市立中学校ハンドボール部員が練習中に熱中症により死亡した事故についての顧問教諭及び校長の過失

2018.12.14 熱中症・自然災害

名古屋地方裁判所一宮支部平成19年9月26日判決

事案の概要

本件は、Aの両親とAの弟である原告らが、Aが、平成16年7月27日午前11時30分ころ、一宮市立甲中学校のグラウンドにおいて、ハンドボール部男子女子合同の夏期練習中に熱中症により倒れ、同年8月26日午後2時34分、一宮市立市民病院において、熱射病を原因とする多臓器不全により死亡したのは、甲中のハンドボール部顧問の教師であるY1教諭、Y2教諭、Y3教諭及びZ校長に過失があったからであるとして、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を求めた事案です。

Aのポジションはゴールキーパーであり、その体型は、平成16年5月当時、身長176.6センチメートル、体重86.2キログラム、BMIによる肥満度は27.639であり、BMIによる肥満度の判定表によれば、四段階の肥満度のうち肥満一度と位置づけられる肥満でした。

また、Aは、おとなしく、静かで、真面目で手抜きをすることができないような性格で、練習にはあまり文句も言わず、他の生徒の中には、そのような生徒も見られたにもかかわらず、30分間走で走るときも先生の見ていないところでは手を抜いて歩くというようなことはしませんでした。

甲中学校男子ハンドボール部では、平成16年4月から7月20日まで、概ね

  1. ランニング(外周3周)
  2. ストレッチ
  3. パス・キャッチ練習
  4. シュート練習
  5. 速攻練習
  6. 三年生の試合形式の練習(二年生は球拾い。)

などを行っていました。

つまり、一学期の練習は熱負荷の大きいランニング・ダッシュ等の練習が比較的少なく、熱負荷がある程度大きい速攻練習についても、Aはゴールキーパーであったことから、球出しをするに過ぎませんでした。

また、練習は原則として火曜日から土曜日までであり、このうち火曜日から金曜日までの練習時間帯は、授業後から日没30分前までの夕方でした。

Aも練習試合に出場することはありましたが、フルタイムで出場するようなことはありませんでした。

甲中学校は同年7月20日に終業式を迎え、翌21日から夏休みに入りました。

男子ハンドボール部は、同月21日に、主力メンバーを三年生として大会に出場したものの、一回戦で敗退しました。

同月22日、23日、25日の練習は休みとされ、24日は、三年生の試合形式の練習が中心で、二年生は球拾いを行い、同月26日から、一、二年生を中心とする新チームの練習が始まりました。

通常、この時期の練習は、体力作りを中心として行うものであり、フットワークステップに加え、30分間走、40メートルダッシュなどを内容とすることが予定され、特に、30分間走については、ハンドボール部夏期練習の目玉ともいうべき恒例のきつい練習でした。

同月26日から、男子及び女子ハンドボール部合同で、夏期練習が開始しました。

Y1教諭は、同日の練習後、Aの1500メートル走のタイムが2分ほど縮まっていたことから、部員らの前でAの努力を褒めました。

同月27日の練習に参加したのは男子が18名、女子が14名でした。

平成16年の東海地方の梅雨明けは7月13日頃であり、同月27日の気象状況は、下記のとおりでした。

  • 午前8時 気温27.3℃ 湿度72パーセント
  • 午前9時 気温29.6℃ 湿度61パーセント
  • 午前10時 気温31.3℃ 湿度59パーセント
  • 午前11時 気温31.9℃ 湿度50パーセント
  • 午後0時 気温31.5℃ 湿度58パーセント

当日の部活動は、午前8時30分ころに開始され、Y1教諭は、部員らに対し、人数確認をした上で、体調が悪いことを申し出る者がいなかったことから、午前8時40分ころ、ランニングをするように指示しました。

ランニングは、男子については外周380メートルのグラウンドを合計8周しました。

ランニング終了後、ウォーキングフットワーク、各種フットワークステップ、追加フットワークステップの順番で行われ、気温が31℃を超えた午前10時以降には30分間走、40メートルダッシュの順番で練習が行われました。

各練習は概ね20ないし30分間ずつ行われ、各練習の合間には、5ないし10分、あるいは20分程度の休憩がとられました。

休憩の際には、Y1教諭は、生徒らに給水をするように指示しました。

本件練習においては、30分間走が始まる前に、一年生男子の丙山秋夫及び一年生女子の丁川冬子が、申し出て、30分間走に参加しませんでした。

30分間走が始まる前に、一年生男子の丙山秋夫及び一年生女子の丁川冬子が、申し出て、30分間走に参加しませんでした。

また、一年生男子の戊原一夫が30分間走の開始前に腹痛を訴えてトイレに行き、開始から25分後に戻ってきて、最後の5分間ほど30分間走に参加しました。

さらに、二年生男子の甲川二夫が10分間ほど走ったところで走るのを中止し、休憩して給水し、最後の1周だけ30分間走に戻り、一年生女子の乙原一江が15分間ほど走ったところで走るのを中止し、休憩して給水し、その後、10分間ほど30分間走に参加しました。

その後行われた40メートルダッシュについては、一年生女子の丙田二江が体調不良により参加せずに、早退しました。

また、二年生男子の丁野三夫が6本目に入ったところで中止を申し出て休憩しました。

40メートルダッシュの7本目に、Aの様子がおかしいことから、Y1教諭がAに対して休憩を指示しました。

Aは、歩いてゴール後ろの芝生のところへ行き、ドスンといった音を立てて尻餅をつくように腰を下ろしました。

Y2教諭は、Aがドスンと腰を下ろしたことから、Aのところに行き、お茶を飲ませようとして、Aの水筒の所在を聞いたところ、ろれつが回っていなかったことから、慌ててY1教諭を呼びました。

Aが指示した水筒が空であったことから、他の部員に水がないか確認したところ、ハンドボール部部員の甲川二夫が自分の水筒を差し出し、Y1教諭が飲ませようとしましたが、Aは水を飲めない状況でした。

Y1教諭がAに「大丈夫か」と声をかけたところ、Aは、「大丈夫れす」などと回答しましたが、その後ゆっくりと目を閉じて、ゆっくりと倒れていきました。

Y1教諭は、女子部員二名に対し、氷を持ってくるように指示しました。

Y2教諭が、O教諭に対して「担架と病院」と叫んだことから、午前11時51分ころ、O教諭が市民病院に電話をかけたところ、小児科外来へ来るように指示を受けました。

この間、教員らと甲中学校三年生の戊山四夫及び甲山五夫らで、氷で冷やしたり、うちわで扇いだりしながら、Aを保健室に担架で運びました。

市民病院から小児科外来へ来るように指示を受けたことから、Aの後頭部をアイスノン、首筋や両脇股関節部分に氷をあて、うちわで扇ぎながら、教員らと甲山五夫の合計11名がAを市民病院に運び、午後0時3分ころに市民病院に到着し、その後、Aは、午後0時5分、診察を受け、入院しました。

その後、Aは、同年8月26日午後2時34分、市民病院において、熱射病を原因とする多臓器不全により死亡しました。

裁判所の判断

Y1教諭らの過失について

裁判所は

「まず、中学校において行われる部活動においては、学校教育の一環として行われているのであるから、部活動によって生じると予測される部員らの生命・身体等に対する危険を予防すべき注意義務を学校ないし部活動顧問を務める教諭が負っていると解すべきである。

そして、熱中症は、重篤な症状である熱射病になると生命の危険まで生じる疾病であること、少なくとも平成12年以降には、夏期の部活動等における熱中症予防について、愛知県や被告において問題として取り上げられ、愛知県ないし被告から管内の各学校に周知がされるようになっており、文部科学省においても、少なくとも平成15年以降には、全国の各学校に周知がされるようになっていたことからすると、本件練習当時、部活動において、部活動顧問は、部員が熱中症に罹患しないように防止すべき注意義務を負い、また、熱中症に罹患した場合には、応急処置を行う、救急車を要請するなど適切な措置をとるべき義務を負っていたというべきであり、校長については、部活動顧問がこのような注意義務を履行できるように指導すべき義務を負っていたというべきである。」

と顧問教諭と校長の注意義務を指摘しました。

そして、裁判所は、

「夏期の部活動において部活動顧問が熱中症を予防する注意義務を履行したか否かについては、(1)部活動が行われた環境、(2)暑熱馴化の有無、(3)練習内容、(4)休憩、給水の頻度や有無、(5)部活動顧問が認識し得た生徒の体力差、肥満であったか否かを含めた体格差、性格等の生徒の特性等を総合考慮して判断すべきである。」

との判断基準を示し、これらを前提に、Y1教諭らに過失が認められるかについて検討しました。

まず、熱中症発症の要因として挙げられる環境条件及び運動条件への配慮について、裁判所は

「暑熱環境下で激しい運動を行うことが熱中症発症の大きな要因となることが認められており、文部科学省作成のリーフレットにおいても、熱中症予防のための運動指針として、乾球温31℃以上の場合には激しい運動や持久走など熱負荷の大きい運動は避けるとの指針が示されているところである。」

とした上で、

「本件では、気温が午前10時段階で既に31.3℃に達し、その後も気温は上昇していたにもかかわらず、Y1教諭らは部員らに対し、午前8時40分ころから、グラウンドランニング8周・フットワークステップといったそれ自体としても熱負荷の少なくない運動を行わせ、さらに気温が31℃を超えた午前10時以降に、直射日光の射すグラウンドで、30分間走・40メートルダッシュという熱負荷の大きい運動を部員にさせたことが認められるのであり、当日の環境条件を前提とする限り、本件練習の内容自体に配慮を欠いた点があったといわざるを得ない。」

としました。

また、裁判所は

「乾球温31℃以上の暑熱環境下の激しい運動であっても、暑熱馴化、休憩のとり方、水分補給、運動に参加している者の個人条件などに十分に配慮すれば熱中症を予防することは可能であり、暑熱環境下の激しい運動であったというだけでは常に過失が認定されるとはいえない」

としつつ、

「以下に述べるとおり、本件では、暑熱馴化や参加者の個人条件への配慮という点においても不十分な点が認められる。」

としました。

まず、暑熱馴化については、

  1. 本件練習が主な目的を体力作りとした夏期練習の2日目であり、実際に、平成16年4月から同年7月20日までの間に行われていた練習と同年7月26日以降に行われた練習とでは内容が異なること(前者にはボールを使用する練習が存在する一方で、後者にはボールを使用する練習内容が見受けられないことからも明らかである)
  2. 練習時間帯も一学期の練習が平日の授業終了後から日没30分前までとして夕方中心であったのに対し、夏期練習は気温の上がる午前から昼までであったこと
  3. 夏休みに入ってから夏期練習の前までの部活動の状況は、大会参加1日・休み3日・球拾い1日と、試合に出ない一年生、二年生にとって実質的な練習が少ない期間であり、夏期練習はその休み明けに行われたこと

等からすると、

「平成16年4月以降から練習を継続していたことを考慮しても、梅雨明けの7月下旬の午前中に、熱負荷の大きい激しい運動を主とする練習メニューを行うについて、暑熱馴化が十分できていたとは認め難い。

特に、Aについてみれば、ポジションがゴールキーパーであり、一学期の練習でも、比較的熱負荷が高いであろうと推認される速攻練習においては、球出しをしていたに過ぎなかったことを考慮すれば、一学期の練習から夏期練習への練習内容の変化はより急激なものであったことが認められる。」

としました。

次に、裁判所は

「熱中症発症の危険性は個人の身体的要因によって左右され、特に肥満は熱中症のリスクファクターである。」

との事実を前提に、Aが肥満であることはその体型や児童生徒健康診断票を通じてY1教諭らも認識していたのであるから、

  1. Y1教諭らとしては、Aに対してトレーニングの軽減などの措置を講じるか、あるいは、
  2. リスクファクターを抱えたAを基準として全体の練習内容を決めるか、または、
  3. 前記のような熱負荷の少なくないトレーニング中には、Aにこまめに声をかける

などして、

「その表情等を観察し、より多く休憩や給水を指示するなど、肥満に配慮した予防措置を講じる必要があったというべきである。」

とした上で、

「しかしながら、Y1教諭らがそのような措置を講じた事実は認められず、個別条件に対する配慮も不十分であるといわざるを得ない。」

としました。

以上により、裁判所は、

「Y1教諭らが、気温31℃を超える暑熱環境下で熱負荷の大きいランニングやダッシュを行うにつき、十分な予防措置を講じたとは認められない。

したがって、Y1教諭らは、部活動によって生じると予測される部員らの生命・身体等に対する危険を予防すべき注意義務に違反し、Aの熱中症を発症させた過失が認められる。」

と顧問教諭らの過失を認定しました。

これに対して、被告は、

「30分間走については自分のペースで走ることが可能であったし、また、練習中申し出をすれば、自由に休憩及び給水をとることが可能であったから、練習内容が不相当であったとはいえない」

などと主張しました。

しかし、裁判所は

「中学生の、自己の体調管理に対する能力の未成熟さを考慮すれば、自らの体調に対する管理を生徒に一任すること自体に問題があるといえるし、生徒の性格によっては常に教師に自由に休憩や給水を申し出ることができるとも限らないのであるから、休憩や給水の申し出を可能としていたことをもって、十分な予防措置を講じたとはいい難い。

特に、Aはおとなしく手抜きをすることができない真面目な性格であったが、Aがそのような性格であることはY1教諭らも日頃からトレーニングを通じてAと接している中学の教諭として認識していたものというべきであることを考慮すれば、体調管理をAに一任していたことをもって足りるとは到底いえず、Aが練習中において自主的に休憩や給水を申し出なかったことをもってしても、上記結論を左右するものではなく、被告の主張には理由がない。」

として、被告の主張を排斥しました。

また、被告は、

「肥満の生徒に対して運動制限することは差別の問題につながるので不可能である」

とも主張しました。

しかし、裁判所は、

「前記1ないし3の予防措置を適宜組み合わせることによって、差別の問題につながらないようにしつつ、熱中症の予防を行うことは不可能ではない。

それでもなお、被告が、肥満の生徒に対して運動制限をする等の個別的対応をとることが困難であり、あくまでも画一的な対応をとることしかできないというのであれば、熱中症が生命の危険をも脅かすものであることを考慮すると、むしろ、最も体力の弱い(ないし肥満などのリスクファクター抱えた)生徒を基準として全体の練習内容を決めるべきである。」

として、被告の主張を排斥しました。

Z校長の注意義務違反について

裁判所は

「確かに、本件についてみると、熱中症発症時に対応できるように、氷や担架等を用意していたことやAの異変に気づいた後には体を冷やしたり、病院に搬送するなどしたことなどを考慮すれば、熱中症発症後の対応についての指導はある程度行われていたと認められる。」

としながらも、

「しかしながら、文部科学省作成のリーフレットに肥満が熱中症のリスクファクターであることや、気温に応じて激しい運動を中止することを求める運動指針が記載され、また、これを基にO教諭が作成した「知って防ごう熱中症」という書面にも同様の記載があるにもかかわらず、Z校長が気温に応じて練習内容を変更するような体制作りを指示したことはなく、Y1教諭らが本件練習当時肥満がリスクファクターであることを知らなかったことなどを考慮すれば、甲中学校において、熱中症を予防するような体制が確立していたとは認め難い。」

として、

「校長は、熱中症を予防するように指導すべき義務を負っていたのであるから、この点について、Z校長に注意義務違反があったものと認められる。」

と判断しました。

上記過失行為とAの死亡結果との間の相当因果関係について

裁判所は

「Aの直接的な死因は、熱射病による多臓器不全であるところ、熱中症には、熱痙攣、熱疲労、熱射病の各段階があり、熱射病に罹患した場合には、死亡するおそれがあることからすると、熱中症を予防すべき義務を怠り、その結果、熱射病に罹患したことが認められる以上、死亡結果との間にも相当因果関係が認められる。」

と判断しました。

これに対し、被告は、

「Aが死亡したのは、Aが肥満体であったことや身体に異常を感じたにもかかわらず、これを告げなかった点に起因する」

などとし、相当因果関係がないと主張しました。

しかし、裁判所は

「相当因果関係は当該行為により当該結果が発生することが経験則上通常であるか否かによって決せられるところ、暑熱環境下で肥満の子供が激しい運動をした場合に熱中症を発症する危険があることは、本件事故前から学校関係者にも周知されていた事実であって、Aが熱中症を発症して死亡した経緯に、経験則上予測できないような異常な点は何ら存在しない。

また、当該行為の危険性は極めて少ないにもかかわらず、被害者の行為や特異体質などが関与したために結果が生じた場合には相当因果関係が否定されることもあり得るが、本件の場合には、暑熱環境下で激しい運動をすること自体が、熱中症を引き起こす最も大きな危険要因であるのだから、熱中症発症にAの肥満が寄与しているとしても、Y1教諭らの行為とAの死亡との相当因果関係が否定される関係にはない。」

とし、また

「結局のところ、Y1教諭らが負っていた注意義務には、Aの肥満傾向にある体型や身体に異常を感じたとしてもこれを申告せずに、練習を継続する真面目な性格をも配慮した上で予防措置を講ずべき義務が含まれており、この点についての注意義務違反が認められる以上、被告の主張は、前記認定判断を左右するものではなく、理由がない。」

として、被告の主張を排斥しました。

熱中症予防の取組が生かされなかったことにより発生した事故

本件の判決文では、本件練習当時、熱中症予防のために行われていた文部科学省、愛知県、被告(一宮市)及び甲中学校での取り組みについて触れられています。

愛知県及び被告における熱中症予防の取り組みについて

平成12年7月24日には、愛知県教育委員会教育長から豊橋市立豊橋高等学校長、豊田市立豊田養護学校長、各教育事務所長及び各県立学校長宛に

  • 基本的に乾球温が35℃以上の場合は、皮膚温度より気温のほうが高くなるので、特別な場合を除き激しい運動は中止する
  • 水分補給や休息を計画的にとる
  • 体調や個人の体力差に十分配慮する

旨を記載した「熱中症による事故防止について」と題する通知がなされました。

そして、これを受け、愛知県教育委員会尾張教育事務所長から一宮市教育委員会教育長宛に、管内小中学校及び各運動部活動顧問等に対し、上記通知内容の周知徹底を図り事故防止に努めるようにと記載された平成12年7月26日付通知がされました。

平成13年8月2日には、愛知県教育委員会健康学習課長から豊橋市立豊橋高等学校長、豊田市立豊田養護学校長、各教育事務所次長及び各県立学校長宛に上記通知内容に加え、

  • 熱中症について、熱中症とは、暑い環境で生じる障害の総称で、熱中症にかかると、めまい、失神、足や腕に痙攣を起こし、重症になると意識障害をおこして死亡する場合もある。
  • 熱中症の救急処置について 症状が軽い場合は、涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分を補給させることが必要である。また、症状によっては、救急車を要請するなどして、速やかに医療機関で受診する。

と記載された「熱中症による事故防止について」と題する通知がされ、そして、これを受けて、同月3日に、愛知県教育委員会尾張教育事務所次長から教育委員会学校教育課長宛に上記通知を管内の小中学校に周知徹底するよう事務連絡がされ、さらに同日、被告教育委員会学校教育課長から一宮市立小中学校長宛に上記通知の送付がなされました。

平成14年7月2日には、愛知県教育委員会健康学習課長から豊橋市立豊橋高等学校長、豊田市豊田養護学校長、各教育事務所次長、各県立学校長宛に、熱中症について前記平成12年7月24日付通知と同一の内容が重ねて記載され、さらに、日射病の予防や紫外線防止について、

  1. 炎天下での諸活動については、帽子等を着用する。
  2. 長時間活動する場合には必ず木陰等の涼しいところで休憩をとる。

ことが記載された「夏季における児童生徒の健康管理について」との通知文書が送付されました。

また、平成15年6月23日にも愛知県教育委員会健康学習課長から豊橋市立豊橋高等学校長、豊田市立豊田養護学校長、各教育事務所次長及び各県立学校長宛に、熱中症について前記平成12年7月24日付通知と同一内容が、また日射病予防や紫外線防止について平成14年7月2日付通知と同一内容が重ねて記載された「夏季における児童生徒の健康管理について」と題した通知がなされました。

そして、これを受けて、同月24日に愛知県教育委員会尾張教育事務所次長が被告教育委員会学校教育課長宛に管内の小中学校に周知するように上記通知を送付しました。

さらに、平成16年6月23日にも愛知県教育委員会健康学習課長から豊橋市立豊橋高等学校長、豊田市立豊田養護学校長、各教育事務所次長及び各県立学校長宛に、前記平成14年7月2日付通知と同一の内容が記載された通知がなされ、これを受けて平成16年6月28日に愛知県教育委員会尾張教育事務所次長から被告教育委員会学校教育課長宛に管内の小中学校に周知するように上記通知が送付されました。

以上のとおり、愛知県及び被告においては、平成12年ころから、熱中症予防についての取り組みが行われ、毎年、各学校にも注意喚起のための通知文書が送付されていました。

文部科学省における熱中症予防の取り組みについて

平成15年6月30日、文部科学省スポーツ・青少年局企画・体育課、学校健康教育課、青少年課から一宮市立小中学校長宛に「熱中症に対する適切な対応を徹底されたい」として「熱中症に注意」と題する資料及び「熱中症を予防しよう」というリーフレットが送付されました。

「熱中症に注意」と題する資料については、熱中症予防の原則として

  1. 暑い季節の運動や作業は、なるべく涼しい時間帯に行い、運動が長期にわたる場合には、こまめに休憩を取りましょう。
  2. 汗を多くかいたときには、屋内外かかわらず、一人一人の状態に応じて、こまめに水分や塩分(スポーツドリンクなど)を補給しましょう。
  3. 体が暑さになれていないときには、短時間で軽めの運動から始め、徐々にならしていきましょう。
  4. 暑いときには、軽装にし、素材も吸湿性や通気性のよいものにします。屋外で直射日光に当たる場合は、帽子を着用し、暑さを防ぎましょう。
  5. 指導者は、暑さへの耐性は個人差が大きいことを認識する必要があります。常に健康観察を行い、無理をさせないことが重要です。

と記載され、また、熱中症の応急処置について記載されていました。

さらに、「熱中症を予防しよう」とのリーフレットには、

  1. 熱中症には、熱痙攣、熱疲労、熱射病が存在し、重傷である熱射病を起こし、適切な処置が遅れた場合には多臓器不全を併発して死亡率が高くなること
  2. 熱中症予防としては、暑い季節の運動はなるべく涼しい時間帯に行い、運動が長時間にわたる場合には、30分に1回程度休憩をとるなど環境条件に応じて運動すること、こまめに水分、塩分を補給すること、熱中症は体が暑さになれていないとき(試験休み後や病気の後、合宿初日等)に多く発生する傾向にあり、暑さになれるまでは(一週間程度)、短時間で軽めの運動から始め、徐々にならしていくこと

などと記載され、

  • 肥満傾向の人、体力の低い人、暑さに慣れない人、体調の悪い人は要注意!-7割以上が肥満傾向の人-
  • 特に、学校の管理下の熱中症死亡事故は、7割以上が肥満傾向の人です。

と肥満が熱中症のリスクファクターであることが指摘されるとともに、熱中症予防のための運動指針として、

  1. WBGT31℃(乾球温35℃)以上の場合は、皮膚温より気温のほうが高くなるので運動は原則中止
  2. WBGT28℃(乾球温31℃)以上の場合は、熱中症の危険が高いので激しい運動は中止(持久走など熱負荷の大きい運動は避け、運動する場合には積極的に休息をとり水分補給を行う。体力の低いもの、暑さに慣れていないものは運動中止。)
  3. WBGT25℃(乾球温28℃)以上の場合は、熱中症の危険が増すので積極的に休息(激しい運動では30分おきくらいに休息をとる。)

との指針が記載されていました。

甲中学校での取り組みについて

甲中学校においても上記各通知を受け、平成15年6月終わりころに、上記「熱中症を予防しよう」とのリーフレットと概ね同じ内容が記載された「知って防ごう熱中症」という書面をO教諭が作成し、これを職員会で内容を説明した上で、Y1教諭らを含む全職員に配付しました。

なお、かかる説明の際には、熱中症を発症した場合の応急処置等の対処法について重点的に説明し、熱中症の予防については詳しく説明をしませんでした。

また、O教諭は、平成16年7月1日には、教職員全員に対し、「教育活動中にこんなことが起きたら〈熱中症で倒れたら〉」と題する書面を配付し、同月15日には全生徒に対し、「ほけんだより」と題する書面を配付し、同月20日には部活動顧問を通じ、生徒に対し、夏休み中に限りスポーツドリンクの持参を許可することについて記載された「夏休み中の水分補給について」と題する書面を配付していました。

この「教育活動中にこんなことが起きたら〈熱中症で倒れたら〉」と題する書面には、熱中症予防についての事前指導として、

  1. 基本的に気温が35℃以上の場合は、皮膚温度より気温の方が高くなるので、特別な場合を除き激しい運動は中止する。
  2. 気温が高い時、失った水分や塩分の補給を十分させると共に、適宜、風通しの良い日陰などで休憩時間をとる。
  3. 炎天下での活動については、帽子などの着用で直射を受けないようにする。
  4. 疲労や睡眠不足、朝食抜きなど、体調不良を招きやすい原因をなくすよう、子どもたちへの指導を徹底するとともに、体調不良を感じたら我慢せず、すぐ申し出るよう指導を徹底する。
  5. 個人の体力差や体調を十分配慮した練習方法で活動する。」

と記載され、熱中症発症時の応急処置の仕方等が記載されていました。

また、「ほけんだより」と題する書面には、夏の部活動の心得として、「練習はなるべく涼しい時間帯に」などと記載され、「体温の上がりすぎに注意」とした上で、冷えたタオルで体を冷やすことや冷却剤で体の一部分を冷やしながら運動をすることが熱中症予防に効果があることや熱中症が大変危険な病気であることなどが記載されていました。

さらに、甲中学校においては、熱中症が発症した場合に備え、保健室には、常時、ペットボトルに入れた水を凍らせたもの、氷、うちわ、担架などが用意され、職員室にも氷が常備されていた。

なお、前記記載の各通知、書面やリーフレットは全教職員が閲覧できる状態にありました。

現場での実態

これだけの熱中症予防への取組がなされていたにもかかわらず、本件事故は発生しました。

そして、裁判所は

「文部科学省作成のリーフレットに肥満が熱中症のリスクファクターであることや、気温に応じて激しい運動を中止することを求める運動指針が記載され、また、これを基にO教諭が作成した「知って防ごう熱中症」という書面にも同様の記載があるにもかかわらず、Z校長が気温に応じて練習内容を変更するような体制作りを指示したことはなく、Y1教諭らが本件練習当時肥満がリスクファクターであることを知らなかったことなどを考慮すれば、甲中学校において、熱中症を予防するような体制が確立していたとは認め難い。」

と指摘しています。

つまり、熱中症予防に関する知識は得たものの、それを実行に移す体制が作られていなかったことが原因であるといえます。

熱中症対策に限らず、例えば部活動に関するガイドラインについても、作成すれば足りるというものではなく、それを実行して初めて意味があります。

そして、実行するべき現場は、各学校であり、校長であり、各顧問教諭であることは明らかなのです。

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