高校柔道部の乱取り練習で頭部から落下し高次脳機能障害等の後遺症を負った事故

2018.10.24 スポーツ中の事故

広島地方裁判所尾道支部平成27年8月20日判決

事案の概要

本件は、平成21年5月9日高等学校の柔道部に所属し柔道の練習をしていた原告が、乱取り練習の相手であるBから内股をかけられ,受け身の姿勢を取ることができないまま頭部から畳に落下し、高次脳機能障害等の後遺障害を負ったという事故につき、被告に安全配慮義務違反があったと主張して、損害の賠償を求めた事案です。

原告は柔道未経験者であり、柔道部に入部してからわずか14日目に乱取り練習に参加し、17日目に本件事故に遭いました。

裁判所の判断

まず、裁判所は、柔道の指導者に対する安全配慮義務について

「教育活動の一環として行われる学校の課外の部活動においては、生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから、担当教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置をとり、部活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うというべきであり、また、技能を競い合う格闘形式の運動である柔道の練習には、本来的に一定の危険が内在しているから、柔道の指導、特に心身ともに発展途上にある高等学校の生徒に対する柔道の指導にあっては、その指導に当たる者は、柔道の練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために、常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うというべきである。」

との判断を示しました。

その上で、本件について

「原告は柔道未経験者であったにもかかわらず、柔道部に入部してからわずか14日目に乱取り練習に参加し、17日目に本件事故に遭っており、その間、受け身だけを集中的に練習したのは7日間、かかり練習ないし打込み練習や約束練習を行ったのは6日間にすぎない。

乱取り練習前に必要な受け身の練習期間についての明確な基準はないことや、実際上原告が入部以降毎日受け身の練習を重ねていたことを考慮しても、上記のような練習日程では、原告が実戦形式の練習である乱取り練習に耐え得るだけの受け身の技術を習得していたかどうか疑問があるといわざるを得ない。

特に、原告は、当初、受け身の際に首や顎の使い方が悪かったため特別の筋力トレーニングを行ったが、このトレーニングはわずか3日間で終わったこと、Gは陳述書において、入部当初の原告の印象について、見た目は背が高いけど姿勢があまり良くなくたるんだ感じで、態度がおどおどしていたと述べていること、Bは、陳述書において、投込み練習の最初のころ原告はとても投げにくく、タイミングが合わないと感じることがあったと述べ、尋問でも、原告について、当初力んでいるという感じや投げにくいという感じ、あるいは運動神経があまり良くないという印象があり、また、約束練習では構えた感じがあり、投げられやすいように受け身を取ろうとする姿勢があまり感じられず、投込み練習のころには先輩たちからもう少しきれいに受け身を取るようにというアドバイスが出ていたなどと証言していることが認められるところである。

原告のこのような特性や練習時の状況からすると、4月末から5月初めころの時点において原告が他の部員と遜色ない程度に受け身が取れるようになったといっても、それは約束練習等の定型的な練習場面に限ったことで、実戦形式の練習である乱取り練習を行うにはいまだ危険を伴う状態であった可能性が高いといえる。

なお、A顧問は、自ら原告に技をかけて受け身の習熟度を確認したことはなく、原告が乱取り練習を無事にこなせるだけの受け身の技能を身につけているかどうかを慎重に吟味した形跡はない。

また、原告が投げ技の練習を開始したのは11日目からで、乱取り練習までに3日間しか投げ技の練習をしていなかったから、投げ技についても十分習得していたとは考えられない。

ところが、原告は、こうした状態で明らかに技能格差のあるBと乱取り練習をしたのであるから、原告が防戦一方となり、その結果、投げられまいとして円滑に受け身を取ることができなかったという事情もあったと考えられる。」

と事実認定した上で、

「そうすると、4月末から5月初めころの時点において原告が乱取り練習に必要な受け身を取ることができるとA顧問や他の部員からみられていたこと、段取り練習を開始する際にA顧問が上級生や1年生の経験者に対して荒い投げ方はしないようになどと注意していたこと、被告高校は柔道の強豪校ではないため勝負にこだわった練習をする雰囲気ではなく、また、部員数も少ないことからどの部員がどのような技を使うのかある程度予測可能であったこと、原告は14日目から16日目までの3日間の乱取り練習に参加し無事に終えていたこと、本件事故前の各種練習において原告が他の部員から内股で投げられ、これに対して受け身を取っていた可能性があること等の事情を考慮しても、原告が乱取り練習を安全にこなすためには、更なるかかり練習ないし打込み練習、約束練習や投込み練習を重ねる必要があったと認めるのが相当である。

として

「A顧問は、乱取り練習に参加することにより発生する危険から原告を保護するため、乱取り練習参加前に、原告に対してより十分なかかり練習ないし打込み練習、約束練習や投込み練習をさせ、もって受け身や投げ技の技能をより向上させるべきであったにもかかわらず、そのような練習方法を実施しなかったのであるから、この点につき安全配慮義務違反があったというべきである。」

と判断し、

「被告高校を運営する被告は、教育活動の一環として行われる部活動に参加する生徒に対し、安全を図り、特に心身に影響する事故発生の危険性を具体的に予見することが可能な場合には、事故の発生を未然に防止するために監視、指導を強化する等の適切な措置を講じるべき義務があるところ、既に述べたところからすれば、被告がその雇用するA顧問に対して適切な指導及び監督を行っていたとはいえず、事故の発生を未然に防止するために監視、指導を強化する等の適切な措置を講じるべき義務に違反したというべきである。よって、被告は、安全配慮義務違反として債務不履行ないし不法行為責任を負うというべきである。」

と判断しました。

柔道における事故は頻発している

このホームページ上で数々の裁判例を紹介していますが、私が調査する限り、柔道における事故は相当な数に及んでいます。

それは部活動における練習中だけでなく、試合中や、学校における体育大会での事故などもあります。

そして、その結果は深刻なものがほとんどです。

裁判になっているケースでさえ相当な数がありますが、実際には裁判をせずに示談で解決しているケースや、そもそも損害賠償を請求せずに泣き寝入りしているケースもあるでしょう。

その意味では、実際の柔道における事故はもっと多いと考えられますし、頻発しているといえると思います。

もともと柔道は生命や身体に対する被害が大きいことが予め想定されているスポーツです。

だからこそ、柔道では「受け身」が重要視されているといえます。

私も中学校時代に体育の授業で柔道をしたことがありました。

当時の体育教諭が大学まで柔道をしていたのですが、柔道の「受け身」が他のスポーツや体育の授業だけでなく日常生活でも役に立つはずだとの信念があったようでした。

授業ではいろいろな受け身の形を練習しましたが、どのような受け身の形が正しいのか、それにより自らの身体(特に脳や首といった頭部)をいかに守ることができているのかを学びました。

本件の裁判では、柔道未経験の高校生が柔道部に入部し、十分な受け身がとれない状況にあったにもかかわらず、柔道経験者と乱取り練習を行い、受け身がとれずに頭から落下しました。

その結果、高次脳機能障害という重い後遺症が残ることになりました。

繰り返しますが、柔道における事故は頻発しています。

そして、その結果は深刻なものがほとんどです。

指導者には部員や選手に対しての万全の安全対策がとれているのか、特に必修とされている中学校ではどのような安全対策がとられているのかについて、改めて検証していただければと思っています。

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