び込みやすい構造になっており、実際にもしばしば相模9番にボールが打ち込まれ、キャディーが負傷するといった事故が生じていた。したがって、本件ゴルフ場を設置及び管理する被告会社としては、城山1番からの打球が相模9番のプレーヤーやキャディーに衝突するのを防止するために相模9番に防護柵を設ける等の必要な措置をとるべき義務があるのに、これを怠り、その結果、本件事故を生じさせたものであるから、民法717条に基づき、本件事故によって生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。
  2. 被告Yは、完全に自己の打球をコントロールする技量がないから、城山1番でティーショットをするにあたっては、打球の届く範囲内に人がいないことを確認し、あるいは、打球のコントロールの容易なクラブを用いるなどして、隣接の相模9番にいるプレーヤーやキャディーに打球を衝突させることのないようにすべき注意義務があるのに、これを怠り、相模9番のプレーヤーやキャディーの動向に注意を払うことなく、クラブの中で最も打球の方向性のコントロールの難しいドライバーを用いてボールを打った過失により、打球を相模9番にいた原告に衝突させて本件事故を生じさせたものであるから、民法709条に基づき、本件事故によって生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。

として、損害賠償を求めた事案です。

本件ゴルフ場は、愛川コース、相模コース、城山コースの3コースに分かれ、それぞれ1番ホールからスタートして9番ホールで次のコースの1番ホールに続くように作られていました。

城山1番は、左ドッグレッグ、距離355メートル、パー4のミドルホールでした。

左側に相模9番があり、両ホールは、城山1番が左に曲がる位置に相模9番が張り出すような形で接しており、両ホールの間には高さ5ないし6メートルの樹木が植えられていました。

この樹木のため、城山1番のティーグランドから相模9番のフェアウェイを見通すことはできませんでしたし、相模9番のフェアウェイから城山1番のティーグランドを見通すこともできませんでした。

城山1番のティーグランドは、打ち下ろしになっているため、城山1番のフェアウェイは相模9番のフェアウェイよりも約7ないし10メートル低くなっていました。

本件事故発生地点は、城山1番のティーグランドからはやや打ち上げるような位置にありました。

城山1番のティーグランド右前方には山林があり、そこはアウト・バウンズ(OB)とされ、相模9番との間の樹木の中に打球が入った場合は1打付加とされていました。

城山1番でティーショットをするプレーヤーは、右前方がOBであるため、そこを避けようとして左に打球を飛ばし、しばしば相模9番のフェアウェイにまで打ち込んでおり、昭和53年には樹木の中でボールを探していたキャディーが城山1番からの打球で手首を骨折し、昭和57年7月にも相模9番の高麗グリーン脇のカー卜道でキャディーが城山1番からの打球を顔面に受けて唇を切り、歯を折る怪我をしていました。

こうしたことから、キャディーの間では、相模9番は本件ゴルフ場の中で最も危険な場所の1つとみられていましたが、被告会社は、本件事故前にはコースのレイアウトの変更、防護柵の設置といった効果的な事故防止対策を何も講じませんでした。

被告Yは、1ラウンドの平均スコア100前後の技量でした。

事故当日は、相模コースからスタートし、相模9番を終わって城山1番のティーグランドに移りましたが、城山1番でティーショットをする際には、左側に隣接して相模9番があることは知っていました。

しかし、自己の技量からすれば、打球がそこに飛ぶことはないと思い、フェアウェイの中心を狙ってドライバーでボールを打ったところ、打球がフェアウェイのやや左側に高く上がり、途中から左にフックして相模9番のフェアウェイに向かったことに気がつき、その段階で、「ファー」と声をあげて周囲に警告しました。

一方、原告は、相模9番のプレーヤーがティーショットを打ち終えて第2打地点に到達したので、その場でプレーヤーに第2打用のクラブを渡し、城山1番との間に生えている樹木に沿ったコンクリートのカート道に戻りました。

その時に「ファー」という声を聞き、その直後に城山1番の方向から飛来した被告Yの打球を前額部に受け、頭部挫傷の傷害を負いました。

裁判所の判断

被告会社の責任

裁判所は、

「本件ゴルフ場は、城山1番からの打球が相模9番に飛び込みやすい構造になっており、本件事故前にもその打球のためにキャディーが負傷したこともあったのに、被告会社は、本件事故が生ずるまでコースのレイアウトの変更、防護柵の設置といった効果的な事故防止措置を何もとらなかったのであるから、被告会社の本件ゴルフ場の設置及び管理には瑕疵があるというべきである。」

とし、本件事故はその瑕疵が原因で生じたものであるとして、

「被告会社は、本件事故によって生じた原告の損害を賠償すベき義務がある。」

と判示しました。

被告Yの責任

裁判所は、

「被告Yは、城山1番でティーショットをする際には、相模9番のフェアウェイを見通すことはできなかったが、左側に隣接して相模9番があることは知っており、そこに打球が飛べばプレーヤーやキャディーに打球があたるおそれのあることは容易に知り得たのであるから、技量に応じたクラブの選択をするなどしてそこに打球が飛ばないようにする義務があるのに、漫然と自己の技量を過信して、クラブの中では最も打球のコントロールの難しいドライバーをもってティーショットをしたために、本件事故を生じさせたものである。」

として、

「過失による不法行為者として、本件事故によって生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。」

と判示しました。

これに対して、被告Yは、

「原告は打球の衝突する危険の大きいキャディーの業務に就いていたのであるから、打球の衝突による本件事故を容認していた」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

  • 相手に向かってボールを投げたり打ったりする野球、テニス等の球技のように競技それ自体が一定の危険を内包し、その競技をする限りにおいてはこれを避けることができないような場合には、その競技に応じることによってその競技から生ずる通常の危険を容認したとみることはできるであろうが、ゴルフ競技の場合は、相手と対向してボールを打ち合うわけではなく、静止しているボールを打つだけであるから、その競技自体は何ら他人に危険を及ぼす性質のものではない。
  • ゴルフが危険であるとされるのは、打球のコントロールが難しい競技であるのに、打球の及ぶ範囲内に人がいるのにこれに気が付かなかったり、気付いていても技量を過信したり、危険を無視したりして打つからであり、打球の及ぶ範囲内に人がいないことを確かめ、あるいは、人のいる方向へ打球が飛ぶおそれがある場合には、打球をコントロールすることができる限度でボールを打つようにすれば危険はないはずである。

とした上で、

「一般にゴルフという競技がこのような注意を払わないでボールを打ち、他人に怪我をさせることまで容認しているとはいえないし、また原告がゴルフ場のキャディーであるがゆえにその打球で怪我をすることまで容認していたとみることもできない」

として、被告Yの主張を排斥しました。

過失相殺

被告らは、

「原告には被告Yの打球を避けられるのに避けなかった過失があるから過失相殺すべきである」

と主張しました。

しかし、裁判所は、

「本件事故時に原告のいた場所は、城山1番と相模9番の間の樹木のすぐ近くであって、たとえ城山1番からの警告を聞いたとしても、その樹木の間かあるいは上から突然高速で飛び出してくる打球を発見してこれを避けることは不可能である」

として、被告らの主張を排斥し、過失相殺を認定しませんでした。

ゴルフコースは土地の工作物である

本件では、ゴルフ場会社の土地工作物責任(民法717条)が問題となりました。

一般に、ゴルフコースは土地の工作物であると解されていますので、コースの設置管理に瑕疵があるとき、ゴルフ場会社は民法717条の工作物責任を負うことになります。

本件の裁判例以外にも、ゴルフ場会社の損害賠償責任が認められたケースがあります。

特に本件では、それ以前にもキャディーの受傷事故が発生していたにもかかわらず、コースのレイアウトの変更や防護柵の設置といった事故防止措置が何もとられていませんでした。

諸般の事情により、打球の衝突事故が発生したにもかかわらずコースのレイアウトの変更などの事故防止措置をとっていないゴルフ場は他にも存在するのではないかと考えられます。

そのため、打球を当てたプレーヤーだけの責任ではなく、ゴルフ場会社の責任を問うべきケースも少なからず存在すると考えられます。

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