柔道部の夏合宿に参加した高校生が早朝のランニングの途中に熱射病を発症し死亡した事例

2019.06.12 熱中症・自然災害

福島地方裁判所会津若松支部平成9年1月13日判決

事案の概要

本件は、被告の設置している高等学校の柔道部の夏合宿練習中、柔道部員であった原告らの子が横紋筋融解症による急性腎不全により死亡したことについて、柔道部の顧問教諭が、猛暑にもかかわらず激しい練習中に水分、塩分を十分に補給させないという誤った指導方法をとったため、横紋筋融解症を引き起こし死亡させたとする国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求事件です。

被告は、福島県立A高校を設置、管理しており、S教諭は、同校の教諭として勤務し、同校が教育活動の一環として行っている柔道部の顧問をしていました。

原告らの子であるXは、平成5年4月A高校に入学し、入学時から柔道部に入部し、平成6年6月には同部の部長になりました。

平成6年の夏合宿は、A高校敷地内に設置された合宿所・柔道場において、同年8月8日から12日までの5日間の予定で実施され、参加者は在校生13名(1年生2名、2年生5名、3年生6名)、卒業生(OB)4名及びS教諭でした。

合宿1日目(8月8日)は、暑かったため、開始時間が30分繰り下げられ、練習は午後3時ころから途中20分程度の休憩を挟んで午後5時30分ころまで行われ、寝技、立ち技の反復練習、1・2年生が一方に並び、相対するOB、3年生と試合に近い形で技を掛け合う乱取りなどが行われました。

S教諭は、合宿1日目の練習終了後、「水のがぶ飲みをしないよう」注意し、また同日の夕食時に「水をがぶ飲みした者、手を挙げろ」などと指導していました。

合宿1日目の夕食の際、Xは、他の生徒が既に食べ終えていたにもかかわらず、夕食のカレーライスを食べきれず、体調が思わしくありませんでした。

合宿2日目(8月9日)は、午前5時20分ころ学校から鶴ケ城まで走って行き、そこで30メートルダッシュを10本程度行った後、鶴ケ城1周ランニングを行ったところ、Xは、1回目、2回目ともに2位でした。

同日午前中の練習は、午前9時30分ころから、K工業高校の生徒12名及びW商業高校の生徒7名も参加して、途中20分程度の休憩を挟んで午前11時30分ころまで、前日とほぼ同じ内容で行われました。

同日午後の練習は、暑かったため、開始時間が30分繰り下げられ、午後3時ころから途中20分程度の休憩を挟んで、OB、3年生が1・2年生に付いて各種の技を実際に掛けて指導する技の研究などが行われました。

S教諭は、生徒の疲労具合から長い時間練習を行っても無駄と判断して10分ほど早く練習を切り上げ、午後5時20分ころ終了しました。

Xは、合宿2日目の午後の練習の終了間際ころには下痢状態で、合宿2日目の終了時には体調を崩しかなり疲労していました。

合宿3日目(8月10日)午前5時40分ころ、合宿所から約2.5キロメートル離れたところで、ランニング中のXが歩道に座り込んでいたところをS教諭らが発見し、乗用車で合宿所に運びました。

合宿所に運ばれたXは、汗を異常にかいていたため他の部員からシャワーをかけてもらいましたが、状態が改善しなかったため、同日午前6時ころ、S教諭の車でT病院に搬送され、入院しました。

Xは、血液検査などの結果、「横紋筋融解症とそれによる急性腎不全」と診断され、点滴、血液透析などの治療を受けましたが、8月11日午後11時22分死亡しました。

裁判所の判断

裁判所は、S教諭の注意義務について

「高校の部活動は、学校教育活動の一環として行われるものであるから、現にその指導を担当する顧問教諭は、本件合宿参加生徒に対し、合宿練習中、生徒の健康状態に留意し、生徒の健康に異常が生じないように注意し、生徒の健康状態に異常を初見した場合は速やかに応急措置を採る等して生徒の健康を損ねさせないよう注意すべき義務を負うものであることは言うまでもない。

特に本件合宿が高気温の夏期に実施されたのであるから、体調を崩す生徒が生じることは十分予想できることであり、顧問教諭にはより一層の注意義務が課せられると言うべきである。」

としました。

そして、裁判所は本件について

「殊に、S教諭の証言によれば、5年前の柔軟部の夏期合宿において、参加した生徒が脱水症状で倒れ入院したという経験を有するというのであるから、暑熱環境下での激しい練習では脱水状態に陥る生徒が生ずる可能性があることは当然に予見できたはずである。

そして、本件合宿当時、暑熱環境下での激しい運動では脱水症状が起こる危険性が高いこと、その予防法として気象環境、運動の強度などに適応した水分・塩分の補給が必要かつ効果的であることなど、スポーツ関係者の間では周知されていたと推認されるところであって、前記認定の本件合宿中における気温湿度等の気象要因、運動の質及び量等の諸般の事情に鑑みれば、合宿に参加したXら生徒が水分を十分補給せずに過度の運動を行うことで熱中症等の疾患を発症させる可能性が極めて高かったのであるから、S教諭は、Xら生徒の運動内容及び量、休憩の取り方に配慮するとともに、積極的に必要な量の水分・塩分を補給させ、Xら生徒に熱中症等の疾患の原因となる事情を発生させないよう注意すべき義務があった。」

と判示しました。

これに対し、被告は、

「熱中症及び横紋筋融解症についての十分な知識は一般に普及していなかったこと、Xは高校生であり、健康状態が不良な場合は申告することが期待されるのに申告がなかったこと等から、S教諭にはXの横紋筋融解症の発症について予見可能性がなかった」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「確かに熱中症及び横紋筋融解症の発生機序、予防法、治療法等の専門的知識にわたる部分はともかくとして、S教諭は、少なくとも高温多湿な環境下で過度な運動を行うとしばしば熱中症が発症することについて予見しうる経験を有していたこと、そして、本件合宿当時には、暑熱環境下での激しい運動では脱水症状が起こる危険性が高いこと、その予防法として気象環境、運動の強度などに適応した水分・塩分の補給が必要かつ効果的であることなど、スポーツ関係者の間では周知されていたと推認されること、更に、S教諭が倒れた直後にXに対して行った水分の補給や体を冷やすなどの処置は熱射病に対する救急処置として適切なものであって、熱中症及びその救急処置に関し相当の知識を有していたものと推認しうることなどに鑑み、被告の右主張はにわかに採用できない。」

として、被告の主張を排斥しました。

そして、裁判所は、S教諭の注意義務違反に関して、

「S教諭は、『汗をかいた分だけ水分を補給しろ』という指導をし、水分補給については個々の生徒の判断にまかせていたなどと述べているけれども、合宿練習中の水分補給については、生徒の母親に黒砂糖湯を用意するように指示しただけで、その量は生徒の母親に任せたまま、自ら、Xら生徒に対し、当該気温湿度、運動の質及び量に応じて必要な水分を補給するように具体的な指導・措置は講じていなかったばかりか、S教諭が生徒に対し練習中水分を取らないように指導していたとは言えないにしても、練習中にはできるだけ水分を補給しないように黙示的な指導がなされていたことが窺われ、少なくとも練習中は生徒にとって水分を補給しづらい雰囲気があったことは明らかであり、これら認定によれば、S教諭において、Xら生徒の運動内容及び量、休憩の取り方に配慮するとともに、積極的に必要な量の水分・塩分を補給させ、Xら生徒に熱中症等の疾患の原因となる事情を発生させないよう注意すべき義務を怠っていたものと言わざるを得ない。」

と判示しました。

さらに、裁判所は、

「その結果、本件合宿に参加していたXをして脱水状態を招来させ、更に、Xにつき横紋筋融解を発症させ、それに伴う急性腎不全により死亡させるに至ったものである。」

とS教諭の注意義務違反とXの死亡との因果関係を認めました。

その結果、裁判所は

「被告は、被告の公務員であるS教諭が職務執行中に過失により発生させた本件事故による損害について、国家賠償法1条1項による責任がある。」

として、被告の損害賠償責任を認めました。

熱中症を発症しないようにするべき義務

熱中症事故に関する裁判例において問題となる義務には、大別して2つあります。

1つは熱中症を発症させないようにするべき義務、もう1つは熱中症を発症した場合の対処に関する義務です。

本件は前者に関するものです。

裁判所が熱中症を発症させないようにするべき義務があると判示しているのは、「熱中症は予防することができる」という大前提があるからです。

これからの季節は熱中症発症の危険性が高まります。

スポーツの現場において熱中症事故が発生しないように十分な対策を採っていただきたいと思っています。

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