県立高校の生徒が柔道の授業において練習試合をした後に気管支喘息の発作を原因として死亡した事案

2019.02.05 スポーツ中の事故

仙台地方裁判所平成14年3月18日判決

事案の概要

本件は、宮城県立A高校の生徒であったBが、柔道の授業において練習試合をした後に気管支喘息の発作を原因として死亡するに至ったのは、同人がアレルギー性喘息の持病を有していたにもかかわらず、A高校の教師が、Bに対し心身に急激な負担をかけることが明らかな柔道の試合をさせたこと、ないしは柔道の試合後、柔道場を退出したBに付添いを付ける措置を怠ったことなど注意義務に違反したことが原因であるとして、Bの両親である原告らが、A高校を設置する被告に対し、国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償を請求した事案です。

Bは、平成8年4月8日、A高校に入学しました。

原告らは、入学日当日、Bに、A高校に宛てた「届」と題する書面を持参させ、Bは、これを自身の所属するクラスの担任であるL教諭に手渡しました。

この「届」と題する書面には、

Bは、ペルテス病(大腿骨骨頭部壊死)及びアレルギー性喘息の持病を抱え、いずれも現在治療中であること

ペルテス病については、医師の指示により激しい運動が禁止され、特にジャンプを伴うものは固く禁止されているから、種目によっては体育の授業を見学させてもらうことになること

アレルギー性喘息については、吸入用気管支拡張剤を常に持ち歩き、必要に応じて吸入していること

高校生活の中では予測のつかない様々なことがあると思われるが、そのときの身体の状態は本人(B)が一番よくわかっているので、決して無理強いをせず、活動をそれ以上続けるか否かの判断は本人に任せていただきたいこと

が記載されていました。

L教諭は、翌4月9日、体育担当のH教諭と柔道担当のC教諭に対し、上記「届」と題する書面の写しを渡しました。

これに対し、C教諭は、「柔道はジャンプを伴う種目ではないが、無理をさせないことを前提として本人の意思を確認して見ていきたい。なお、柔道の授業は、運動会が終わるまでは行わないので、柔道着を購入する時に本人の意思を確認する。」旨を返答しました。

その後、「届」と題する書面は、A高校の体育教官室の黒板に掲示されました。

柔道担当のC教諭は、4月の体育の時間に、生徒に対し5月の連休後に柔道着を購入してもらうことになると口頭で話をし、さらにクラス担任のL教諭が、4月下旬、Bに対し、柔道着を購入するかどうかの意思を確認しました。

翌日、Bは、L教諭に対し、両親である原告らとも相談した結果、購入することにしたと返事し、L教諭は、このことをC教諭に伝えました。

Bは、中学生のときには吸入用気管支拡張剤を常に持ち歩いていたが、A高校入学後は主に生徒用ロッカーの中に同薬剤を入れていました。

C教諭は、5月16日の最初の柔道の授業の際に行ったオリエンテーションにおいて、Bを呼び、「中学校の体育はどうやっていた。」と聞いたところ、BはC教諭に対し、「普通にやっていました。」と答えました。

C教諭はBに対し、「年間にわたって見学してもいいんだぞ。」と話しましたが、Bは、「やります。」と返答し、C教諭が「無理はするなよ。」と言ったところ、Bは、「はい。」と答えました。

C教諭は、その後の授業においても、生徒に対し、体調不良のときは必ず申し出るように指導していました。

Bは、本件事故当日まで、無欠席、無見学で週1回の柔道の授業を受け、他の生徒と同じ内容をこなし、10月から行った立ち技の乱取り稽古や11月に実施した寝技の試合、さらには12月11日に実施した立ち技を含めた試合形式の授業にも自身の意思で参加していました。

ただし、C教諭は、Bが、11月に実施した寝技の試合の際に息が上がり、苦しそうにしていたのを目撃し、Bに「大丈夫か」と声をかけましたが、Bは、「はい」と答え、しばらくしてBの状態は回復しました。

本件事故当日である12月19日、Bは特に具合の悪そうな様子もなく、朝のショートホームルームや1校時(午前8時40分から午前9時45分まで)の数学の授業の際にも特に異常は認められず、B本人からも何らの申告もなされませんでした。

2校時(午前9時55分から午前11時まで)は、柔道の授業であり、Bは従来どおり柔道の授業に参加しましたが、この日は、吸入用気管支拡張剤を柔道場に持参していませんでした。

まず体操を行い、見学生徒の確認がなされた後、サーキットトレーニング、回転運動、回転受身がひととおり行われました。

その後、自由稽古として、寝技の乱取り稽古を30秒を1本として合計5本行い、さらに立ち技の打ち込みとして、1人5本ずつ交替で、5本目に1本投げる練習を5分程度行いました。

午前10時14分ころ、C教諭は、生徒に集合をかけ、点呼、欠席や見学生徒の確認を行い、団体戦の練習試合を行うために、生徒を合計6チームに編成しました。

その上で、C教諭は、練習試合の指示(チームごとの団体戦として1回戦、2回戦を行うことなど)やルールの説明を行い、さらに危険防止の指示を行いました。

練習試合は、6チームの団体戦で、柔道場内に三か所設けられた各試合場に分かれて対戦することとなりました。

Bは、団体戦1回戦の4試合目に出場し、前半に対戦相手から大外刈りで技ありを取られ、その後反撃しましたが、そのまま試合終了となりました。

なお、試合時間は2分間でしたが、上記の試合は相当程度激しいものであり、Bは、疲れ切った様子で試合後の礼の際にもふらふらして真っ直ぐ立っていられないような状態でした。

Bのチームが1回戦6試合目に入った午前10時25分ころ、BはC教諭に対し、「ちょっと具合が悪いのでトイレに行かせてください。」と言ってきました。

C教諭は、これを許可し、Bは、1人で柔道場を退出しました。

なお、このときのBの様子は、試合が終わって間がないこともあり、息が荒く、苦しそうな様子でした。

午前10時30分ころ、1回戦が終了したところで、C教諭は、1回戦の反省や気づいた点を生徒に述べ、10時40分ころ、団体戦の2回戦を開始しました。

Bは、柔道場を退出した後、しばらく経っても戻ってきませんでした。

C教諭は、Bが戻ってこないことについて、お腹の具合が悪く用便に時間がかかっているのかな、と気には留めていましたが、柔道の試合が三か所で並行して行われており、競技上における危険を防止するために目を離すわけにもいかないと判断し、Bの様子を自ら確認するようなことはしませんでした。

団体戦2回戦の6試合目には、Bが出場する予定でしたが、その時になってもBは柔道場に戻ってきませんでした。

C教諭は、Bが戻ってこないことに気を留めていたものの、なお柔道場を離れるわけにはいかないと考え、Bに代わって他の生徒を出場させて試合を続行しました。

なお、この練習試合には見学者が1名いましたが、C教諭は、その生徒に試合の時計係を務めさせており、また、他の生徒にBの様子を見に行かせるなどの行為には及びませんでした。

午前10時58分ころ、同練習試合はすべて終了しました。

C教諭は、生徒に整理体操をさせ、集合させて怪我の有無を確認し、挨拶をして午前11時1分ころ、柔道場を退室しました。

なお、Bは、柔道の授業を終了する際にも、柔道場に戻っていませんでしたが、C教諭は、用便に行った生徒がそのまま保健室に向かうこともあるから、Bも保健室に行っているかもしれないと考え、保健室に向かいました。

その途中で、N教諭と出会い、Bが倒れていることを知らされ、現場であるトイレに急行しました。

午前10時58分ころ、D教諭は授業を終えて、廊下に出たところ、トイレの前で、Bが仰向けに倒れているのを発見しました。

なお、Bが倒れていた現場の近くには、Bの所属するクラスの生徒用ロッカーがありましたが、倒れていたBの脇に生徒用ロッカーの鍵が落ちており、同ロッカーには、サルタノールインヘラー(吸入用気管支拡張剤)1本が未使用のまま残っていました。

D教諭は、直ちに近くの1年3組の教室で授業していたO教諭に連絡して、Bを見守っておいて欲しい旨依頼し、I養護教諭に連絡するために保健室へ急行しましたがI養護教諭が席を外していたため、事務室に行ってI養護教諭を呼び出してもらい、再び保健室に行って担架を持って現場に戻りました。

その頃、柔道担当のC教諭、体育科の教師も現場に駆けつけ、直ちにO教諭が人工呼吸を、体育科の教師が心臓マッサージをそれぞれBに施し、D教諭とC教諭はBの脈拍の確認を続けました。

I養護教諭も駆けつけ、直ちにBの状態を診たところ、Bは、すでに自発呼吸、脈拍ともになく、手指にチアノーゼがあり、意識がなく尿失禁をしており、また瞳孔が散大している状態でした。

I養護教諭は、午前11時4分ころ、直ちに電話で救急車の出動を要請し、午前11時13分ころ、救急隊が現場に到着しました。

L教諭は、Bの主治医であるF小児科医院の医師に連絡して、同医師からE病院の紹介を受け、その旨救急隊に連絡しました。

救急車は、午前11時20分ころ、Bを乗せてE病院へ向けて出発し、午前11時25分ころに同病院に到着しました。

Bは、E病院に到着後、直ちに外来処置室に運ばれ手当を受けましたが、Bは午後2時15分ころ死亡しました。

Bは、柔道の試合を契機として運動誘発性喘息を惹起し、その後に比較的急激かつ強度な発作を生じ、これにより気管支が収縮し、さらに分泌物である粘液で気道が閉塞し、その結果窒息して死亡したものと推認されました。

裁判所の判断

C教諭の過失について

まず、裁判所は

「学校の教師は、授業を行うにあたり生徒の安全に配慮するなどの注意義務を負っているところ、その注意義務の具体的な内容、程度は、一般に当該教育活動の性質、危険性と対象となる生徒の年齢、判断能力、病状などの素因等に基づいて判断するのが相当であるが、当該生徒が高校生の場合には、総じて健康面を含め、ある程度自己管理できる判断能力を備えているものと認められるから、特段の事情のない限り、当該生徒に自己申告させるなど自主性に重きを置いた対応を取ることで足りるものと解するのが相当である。」

としました。

その上で、C教諭がBに対し安全に配慮するなどの注意義務を怠った過失が存在するかについて検討しました。

Bに柔道の試合をさせたことについて

原告らは、

「そもそもBに柔道の試合をさせるべきではなかった」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「一般に、柔道は、身体的な接触が多く、力を使って相手を投げたり、寝技で相手を押さえ込むなど、相当な体力を消耗し、また呼吸の乱れも相当程度引き起こす性質のものであり、かつ、その試合となれば、それ以上の体力の消耗や呼吸の乱れを招来することが予想される。

したがって、柔道の授業を担当する教師は、一般的に、喘息の持病をもった生徒に対し、柔道の授業、特に柔道の試合をさせるに当たっては、他の生徒よりも十分な注意をもって試合に臨ませ、また試合後においても十分な配慮を行うように注意する義務がある」

としつつも、

「上述のとおり、当該生徒が高校生であることに鑑み、試合をするかどうか、さらに試合中ないし試合後の動静についても、基本的には当人の自己申告に重きを置いた対応を取ることで足りると解するのが相当である。」

との判断基準を示しました。

そして、本件について裁判所は、

  • Bは、A高校に入学した当初に同人の病状等を記載した「届」と題する書面を提出し、また入学時における保健調査の結果からして、Bが特に健康面において配慮を要する生徒の一人に掲げられており、C教諭もBの持病について周知を受けていたものであるが、C教諭は、柔道着の購入の有無を含めて柔道の授業を受けるかどうかの意思を確認し、これに対し、Bが柔道の授業を受ける意思を示したことから、同人に対し無理をしないように、気分が悪いときはいつでも休んでよいからと指示した上で、授業を受けさせることとしたものである。
  • C教諭は、少しずつ段階を踏んだ練習を行った上で、柔道の練習試合を実施している。他方、Bは、体育の授業や柔道の授業においても、欠席や見学を一度もすることなく、他の生徒と同じ内容をこなし、途中で苦しそうにしていたことはあったものの、特に明らかな喘息の発作を起こしたりしたことはなかったものである。
  • Bは、12月11日、立ち技を含めた柔道の試合形式の授業を受けたが、特に喘息発作を起こすことなく無事にこなしていたものである。

との事実を認定し、

「このように、C教諭は、Bに対し柔道の授業を受けることの意思を確認し、同人の健康面に配慮した対応を行い、柔道の授業についても段階を踏んで無理のないように実施していたものであり、他方、Bは、喘息の持病を有していたとはいえ、他の生徒と同じように試合形式を含む柔道の授業を受け、これをこなしていたものである。」

「さらにBが本件事故当時、高校1年生であったことに鑑みると、単なる授業以上に激しいことが予想される柔道の練習試合といえども、Bの様子から特に喘息発作を引き起こすことが予想される場合や、Bが自ら体調の不調を訴えたり、練習試合の内容からしてこれを行うことが危険であることなどを申告したような場合でない限り、練習試合を行わせるべきではなかったと認めることは困難というべきである。」

とした上で、

「Bの様子や同人から柔道の練習試合を見学させてほしいなどの特段の申告がなかったことからすれば、C教諭がBに柔道の試合をさせたことについて注意義務違反(過失)を認めることはできないというべきである。」

と判断しました。

Bが柔道場を退出するときに付添人を付けなかったことについて

原告らは

「Bが柔道の試合後、C教諭に対し、トイレに行かせて下さいといって柔道場を退出したときに、C教諭が自ら付き添うか、他の生徒に付き添わせる注意義務が存在した」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「Bは、『ちょっと具合が悪いのでトイレに行かせてください。』と申告し、またこの時点で息が荒く苦しそうな状態にあったものであるが、同人は具合が悪いのでトイレに行くと言ったに止まり、喘息発作が発症したと申告したものではないことはもちろんのこと、保健室に行くといったものでもないこと、さらに同人の年齢や判断能力に鑑みると、一般的にBに対する配慮は必要であるものの、Bが息が荒く苦しそうな状態にあるという身体的症状や同人の申告内容だけから、C教諭が自らないし他の生徒をBに付き添わせる義務が存在したとまで認めることはできない。」

と判断しました。

授業に戻ってこないBの様子を見に行かせなかったことについて

原告らは、

「Bがなかなか授業に戻ってこないことに注意を留めて誰かに様子を見に行かせるなどの措置を講ずべきであった」

と主張しました。

この点について、裁判所は、

「Bは、午前10時25分ころ、柔道場を退出した後、なかなか戻ってこなかったものであるが、C教諭は、Bが喘息の持病を抱えていることを知っており、かつBが具合が悪いと申告し、また息が荒く苦しそうな状態にあったのを直接見て確認していたことに照らすと、遅くとも団体戦1回戦が終了し、引き続いて団体戦2回戦を開始した午前10時40分ころの時点で、Bが喘息発作を起こしたのではないかと予見することができたというべきであり、さらには、同人が柔道場に戻ってこないことをもって、同人の生命、身体への危険が及ぶような異変が生じたのではないかとの認識をもつことも可能であったというべきである。」

として、予見可能性があることを認めました。

そして、裁判所は、C教諭が、団体戦2回戦を開始した時点で、Bに生命、身体に危険が及ぶような異変が生じたことを予見し、その上で、団体戦2回戦の1試合目が終了した後、当該試合に出ていた生徒などに、Bの様子を見に行かせておけば、実際よりも早期にBが喘息発作を起こしていることを発見し得たと考えることができるところ、これによりBの死亡の結果を回避し得た可能性が存在するか否かについて検討しました。

この点について、裁判所は

「確かに、Bは、柔道の試合を契機として運動誘発性喘息を惹起し、その後に比較的急激かつ強度な発作を生じ、短時間のうちに死亡に至ったものと推認されるのであり、Bを現実よりも早期に発見していたとしても、同人を救命し得たかどうかについては、Bに付き添った人間の喘息についての知識量とBの喘息発作の程度、特に気管支の収縮の程度と分泌物の量に左右されるものであり、Bの解剖所見を前提としても、なお不確定要素が多分に存在するといわざるを得ないものである。」

としながらも、

「しかしながら、その発見の時期如何によっては、Bを発見した生徒がI養護教諭に連絡するなどした上、当該生徒やI養護教諭ほかA高校の教師が、Bの体の締め付けを除去して同人に座位を取らせ、水分を摂取させたり、場合によってはBに気管支拡張剤を吸入させたり、気道が閉塞している場合には人工呼吸を実施して蘇生させるなどの応急措置を講じたり、さらには早急に救急車を呼んで救命措置を講ずることにより、Bの気道の閉塞を阻止あるいは緩和できた可能性も存在するというべきであり、結果として同人の死亡を回避できた可能性は存在したというべきである。」

として、

「以上からすれば、C教諭は、授業に戻ってこないBの様子を見に行かせなかったことについて生徒の安全に配慮すべき注意義務を懈怠した過失が存在するというべきである。」

と判断しました。

上記の過失とBの死亡との因果関係について

次にC教諭の過失とBの死亡との間に相当因果関係が認められるかについて、裁判所は、

「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。

これは学校の教師が注意義務に従ってなすべき行為を行わなかった不作為と生徒の死亡との間の因果関係の存否の判断においても異なるところはなく、全証拠を総合的に検討し、教師の同不作為が生徒の当該時点における死亡を招来したこと、換言すると、教師が注意義務を尽くして行動していたならば生徒がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、教師の同不作為と生徒の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである(医療過誤訴訟における同旨の判例として最高裁判所平成8年(オ)第2043号同11年2月25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照)。」

との最高裁判例を引用しました。

その上で、

「C教諭は、なかなか戻ってこないBに対し、誰かに様子を見に行かせるなどの注意義務(作為義務)を怠ったものであり、C教諭が上記の注意義務に則った対応を取っていれば、その時期の如何によっては、Bの死亡の結果を回避し得た可能性は存在するというべきである」

としつつも、

「Bを発見した生徒や連絡を受けたI養護教諭はじめA高校の教師が、Bの体の締め付けを除去して同人に座位を取らせたり、水分を摂取させたりすることでBの死亡を回避し得たか、さらに同人らが気管支拡張剤を使用できたかどうか、また使用できたとしても、Bの急激かつ重度な症状の変化に対し、気管支拡張剤が有効に作用しえたかどうか、また人工呼吸を行ったり簡易救急蘇生器(保健室に備置されていたもの)を使用したとして、これらが効を奏したか、同様に早急に救急車を呼んだとしてBを救命し得たかどうかなどについて、医学的見地はもちろんのこと、通常人の判断基準からしても不明といわざるを得ず、他方、上記の措置以外にBを救命できた高度の蓋然性を示しうる措置を想定しがたく、また上記の措置が効果を有するとしてもいつの時点までなら効果を有するのかについても同様に明らかでないことに鑑みると、Bの死亡を回避できた可能性は存在するとしても、それを回避できた高度の蓋然性を認めるまでには至らないというべきである。」

「そうすると、C教諭が上記の注意義務に則った対応を取っていたならば、Bについて、死亡の結果を回避し得たであろうことを是認しうる高度の蓋然性は見い出し得ないといわざるを得ず、訴訟上の因果関係を認めることはできないというほかない。」

として

「C教諭の注意義務に違反した過失とBの死亡との間の因果関係を認めることはできない。」

と判断し、原告らの請求を棄却しました。

因果関係の立証の難しさ

本件では、柔道の担当教諭の過失は認めたものの、その過失と生徒の死亡との因果関係が否定されたために、生徒の両親による損害賠償請求が認められませんでした。

訴訟記録をすべて確認したわけではないため定かなことはいえませんが、判決文全文を読む限り、原告側は、担当教諭の過失についての主張・立証に多くの労力を要し、被告側も担当教諭には過失がないことについての主張・立証を尽くしていたのではないかという感想を持ちました。

確かに、原告らの損害賠償請求が認められるためには、加害者側の過失が存在しなければなりません。

訴訟を検討するに当たっては、この過失について、誰の・どのような義務について・どのように違反したのかを検討し、かつ、その立証のためにどのような証拠があるのか、その証拠によりどの程度の立証が可能になるのか等を検討することになります。

しかし、その過失と結果との因果関係については、過失の内容を検討する際には、結果が発生しないためにはどうするべきであったかという観点から考えるため、「この過失がなければ結果は発生していなかったはずだ」と考えてしまいがちです。

実際に、この事例の判決文では、原告の因果関係に関する主張については

「A高校のC教諭が、上記の過失を怠ったことにより、Bは死亡したものであり、同過失とBの死亡との間には因果関係が存在する。」

との一文しか記載されていません。

原告による担当教諭の過失に関する主張は検討を十分に積み重ねた結果だと思います。

それだけに、因果関係の立証の難しさを痛感させられる裁判例であるともいえます。

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