中学校の柔道部員が部活動としての練習中に頭部を打って死亡した事故に関する指導教諭及び校長の過失

2019.01.09 スポーツ中の事故

新潟地方裁判所高田支部平成9年1月30日判決

事案の概要

本件は、柔道部活動中に頭部を打って死亡した中学生の両親が、学校の設置者である被告に対し、部活動の顧問教師及び校長の過失を理由として国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めた事案です。

Aは、平成6年4月、本件中学校へ入学しました。

Aは、同年5月11日ころから、本件中学校の柔道部に仮入部し、同月25日、正式に入部しました。

本件中学校においては、各部活には部員から部長及び副部長が、教員から主任顧問、副任顧問が選任され、この上に各部活動を統括する部活動主任教諭がおり、これを校長が統括していました。

柔道部においては、M教諭が主任顧問であり、副任顧問はN教諭とO教諭で、三年生Kが部長を務めていました。

また、柔道部は、教員以外から、部外コーチとしてCにコーチを依頼していました。

S校長は、毎年4月に部活動主任教諭に部活動計画書を提出させていましたが、この中には、「部活動については顧問教諭の指導のもとに行われるのが原則とするが、やむをえず指導にあたれない場合は、危険のないよう練習の手順等をよく生徒に徹底すること」との新潟県教育委員会教育長通知に基づき、

  • 主任顧問教諭が不在の場合には副任顧問ないし部外コーチが、これらの者が不在の場合には隣の部の主任顧問、副任顧問が立ち会うこと
  • 職員会議などでこれらの者が立ち会えないときは順番に会議を抜けて巡視をすること
  • 校内に指導者がいないときは部活動をやめさせること

が安全対策として盛り込まれていました。

M教諭は、柔道の指導を、文部省で作成した柔道実技の手引に記載された講道館柔道試合審判規定・少年規定により行っており、部員に対し、

  • ここに禁止された事項は一切しない(なお、「後ろ腰」は禁止技とはなっていない。)
  • 無理な技を掛けたり、相手が掛けてきたときは無理な姿勢で踏ん張らない
  • 強い者が弱い者に対し技量を超えるような無理な技を掛けない
  • 締め技を掛けられたらすぐに参ったをする
  • 参ったをされたらすぐに技を解く
  • 投げ込みについてはマット上でする

ように指導していました。

また、M教諭は、乱取りのときはなるべく自ら立ち会うようにしていました。

三年生部員のIは、当時、「後ろ腰」の練習をしていましたが、同年6月14日に開催された中学校柔道大会でプロレスのバックドロップのような非常に危険な技になり、型が崩れると相手が後頭部を打つ可能性があるため、同月18日、M教諭から正しい「後ろ腰」の指導を受けましたが、十分ではなく、M教諭から、自分がいないときは「後ろ腰」をやってはいけない、乱取りのときにやってはいけないと注意されていました。

なお、この中学校柔道大会にはS校長も出席しており、試合内容をつぶさに見ていました。

M教諭は、同月20日午後3時35分ころから始まる定例職員会議において、本件中学校が主管校及び会場校として同年7月13日及び14日に行われる中学校柔道大会の実施計画について提案発表することとなっていたため、柔道部の練習の指導に午後4時55分ころまで出席できず、全教員が職員会議に参加するため監督者を配置することもできず、またCコーチも来る予定がなかったため、午後0時35分ころ、K部長に対し、練習に出れないが、通常のメニユーどおり途中省略しないで練習をするように指示しました。

なお、M教諭は、Iが「後ろ腰」をやりたがっていたことは知っていましたが、K部長に対し、特に、Iが「後ろ腰」をしないように注意するようには言っていませんでした。

定例職員会は、午後3時35分ころから全教諭の出席のもと始まりましたが、巡視を行うことについては特に決めておらず巡視をする予定の教諭はおらず、S校長は巡視が決められているのかにつき確認をしませんでした。

本件中学校柔道部部員は、午後3時45分ころから学校内の柔道場で練習を開始しました。

通常の練習は、

  1. 集合(黙想、出欠確認、目標、礼)
  2. 準備体操(ジャンプ、足の屈伸、伸展、前後回旋、側回、側屈、前後屈、体回旋、首の前後屈・回旋、手首足首の屈伸)
  3. 柔軟(伸脚前屈20回、開脚前屈(左、右、前、各20回)、足の裏を合わせ開脚前屈20回)
  4. マット運動(前転、後転、開脚前転、開脚後転、側転、倒立前転、後転倒立)
  5. 準備運動(引き、えび、逆えび)
  6. 受け身(後ろ受け身(前進、後進各2回)、横受け身(2セット)、前回り受け身(2セット))
  7. 打ち込み(同じ技を繰り返し練習し、崩し、体さばき、掛け方、力の用い方などを身に付ける練習方法で静止している相手に技を掛けるが投げる寸前でとめるもの。普通(10本×5回)、三人打ち込み(10本×2回)、スピード(10本×5回))
  8. 投げ込み(技や移動条件を互いに約束して練習する方法、技を掛ける取りと掛けられる受けを交代して行うもの。一人約20本)
  9. 乱取り

に進むメニューになっていましたが、当日の練習はマット運動、準備運動は省略し、受け身も前回り受け身を行っただけで、打ち込みに入りました。

これは、同年7月13日及び14日に予定されている中学校柔道大会でよい成績を取ろうとして基本的な練習を軽視したためであり、このようなことは度々ありました。

柔道部員は、打ち込み10本を5回やった程度で、すぐに投げ込みに入りました。

Aは、仮入部の日から、受け身の指導を受けており、同年6月5日に開催された中学校柔道部合同練習会・練習試合、同月14日の中学校柔道大会に出場しており、本件事故の時点で日頃の練習に何とかついていけるようになっていたものの、受け身については完全にマスターしたとはいえない状態でした。

Aは、

  1. Iが取り、Aが受けとなり、「背負い投げ」2回、「後ろ腰」4回
  2. Aが取り、Iが受けとなり、「背負い投げ」2回
  3. 三年生Tが取り、Aが受けとなり、「内股」1回
  4. 三年生Aが取り、Aが受けとなり、「払い腰」2回
  5. Iが取り、Aが受けとなり、「後ろ腰」4回
  6. Aが取り、一年生Yが受けとなり「背負い投げ」10回
  7. 二年生Kが取り、Aが受けとなり、「体落とし」1回

を行いましたが、このころ、吐き気を訴え、顔色が悪くなり、休憩するために歩き出したところで倒れ意識を失いました。

この時の時刻は午後4時15分ころでした。

柔道部員がM教諭を呼びに行き、M教諭が道場に駆けつけたときには、Aは意識不明の状態でした。

Aは、県立妙高病院へ搬入されて応急措置を受けた後、同日午後6時40分ころ、県立中央病院に転送されましたが、昏睡状態を続け、人工呼吸等の手当てを受けたものの、翌21日午後6時45分に急性硬膜下出血を伴う脳挫傷を原因として死亡しました。

裁判所の判断

Aの死亡原因について

裁判所は、Aの死亡原因について、

  • 柔道部での投げ込みの練習中に頭部の額から上の部分に鈍的な外力及び回転性ないし直線的なかなり大きい外力を受けたことによるものであると認められるところ、Aは受け身は一応できるようになっており、約束練習である投げ込みで「背負い投げ」、「内股」という通常の技には対応できたと認められること
  • Aが受けとなった技のうち、「後ろ腰」がもっとも衝撃が強いこと
  • 不完全な「後ろ腰」は頭部を打つ可能性があること
  • Iの「後ろ腰」は不完全のものであった可能性が大きいこと
  • Aは受け身は一応できていたが、「後ろ腰」、しかも不完全な「後ろ腰」に対して受け身ができる技量があったとまでは認められないこと
  • AはIに「後ろ腰」を掛けられて投げられたとき苦しそうな顔をしたことがあること

などの事実から、

「Aの脳挫傷の原因はIの『後ろ腰』が原因であると認めるのが相当である。」

と事実認定しました。

M教諭の過失の有無について

裁判所は、本件事故が起こった柔道部活動は、課外活動として本件中学校の正規の教育活動の一環として行われていたものであることを踏まえ、

「このような学校教育活動の一環として部活動を企画、実施するに際しては、校長及び部活動指導教諭は、生徒を教育活動に従わせるのであるから、それによって生ずる危険から生徒の生命、身体の安全を保護する安全配慮義務があるというべきである。

特に、柔道部活動は、スポーツ活動であるとはいえ高度の危険性が伴う格闘技を対象とするものであること、中学生は未だ心身の発達が十分でないことに鑑み、顧問教諭は原則として立ち会って指導監督し、自ら立ち会うことができないときは、練習を中止させるか、危険の予想されない練習内容にとどめるべき義務があるというべきである。」

との見解を示しました。

その上で、裁判所は、

「M教諭は、普段から部員の安全につき、講道館柔道試合審判規定・少年規定に禁止された事項は一切しないこと、その他、危険な行為をしないように指導していたことは認められるが、部員たちが基本的な練習を軽視する傾向があり、出席しようと思っていた時刻には投げ込みまで練習が進むことは予想できたはずであり、投げ込みにおいて、正しい『後ろ腰』ができないIが『後ろ腰』をやりたがっており、受け身についても完全にマスターしたとはいえないAと練習相手となることも予想しえたのに、当日は、Iの『後ろ腰』については特にK部長に注意を与えず、また、安全対策として決められていた巡視する者を決めることを提案する事もせず、他に何ら柔道活動についての安全につき配慮していないことからすると、M教諭は、自ら立ち会うことができないときは、練習を中止させるか、危険を予想されない練習内容にとどめるべき義務、すなわち生徒に対する安全配慮を怠った過失があるというべきである。」

と判断しました。

S校長の過失の有無について

次に、裁判所は、

「S校長は各部活動を締括していたものであるところ、柔道部員を直接指導する立場にはあるわけではないが、統括者として直接指導する主任顧問を監督する義務があるところ、自ら、平成6年6月14日に本件中学校で開催された中学校柔道大会に出席しており、Iが危険な技をすることを知っていたと認められること、事故当日に定例職員会議が開催され、柔道部の部活には教諭は誰も指導できないことを知りながら、このような場合に行われるべき巡視の態勢を取られているのかを確認しなかったものであり、S校長も統括者として生徒に対する安全配慮を怠った過失があるというべきである。」

と判断しました。

被告の責任について

以上より、裁判所は

「本件事故は、M教諭及びS校長の各過失により生じたものであるから、被告は国家賠償法1条1項により損害を賠償する責任がある。」

と結論づけました。

顧問教諭が立ち会えない場合の練習について

本件事故は、顧問教諭が練習に立ち会っていない状況で発生しました。

この点、部活動における顧問教諭の立会義務については、顧問教諭は部活動に立ち会うべき義務があるのかを参照していただければと思います。

本件当時、新潟県教育委員会教育長通知(教保第773号昭和45年8月13日付け「体育ならびに運動クラブ時における事故防止について(通知)」)の2の(4)項には

「 部活動については顧問教諭の指導のもとに行われるのが原則とするが、やむをえず指導にあたれない場合は、危険のないよう練習の手順等をよく生徒に徹底すること」

を配慮項目の一つとして掲げていました。

この教育長通知について、裁判所は、判決の中で

「運動部のクラブ活動において傷害や事故が発生している現状から、その防止には細心の注意を払い安全な活動が行われるよう留意する事項とされているものであり、やむをえず指導にあたれない場合は、危険のないよう練習の手順等をよく生徒に徹底することの内容は各部活の種類によって異なってしかるべきであり、柔道部活動のように高度の危険性が伴う格闘技を対象とする場合は、危険の予想されない練習内容にとどめるべきとすべきものと解するのが相当である。」

と判断しています。

そして、裁判所は、

「M教諭は、自ら立ち会うことができないときは、練習を中止させるか、危険を予想されない練習内容にとどめるべき義務、すなわち生徒に対する安全配慮を怠った過失があるというべきである。」

と判示しています。

顧問教諭は、部活動に立ち会うことができない場合でも生徒に対する安全配慮義務を負っていることや、その義務の内容を具体的に示したものとして、大変意義深い判決であると思います。

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