高校陸上部の槍投げ練習中に他の部員が投げた槍が頭部に当たり頭部陥没骨折等の傷害を負った事例

2018.10.28 スポーツ中の事故

神戸地方裁判所平成14年10月8日判決

事案の概要

本件は、兵庫県立高校の陸上競技部に所属していた原告が槍投げ練習をしていた際、他の部員が投げた槍が原告の左側頭部に衝突したことにより、左側頭部開放性陥没骨折等の傷病を負い、精神的苦痛を被ったところ、これは、同部の顧問教諭が同練習に立ち会ったり、安全指導を徹底したりしなかった過失によるものであると主張して、同校を設置する公共団体である被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を求めた事案です。

平成9年4月11日当時、本件高校の陸上競技部は、短距離走、中・長距離走、跳躍及び投擲の各パートに分かれていました。

投擲パートには、3年生であったB及びI、2年生であった原告・A及びHの5名が所属していました。

Cは、同日当時、同部の顧問教諭でした。

Cは、同日の練習が始まるまでに、いつもと同じように練習計画を作成しました。

投擲パートは、ジョギングやストレッチなどのウォーミングアップを行った後、肩のストレッチやチューブ引きなどのフォーム作りの練習を行い、更に、メディシンボールやサッカーボールを投げる練習を行った後、数日後に試合が予定されていたことから、槍投げ練習を行う計画でした。

槍投げ練習の具体的内容は、まず砂場への槍の突刺し練習を20回行った後、歩行してからの槍投げ練習、5歩クロスステップしてからの槍投げ練習及び短助走してからの槍投げ練習をそれぞれ10回ずつ行うというものでした。

同日午後3時50分ころ、同部の部活動が開始され、上記練習計画に沿って各パートの練習が行われました。

投擲パートにおいても、上記練習計画に沿ってウォーミングアップ等が行われました。

Cは、グラウンドを巡回し、各パートの指導を行いました。

同日は,グラウンドが予想外に混み合っていたため、Cは、空中への槍投げ練習を行うことは危険であると判断し、サッカーボールを投げる練習が終わるころ、投擲パートの部員全員に対し、砂場への槍の突刺し練習を1人当たり40本ないし50本に増やし、空中への槍投げ練習を中止するように指示しました。

投擲パートの部員らは、同日午後5時20分ころから、Cの立会いのもと、砂場への槍の突刺し練習を行っていましたが、Cは、同日午後5時40分ころ、同練習の途中で、所用のため砂場を離れて体育教官室に戻りました。

Cは、同日午後6時にグラウンドや体育館における全ての部活動の終了を指示する予定でした。

Cが砂場を離れた直後、アメリカンフットボール部の部員らがウエイトトレーニングを行うために移動し、グラウンドにスペースができたところ、Bは、数日後に試合が予定されていたため、空中への槍投げ練習をしたいと考え、グラウンドに移動して、原告及びAとともに空中への槍投げ練習を行うことにしました。

当初は、北側からA・原告・Bの順で横一列に並んでいました。

BはAのフォームチェックをしていたため、原告は、B及びAに対し、先に槍を投げる旨声を掛け、槍を投げたところ、槍は約20メートル前方に落下しました。

Aは、前方に人がいないことを確認してから「投げます。」と声を掛け、槍を投げる構えに入りましたが、Bは、その後更に数十秒間、Aのフォームチェックを続けました。

原告は、その様子を見て、Aはまだ槍を投げないであろうと考え、Aの動静を注視することなく、小走りで槍を取りに行きました。

Aは、フォームチェックが終わった後、再度前方の安全を確認したり、声を掛けたりすることなく、数歩歩いてから槍を投げたところ、その槍は、約20メートル前方にいた原告の左側頭部に衝突しました。

裁判所の判断

Cの過失について

裁判所は

「Cは、本件事故前は、投擲パートの部員らに対し、槍を投げる際に「投げます。」などの声を掛けること、全員が槍を投げ終わってから一斉に槍を取りに行くことやCが立ち会っていないときに空中への槍投げ練習を行わないことなどの安全指導を徹底していなかったものと推認することができる。

そして、Cが上記のような安全指導を徹底していれば、原告らがCが立ち会っていないのに空中への槍投げ練習を開始したり、Aが槍を投げる直前には声を掛けずに槍を投げたり、Aが槍を投げ終わる前に原告が槍を取りに行ったりすることはなく、本件事故の発生を回避することができたといえるから、Cには安全指導の徹底を怠った過失があるものというべきである。」

と判断しました。

また、裁判所は

「Cは、砂場への槍の突刺し練習の途中で砂場を離れたものであるところ、

  • これより先、グラウンドが混み合っていたことから空中への槍投げ練習を中止するように指示していたとはいえ、当初はこれを行う予定であったこと、
  • 砂場への槍の突刺し練習という槍を扱う練習は行っていたこと、
  • 数日後に試合が予定されていたこと

からすると、投擲パートの部員らが、Cが砂場を離れた後において、グラウンドの空き具合によっては、空中への槍投げ練習をするに至る可能性があったといえるから、Cは、砂場を離れた時点で、原告らが空中への槍投げ練習をするに至ることを予見することができたというべきである。

そして、練習に用いていた槍は、重さ約600グラム、長さ約220センチメートルで、その先端が鋭利に尖っているものであり、その使用方法や練習方法によっては、人の生命や身体に危険を及ぼす可能性があるから、Cは、原告らがCの指示に反して空中への槍投げ練習を開始することにより、本件のような事故が発生する危険性があることを具体的に予見することが可能であったというべきである。」

として

「Cは、砂場への槍の突刺し練習に立ち会い、監視指導すべき義務を負っていたものと解され、同練習を中止させることなく、同練習の途中で砂場を離れたことは、上記立会義務に違反するものである。

そして、Cが上記立会義務を尽くしていれば、原告らが空中への槍投げ練習をしたいと申し出たとしても、これを制止するか、又はこれを許す場合でも、安全に十分配慮することにより、本件事故の発生を回避することができたといえるから、Cには上記立会義務に違反した過失があるものというべきである。」

と判断しました。

原告の過失について

他方で、裁判所は、被害者である原告について、

原告は、Cが空中への槍投げ練習を中止するように指示したのに反して、Cが立ち会っていないにもかかわらず、空中への槍投げ練習を開始したものである。

また、原告は、既にAが槍を投げる構えに入っていたのに、BがAのフォームチェックを続けている様子を見て、Aはまだ槍を投げないであろうし、槍を投げたとしてもさほど遠くまで飛ばないであろうと軽率に判断し、Aの動静を注視することなく、先に自分が投げた槍を取りに行ったことにより、本件事故が発生したものである。

すなわち、原告が上記のような危険な行動に出なければ、そもそも本件事故が発生することはなかったのであるから、本件事故は原告が自ら招いた面もあり、Cが安全指導の徹底を怠ったことが原告の上記行動に影響しているとはいえ、原告は、本件事故当時、判断能力が十分ある年齢に達していたのであるから、原告にも本件事故による損害の発生について過失があり、かつ、その程度は、Cの過失の内容、程度と対比すると、大きいものというべきである。

として、

「その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告の過失割合は6割と認めるのが相当である。」

と判断しました。

日常的な安全対策の習慣づけが必要

裁判所が認定した事実によれば、本件高校では、本件事故までの練習において、投擲パートの部員らが、槍を投げる際、必ずしも常に「投げます。」などの声を掛けていたわけではなく、全員が槍を投げ終わってから一斉に槍を取りに行くこととはされておらず、各自の判断で槍を取りに行っていました。

また、砂場への槍の突刺し練習は、Cが立ち会っていないときにも行われることがありました。

さらに、部員らは、Cが立ち会っていないときに空中への槍投げ練習を行ったこともありました。

つまり、本件事故は、安全確認が十分に行われていたとは到底いえない状況でした。

厳しい言い方をすれば、本件事故は起こるべくして起きたものといえると思います。

なお、本件事故後、部員らは、槍を投げる際、必ず「投げます。」などの声を掛けるようになり、全員が槍を投げ終わってから一斉に槍を取りに行くこととされました。

また、部員らがCが立ち会っていないときに空中への槍投げ練習を行うことはなくなりました。

本件事故を教訓に、同様の事故が起きないような対策がとられているといえます。

他の競技においても、この裁判例を教訓に、事故の発生を未然に防ぐための安全対策を習慣づけていただきたいと思います。

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