公立高校柔道部に所属する生徒が練習試合で対戦相手に投げられ負傷した結果、重篤な後遺障害が残った事例

2019.02.18 スポーツ中の事故

札幌地方裁判所平成24年3月9日判決

事案の概要

本件は、被告設置の公立高校の柔道部に所属していた原告X1が練習試合中の事故により四肢不全麻痺、高次脳機能障害等の後遺障害を負ったことについて、顧問教諭ら及び学校長に安全配慮義務を怠った過失があるなどと主張し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

平成19年4月、原告X1は、本件高校に入学し、本件柔道部にマネージャーとして入部した後、同年6月ころからは選手として本件柔道部の部活動に参加するようになりました。

A教諭とB教諭は、被告に任用されて教諭として本件高校に勤務し、本件柔道部の顧問を務めていました。

原告X1は、柔道を始めた当時から腰痛の持病を有していました。

原告X1は、同年7月28日、本件柔道部での練習中、足技をかけられた際に、右足が外側を向いたことから、右膝前十字靱帯挫傷、右膝関節血腫及び右膝内側側副靱帯損傷のけがをし、医師の指示により、約1か月間体育実技を制限されることとなりました。

原告X1は、平成20年1月7日、本件柔道部での練習後から、左肘の痛みを覚えたため、芦別病院を受診しました。

原告X1は、同年5月20日、母である原告X2とともに芦別病院を訪れたところ、右後頭葉硬膜下血腫疑いと診断され、同日、滝川病院を受診しました。

滝川病院での精密検査の結果、原告X1には、急性硬膜下血腫及び脳挫傷が生じていることが判明しました。

滝川病院の担当医師であるF医師は、原告X1の柔道への復帰について、「最低でも1、2か月はかかり、1、2か月程度経過すれば、頭を打つ可能性がないような軽い練習程度は可能となるが、それでも頭を打つ可能性がある投げ技の練習や試合等への参加はすべきではなく、本格的な練習や試合への復帰については、半年程度経過後と考えており、原告X1に対し、できれば柔道はしない方がよい」と伝えていました。

原告X1は、翌21日、A教諭に対し、「傷病名:急性硬膜下血腫、脳挫傷」、「約2週間の安静を要する」との記載がある診断書を提出しました。

A教諭は、原告X1から本件診断書の提出を受け、インターネットを利用して、急性硬膜下血腫について調査をしました。

ところが、原告X1は、同月24日ころ、本件柔道部の練習に復帰しました。

そして、原告X1は、本件柔道部の選手として、同月27日、高体連地区大会に、同年6月18日には高体連全道大会に、同年7月27日には国体道予選に、それぞれ出場しました。

同年8月6日から同月8日にかけて、北海道内の体育館において、本件高校ほか複数の学校合同の夏期合宿が行われ、原告X1はこれに参加しました。

なお、本件柔道部では、遠征や合宿の際には、親権者の承諾書を得て、A教諭又はB教諭に提出することとなっていましたが、原告X1は原告X2の承諾書を得ることなく本件合宿に参加しました。

原告X1は、本件合宿中の同月8日午後2時ころ、原告X1と同程度の身長で有段者であった他校の柔道部員との練習試合を行い、対戦相手に大外刈りをかけられて右後頭部を畳に強打しました。

その後、原告X1は、本件練習試合を観戦していたA教諭のところへ戻り、試合内容や頭を打ったことについて話をしているうちに倒れて意識を失ったことから、北斗病院へ救急搬送され、同病院において、急性硬膜下血腫と診断され、直ちに頭蓋内血腫除去手術及び減圧術の緊急手術を受けました。

なお、原告X1は、同日午前中、A教諭に対し、右肘に痛みがあると申し出ていました。

また、A教諭は、本件練習試合前、原告X1に対し、「できるだけ粘ってこい。」との指導をしましたが、対戦を制止したり、対戦相手に対し特段の指示又は注意をしたりしませんでした。

原告X1には、本件事故後、遅くとも平成21年4月1日を症状固定日として、四肢不全麻痺及び高次脳機能障害等の後遺障害が残り、原告X1は、排泄、食事及び移動等を独力で行うことができない状態になりました。

裁判所の判断

本件顧問教諭ら及び校長の過失の有無について

まず、裁判所は

「教育活動の一環として行われる学校の課外の部活動においては、生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから、指導教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を採るべきである。

とりわけ部活動において、柔道の指導に当たる教諭は、柔道が互いに相手の身体を制する格闘技能の修得を中心として行われるものであり、投げ技等の技をかけられた者が負傷する事故が生じやすく、ラグビーと並んで部活動における死亡確率及び重度の負傷事故の発生確率が他の種目と比較して有意に高いものであって、年間2名ないし3名程度の死亡者が存在するという状況にあることから、生徒の健康状態や体力及び技量等の特性を十分に把握して、それに応じた指導をすることにより、柔道の試合又は練習による事故の発生を未然に防止して事故の被害から当該生徒を保護すべき注意義務を負うというべきである。」

と判示しました。

その上で、裁判所は、本件について

「本件柔道部の指導教諭である本件顧問教諭らには、本件合宿に参加した原告X1の健康状態や体力及び技量等の特性を十分に把握して、それに応じた指導をして、柔道の試合又は練習から生ずる原告X1の生命及び身体に対する事故の危険を除去し、原告X1がその事故の被害を受けることを未然に防止すべき注意義務があったというべきである。」

と判示しました。

以上を踏まえ、まず原告X1の5月の頭部外傷について、裁判所は

  • 急性硬膜下血腫は、外傷により脳と硬膜の間に血腫が広がった病態であって、重症の急性硬膜下血腫についてはスポーツに復帰することは不可能であり、軽症の急性硬膜下血腫についても、血管が内膜、中膜及び外膜を含めて通常の強度を再度獲得するには最低でも1、2か月は必要である上に、受傷前と全く同様の強度を得られるとは限らず、短期間でスポーツに復帰することは、いわゆるセカンドインパクトシンドローム(一度衝撃によりダメージを受けた脳に対して2回以上の同様のダメージを受けることによって軽症であった患部のダメージが広がり致命的になる症候群)を惹起する可能性があることが認められる。
  • 急性硬膜下血腫の一般的な危険性に照らせば、本件柔道部の指導教諭である本件顧問教諭らにおいては、原告X1に急性硬膜下血腫が生じたことを認識した以上、本件事故当時において、原告X1が頭部に衝撃を受けた場合の危険性が格別に高いことを当然に認識すべきであった。
  • A教諭は、原告X1から本件診断書の提出を受けたころ、インターネットを利用して、急性硬膜下血腫について調査をしたことがあったというのであるから、少なくとも、A教諭においては、急性硬膜下血腫の危険性を実際に認識していたものと認められる。

とした上で

「そうすると、本件事故当時において、原告X1が頭部に衝撃を受けた場合の危険性は格別に高いものであったといわざるをえず、本件顧問教諭らも、かかる危険性を認識し、又は認識し得たというべきである。」

と判示しました。

また、裁判所は、5月の頭部外傷による危険性に加えて、

  • 原告X1は、平成19年4月ころ、本件柔道部に、当初マネージャーとして入部して活動していたこと
  • 同年6月ころに選手として本件柔道部に参加するようになってから本件事故までの期間は約1年2か月であり、原告X1が柔道の練習を積んだ期間は特別長いものではないこと
  • 原告X1は、腰痛の持病を有しており、同年7月28日には本件柔道部での練習中に生じた靱帯挫傷により約1か月間体育実技を制限されていたこと
  • 5月の頭部外傷は、平成20年5月17日、本件柔道部における練習中に実際に頭部を打ったことによって生じたものと認められること

等の事実からすれば、

  • 本件柔道部において、原告X1は選手となった後1週間集中的に受身の練習を行っていること及び5回の公式戦に出場しており、平成20年9月には初段の昇段審査を受験予定であったことを踏まえても、原告X1の受身を含む柔道の技能はさほど高くなかったものといわざるを得ない。
  • 練習試合においては、対戦相手からどのような技を仕掛けられるか予想することは困難であるし、とりわけ、本件のような他校の学生との合同合宿における練習試合にあっては、対戦相手としても、原告X1の技量を把握しないままに試合を行うこととなるため、手加減をすることも困難である。

ということができることから、

「原告X1を本件練習試合に出場させた場合、対戦相手から、原告X1が十分に対応できない技を仕掛けられて頭部を打ち付けるなどする可能性が相応にあり、原告X1が頭部を打ち付けた場合には、原告X1に重篤な結果が生じる危険性は、格別に高いものであったといえ、本件顧問教諭らもかかる危険性を予見し得たといえる。」

として

「本件顧問教諭らは、少なくとも原告X1を本件練習試合に出場させるべきではなかったにもかかわらず、これを怠り、漫然と原告X1を本件練習試合に出場させた過失があるというべきである。」

と判断しました。

そして、裁判所は、

「本件過失により、原告X1が本件練習試合に出場した結果、本件事故が発生し、原告X1に本件後遺障害が生じたことは明らかである。」

として、

「被告は、原告らに対し、国家賠償法1条1項に基づき、本件事故によって生じた損害を賠償すべき責任がある。」

と判断しました。

過失相殺について

これに対して、被告は、

「原告X1がA教諭に対し、『完全復活ですよ先生。柔道してよいってお医者さんが。』との趣旨の発言をしたため、A教諭は、原告X1が治癒したと信じて、本格的に練習に復帰させた」

などと主張し、さらに、

「原告X2についても、原告X1が平成20年5月20日に受診して以降、全ての受診に立ち会い、医師の診断を全て原告X1とともに聞いてきたにもかかわらず、医師の診断内容を全くA教諭に説明することはなく、また、原告X1が宿泊を伴う試合や合宿に参加する際も、選手として参加することを黙認又は追認してきたものであり、本件事故について重大な責任がある」

と主張しました。

しかし、裁判所は

  • そもそも高等学校における部活動として行われる柔道の練習試合に出場させることの当否は、まずもって柔道部の顧問教諭等の指導者において、生徒の健康状態や体力及び技量等の特性を十分に把握した上で判断すべき事柄であるところ、原告X1は、5月の頭部外傷の事実が記載された本件診断書をA教諭に提出しており、本件顧問教諭らは、本件診断書の記載から原告X1が頭部に衝撃を受けた場合の危険性が格別に高いことを当然に認識するべきであったし、少なくとも、A教諭においては、急性硬膜下血腫の危険性を実際に認識していたのであるから、原告X1又は原告X2から積極的にさらなる情報を提供すべき状態にあったということはできない。
  • 原告X1がA教諭に対し、「完全復活ですよ先生。柔道してよいってお医者さんが。」との趣旨の発言を行った事実は認めることができない上、原告X1が未だ高校生であることからすれば、原告X1において、A教諭に対し、F医師が原告X1に行った5月の頭部外傷の危険性についての説明を正確に再現して説明していなかったとしても、かかる事実をもって、本件顧問教諭らに対する情報提供につき、原告X1に過失があるということまではできない。
  • 原告X2は、確かに、本件顧問教諭らに対し、F医師から伝えられた5月の頭部外傷の危険性を直接説明していないものの、原告X1が平成19年7月28日に膝の怪我をしたことについて、原告X2とA教諭が電話で口論となったことが認められ、かかる経緯から、原告X2が、本件顧問教諭らに対し、直接説明することを避け、原告X1に本件診断書を提出させることにより、5月の頭部外傷の事実や危険性を伝え、もって、本件顧問教諭らにおいて、原告X1が本件練習試合を含む練習試合に出場することの当否を適確に判断するものと考えたとしてもやむを得ないというべきである。
  • 原告X2は、原告X1が本件合宿に参加するに当たり、本来提出することとなっていた親権者としての承諾書を作成していないのであり、原告X2に、原告X1が本件合宿に選手として参加することを黙認又は追認してきたとして過失があると評価すべき事情があるとも認められない。

として、

「原告X1又は原告X2に、本件において斟酌すべき過失があるとまでは認められない。」

と判断しました。

試合に出場することだけがスポーツではない

経験や技術が未熟であるにもかかわらず、「試合経験を積ませてあげたかった」という理由で部員を試合に出場させる顧問教諭がいます。

それが故に、取り返しがつかない事態を招くこととなるケースが存在します。

もちろん、試合から得られる経験というのは、その後のスポーツへの取組を考えると必要かもしれません。

しかし、それは一定程度の技術を身につけてからでも遅くはないはずです。

特に、本件のような柔道では、自分の身を守るための受け身を十分に習得して初めて投げ技を練習するなど、段階を踏みながら技術を習得すべきです。

しかし、早く上達させようと考えるあまり、受け身や投げ技をある程度身につけたからといって、すぐに実践形式での練習をさせようとしてしまいます。

それが試合ともなると、勝敗を決するために無理な体勢から投げ技をかけたり、またかけられたりすることが多く、そのために受け身が取れないということもあります。

その結果、重篤な後遺障害を残すような事故に発展してしまうことになるのです。

指導者は、選手を試合に出場させることを考えることよりも、まずは自らの身を守るための基本を身につけさせることが必要です。

試合に出場して勝敗を決するだけがスポーツではないと思います。

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