市立中学校剣道部で他の生徒が横に振った竹刀が右眼部分に当たり右眼視力低下、右眼内斜視などの障害を負った事故

2018.11.24 スポーツ中の事故

仙台地方裁判所平成19年9月27日判決

事案の概要

本件は、被告が設置管理する市立A中学校の剣道部での活動中に、他の生徒が横に振った竹刀が原告の右眼部分にあたり、その結果、原告が右眼視力の低下、右眼内斜視などの障害を負ったことについて、原告が、被告に対し、部活動における指導監督義務違反などを主張して、国家賠償法1条1項に基づいて、損害賠償の支払いを求めた事案です。

原告は、小学1年生のときから剣道を習っており、平成14年4月当時、A中学校の剣道部に所属していました。

Bは平成14年4月A中学校に入学しました。

Bも小学校1年生のときから剣道を習っており、平成14年4月20日から同月23までA中学校の剣道部に仮入部しました。

剣道部の顧問は、平成12年4月から平成14年3月まで、G教諭とM教諭の2人でしたが、同年4月からは、他の部活動の顧問が不足したことにより、部員の少なかった剣道部の顧問がG教諭1人とされました。

顧問教諭らは、入試時期など剣道部の練習に立ち会えない場合は、予め、剣道部の部長等に練習に立ち会えない旨を伝え、練習が終わったときは、部長が顧問教諭らに報告し、顧問教諭らが練習場所に向かい、挨拶や話をし、顧問教諭らが練習場所に行くことができないときは、部長から練習の様子を聞き、部長に連絡事項を伝達させ、「終わりにしていいよ」と言って、終わらせていました。

特に、生徒主導による練習がしっかりとできているときには、その頑張りを褒めるなどして指導していました。

他方、剣道部の部員は、顧問教諭らが練習に立ち会えないときは、生徒主導により練習に取り組んでいましたが、その際、顧問教諭らから、練習に関する具体的な注意事項について、指導を受けたことはありませんでした。

平成14年4月23日、午後3時ころから午後5時ころまで、職員会議があり、G教諭を含め全職員が会議に参加したため、他の部活動の顧問教諭も部活動には立ち会わず、職員会議中、部活動の巡視体制は採られていませんでした。

そのため、G教諭は、剣道部の部長であるUに対し、遅くとも練習の前に、「今日も行けないから、いつもどおり自分たちでやりなさい」と指示しました。

剣道部は、A中学校の体育館が狭く、練習場所として1日置きにしか利用できないため、同日の活動は、屋外であるA中学校のピロティーにおいて行われました。

原告は、同日の部活動に参加し、午後4時前から午後5時ころまでの予定で、他の正式部員と共に、仮入部生の指導を行っており、Bは、仮入部生として、友人のFと共にその練習に参加していました。

練習中は、Uと原告とが剣道経験者であったことから、その両名が中心となって練習を進め、2・3年生の生徒が、仮入部員に対して、素振りや構えの指導をしていました。

竹刀は、剣道部の部室の横にある竹刀立てに管理されており、仮入部期間中も、正式部員が竹刀を取り出し、各仮入部生に対し、握り方や、横に振り回したりしないようにとの注意事項を伝えたうえ、手渡していました。

ところが、午後4時40分ころ、Bが野球のバットのように横に振った竹刀が原告の顔面右眼部分に当たりました。

原告は、すぐに3年生の女子部長に付き添われて保健室に行きましたが、鍵がかかっていたため、事務室に行き、養護のH教諭を呼んでもらいました。

原告は、H教諭が来るまで事務室の事務官に冷たいタオルで顔を冷やしてもらいました。

原告の学級担任であるI教諭は、本件事故発生の知らせを受け、同日午後5時過ぎ、原告の自宅に架電し、原告の母親であるJに対し、剣道の部活動中、原告の目に竹刀が当たり、原告が怪我を負ったので、すぐに迎えに来るよう伝えました。

Jは、かかりつけのL眼科医院に架電し、すぐに原告を連れて行くので診療時間を過ぎても待っていて欲しいと伝え、保険証などを準備して、被告学校に向かいました。

JがA中学校に到着したころ、原告は、片目で目に当てたタオルを押さえており、原告の眉間から右目の上を通り右頬に至るまで竹刀の跡がクッキリと付いていました。

Jは、そのまま原告を連れてL眼科医院に向かいました。

原告は、L眼科医院のK医師による診察を受け、視力検査、眼球・眼底検査などを受けました。

裁判所の判断

裁判所は、国家賠償法1条の責任について判断するにあたり、まず

「学校管理者たる校長や指導担当教諭は、教育活動の一環として行われる部活動において、部活動に参加する生徒の安全を図る義務を負っているが、部活動が、本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みると、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合を除いては、顧問の教諭において個々の活動に常時立会い、監視指導すべき義務までを負うものではないと解するのが相当である。」

との判断基準を示しました。

そして、裁判所は、本件について

「本件事故は仮入部期間中に発生したものであるところ、仮入部制度とは、被告学校において、毎年度4月ころ、正式入部に先立って、1年生が自由に種々の部活動を見学・体験して、自身の適性にあった部活動を選択するための制度である。」

「仮入部生として各部活動を体験する者は、中学1年生になったばかりの生徒であり、その中には部活動の経験者もいれば未経験者もおり、仮入部届けなどはないから、各部において、事前に何人仮入部するかを把握することはできない。」

「仮入部期間中は、不慣れな仮入部生による部活動中の事故発生の危険が高い期間であるから,各部の顧問教諭にとって,正式入部後の部活動と比べて、各練習日にどのような仮入部生が入部しても危険のないような練習を計画した上で、当日の仮入部生の入部状況に関心を持ち、部活動中の事故が発生しないよう適宜指導することが必要であったということができる。」

と、本件が仮入部期間中であったという特殊な状況を踏まえて、

「平成14年度の剣道部における仮入部期間中の仮入部生に対する練習内容は、竹刀の握り方、構え方、素振りの仕方といった剣道の基本を内容としているが、竹刀を用いた練習であり、竹刀はその形状に照らし、用い方次第では危険な結果を生じうる用具であるところ、仮入部生の中には剣道未経験者や未だ竹刀の持つ危険性に対する理解が不十分な者もいることは容易に想定できるところである。」

「G教諭は、仮入部期間中の仮入部生に対する指導について、構え方と素振りの仕方を仮入部生に教えるよう剣道部の上級生に指示したのみで、竹刀の取扱い方、間隔の取り方などについて指導するような指示はしていなかったのであるから、G教諭に本件のごとき事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能とされる特段の事情があったものというべきである。」

と特段の事情を認めました。

その上で、裁判所は、

「部活動は、これに参加する生徒の自主性に委ねられるところが大きいといっても、仮入部期間の時期は、新入生がこれから学校生活に適応していく時期であるから、部活動の取り組み方についても教師が指導、監督する必要性は大きいということができる。」

「また、剣道は、防具を着用して行われる競技であるところからしても、竹刀の有する打撃力は大きいものであり、顧問教諭らは、竹刀の用法上の危険性については十分に生徒を指導、監督するべきであったというべきである。」

「G教諭は、仮入部期間中の練習について、できる限り練習に立ち会い、仮入部生に対して、可能な限り直接に指導にあたり、竹刀を持たせる前には竹刀の危険性と用い方などの注意事項を説明して目的外の使用をすることを禁じ、練習する際には、各自がぶつかり合わないように適切な間隔を保っていることを確認し、適切な間隔が保たれていない場合には適宜間隔を保つように指導、監督したり、仮に、仮入部生が竹刀をバットのように横に振るなど本来の用法とは異なる用い方をしているのを発見したならば、直ちにこれを中止させるとともに、以後、このような行為を厳禁することを部員を含め練習参加者に周知徹底すべき義務があった。」

「職員会議への出席等、G教諭において直接仮入部生を指導監督することに差し支えがあるときには、予め部長に上記の内容を徹底するよう指示しておくべき義務があったというべきである。」

と判示しました。

※なお、高等裁判所平成20年3月21日判決では、

「職員会議への出席等、G教諭において直接仮入部生を指導監督することに差し支えがあるときには、部長らの指導で顧問教諭の指導と同等の効果が得られると判断できるときは、予め部長らに上記の内容を徹底するよう指示し、そうでない場合には、仮入部に関する部活動を中止すべき義務があったというべきである。」

と、より具体的に判示されました。

裁判所は、

「ところが、G教諭は、仮入部期間中の練習について、対面式のころに、部長や原告を含めた上級生に対し、初歩的な「素振り」を体験させること、剣道部の雰囲気に親しませることを主眼とし、「構え方」と「素振りの仕方」を仮入部生に教えるように指導したのみで、竹刀の用法上の危険性や目的外使用の禁止を仮入部生に対して徹底させるようには指導しておらず、竹刀を使用する際の相手や周囲との間隔についてもこれまでの指導経過や生徒達の練習の状況に照らし、生徒が安全な間隔を取って練習することをわきまえていると考え、特に間隔をあけて素振りをするようにと注意することはなかった。」

「G教諭は、仮入部期間中の練習にはほとんど立ち会わず、仮入部生に対し直接指導することもせず、部長や原告を含めた上級生に練習の実施をほぼ任せ上記のような指導監督を怠っていたのであるから、これらの点において、G教諭には前示の注意義務を怠った過失があるというべきである。」

として、被告の国家賠償責任を認めました。

※仙台高等裁判所平成20年3月21日判決

仙台高裁は、控訴人(一審被告)が

「仮入部期間中の練習内容は、事前にG教諭からU部長に指示されていた上、危険性の高い練習は行われず、危険性は低かったと評価できるものであって、竹刀を用いる点も危険性を高める要素とはいえないところ、部活動の顧問教諭は、生徒の自発的、自主的活動をサポートをすることを主目的として関与すべきであり、G教諭の指導の結果、通常の練習では部長に指示をすれば間隔を開けて素振りをするなど安全に練習をすることができていたのであるから、顧問教諭に本件のような事故の発生する危険性を具体的に予見することなどできなかったというべきである」

と主張したのに対し、

「しかし、練習内容だけをみれば、仮入部期間中は構えと素振りの仕方を教えるというものであり、剣道の練習としては比較的危険性が低いといえるものの、竹刀の用途形状を考慮すれば、竹刀を用いて行う上記練習も相当程度の危険性を否定できないところ、仮入部生の中には、竹刀の危険性もわきまえていない生徒がいることが十分予想されるのであるから、本件のような事故が発生する可能性を十分予見できたというべきである。」

「通常の練習では剣道部員によって安全に練習をすることができていたかもしれないが、各自が剣道の練習を積み重ねており竹刀の危険性もわきまえている正部員だけで練習を行う場合と、竹刀の危険性をわきまえていない可能性がある仮入部生を指導する場合とを同列に扱うことはできない。G教諭に本件事故についての予見可能性はあった旨の原判決の判断に誤りはない。したがって、顧問教諭としては、仮入部生が、竹刀の危険性をわきまえ、いたずらで振り回すなど危険な行為に及ぶことがないよう厳重に注意するなど直接指導にあたる義務があったというべきである。」

「少なくとも,部長らの指導で顧問教諭の指導と同等の効果が得られると判断できるときには(仮入部生の年代からすると上級生の指導に素直に従わないおそれもある。)、部長らに対して、この点について十分に注意喚起し、仮入部生を適切に指導するように指示し、そうでない場合には仮入部に関する部活動を中止すべき義務があったというべきである。」

「竹刀の危険性、仮入部生の年代、導入時期であること等に照らすと、仮入部生の自主的な判断に委ねるのは相当でない。」

として、控訴人の主張を認めませんでした。

「部活動を中止すべき義務があった」との高裁の判断

本件はコラムの

顧問教員は部活動に立ち会うべき義務があるのか

でも触れた最高裁判決を踏まえて判断されたものです。

本件における高裁判決では、顧問教員が部活動に立ち会うことができず、部長等による指導では不十分であるという場合には、部活動を中止すべき義務があったと判断されました。

そもそも部活動は生徒による自主的な活動ですが、安全面に問題があるような状況でも必ず活動しなければならないものではありません。

その意味で、高裁判決は妥当であると思います。

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