市立中学校の剣道部顧問からセクハラ行為等を受けた事例

2018.11.03 パワハラ・セクハラ

大阪地方裁判所平成20年5月20日判決

事案の概要

 

本件は、被告大阪市が設置する中学校に在学し剣道部に所属していた原告が、剣道部顧問のY教諭から、犬のように3回まわってワンと言わせるなどの人格権を侵害する屈辱的な行為や服を脱がせるなどといったセクシュアル・ハラスメントに該当する行為を受けたことから精神的苦痛を被ったとして、中学校の設置者である被告大阪市に対し、国家賠償法1条又は安全配慮義務の一環としての教育環境配慮義務違反による債務不履行責任に基づき、慰謝料の支払を求める事案です。

背景事情

原告は、前任校の生徒や他校の剣道部の顧問から、Y教諭は素晴らしい教諭であり、Y教諭の指導するとおりに練習していれば絶対に全国大会に出場できるなどと聞いていました。

Y教諭による剣道の指導は厳しかったですが、剣道の練習時間以外では原告に優しく接し、勉強の時間を設けるなど、親といる時間よりもY教諭といる時間の方が長かったことから、本件当時13歳前後であった原告にとってY教諭は唯一頼れる大人という認識でした。

原告は、クラスメイトやレギュラー部員の保護者らの間では、「Y教の信者である」とか、「Y教諭のマインドコントロールにかかっているのではないか」とまで言われるほどY教諭を信奉しており、Y教諭の出張中、練習等をするように指示を受けていなかったために、練習しないまま帰宅したことを厳しく叱責されたので、Y教諭に謝りに行ったように、Y教諭の言うことはどんなことでも受け入れるというような状態でした。

このように、原告は、Y教諭に対し、唯一絶対的な存在として畏敬の念を持っており、Y教諭の言うことは正しいことであると信じ、常に、Y教諭が何を望んでいるかを考えて行動していました。

Y教諭は、原告と同学年の女子剣道部員には大きな期待をかけており、同人らを褒める一方、退部していった剣道部員たちを負け犬とか、根性なしなどと呼んでいたことや、剣道部員が退部しようとすると、長くて半年間ぐらい引き止めたりしたことがあり、原告はY教諭の説得を押し切って剣道部を退部することも精神的体力的観点から容易ではないと感じていました。

このような結果、Y教諭により、原告にとって、剣道部を退部しにくい状況が作られていました。

さらに、平成10年3月の終わりごろ、Gが剣道部以外の男子生徒と交際していたことがY教諭に発覚した際、Y教諭は、その直後の練習試合にはGを出場させなかったり、また、剣道部以外の同級生と付き合っていたEに対しても異性との付き合いを止めるように説得するなど、Y教諭の強大な影響力は原告の私生活面にまで及んでいました。

なお、Y教諭の剣道部員に対する指導は厳しいものでしたが、自らの時間と労力を惜しまず、熱心に指導に当たり、部員達もそれに応えて稽古に励んだ結果、次第にその実力を向上させたことから、B中学校の剣道部は地元の有力校と目されるようになり、Y教諭は、益々、周囲から有能な指導者として評価され、保護者の中にもY教諭を信奉する者も少なくありませんでした。

Y教諭の指導方法

Y教諭は、「やらされる稽古から自分たちから求める稽古へ」をモットーとして掲げ、原告に対し、常に自分たちが何をすべきかを考えて練習をするように指導していましたが、その結果、原告ら剣道部員は、自分たちが何を求めるかというより、むしろY教諭が何を望んでいるか、Y教諭から何を求められているかを常に意識して行動するようになっていました。

例えば、原告がY教諭の面前で立ったまま話を聞いていると、Y教諭から、「突っ立っていてええんか。」とか「偉くなったな。」などと嫌みを言われ、暗に正座をしなければいけないことを示唆されたり、また、原告が、Y教諭が出張で練習が休みになったので、放課後に何もせずに帰宅したら、Y教諭が部員が自主的に練習やミーティングをしなかったことを叱責し、翌日の練習の際には原告を置き去りにしたまま車で帰宅してしまいましたが、Y教諭は、原告に対し、事前に具体的な指示をしていた訳ではありませんでした。

このように、Y教諭の指導方法は、原告に直接的に指示をするのではなく、原告がY教諭の顔色や言葉のニュアンスなどから同人の指示内容を察してY教諭の思いどおりに動くようにするという指導方法でした。

また、原告は、全国大会に行けるなら死んでもいいと思うくらい剣道に熱中しており、Y教諭も、原告は、とても頑張り屋で、負けず嫌いで、自分を見てほしいという強い気持ちがよく表れる子だと評価していました。そして、原告と同学年の女子剣道部員、特にレギュラーの剣道部員は向上心やライバル心が非常に強かったところ、Y教諭は、原告に対し、君達は素晴らしい生徒であり、他の遊んでばかりいる生徒らとは違って特別な生徒である旨を述べたり、Y教諭から叱責されるということはそれだけY教諭から期待されているという意味であるなどと述べていました。そのため、原告は、当初は、Y教諭から詰所に呼び出されて個別指導を受けていましたが、次第に、Y教諭に呼び出されなくても詰所に叱ってもらいに行くようになっていきました。

セクハラ行為等について

Y教諭から、セクハラ行為等を受けるようになったのは、平成9年3月ころでした。

Y教諭の個別指導は、詰所やシャワー室等で行われましたが、原告ら剣道部員の間では「儀式」と呼ばれていました。

詰所の広さは6畳くらいであって、Y教諭は、黒いソファーかスチール椅子に座っており、原告は、Y教諭に向き合う形で床の上に正座をしていました。

Y教諭と原告との距離は1メートルも離れておらず、原告の頭の上辺りにY教諭の顔がある体勢でした。

そして、原告は、詰所で個別指導を受けた際、Y教諭から、鍵をかけるように指示されたことや、剣道の練習が終わって、原告が、詰所にいるY教諭にその旨の報告をしに行った際、扉に鍵がかかっていて、しばらく外で待っていると、詰所からEが出てきたことがあったことなど、Y教諭は、詰所で個別指導をする際、剣道部員らに命じて、詰所の扉の鍵を閉めさせていました。

歌を歌わせる行為

原告は、Y教諭から呼び出され、最初は、剣道の技術的な面について、その後、精神的な面について叱られました。

その際、Y教諭は、言われたとおりできないのはプライドが高いからであるなどと述べた上で、原告に対し、「3回まわってワンと言え。」と命じました。

原告がこれに躊躇すると、Y教諭は、当時部長候補であったEを詰所に呼び、同人に対して同様の命令をしたところ、同人は、Y教諭と原告の前で3回まわってワンと言いました。

Eが練習に戻った後、Y教諭は、「やっぱりEは違う。」などと言ったので、原告は、自分も3回まわってワンと言う旨を申し出ましたが、Y教諭から、「他人の真似をするのは楽やなあ。だからお前はあかんのや。いつまでたっても指示待ち人間なんや。」と言われたため、「プライドを捨てるために歌を歌います。」と言いました。

Y教諭が「ほな、歌え。」と言ったので、原告は、童謡の「チューリップの歌」を歌いました。

それを聞いたY教諭は、満足気に原告を見て、「自分のプライドを捨てて全国大会に行くためにY教諭について来る気があるんやな」と尋ねたので、原告は、「はい」と答えると、詰所からの退出を許されました。

指を咥えさせる行為

Y教諭は、原告に対し、試合中にY教諭の気持ちが言わなくても理解して反応できなければいけないという理由から、Y教諭が説教の途中で人差し指を出したら、出された瞬間にそれを咥えなければいけないという「儀式」もするようになりました。

床を舐めさせる行為

Y教諭は、原告に対し、全国大会に出場するためにはY教諭に勝つつもりで稽古をしなければ勝てないなどと述べた後、「じゃあどちらが先に床を舐められるか勝負や。」と言って、詰所の鍵を閉めさせた上、「よーい、どん。」と合図をしました。

Y教諭は、原告が床を舐めようとすると、肩を引きはがしたり、顔を手でつかんで押しのけたりして妨害し、二人は揉み合いながら、床を舐める競争をしました。

服を脱がせる行為

Y教諭は、原告に対し、剣道の技術面の指導から、なぜY教諭の指導どおりにできないのかというような話をした後、「全部裸になりきれてない。」などと、Y教諭を信用しきれていないからY教諭の指示どおりできていない旨述べました。

これに対し、原告が、「Y先生を信用しており、心を裸にしてついていきます。」と答えたので、Y教諭は、原告に対し、「ほんまに裸になれるのか。」などと言いました。

原告は、Y教諭が暗に服を脱ぐように示唆しているものと理解し、「はい、脱げます。」と答えて、胸元のホックを外し始めたところで、Y教諭が原告の手を止めて、原告の気持ちはよく分かったと述べました。

原告は、その後も、詰所において、何度か同様のやりとりの末、同様の行為が繰り返されましたが、回数を重ねる度にY教諭が止めてくれるタイミングが遅くなっていき、最終段階においては、スポーツブラとパンツ1枚の姿になったときにようやく止めてくれました。

それでも原告がそれ以上脱ごうとすると、Y教諭は、脱ぐのを止めさせて、原告を前から抱きしめました。

また、ある時は、原告を抱きしめて、「処女をくれるか。」と言ったこともありました。

裁判所の判断

Y教諭の行為の違法性について

裁判所は、以上の行為を認定した上で、

「Y教諭の原告に対する行為のうち、少なくとも服を脱がせる行為は、剣道の精神面の指導から端を発したものであるとしても、原告の性的羞恥心を害する行為であって、社会通念上およそ許されざる行為であり、原告が主張するY教諭の行為は、全体として、原告の性的自由ないし人格権を侵害するものとして違法であるといわざるを得ない。」

と判断しました。

被告大阪市の責任について

裁判所は、

「被告大阪市は、公務員であるY教諭が原告に対して行った不法行為について、国家賠償法1条に基づき、損害賠償責任を負うこととなる」

と判断しました。

また、裁判所は、

「Y教諭は、原告に対し、セクハラ行為等を繰り返していたのであるから、被告大阪市は、履行補助者であるY教諭の故意・過失により、原告に対して行われた教育環境配慮義務違反行為により発生した原告の損害につき、債務不履行責任を負うこととなる」

とも判断しました。

表面化するケースが少ないセクハラ・パワハラ事案

 

 

昨今ではスポーツ界におけるパワハラやセクハラの案件が表面化することが増えてきましたが、以前はあまり表面化してきませんでした。

裁判例としても非常に少ないのが実情です。

この裁判例についても、原告(実際には他にも2人が原告となっていました)がこの裁判を提起したのは中学校を卒業してから7年後のことでした。

表面化することが少ない理由としては、

  • 部員や選手が顧問や監督・コーチを信頼しており、客観的にみればパワハラやセクハラに該当する行為であったとしても部員や選手にはその認識がないこと
  • パワハラやセクハラを受けていることを外部に漏らしてしまうと顧問や監督・コーチから不利益を被るかもしれないという不安があること

などが考えられます。

しかし、私のもとに寄せられる相談のほとんどがパワハラやセクハラの事案です。

そのことからすると、スポーツ界には表面化していないだけで、実際には多くの部員や選手がパワハラやセクハラの被害に遭い、苦しんでいるのだと確信しています。

すでに数年前の出来事で、泣き寝入りしたままスポーツそのものを辞めてしまったという事例もありました。

今からでも遅くはありません。

この裁判での原告のように、たとえ過去の出来事であったとしても、被害の回復を図ることが必要だと思います。

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