市立中学校柔道部員が同級生から柔道場で暴行を受けた事件についての加害生徒の父母及び顧問教諭の過失

2018.12.19 パワハラ・セクハラ・いじめ

神戸地方裁判所平成21年10月27日判決

事案の概要

本件は、原告が、被告神戸市が設置運営する本件中学校に在学中であった平成17年11月9日、被告Y1及び被告Y2の子であるAから暴行を受けたことにより傷害を負ったのは、被告YらがAに対する親権者としての指導・監督を怠り、また、被告神戸市の公務員である本件中学校の教員らがAの日常的な暴力行為を放置した過失によるものであるとして、被告Yらについては、主位的に民法712条及び同714条1項(監督者責任)、予備的に民法709条(不法行為責任)に基づいて、被告神戸市については国家賠償法1条1項に基づいて、損害賠償を求めた事案です。

原告及びAはいずれも本件中学校の一年生であり、柔道部に所属していました。

中学一年生の柔道部員には、原告及びAのほか、B・Cら6名がいました。

本件中学校の柔道部の顧問は、T教諭及びS教諭であり、Aのクラス担任は、K教諭でした。

本件中学校の廊下では、Aを含む一年生の生徒が取っ組み合ったり、投げ合ったり、倒し合ったりして、ときにはけんかに発展するようなこともあり、また、柔道部のクラブ活動中も顧問教諭らが目を離しているときや、顧問教諭らが柔道場に来る前のクラブ活動前の時間中にAがCらと同様のことをしていました。

K教諭においては、これらの行為を遊びでじゃれ合っているものと認識していました。

本件中学校柔道部のクラブ活動は、練習前の着替えを終えた後、準備体操を行う段階から、顧問教諭らが立ち会い、打込み、乱取り等の柔道練習、ランニング、筋力トレーニング、整列体操、黙想、ミーティング、挨拶を行った上、柔道部員全員の着替えが終了し、柔道場を退室したことを確認してから、顧問教諭らが柔道場の鍵を閉めて、退出するというのが通常の流れでした。

5月ころ、AとBが、柔道場の玄関付近で殴り合いのけんかをし、Aが鼻血を出したことがありました。

これについて、AはK教諭から、BはT教諭及び担任教諭にそれぞれ事情を聞かれました。

9月ころ、柔道部のクラブ活動開始前に柔道場において、A及び上級生の柔道部員数人で、Cをマットでくるんで、蹴るなどしました。

クラブ活動開始時に柔道場を訪れたS教諭は、柔道場にマットが広げられていることを不審に思い、柔道部員を問いただしたところ、柔道部員同士でマットでくるんでいたことを聞き、柔道部員らに対し、そのようなことをしないように注意しました。

10月21日、Aが前日に同級生のDから体が大きいことをからかわれたと思っていたことから、教室前の廊下にいたDに対してつかみかかって、柔道技で投げたことにより、Dが右脛骨、右腓骨骨折の傷害を負いました。

担任のK教諭は、Aを厳しく叱責しました。

10月下旬ないし11月上旬ころ、神戸市内のゲームセンターにおいて、Aを含む数人の生徒とEとの間でいさかいが生じ、AがEに対して暴力を振るって、警察に通報がなされたことがありました。

11月8日、原告の母が本件中学校を訪れ、S教諭に対し、同教諭が罰として原告に掃除をさせたことについて抗議するとともに、D傷害事件において、Dを負傷させたAについて、今後いかなる対応をとるのかについて尋ねたところ、S教諭は、つきっきりで指導する旨答えました。

翌9日、柔道部のクラブ活動の練習が終了し、柔道部顧問のT教諭が柔道場を立ち去った後の更衣時間中に、原告が前方から、Aに両足で胸部付近に飛び蹴りをされたため、後方によろめいて、柔道場の壁に後頭部を強打し、その後、原告がAに対して足蹴りをするなどの反撃をしたところ、Aが原告を押し倒し、馬乗りになって手拳で多数回原告を殴打しました。

裁判所の判断

Aの責任能力について

裁判所は

「本件事故当時、Aは、満13歳の未成年者であることが認められるところ、本件全証拠によっても、Aが同年代の子どもに比して知能が低いことを窺わせる事実を認めることはできないし、原告を殴打した後、原告に対して「ごめん。」と言って謝罪していることが認められ、Aの証人尋問においても、発問者による質問に対応して、適切に応答している」

ことを根拠に、

「本件事故当時、Aにおいて、飛び蹴りをした上、馬乗りになって殴打し、原告を負傷させるという前記の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったと認めることはできず、Aは責任能力を有していたものと認めるのが相当である。」

と判断しました。

その結果、裁判所は

「本件事故当時、Aは責任能力を有していたものであるから、Aの親権者である被告Yらが民法714条1項に基づいて損害賠償責任を負うものではない。」

と判示しました。

被告Yらの監督義務違反の有無について

原告は、

「Aに責任能力が認められるとしても、Aが粗暴事件を繰り返しているにもかかわらず、親権者たる被告YらがAに対して、粗暴な行動を起こさないように指導、監督する義務を怠ったものであるから、民法709条に基づいて損害賠償責任を負う」

と主張しました。

この点については、まず、裁判所は

「本件事故当時、Aは責任能力を有していたものと認められるが、未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認め得るときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(オ)第1067号同49年3月22日第二小法廷判決・民集28巻2号347頁参照)。」

との最高裁判例を示した上で、本件中学校入学後のAの素行等について、上記の事案の概要に挙げた事実の他に、以下の事実を認めました。

  • 本件中学校入学後、本件に至るまでの間、Aの担任であるK教諭から被告Y2に対して、勉強についての注意とともに、じゃれ合うことが多いから注意するようにという連絡が何度かなされたことがあった。
  • D傷害事件の後、K教諭から被告Y2に対し、家でも厳重に注意してほしい旨の連絡がなされた。
  • Aが神戸市内のゲームセンターにおいて、Eに暴行したために、警察に通報されたことがあった後、A及び本件中学校の教諭からこれを聞いた被告Y2は、Aとともに、Eの自宅に謝罪をしに行った。
  • 被告Y1は、Aの教育について熱心ではなく、被告Y2に任せており、主に被告Y2がAに対し、体が大きいのだからけんかになっても手を出さないようにと注意をしていた。

これらの事実を前提に、裁判所は

「以上によれば、被告Yらにおいては、Aが本件中学校において、けんかに発展しかねない遊びをしており、注意をするようにK教諭から要請されていた上、D傷害事件において、Aが同級生のDに骨折の傷害を負わせる事件を起こしたために、K教諭から厳重に注意するよう要請されており、また、本件事故直前に神戸市内のゲームセンターにおいて、AがEに暴行を振るって、警察が出動する事件を起こしていたことを認識していたのであるから、従前どおりの指導を続けるのみでは、未だ13歳の未成年者であり、自己抑制力の発達が十分でないAが同級生とけんかをし、また、暴力を振るうなどして、同級生を負傷させる危険性があることを具体的に予見し得たものというべきであって、従前の指導教育に加えて、Aの日頃の動静を注意深く見守り、また、Aと普段の生活状況について十分に話をし、同級生に対して手を出すことがないように厳重に注意するなど適切に指導監督を行うべき義務を負っていたものと認めるのが相当である。」

とした上で

「しかるに、被告Y2は、D傷害事件の後も、従前同様に、けんかになっても手を出さないよう漫然と注意するにとどまり、また、被告Y1においては、特段の注意指導を行ったことが認められないのであって、いずれについても、Aが再び同級生を負傷させることがないようにD傷害事件以前の指導教育に加えて、Aの動静や生活状況に気を配ったり、暴力を振るうことは決して許されないことであることを厳しく指導するなどしていないのであるから、親権者としてAに対して適切な指導監督を行うべき義務を懈怠したものといわざるを得ない。」

と判断しました。

これに対し、被告Yらは、

「D傷害事件を起こすまで、Aが同級生を負傷させる事件を起こしたことはなく、本件中学校の教諭からAが同級生に対して粗暴行為をしないように注意をするよう求められたことなどなかったのであるから、本件事故の発生を予見することはできず、本件事故発生の防止について過失があったということはできない」

と主張し、被告Y2本人も、

「本件中学校の教諭から、Aの素行が悪いとか同級生をいじめたり暴力を振るうなどの連絡を受けたことはない」

と供述しました。

しかし、裁判所は

「被告Y2は、普段からAに対して、けんかをしても手を出さないよう注意していた旨供述するものであるところ、Aが同級生とけんかをする可能性があることを認識しているからこそ、かかる注意を行っていたものであると考えられる。」

「そして、本件中学校の教諭から、Aが粗暴であるとか同級生をいじめているという趣旨の連絡がなされたものではないとしても、少なくとも、K教諭から、同級生を負傷させかねない振る舞いをしている旨の連絡を受け、さらに、Dに大怪我をさせた後、短期間でEに暴力を振るったというのであるから、Aが同級生とけんかをするなどして、同級生を負傷させる事故を起こすことは十分予見し得たものというベきである。」

として、被告Yらの主張を排斥しました。

そして、裁判所は

「被告Yらが、上記指導監督義務を尽くしておれば、本件事故の発生を防ぐことができたと認められる。」

と被告Yらの注意義務違反と本件事故との因果関係を認め、

「被告Yらは、親権者としての指導監督義務を怠った結果、Aが本件事故によって、原告に本件傷害を負わせたものと認められるから、民法709条に基づいて、原告に生じた損害を賠償すべき義務を負う。」

と結論づけました。

被告神戸市の損害賠償責任について

原告は、

「本件顧問教諭らは、教諭不在の練習前の時間において、Aが同級生の柔道部員に対して日常的ないじめ行為を行っていることを認識していたのであるから、更衣時間を含むクラブ活動時間中に常時立ち会い、Aを監視すべき義務が存したのに、これを怠った過失がある」

と主張しました。

この点について、裁判所は

「学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負うものであり、課外のクラブ活動であっても、それが学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭を始め学校側に生徒を指導監督し、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務が存するものと解される。

しかし、課外のクラブ活動が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格別、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立ち会い、監視指導すべき義務を負うものではないと解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第539号同58年2月18日第二小法廷判決・民集37巻1号101頁参照)。」

との最高裁判例を示しました。

そして、本件について裁判所は、

「本件事故は、柔道部のクラブ活動の練習終了後の更衣時間中に発生したものであるところ、前記認定の事実に照らせば、課外のクラブ活動に付随する時間中に発生した事故ということができるから、本件顧問教諭らにおいて、更衣時間中における事故発生の危険性を具体的に予見することができる特段の事情がない限り、立会監視義務を負うものではない。」

として

「本件において、前記特段の事情が存したか否かについて検討する。」

と本件における争点を明らかにしました。

その上で、裁判所は

  • 柔道部の顧問教諭であるT教諭及びS教諭は、柔道部のクラブ活動の前の教諭不在時において、柔道場でAを含む柔道部員が取っ組み合ったりするなどしていたことを認識しており、そのようなことをしないように、柔道部員に対して注意をしていたものと認めることができる。
  • 本件顧問教諭らにおいては、Aに関して、五月ころに柔道部の朝練習の直後にBとけんかをしたこと、柔道部の練習前にCをマットで巻くなどしていたことを本件顧問教諭らは知っていたことが認められる。
  • Dの母親は、T教諭を含む本件中学校の教員に対し、柔道部員でないDに対してAが柔道技をかけて怪我をさせたことについて抗議をしたこと、D傷害事件の2、3日後、T教諭が柔道部員らに対して、柔道場以外で柔道技をかけないよう注意したことが認められるのであるから、本件顧問教諭らにおいては、AがDに対して柔道技をかけた結果としてD傷害事件が発生したことを知っていたものというべきである。

との事実認定をもとに

「そうすると、D傷害事件を受けてのAへの対応を原告の母に問われたS教諭がつきっきりで指導する旨答えたように、本件顧問教諭らは、Aに対する十分な指導が必要であることを認識していたものということができるから、柔道部のクラブ活動の前後において、取っ組み合ったりすることをA以外の柔道部員が遊びであると認識していたかとかこれらをいじめ行為と評価できるかはともかくとして、Aが他の部員と取っ組み合ったり投げたりするなどの行為に及ぶことによって、いさかいやけんかが発生し、その結果として、他の部員が負傷する事態が生ずることを十分予見できたものというべきである。」

「そして、本件事故は、Aが原告に対して飛び蹴りを加えた上、反撃をした原告との間でけんかとなって、馬乗りになって殴打したというものであり、取っ組み合ったり投げ合ったりするなどの行為と同種の行為によって発生した事故であるということができるから、本件顧問教諭らにおいては、本件顧問教諭らが立ち会っていないときに、本件事故が発生する危険性を具体的に予見できる特段の事情が存したというべきである。」

として、上記の「特段の事情」が存在することを認め

「したがって、本件顧問教諭らには、Aが原告を含む他の部員に対して暴力を振るって、けんかが発生したり、負傷することのないようにクラブ活動終了後の更衣時間に立ち会い、Aが下校するまで見届けるべき義務があったというべきであり、これをせずに、本件事故当日、柔道部練習後の更衣時間に立ち会わなかった点において、過失が存したものといわざるを得ない。」

と顧問教諭らの過失を認定しました。

これに対し、被告神戸市は、

「クラブ活動の練習中と違って、更衣時間中に危険は皆無であるから立ち会う義務がない」

と主張しました。

これについて、裁判所は

「確かに、一般に、クラブ活動の練習終了後の更衣時間というのは、クラブ活動に付随するものに過ぎず、クラブ活動の練習が終了したのにいつまでも校内に残って遊ぶことなく、早く帰宅するよう促すという施設管理上、教育上の観点から、教諭がこれに立ち会ったり、監視する運用を行うことが望ましいものではあるが、着替えそれ自体は、何ら危険性を伴うものではないのであって、事故が発生することを未然に防止するために立ち会うべき注意義務を原則として負うものではない。」

と一定の理解を示した上で、

「しかしながら、本件においては、本件顧問教諭らが不在の際には、Aを含む柔道部員が負傷事故を発生させかねない体を使った遊びに興じているのが常態化しており、それを本件顧問教諭らが認識していたというのであるから、更衣時間に立ち会っていなければ、柔道部員の間でけんかが発生したり、柔道部員が負傷する事態が発生する危険性を具体的に予見し得た特段の事情が存したものというべきである。」

として、被告神戸市の主張を排斥しました。

そして、裁判所は

「本件顧問教諭らが更衣時間に立ち会っていれば、本件事故の発生を防ぐことができたと認められる。」

と顧問教諭らの過失と本件事故との因果関係を認め、

「以上のとおり、本件顧問教諭らは、公立中学校での教育活動における注意義務を怠り、その結果、本件事故が発生したものであるから、公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて、過失により違法に損害を加えたものというべきである。

したがって、被告神戸市は、国家賠償法1条1項に基づき、上記違法行為によって原告に生じた損害を賠償すベき責任を負うものと解するのが相当である。」

と結論づけました。

加害生徒の粗暴な言動を認識していたからこそ認められた顧問教諭の過失

顧問教諭は部活動に立ち会うべき義務があるのかでも紹介したように、最高裁判所は、

「課外のクラブ活動が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格別、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立会い、監視指導すべき義務までを負うものではないと解するのが相当である。」

と判断しており、本件では、この「特段の事情」の有無が争点になりました。

そして、本件では、その「特段の事情」が存在するため顧問教諭には立会義務が認められ、その義務に違反したとして、顧問教諭の過失が認められました。

この「特段の事情」が認められた理由についても「加害生徒による粗暴な言動があったことを認識していたことを踏まえると、本件顧問教諭らが立ち会っていないときに、本件事故が発生する危険性を具体的に予見できた」というものですので、妥当な判断であったと評価することができます。

なお、本件は、「顧問教諭には生徒による故意に基づく不法行為を未然に防止するための安全配慮義務があるのか」という問題とも関連します。

この点について、高校の体育授業において行われたバスケットボールの試合中に同級生により顔面を蹴り上げられた事案についての学校法人の責任でも触れたように、本来であれば、生徒が故意に暴行を加えてけがを負わせることまで予測することはできないとして、顧問教諭の安全配慮義務はないと考えられたかもしれません。

しかし、本件では、やはり加害生徒の粗暴な言動があったことを認識していたことを踏まえて、顧問教諭の安全配慮義務違反が認められたと評価することができます。

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