私立高校柔道部の生徒がプロレス技をかけられ頭部から床に落下して頸髄損傷の傷害を負った事故

2018.11.22 スポーツ中の事故

横浜地方裁判所平成13年3月13日判決

事案の概要

本件は、平成8年10月15日、被告学校法人が開設し経営しているB高校柔道部の練習場において、練習前に部室の雑巾がけをしていた柔道部部員である原告が、先輩の柔道部部員である被告Yが掛けたプロレス技によって頭部から床に落下し、頚髄損傷の傷害を負い、四肢麻痺等の後遺障害が生じた事故について、 被告Yに対しては不法行為に基づき、被告学校法人(被告学園)に対しては在学契約に基づく安全配慮義務違反による債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案です。

本件事故当日は、高校の二学期中間テストの2日目でした。

高校では、通常、定期試験中は部活動は中止されますが、大会が近い等の事情で当該部から申請し、特別の練習許可を受ければ練習を実施することが可能であり、柔道部は、平成8年10月末の横浜地区大会に備えて1時間30分の練習許可を受けていました。

本件部室に集合した部員は、整列、礼により練習が開始する前、一年生は掃除や着替えをしていましたが、二、三年生部員は着替えや雑談をすることが多く、掃除は、一年生部員全員で本件部室の畳の掃き掃除及び拭き掃除を行った後、一週間ごとローテーションで、ゴミを捨てるグループ、下駄箱を片付けるグループ及び雑巾を洗いに行くグループに分かれてゴミ捨て等の作業をしていました。

練習が始まる前に一年生部員が本件部室の掃除をすることは柔道部における長年の慣行であり、柔道部顧問であるA教諭は、毎年度の初めにこの慣行について部員に説明し、従前、掃除をしないで練習を始めることはありませんでした。

原告は、本件事故当時、しゃがんで本件掃除をしていましたが、雑巾がけに意識を集中しており、プロレス技を掛けられて投げられるとは意識していませんでした。

被告Yは、かつて、原告に対してパワーボムを10回以上掛けたことがありましたが、原告が技がかからないように耐えたり、受身をとったことによって怪我をすることもなく、また、高校入学後から柔道を始めた原告の柔道の技量は、上級生程ではないものの、受身が完全にできるため、受身をとることによってプロレスの技に対処することができると思っていました。

しかし、プロレスごっこは、突然技を掛けることも多く、見ていた他の部員から、危険だからやめるように言われたこともあり、被告Yも、プロレス技を掛けることが危険で、大きな怪我につながりかねないことは理解していたので、本気で技を仕掛けることはないようにしていました。

被告Yは、しゃがんで本件掃除をしていた原告の前に立ち、原告に対し、プロレスのビデオを貸して欲しいなどと話し掛けた後、本件掃除を継続してしゃがんでいた原告に近づいてパワーボムを掛けようとし、予告することなく、突然原告を持ち上げました。

しかし、原告が技が掛からないようにして耐えたため、途中までしか持ち上げることができず、一度原告を下ろしてもう一度掛けようとしたところ、更に原告が技が掛からないように耐えたため、原告が嫌がっていると感じ、強引に力ずくで原告を投げようとしました。

その際、被告Yは、バランスを崩し、膝が折れて斜め前に前のめりに倒れ、原告の上に乗りかかってしまい、原告の頭が持ち上がった状態で落下したように見えましたが、そのまま原告がうつ伏せに倒れているのを見て、原告を仰向けに返しました。

原告は、本件事故直後、体に力が入らず、体が重々しく感じられて動かなくなり、被告Yに仰向けに寝かせてもらい、少し様子を見ていましたが、2~3分たっても体が動かなかったので、保健の先生を呼ぶように依頼しました。

A教諭は、生徒から原告が倒れているとの連絡を受けて、他の体育教員と共に本件部室に駆けつけると、原告は畳の中央で仰向けに寝ていました。

連絡を受けて、本件部室には、高校の保健の担当、事務長、校長が駆けつけ、救急車を呼び、原告は救急車により搬送されましたが、その途中に気を失いました。

原告は平成11年5月18日、症状固定と診断されましたが、医師の診断は、頚髄損傷による完全四肢麻痺のために体幹と両上下肢は廃用、神経因性膀胱を伴う、車椅子と介助を要し、回復しない、脊髄による麻痺の障害は回復せず、症状は固定している、一生涯医療を要するというものでした。

裁判所の判断

被告Yの責任について

裁判所は

「以上の事実認定によれば、被告Yは、拭き掃除をしていた原告に対し、突然プロレスの技であるパワーボムを掛けようと持ち上げ、自身のバランスを崩して原告の頭を本件部室の畳に落下させて傷害を負わせたのであるから、この被告Yの行為は原告に対する不法行為である。」

と判断しました。

この点について、被告Yは、

「本件事故は、親しい友人同士のふざけ合い、遊戯行為における偶発的な事故であり、違法性がない」

と主張しました。

裁判所は、

  • 本件事故当時、柔道部では、部員の中にプロレス関係の雑誌を読むなど、プロレスに興味を持つ者がおり、練習時間の前後に、複数の部員による遊びとしてのプロレスごっこが、本件事故が発生する前年の二学期ころから本件事故当時までほぼ毎日のように行われ、この遊びは、一方がプロレスの真似をして相手に技を掛け、相手は怪我をしないように受身をとったり、技を掛けられないように技で避けたり、耐えたり、技を掛け返したりするもので、態様は様々であったこと、
  • 部員のうち、プロレスごっこをしていたのは主に3人(被告Y、C、原告)であり、時々する部員が約2名いたこと
  • プロレスごっこを主にしていた3人のうち、上級生である被告Y、Cが技を掛け、下級生である原告が技を掛けられることが多かったこと
  • 一年生部員約10名は、プロレス技を掛けられたことがあり、掛けられる技は、パワーボムやブレーンバスターであったこと
  • 原告は、高校入学後、6・7月ころからプロレスごっこに加わるようになり、被告Yは、高校第一学年の二学期ころから柔道部でプロレスごっこを始めたこと
  • 原告と被告Yは、プロレスが好きだったことから親しくなり、日常、プロレス雑誌等の話や、スポーツ新聞に出ているプロレスの話をすることがあったこと
  • 被告Yと原告とは、プロレスごっこをほぼ毎日のように頻繁にしていたこと

が事実として認められるとしました。

しかし、裁判所は

「柔道部員として格技で鍛えており、プロレスごっこで遊び慣れていたとはいえ、プロレス競技に対応する専門的な訓練などを経験しておらず、しゃがんで拭き掃除をしていた原告に対し、腹を抱えて前から持ち上げて回転させる投げ技(パワーボム)を、事前の承諾や予告なく掛けようとして原告を突然持ち上げ、原告が技が掛からないようにして耐えたため、途中までしか持ち上げることができず、一度下ろしてもう一度掛けようとして落下させ、その際、被告Yは、バランスを崩し、膝が折れて斜め前に前のめりに倒れ、原告の上に乗りかかってしまったという、生命・身体に対する危険性が高いプロレス技を掛けようとし、かつ掛け損なって失敗した結果、本件事故が発生したのであるから、たとえ、被告Yの認識としては、ふざけ合い、遊戯行為であったとしても、ふざけ合い、遊戯行為であるから違法性がないとは到底いえない。」

として、

「被告Yのこの主張は認められない。」

と判断しました。

被告学園の責任について

裁判所は、被告学園の責任について、まず

「被告学園の高校の管理者である校長や部活動の顧問教諭は、教育活動の一環として行われる部活動(格技である柔道部)に参加する原告に対し、安全を図り、特に、心身に影響する何らかの事故発生の危険性を具体的に予見することが可能であるような場合には、事故の発生を未然に防止するために監視、指導を強化する等の適切な措置を講じるべき安全保護義務がある。」

とした上で、

「柔道部における部活動は、その性質上、格技である柔道を修得しようとして柔道部に所属する部員が、畳、マット等により、格技修得のための設備が整っている本件部室に集合し、格技の練習を行うのであるから、指定された練習時間の前後の時間帯に、慣行として顧問の教諭の指示によって行われることになっている本件部室及び格技修得のための設備の清掃等の行為もここにいう部活動に含まれるというべきである。」

と、練習時間の前後の時間帯についても安全保護義務があると判示しました。

そして、裁判所は、本件について

「格技を練習、修得する高校の柔道部において、格技の専門家であるA教諭自身が危険であるから禁止すべきであると認識するプロレスごっこをして様々なプロレスの技を掛けあうことが、本件事故が発生する前年の二学期ころから、複数の柔道部員によって練習時間の前後に行われ、本件事故当時もほぼ毎日のように行われていたのであるから、このような柔道部における部活動の状態は、柔道部員の心身に影響する何らかの事故発生の危険性を具体的に予見することが可能な場合に当たり、被告学園及びA教諭としては、本件事故の発生を未然に防止するために監視、指導を強化する等の適切な措置を講じるべき義務があったというべきである。」

とした上で、

「それにもかかわらず、被告学園及びA教諭は、プロレスごっこが練習時間の前後の時間帯に前記のとおりの態様で行われていた実態を認識、把握せず、柔道部員に対し、練習時間帯の前後にプロレス技などの格技の技をふざけて掛ける行為の危険性について指摘し、一律に厳しくこれを禁止したり、見回りを強化するなどの対策を講じる措置を取ったことはなかったのであるから、これらの点について、被告学園には、原告に対する安全保護義務違反があったというべきである。」

と判断しました。

なお、裁判所は

「部活動において、本来生徒の自主性を尊重すべきものであることはもとよりであるが、高校生が一般的に有する判断能力を前提として、なお故発生の危険性が認められる場合には、生徒らの自主的判断にすべて委ねるのではなく、生徒の自主的な活動に内在する危険性について、生徒自身の判断能力の不十分さに配慮した教育上必要とされる指導監督を行うべきであって、前記のとおりの本件事故の発生の経緯、態様等に照らすと、本件事故は、生徒の自主的判断を全面的に信頼し、尊重するのみでは防止できなかったことが明らかであるから、生徒、柔道部員の自主性の尊重という観点は、上記判断を左右するものではない。」

と付け加えました。

被告Yはなぜ「遊戯行為」と主張したのか

この判決を見て、「被告Yは原告に重篤な後遺症を負わせておきながら『ふざけ合い』『遊戯行為』などと主張するのは許せない」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、この主張は法律的にはよくある主張であるといえます。

最高裁判所昭和37年2月27日判決は、

「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を具えない児童が『鬼ごっこ』なる一般に容認される遊戯中に他人に加えた傷害行為は、特段の事情の認められない限り、該行為の違法性を阻却すべき事由あるものと解するのが相当である」

と判断しました。

つまり、被告Yは、当時柔道部で流行っていたプロレスごっこにより原告にけがを負わせたのであるから、違法性が阻却されると主張したわけです。

もっとも、児童・生徒間の遊戯中の事故については、

  1. 当該遊戯が一般的に容認されているものであること
  2. 事故が当該遊戯に通常伴うものと認められること

の二要件が備われば、違法性が阻却されると考えるのが一般的です。

本件においては、いずれの要件も満たさないものですので、違法性が阻却されなかったことになります。

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