私立高校剣道部の合宿中における顧問教諭及びコーチの行為が体罰にあたり違法とされた事案

2018.10.15 体罰

東京地方裁判所平成29年5月31日判決

事案の概要

本件は、被告学園の剣道部に所属する生徒であった原告が、その合宿中に、同部の顧問教諭であった被告Y1及び同部のコーチであった被告Y2から虐待を受けたなどと主張して、被告Y1及び被告Y2に対し、不法行為(民法709条、719条1項)に基づき、被告学園に対し、使用者責任等(民法715条1項、私立学校法29条が準用する一般社団法人及び一般社団法人に関する法律78条)に基づき、損害賠償を求めた事案です。

裁判所の判断

被告Y1の合宿3日目の稽古中の行為について

裁判所は、原告が主張する被告Y1による体罰のうち、

「被告Y1は、合宿3日目の午後1時過ぎ頃、稽古をさせてほしい旨を申し出た原告に対し、「邪魔。邪魔。帰れ。」と大声を出しながら、右手で持った竹刀で防具を着けた原告の頭部を複数回殴打し、原告の防具を着けた胴部分を足で2回蹴って原告を後退させ、原告を臀部から転倒させたことが認められる。」

と事実認定した上で、この足蹴り行為が違法であるか否かを判断するにつき、

「学校教育法11条ただし書は、校長及び教員は、体罰を加えることができないと規定しているところ、その行為の目的、態様及び継続時間等から判断して、教員が生徒に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものである場合には、その行為は同法の禁止する体罰に当たり、違法と評価されるものと解するのが相当である(最高裁平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号904頁参照)。」

と最高裁判決を引用した上で、

「本件においては、被告Y1は、他の部員等との衝突の危険があったことなどから、原告を足で押して移動させたと主張し、これに沿う供述をする。確かに、被告Y1は、本件足蹴り行為をする前に、原告に対し、邪魔である旨を口頭で申し向けたことが認められるが、本件足蹴り行為の目的が、原告を安全な場所に退避させることにあったのであれば、原告が上記口頭による指示によって移動しない場合には、原告の手を引いて移動させるなど、本件足蹴り行為に比べて原告に対する負荷が掛からない態様でその目的を達成することができた上、被告Y1は、本件足蹴り行為当時、本件剣道部の部員であるUがこれまでに見たことがないほど怒っており、本件のミーティングにおいて、本件足蹴り行為をした理由について「腹が立ったから蹴った。」旨の発言をしたことからすると、被告Y1は、主として、原告に対する怒りから本件足蹴り行為を行ったものと認められる。

そうすると、本件足蹴り行為は、その目的及び態様に照らして、教員が生徒に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱した体罰に当たり、違法であったというべきである。」

と判断しました。

合宿4日目の午前中の稽古における被告Y2の行為について

また、裁判所は、原告が主張する被告Y2の体罰のうち、

「合宿4日目の午前中の切り返し稽古の際、原告に対し、正しい振りかぶりや声の大きさなどについて注意をした際、原告が切り返し稽古の動作を中断したため、動作を継続しながら注意を聞くように2回指導したが、原告が再び動作を中断したことから、原告に対して突きをし、それによって原告が倒れたことが認められる。」

と事実認定した上で、この突き行為が違法であるか否かについて

「被告Y2は、本件突きは、原告に対して切り返し稽古の動作を中断しないよう指導する目的で行ったものであると主張するが、かかる目的を達成するために高校2年生であった原告が倒れる程度の力を持って突きを行うことが合理的な手段であるということはできず、本件突き行為は、その目的及び態様等に照らして、教育的指導の範囲を逸脱した不必要な有形力の行使であり、体罰に当たり、違法であったというべきである。」

と判断しました。

合宿4日目の午後の稽古における被告Y2の行為について

さらに、裁判所は、

「被告Y2は、合宿4日目の午後の原告とのかかり稽古において、原告に対し、突きを複数回打ち、また、体当たりをしたことによって、原告を少なくとも後ろ向きに3回床に転倒させたことが認められる。」

と事実認定した上で、この被告Y2による突き及び体当たり行為が体罰に当たるか否かについて

「被告Y2の本件突き及び体当たり行為は、原告との稽古中に行われたものである。しかし、被告Y1が、その前日に行われた本件ミーティングにおいて、被告Y2から原告を蹴ってよいかと言われた旨の発言をしているところ、被告Y1が、その点について虚偽を述べる理由は見当たらないことからすれば、被告Y2は、本件合宿中に、被告Y1に対し、原告を蹴ってよいかとの発言をしていたことが認められ、被告Y2においては、原告の練習態度に不満を持っていて、被告Y1に対し、体罰を加えることの容認を求めていたと認められる。これらの事実からすれば、被告Y2が、原告を後ろ向きに3回転倒させる程度の体当たり又は突きをした行為は、主として、原告に対する不満をぶつける意図を持ってされたものと推認できる。

そうすると、上記の被告Y2の行為は、その目的及び態様等に照らして、教育的指導の範囲を逸脱した不必要な有形力の行使であり、体罰に当たり、違法であったというべきである。」

と判断しました。

被告学園が、被告Y1及び被告Y2の選任及び監督について相当の注意を払ったか否か

以上のとおり、被告Y1及び被告Y2の各行為が違法であることを踏まえ、裁判所は、被告学園の使用者責任に関して、

「被告学園は、被告Y1及び被告Y2の選任及び監督について相当の注意を払ったと主張する。しかし、被告学園の教職員及び部活動におけるコーチに対し、部活動における体罰の禁止や指導における留意点などについて、具体的に注意喚起等をしたことなどがうかがわれないことからすれば、仮に、被告学園の主張する対応がとられていたとしても、被告Y1及び被告Y2の監督について相当の注意が払われていたものとはいえない。

したがって、この点に関する被告学園の主張は理由がない。」

と判断しました。

体罰として違法と判断される場合とは

学校教育法第11条は

「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」

と規定しています。

ここにいう体罰とは「私的に罰を科す目的で行われる身体への暴力行為」と定義されています。

この禁止されている体罰に当たるか否かについて争われた事案があります。

その事案は、公立小学校の教員が、女子数人を蹴るなどの悪ふざけをした2年生の男子児童を追い掛けて捕まえ、胸元をつかんで壁に押し当て、大声で「もう、すんなよ。」と叱った行為が体罰に当たるかどうかというものでした。

この点について、最高裁平成21年4月28日判決は、

「A(教員)の本件行為は、児童の身体に対する有形力の行使ではあるが、他人を蹴るという被上告人(男子児童)の一連の悪ふざけについて、これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり、悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Aは、自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており、本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても、本件行為は、その目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって、Aのした本件行為に違法性は認められない。」

と判示しました。

この最高裁判決により、学校教育法第11条ただし書の「体罰」に当たるか否かは、行為の目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱しているか否かにより判断されることになります。

本件訴訟において、原告は、上記で引用した以外にも、被告Y1や被告Y2の言動が体罰に当たると主張していましたが、裁判所は、それらの言動の目的、態様、継続時間等の事情を踏まえ、教育的指導の範囲を逸脱していないとして、体罰には当たらないと判断したものもあります。

体罰の被害に遭ったという場合には、どのような経緯によりどのような言動が行われたのかなどを具体的かつ詳細に主張・立証して、教育的指導の範囲を逸脱していることを明らかにする必要があるといえます。

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