市立中学校の剣道部顧問から体罰を受けたことについて慰謝料を請求した事例

2018.11.02 体罰

大阪地方裁判所平成20年5月20日判決

事案の概要

本件は、被告大阪市が設置する中学校に在学し、剣道部に所属していた原告らが、剣道部顧問のY教諭から日常的に体罰を加えられたことから精神的苦痛を被ったとして、中学校の設置者である被告大阪市に対し、国家賠償法1条又は安全配慮義務の一環としての教育環境配慮義務違反による債務不履行責任に基づき、慰謝料の支払を求めた事案です。

裁判所の判断

まず、裁判所は、Y教諭は稽古中に原告らがY教諭が指導したとおりにできていないと、

  • ①稽古の合図に使用する太鼓のバチを原告らの方向に投げ、投げつけられた者にそれを拾ってY教諭の下に持ってこさせた上、防具の面の生地の薄い部分の上から太鼓のバチで同人の頭をくらくらするくらい殴ったこと
  • ②防具の面の隙間から太鼓のバチを刺し込み、喉に太鼓のバチを押し当てて喉を圧迫したこと
  • ③かかり稽古の際に、原告らを後ろから竹刀で押し倒し、すぐに立ち上がらないと、倒れている者の上から竹刀で背中や腕を打ったりするなど、竹刀で頭・腕・足等を叩いたりしたこと
  • ④時には首の皮がむけたりするほど強く竹刀を喉元に突きつけたりしたこと
  • ⑤原告らの防具の胴を押し上げて喉を圧迫し、背後に壁がある場合は、壁際まで原告らの体を寄せて壁と胴に首を挟んだり、背後に壁がない場合は、後ろから首を押さえつけて圧迫したりして、容易に息ができないようにしたこと
  • ⑥原告らを足で蹴り倒したり、投げ飛ばしたりして体中に痣を作ったこと
  • ⑦原告がなかなかY教諭の元から引き下がらなかっため、それを引き払おうとして体育館の舞台袖の階段から突き落としたこともあったこと

などの行為があったと事実認定しました。

これらの行為について、Y教諭は、

「原告らが体罰であると主張する行為は剣道の指導の一環であって、体罰ではない」

と主張し、さらに

「竹刀の代わりに太鼓のバチで部員らの面を叩いたことがあり、何で叩かれたんやと言って答えを求めることがあったが、それはお前は間違っているぞと叱るいう意味合いであった」

と供述しましたので、裁判所は、上記①ないし⑦の行為が教育的指導ないし懲戒の範囲内であるか否かを検討することとしました。

まず、裁判所は、学校教育法11条は、校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができるが、体罰を加えることはできない旨を定めていることを前提に

「この点、体罰とは、一般的には、身体に対する侵害を内容とする懲戒はもちろんのこと、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒も含まれると解されるが、特に剣道のような格技においては、格技という性質上あるいは運動の激しさ等の理由から、どの程度の有形力を伴う指導が許されるかは一義的に定めることは困難である。」

とした上で、

「したがって、練習中にある程度の擦り傷や痣などができることは不可避であり、やむを得ない面があるとしても、指導の目的や手段、結果の重大性等を考慮し、指導の必要性や相当性の観点からみて、教諭の生徒に対する指導が社会的に相当な範囲を超えると認められる場合には、そのような指導は体罰として違法であるといえる。」

との判断基準を示しました。

その上で、裁判所は

  • ⑤防具の胴を上に押し上げてその固い部分を喉に押し当てて圧迫する行為

  • ⑦原告を舞台袖の階段から突き落とす行為

は、

「打突部位の指示などといった剣道の指導との関連性が乏しいといえ、剣道の指導に必要であるとは考え難い」

とし

さらに、少なくとも、

  • ①頭がくらくらするほど力強く太鼓のバチで叩く行為

  • ②防具の面の隙間に太鼓のバチを刺し込む行為

  • ④窒息しそうになるほど強く太鼓のバチや竹刀で喉を圧迫したり突いたりする行為

は、

「身体の急所に対する強度の肉体的苦痛を伴うものであり、生徒の生命、身体に重大な危険を及ぼす行為であって、指導の程度としての相当性を超えるものといわざるを得ない。」

として、

「Y教諭の上記①ないし⑦のような指導は、指導熱心のあまり及んだ行為であるとしても、全体として、社会的に相当な範囲を超えているといわざるを得ず、体罰に当たるから違法であるといえる。」

と判断しました。

「指導の一環」という名の体罰

スポーツの現場では「指導の一環」という名のもとに顧問や監督・コーチによる体罰が行われています。

しかし、スポーツの「指導」という場合、それは本来であれば技術面における指導であるべきはずです。

そのように考えると、顧問や監督・コーチが暴力を振るえば選手の技術は向上するはずがないことは明白だといえます。

また、選手が顧問や監督・コーチから体罰を受ける場合のほとんどが、練習中や試合中におけるミスに対してのものです。

したがって、選手は、次に体罰を受けたくないという気持ちでプレーすることになります。

これでは技術が向上することはありません。

では、なぜ顧問や監督・コーチは体罰を加えるのでしょうか。

それは自分たちが選手だった当時、同じように「指導の一環」という名のもとに体罰を受けてきたこと、それにより技術が向上したと思い込んでいるからに他なりません。

選手たちの技術向上に体罰は何の役にも立たないということを、現在選手たちの指導にあたっている顧問や監督・コーチは気づくべきだと思います。

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