私立高校の空手部員が下級生の部員に暴行を加えて負傷させた事故

2019.12.09 パワハラ・セクハラ・いじめ

熊本地方裁判所昭和50年7月14日判決

事案の概要

本件は、私立高校第1学年に在学中の原告が、放課後の空手部の練習の終了後、道場において、上級生の被告Y1・被告Y2に腹部を交々に足蹴にされ、すい臓破裂等の重傷を負ったことについて、被告Y1・被告Y2に対しては共同不法行為を理由として、本件高校を設置する被告学校法人に対しては、空手部の顧問(部長)教師Aが、部員に適当な指示を与えるとともに、練習に立会ってその状況を監視し、傷害事故の発生を未然に防止すべき義務を怠ったとして、使用者責任に基づき損害賠償を請求した事案です。

原告は昭和47年2月17日当時本件高校第1学年に在学し、同校のクラブ活動の1つである空手部に属していました。

被告Y1および被告Y2も当時本件高校に原告の上級生として在学しており、被告Y1は空手部のキャプテン、被告Y2は部員でした。

昭和47年2月当時、本件高校空手部は、3年生5名、2年生7名、1年生7名からなっていましたが、練習には主に2年生の被告Y1、被告Y2と1年生の原告、B、C、D、E、Fらが参加して行なわれ、その内容は月曜日から金曜日までは、放課後の午後4時半頃から午後6時半頃まで、本件高校に隣接する大学体育館内にある同大学空手部の道場において、キャプテンである被告Y1の指図により、準備運動から始めて、体の各部の鍛練、空手の形(突き、蹴り等の動作からなるもの)、組手(2人1組で行なう試合形式のもの)等を行ない、最後に整理体操をして終わるというものでした。

同月15日、1年生部員全員がキャプテンの被告Y1に無断で練習を休み、翌16日放課後、B、C、Dが空手部の部室へ行ったところ、同人らは被告Y1から練習を休んだことを詰問されたうえ、平手で頬を1回ずつ殴られました。

その後、いつものとおり前記道場で午後6時半頃まで、練習が行なわれましたが、原告、E、Fらは、前日に引き続き練習に加わりませんでした。

同月17日放課後の午後4時半頃から、前記道場において、2年生はキャプテンの被告Y1、Y2、1年生は原告、B、C、D、E、Fが参加して、被告Y1・被告Y2の指導の下に、いつもと変らぬ雰囲気で練習が行なわれましたが、練習に一区切りがついた午後6時頃、被告Y1は前記道場の床に、1年生6名をD、E、B、C、原告、Fの順に間隔を置いて一列に並ばせた後、仰向きに寝かせたうえ、両手を頭の下に置き両足を揃えて少し上げるという腹筋運動の姿勢をとらせました。

その後、被告Y1がDの方から順々にFまで同人らの胃のところを右足の踵で踏みつけるように蹴りつけ、被告Y2が反対側のFの方から順々にEまで、被告Y1と同様の方法で蹴りつけ、結局、原告は、被告Y2から2回、次いで被告Y1から1回、胃の辺りを蹴られました。

その際、被告Y2は前々日の15日1年生部員が練習を無断で休んだことに対し、いわゆる気合いを入れるつもりで、まずFを足蹴にし、そのためFが体を「く」の字にして苦しんでいることを知りながら、次いで原告を1回蹴りましたが、体のバランスを崩したことから、「今のは効かなかった。」と言って再度蹴りつけました。

被告Y1も同様に気合いを入れるつもりで、原告らを蹴りましたが、B、C、Dに対しては前日殴っているので、加減をして蹴り、一方、原告、E、Fに対しては、強く蹴りつけました。

その結果、3人は激しく苦しみましたが、被告Y1は1年生部員に対し、「どうして蹴られたか判るだろう。」、「今のはたいしたことない。これからサボったらただではおかない。」等といい、苦痛のため起き上がれない原告を除き、被告Y1、被告Y2の指揮で整理体操が行なわれ、午後6時半頃、両被告は1年生部員を残して部室へ戻りました。

原告は、被告Y1、被告Y2の前記行為によってすい臓破裂の傷害を受け、一時重体に陥りました。

空手部の顧問であるAは、空手部の運営をキャプテンの被告Y1に任せていて、本件事故当日も同部の練習に立会っていませんでした。

裁判所の判断

社会的相当性について

被告Y1、被告Y2は、

「空手はスポーツであり、その練習中の行為は社会的相当性のある行為であって、たまたま両被告の足蹴によって事故が発生しても、それについて責任はない」

と主張しました。

これについて、裁判所は、

「空手は、もともと拳による突き、打ち、足による蹴りを中心とする武術であったが、現在では攻撃を相手の寸前で止める等スポーツとして競技化されているのであるから、当の行為が練習行為として行なわれ、かつ社会的に妥当なものとして許容される類のものであれば、たまたまこれにより事故が生じたとしても、違法性が阻却される場合がある。」

としながらも、

「しかしながら、前記空手部において、本件事故発生前、原告ら1年生部員に対し、その腹部を鍛えるために、鳩尾に拳を当てたり、仰向きに寝かせ腹の上に乗って足で軽く踏む等ということは行なわれていたが、本件のように、腹を踵で踏みつけるように蹴るということは行なわれていなかったことが認められ、この事実に、被告Y1、Y2の行為の動機、態様、前後の状況、原告の傷害の程度等を併せ考えると、両被告の行為は練習時間内に行なわれたものではあるが、練習行為としてではなく、その範囲を越えた暴行と認められる」

として、被告Y1、被告Y2の主張を排斥しました。

被告らの責任について

被告Y1、被告Y2について

裁判所は、

「被告Y1、被告Y2は、原告に対し、共同して暴行を加えたものであるから両被告は共同不法行為者として、民法第709条、第719条に基づき、各自連帯してこれにより生じた損害を賠償すべき義務がある。」

と判示しました。

被告学校法人について

裁判所は

「私立高等学校の教員が、高等学校における教育活動の効果を十分にあげるため、親権者らの法定監督義務者の委任に基づき、これに代って、生徒を保護監督する義務があることは、委任の趣旨および学校教育法に照らし明らかである。

空手部の活動が特別教育活動の一環として行なわれていたことは、当事者間に争いがなく、これは前記教育活動に含まれるものであるから、空手部の顧問教師(部長)としては、単に名目だけでなく、たえず部の活動全体を掌握して指導監督に当る義務があるというべきである。」

と判示しました。

この点に関し、被告学校法人は、

「高等学校におけるクラブ活動は部員によって自主的、自治的に行なわれるし、空手は他人の指導監視によってその内在する危険を防止しうるものではないから、空手部(部長)といえども部員を指導監督する義務はない」

と主張しました。

これに対し、裁判所は、

「なるほど、高等学校における運動クラブは、各種の運動の練習を通じ、生徒の自発的な活動を助長し、心身の健全な発達を促し、進んで規律を守り、互いに協力して責任を果たす生活態度を養うことを指向しているものであるから、生徒の自主的活動が健全に発展するように配慮することは教育上適切である。」

としながらも、

「しかしながら、高等学校におけるクラブ活動が自主性を重んじ、自治的に行なわれることが必要であるからといっても、それが未成年で心身の発達が十分とはいえない高校生を対象に、しかも高等学校における教育活動として行なわれる以上、クラブの運営が生徒の活動に放任されてよいはずがなく、校長および運動部の指導教師は生徒の自主的活動が健全に行なわれるよう指導を尽すべきが当然である。

また、空手に危険な面はあるが、適切な指導者のもとに、生徒の体力、技量、精神の発達の程度に応じた練習を行なうならば、その危険を防止しえないことはないのであって、被告学校法人が特別教育活動の一環として空手部を置いている以上、適切な指導をして危険防止に万全を期することも、また当然である。

特に、高校1、2年生時代は、未だ心身の発達が十分でなく、体格に比して内臓器官の発育も不十分であり、また、情緒面でも、時に感情の赴くまま行動したりして、安定度が高いとはいえない年令層に属するから、このような年代の生徒に危険の伴なう空手を練習させるときには、指導に当たる教師において、生徒に対し、練習その他の部活動につき、遵守すべき事項を懇切に教示することともに、行きすぎた練習や暴力行為が行なわれないよう練習に立会い、十分の状況を監視すべき注意義務があるといわねばならない。」

として、被告学校法人の主張を排斥しました。

そして、本件におけるAの指導監督責任について、裁判所は、

  • Aは大学時代に空手を習い、初段の技量を有していたことから、本件高校長に委嘱されて昭和45年4月から空手部の顧問(部長)になり、本件事故発生当時もその任にあった。
  • 当時における空手部の練習は、放課後前記道場で、主に2年生の被告Y1、被告Y2らと1年生が参加して、キャプテンの被告Y1の指図により行なわれていたところ、Aは被告Y1、被告Y2が初段であるほか、1年生部員は段も級も有しなかったことを知っていた。
  • また、A自身も大学時代空手を習っていだだけでなく、被告Y1らが1年生のとき、部員と練習中、大胸筋付近の骨を痛めたこと等から空手の練習は1つ誤ると生命身体に危険を及ぼすおそれがあることを知っていた。
  • しかも、空手部において、昭和42、3年頃、上級生が下級生に対し、暴力を振るうという事件があり、Aは、昭和45年4月顧問(部長)を前任者から引継いだとき、部員を集めてそのような問題を起こさないように注意をしたことがあった。
  • Aは昭和45年4月、本件高校空手部顧問(部長)に就任当初は、部員に注意を与えたり、練習に立会い指導もしていたが、前記のとおり練習中負傷して以来、次第に練習に立会わなくなり、昭和46年3月、被告Y1がキャプテンになったが、その当時から練習その他部の運営はキャプテンに任せきりにしており、時折、本件高校の校庭で行なわれている練習を職員室から見たり、帰途、立寄って10分見ていく程度で、部活動ことに練習方法等につき部員と話し合ったり、部員に対し守るべき事柄を教えたり、あるいは練習に立寄って指導するということはほとんどなかった。
  • 本件事故当日もいつものように放課後前記道場で空手部の練習が行なわれることを知っていながら、練習に立会わなかったばかりでなく、何らの配慮もしなかった。

と事実認定した上で、

「Aが空手部の指導教師としてなすべき前記注意義務を怠ったことは明らかであり、しかも、注意義務を怠らなければ、本件事故が発生せずにすんだ蓋然性は極めて高いといわねばならない。」

として

「Aの指導の怠慢も、被告Y1、被告Y2の前記不法行為と共同不法行為を構成するものというべきである。」

と判断しました。

以上より、裁判所は

「被告学校法人が本件高校の設置者であり、Aが同校空手部の指導担当教師であることは、前記のとおりであるから、被告学校法人は、高等学校教育という事業のため、同教師を使用するものとして、民法第715条第1項に基づき、本件により生じた損害を被告Y1、被告Y2と各自連帯して賠償する義務があるというべきである。」

と結論づけました。

本件について疑問を抱かないことの意味すること

本件事件は昭和47年2月つまり50年近く前のものです。

そして、裁判所の判断は至極妥当といえるでしょう。

では、この事案の概要を見て、「こんな事件が本当にあったのか?」と疑問に思った方は一体どのくらいいらっしゃるでしょうか。

むしろ、「50年前も今と同じことが起きていたのか」と思った方のほうが多いかもしれません。

スポーツの現場においては、本件のような指導や練習が「しごき」と称して行われることがありますが、その内容を詳細に検討すると、「暴行」という違法行為に該当することがあります。

旧態依然とした現状を打開していくためには、本件のようなしごきに泣き寝入りすることなく訴えていくことによって、その指導は間違っているという認識を広めていくことが大事だと思っています。

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