県立高校剣道部における熱中症事故について学校と病院の過失を認めた事案

2018.12.20 熱中症・自然災害

大分地方裁判所平成25年3月21日判決

事案の概要

本件は、原告X1及び原告X2が、被告大分県が設置する本件高校の教員で剣道部の顧問を務める被告Y1及び副顧問を務める被告Y2について、原告らの子であるAが剣道部の部活動の練習をしている際に熱中症又は熱射病を発症したにもかかわらず、直ちに練習を中止し、医療施設に搬送し、あるいは冷却措置を実施するなどの処置を取らなかった過失があり、また、その後にAが搬入された被告豊後大野市が設置する病院の担当医について、熱中症又は熱射病に対する適切な医療行為を尽くさなかった過失があり、これらの各過失によってAが死亡するに至ったと主張して、

被告Y1及び被告Y2に対してはそれぞれ民法709条に基づき、

被告大分県に対しては民法715条1項本文又は国家賠償法1条1項に基づき、

被告豊後大野市に対しては民法715条1項本文に基づき、

連帯して損害賠償を求めた事案です。

Aは、本件当時、本件高校の2年生であり、剣道部の主将を務めていました。

Aは、剣道の段位3段を取得していました。

被告Y1は、平成21年4月に本件高校に赴任した教員であり、本件当時、剣道の段位7段を取得しており、剣道部の顧問としてAを含む同部部員を指導していました。

被告Y2は、平成13年4月に本件高校に赴任した教員であり、本件当時、剣道の段位5段を取得しており、剣道部の副顧問としてAを含む同部部員を指導していました。

被告Y1は、剣道部の顧問として、1日の練習(稽古)の内容や長期的な練習計画を決定し、剣道場での練習や合宿等に立ち会うなどの中で、部員に対する指導をしていまし、練習中の休憩や練習を終了する時間についても、指示をしていました。

被告Y2は、剣道部の副顧問として、顧問の補佐をしていましたが、練習(稽古)の内容や練習計画を決めるに当たって、被告Y1と相談したり、被告Y1から意見を求められるなどしたことはありませんでした。

平成21年8月22日は、出入口の戸及び全ての窓を全開にした上で、剣道場の壁際に設置した大型扇風機3台を最大風力、首振りで稼動させていました。

当日の練習参加者は、顧問である被告Y1及び副顧問である被告Y2と、Aを含む同部の部員ら8名(うち女子2名)の合計10名でした。

午前9時、被告Y1は、剣道場において、剣道部の練習を開始させ、部員らは、胴と垂れを着け、体操、素振り及び足さばきを行い、午前9時30分頃からは、前進、後退等の足運びの練習を行いました。

その後、被告Y1らは、部員らに、午前9時55分頃から午前10時25分頃までの間、休憩を取らせました。

休憩時間中には、各部員がコップ2、3杯のスポーツドリンクを飲み、Aもスポーツドリンクを飲みました。

また、保冷剤を当てて体を冷やす部員もいました。

午前10時25分頃から午前11時過ぎ頃まで、被告Y1らは、部員らに防具を着けさせ、大きく行う面打ち、大きくゆっくり行う切り返し、大きく速く行う切り返し、一息の切り返し(息継ぎをせずに行う切り返し)を行わせました。

これらの練習を行う中で、被告Y1らは、適宜に部員の練習を中断し、指導を行うことがありました。

一息の切り返しの練習中、被告Y1が、部員らを集め、Aが一息の切り返しができているか確認させたため、Aは、他の部員らよりも数回多く切り返しの練習をしました。

被告Y1が、Aを「合格」と判定してよいかどうかを他の部員らに尋ねたところ、2年生の男子部員1名がAを合格と判定しましたが、被告Y1は、その判定を撤回させました。

なお、時期は判然としませんが、この前後に、被告Y1は、剣道場にあった椅子を床に向かって投げました。

さらに、被告Y1は、Aの面の突き垂を上げ、Aの首付近を叩き、Aが、外れた面を着け直そうとして座ると、Aを押すなどしました。

午前11過ぎ頃から打ち込み稽古が開始されました。

打ち込み稽古は、当初4人元立ちで行われましたが、途中で、3人元立ちとなり、その後、2人元立ち(元立ちを女子部員2名として、2対6で行う。)になりました。

この間、部員らの中には、トイレに行って嘔吐するなどした者がいました。

A以外の部員が有効打を取って合格し、打ち込み稽古を終えていく中で、被告Y1は、A1人に繰り返し打ち込み稽古をさせました。

被告Y1は、再び、他の部員らにAの合否を判定させましたが、他の部員らはAが合格であるとは判定しませんでした。

このため、Aは、他の部員よりも数回多く打ち込み稽古をしました。

この打ち込み稽古の最中、Aが、「もう無理です。」などと述べたのに対し、被告Y1が「お前の目標は何だ。」などと問い掛けたところ、Aは、「大分県制覇です。」、「俺ならできる。」と述べ、練習を継続しました。

なお、これまでの部活動において、Aが、自ら「もう無理です。」などと発言することは稀でした。

Aは、打ち込みの最後の面打ちについて、小技でしなければならないところを大技で、かつ元立ちの女子部員が頭を押さえるぐらいに強い力で打ち込みました。

元立ちが女子部員から男子部員に交代した後、元立ちが先に発声したのに対し、Aが発声を返さなかったため、元立ちが発声するように促し、Aの竹刀を払ったところ、Aは竹刀を落としました。

しかし、Aはそのことに気が付かないまま、竹刀を構える仕草を続ける行動をしました。

他の部員らが注意してもAはこれに気が付きませんでした。

被告Y1が、「演技するな。」などと言いながら、Aの右横腹部分を前蹴りしました。

Aは、一旦は踏みとどまったものの、ふらついて倒れました。

他の部員が、Aに対してコップで水を掛けると、Aは、倒れたまま、自らの太腿付近を叩いたりする動作をしました。

また、この間に、Aは、自らの面をはぎ取るなどの動作もしました。

被告Y1が、Aの頬を叩き、Aは再び立ち上がりましたが、道場内の女子部室の方へふらふらと歩いて行き、壁に額を打ち付けて倒れました。

このとき、Aは、頭部から出血する傷を負いました。

被告Y1は、倒れたAの上にまたがり、「Y2先生、これは演技じゃけん、心配せんでいい」旨、「俺は何人も熱中症の生徒を見てきている」旨述べ、また、「演技をするな。」、「目を開けんか。」などと言いながら、10回程度、Aの頬に平手打ちをしました。

その後、被告Y1は、他の部員らを集め、面打ちの練習を1回させ、練習を終了しました。

他の部員らや被告Y2は、Aに水を飲ませるなどしました。

午前11時55分頃、被告Y1ら及び他の部員らは、Aに水分を摂らせ、頭部の傷を拭き、応急措置として、部員らが冷却のために利用していた保冷剤でAの額、頚部、脇の下、腿の付け根を冷やすとともに、大型扇風機をAに近付けて、風を当てました。

その後、Aが、突然嘔吐しました。

被告Y1は、Aに対して「おまえもう無理なんか。」「救急車呼ぶんか。」などと声を掛けましたが、Aはその声掛けに応じませんでした。

その様子を見て、被告Y1は、午後0時19分、救急車の出動を要請し、午後0時24分頃、救急車が本件高校に到着しました。

Aは救急車に乗せられ、被告Y1も救急車に同乗しました。

救急隊は、Aの傷病名及びその程度を、熱中症・重度と判断しました。

被告病院は、午後0時35分頃、救急隊からの「熱中症及び頭部打撲の患者さんの受け入れをお願いしたい。」との第一報に対して、当直看護師が「頭部打撲については、CT点検中につき対応ができません。」旨応答したところ、救急隊員が「頭部打撲については、軽傷である。熱中症の方がひどい。熱中症の対応で受け入れをお願いしたい。」旨説明したため、F医師が、被告病院において受け入れることを決めました。

Aは、午後0時54分頃、被告病院に搬入されました。

被告病院に搬入された当時のAの診療所見は、体温(腋窩温)が39.3℃であり、血圧が106/34、脈拍が毎分170回、意識レベルがⅢなどでした。

発汗は停止した状態でした。

F医師は、Aに対し、酸素投与及び輸液を行いましたが、輸液は25℃程度まで冷却されたものではありませんでした。

この酸素投与及び輸液の後、当初確認されなかった発汗が確認されるようになりました。

午後2時35分には、頭部X線検査が実施されましたが、異常は認められませんでした。

F医師は、救急外来として経過観察することとし、午後3時頃に入院措置を取るまで、体温測定や冷却措置を実施することはありませんでした。

F医師は、Aを搬送した救急車に同乗していた被告Y1から、午前9時から剣道場内で剣道をしていたが、午後0時前にふらふらして面を取った後、壁に頭部をぶつけて倒れ嘔吐した旨、たいした運動は強いていないし、水分も十分に与えていた旨を聴取しました。

また、F医師は、被告Y1又は被告病院に駆け付けた原告X1から、剣道部で新型インフルエンザを発症した部員が出たため練習を中止した旨を聴取しました。

F医師は、午後3時頃、Aに入院措置を取り、Aに対して三点冷却を実施するよう指示しましたが、指示を受けた看護師の判断で四点(頭部、片側腋窩及び両側鼠径部)での冷却措置(氷枕や保冷剤を使用)が取られました。

Aは、午後4時10分頃、昏睡の状態に陥り、午後4時50分に至って呼吸状態が悪化し、午後5時頃には心肺停止に陥り、この頃から心臓マッサージが開始され、午後5時10分に気管内挿管による人工呼吸が開始されました。

そして、午後6時50分頃、Aの死亡が確認されました。

平成21年8月23日、大分大学医学部教授のH医師によって病理解剖が行われ、死亡原因が熱射病であると診断されました。

裁判所の判断

Aの熱射病の発症時期について

裁判所は、

  • Aは、気温30度であったと考えられる本件事故日の午前11時過ぎ以降、休憩もなく約1時間にもわたって打ち込み稽古等の厳しい剣道の練習をしている最中、剣道場で竹刀を落としたままこれに気付かずに竹刀を構える仕草を続けた時点で意識障害が発現した。
  • その頃のAの体温は、深部温で39.8℃ないし40.3℃(被告病院搬入時と同程度)であり、意識障害を起こした後、遅くとも救急車で病院に搬入されるまでに、Aの発汗が停止したものと認められる。
  • 医学的知見によれば、熱射病の基準としての体温は、深部温として40℃以上であるとする文献もあるが、これよりも低い深部温でも熱射病の発症は否定されないとするものがあること、発汗停止については突然生じることがあるから、高体温と意識障害の2つの徴候があれば熱射病と考えてよいとする文献があること、また、新分類による場合、深部温39℃以上で、かつ、肝・腎の障害が認められれば、熱射病に相当するⅢ度熱中症に当たるとされ、被告病院搬入時においてAの肝・腎に障害が生じていたことがうかがわれること

から、

「Aが被告病院に搬送される前、剣道場内において打ち込み稽古をしている途中、遅くとも、Aが竹刀を落としたままこれに気付かずに、竹刀を構える仕草を続け、意識障害が発現した時点において、Aは熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したものと認められる。」

と認定しました。

そして、裁判所は、

「熱射病を発症したこの時点において、直ちに医療機関に搬送し、迅速に冷却措置を実施するなどする必要があり、そのような処置を取らなければ、死亡する危険が高いといえる状態に至ったものと認められる。」

としました。

被告Y1の過失について

裁判所は、

  • 本件高校の職員朝礼において配付された資料は、熱中症に関する医学的知見等に照らして、その内容は合理的なものであり、熱中症の応急措置として記載されている処置も、熱痙攣、熱疲労、熱射病に対応して、適切妥当な措置が記載されているものと認められ、被告Y1はこれを受領し、内容を把握していた。
  • また、被告Y1は、体育協会や教育委員会主催の熱中症対策講習会に出席して研修しており、部活動の指導者として求められる熱中症に関する知識及び生徒が熱中症を発症した際に取るべき処置に関する知識を有していたと認められる。
  • 被告Y1は、自身としても剣道をする者であり、指導歴も豊富であったこと、そのため夏場の剣道の稽古が非常に暑い環境下で行われることを当然に認識していたこと、部活動における生徒の熱中症(熱射病を含む。)について教員に対する注意喚起が従前からなされていたことに照らせば、剣道の練習中における熱射病に対する処置について、正確な理解が求められていたというべきである。
  • 被告Y1は、本件事故日、剣道場内において練習の進行順序を決定するなどその全体を把握し、練習開始から部員らの動向を見ており、Aが他の部員よりも多く打ち込み稽古をしており、練習の途中で「もう無理です。」と述べ、その後に竹刀を落としたのにそれに気付かず竹刀を構える仕草を続けるなどの行動を取っていたことも認識していた。

といった状況を前提とすれば、

「被告Y1は、遅くともAが竹刀を落としたのにこれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるという行動を取った時点において、Aが異常な行動を取っていることを容易に認識し得たといえる。

そして、このようなAの異常な行動が演技ではなく意識障害の発現であることは明らかであるから、剣道場内の温度、それまでのAの運動量、また、40分ごとに水分補給をすべきとされていたところ、練習が1時間以上に及んでいたことなどに鑑みて、Aが熱射病(ないしⅢ度熱中症)を発症したことについてもやはり容易に認識し得たというべきである。」

として、

「被告Y1には、竹刀を落としたのにそれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるというAの行動を認識した時点で、Aについて、直ちに練習を中止させ、救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送し、それまでの応急措置として適切な冷却措置を取るべき注意義務があったと認められる。」

としました。

その上で、裁判所は

「そうであるにもかかわらず、被告Y1はこれを怠り、Aに意識障害が生じた後も、打ち込み稽古を続けさせようとした。

その後にAがふらふらと歩いて壁に額を打ち付けて倒れた際にも、それがAによる「演技」であるとして、何らの処置も取らなかった。

結局、Aに意識障害が生じた後の午前11時55分頃から実際に救急車の出動を要請した午後0時19分頃まで、救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送するという措置を怠ったものであり、この点において、被告Y1には過失があったと認められる。」

と被告Y1の過失を認定しました。

また、裁判所は

「被告Y1は、Aに意識障害が生じた後の午前11時55分頃から実際に救急車の出動を要請した午後0時19分頃まで、救急車の出動を要請するなどしてAを医療機関へ搬送するという措置を怠り、それにより、病院への搬入が少なくとも約24分遅れたものである。

発症から20分以内に体温を下げることができれば、確実に救命できるとする文献があるところ、「確実に救命できる」と記載されていることからすれば、発症から20分以内に体温を下げなければ救命はあり得ないとまで述べているとは認められず、発症から20分以内に体温を下げることができなくても、その後に体温を下げれば救命可能性のあることは否定されていないものと解されるが、他方で、発症から20分以内に体温を下げることは、救命可能性を上げるために重要なことであると認められ、その点からして、本件において、意識障害が生じた後に病院への搬入が少なくとも約24分遅れたことは、Aの救命可能性を低下させる大きな原因となったものと認められる。」

としました。

これに対し、被告Y1は、

「幾分か遅れてしまったものの、Aに対する一定の冷却措置を取っており、熱中症に対する処置としては十分であった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「本件事故前の本件高校の朝礼において部活動指導者である教員に配付された資料に照らしてみても、『ふらつく・転倒する』などの症状、意識朦朧等の少しでも意識障害が疑われる場合に取るべき第一の措置は、救急車の出動の要請であるとされており、冷却措置は、救急車到着までの待機時間における応急措置としての意味をもつにとどまるから、早急に救急車の出動を要請するなどして、Aを早期に医療機関に搬送すべき義務を怠った過失が認められる以上、冷却措置を取ったことをもって、被告Y1の過失が否定されるとはいえない。」

として、被告の主張を排斥しました。

なお、被告Y1は、

「Aの頬に平手打ちするなどし、これは気付けの趣旨であった」

と主張しましたが、裁判所は

「このような行動は、熱中症を発症した者に対して行うべき適切な措置と認めることはできない。」

としました。

また、被告Y1は、

「被告Y1が、本件事故以前から、剣道部部員の保護者による会合(保護者会)や日頃の部活動の中で、塩分補給や水分補給について注意を促し、スポーツドリンクの利用を推奨し、また、積極的に長時間の休憩時間を取るようにしたり、自費で大型扇風機を購入して剣道場に設置するなどしていた」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「Aは、実際に剣道部の練習中に熱射病を発症したものであり、被告Y1には、熱射病を発症した際に、直ちに練習を中止し、救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送し、それまでの応急措置として適切な冷却措置を取るべき注意義務を怠ったという過失が認められるのであるから、被告Y1が、事前に種々の熱中症対策を実践していたとしても、その過失を免れることはできない。」

として、被告Y1が指摘する上記事情は、被告Y1の過失を否定するものではないと判断しました。

被告Y2の過失について

裁判所は

「被告Y2は、本件高校の職員朝礼において配付された資料を受領し、その内容を把握しており、剣道部の副顧問として、被告Y1と同じく、部員の生命及び身体の安全を保護すべき義務があった。」

としました。

また、被告Y2が剣道部の副顧問であった点について

「部員の生命及び身体の安全を保護すべき義務は、顧問、副顧問を問わず、部活動を指導する教員に求められる基本的な注意義務である。

被告Y2は、副顧問を務めていた平成18年8月に剣道場において夏合宿中の生徒が熱射病を発症して緊急搬送されたことを当然に知り又は知るべき立場にあったこと、また、上記配付資料を受領し、その内容を把握していたことにも照らせば、上記のような注意義務が、顧問に劣後する副顧問であったという一事をもって軽減されることはない。」

としました。

その上で、裁判所は

「被告Y2には、Aに熱射病の徴候である意識障害を窺わせる異常行動が認められた際に、練習を継続する被告Y1を制止するなどして直ちに練習を中止し、救急車の出動を要請するなどの適切な処置を取るべき注意義務があったというべきである。

ところが、被告Y2は、竹刀を落としたのにそれに気が付かず竹刀を構える仕草を続けるなどのAの一連の行動を見ており、かつ、それが異常な状態であるとの認識も有していたにもかかわらず、被告Y1が練習を継続するのを制止し、あるいは被告Y1に練習の中止を要請するなどといった措置を何ら取っておらず、かつ、Aが倒れるに至っても、被告Y1と同様に、直ちに救急車の出動を要請するなどの措置を取っていないのであるから、上記注意義務に違反した過失があると認められる。」

として、被告Y2の過失を認定しました。

F医師の過失について

裁判所は

「F医師は、救急隊員が熱中症の対応で受け入れを要請したのに応じてAの搬送を受け入れたものであり、Aが被告病院に搬入された時点において、体温(腋窩温)が39.3℃であること、意識障害を起こしていたこと及び発汗の停止がみられたことなどのAの全身状態について認識しており、その際のAの病状について「熱中症」「重度 3週間以上の入院加療を必要とするもの」と診断しており、救急車に同行した被告Y1から、Aが倒れた際の状況等も聴取していた。」

ことを前提に、

「このような事実に照らせば、F医師は、医師として、Aが軽度又は中等度の熱中症にとどまらず、熱射病を発症している可能性を認識し、それを前提とした治療行為を行うべきであったといえる。

そして、熱射病は、その発症から20分以内に体温を下げることができれば、確実に救命し得る反面、冷却措置等によって体温を下げることができずに時間が経過すれば、結果的に死亡に至る可能性が高いのであるから、熱射病患者に対する通常期待されるべき適切な治療としては、冷却効果の大きい四点冷却、迅速に患者の体温を下げる全身冷却等の療法を実施することが要請されているといえる。

そのため、本件において、F医師は、医師として、熱射病を発症している疑いのあるAに対して、直ちに四点冷却等の効果の大きい冷却措置を取るべき注意義務があったといえる。」

との注意義務の存在を指摘しました。

その上で、裁判所は

  • F医師は、Aが被告病院に搬入された時(午後0時54分頃)から約2時間経過した午後3時頃まで、冷却されていない輸液を行うにとどまり、経過観察をするのみで、四点冷却等の冷却措置を取らなかった。
  • 輸液は、熱中症に対する処置として患者の全身を冷却する効果が一定程度あるとされているものの、冷却されていない輸液の場合にはそもそも大きな冷却効果があるとはされておらず、より効果的に体温を降下させる方法として、全身を水等で濡らして送風するなどの全身冷却があるとされている。
  • 冷却措置を実施する場合には、冷却の効果として体温が降下しているかについても経時的に観察することが当然の前提となっているものと解されるが、F医師は、Aの搬入時に体温を測定して以降、午後3時頃に入院させるまでの間、体温の計測を行っていない。

との事実認定をもとに

「したがって、輸液それ単体を実施したとしても、熱射病を発症しているAの体温を下げるために取るべき処置としてはなお不十分であったというべきである。」

として

「F医師は、Aが熱射病を発症している可能性を疑った上で、直ちに四点冷却や全身冷却等の効果の大きい冷却措置を取るべき注意義務があったにもかかわらず、Aの搬入から約2時間もの間、これらの措置を実施することがなかったのであるから、前記の注意義務に対する違反があったといえる。」

と判断しました。

この点について、被告豊後大野市は、

「Aの頭部に必ずしも軽傷とはいい難い傷害が見られたこと、同行した被告Y1が『たいした運動はしていない』旨発言したこと、本件高校で新型インフルエンザが流行していたとの話を聞いたこと、本件当時に被告病院においてCT検査を実施することができなかったこと、F医師は熱中症の専門医ではないことなどの事情もあって、F医師は当初、頭部傷害による発熱の可能性や新型インフルエンザによる発熱の可能性を排除し得なかった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「頭部傷害や新型インフルエンザによる発熱の可能性が残るとしても、そのような患者に対して冷却措置を取ることが禁忌であった、あるいは不都合であったとする合理的な根拠は見当たらず、また、被告病院において直ちに冷却措置を実施することが容易にできなかったという事情も見当たらない。」

「そして、頭部CTについても、Aの腋窩温が高いことから深部温も高いと推認されたことに照らせば、その時点でこれを実施することが必要的であったとすることもできない。」

として、被告豊後大野市が主張する上記の事情は、F医師の過失を否定する理由となるものではないと判示しました。

以上より、裁判所は、

「F医師には、Aの搬入後に直ちに四点冷却、全身冷却等の冷却措置を実施しなかった注意義務違反があり、過失があったと認められる。」

と認定しました。

被告Y1及び被告Y2の各過失と結果との間の因果関係について

裁判所は、

「被告Y1及び被告Y2の各過失により、Aは、熱射病を発症後に放置されたものであり、熱射病は死亡に至る危険性があるとの医学的知見に照らせば、遅ればせながら搬送したことを考慮しても、Aは、そのまま放置されれば死亡するような状態になったものと認められる。」

「そして、Aが竹刀を落としたことに気付かないまま竹刀を構える仕草を続けた時点(熱射病の発症が認められる時点)では、なお熱射病の初期の段階であったと考えられ、熱射病の発症から約20分以内に適切な処置が取られていれば確実に救命できるとされていることを踏まえると、その時点で直ちに練習を中止し、救急車の出動を要請し、併せて冷却措置を取っていたとするならば、Aの体温を早期に降下させることができ、高度の蓋然性をもって、救命ができたものと認められる。」

として、

被告Y1及び被告Y2の各過失と結果(Aの死亡)との間には、相当因果関係があると認定しました。

F医師の過失と結果との間の因果関係について

裁判所は

「発症から20分以内に体温を下げることができれば、確実に救命できるとする文献があるところ、発症から20分以内に体温を下げることは、救命可能性を上げるために重要なことであると認められるが、『確実に救命できる』と記載されていることからすれば、発症から20分以内に体温を下げなければ救命はあり得ないとまで述べているとは認められず、前記の文献にも照らせば、発症から20分以内に体温を下げることができなくても、その後に体温を下げれば少なからず救命可能性があるものと解される。」

とした上で、

  • 本件では、被告Y1らが、Aの様子がおかしいことから、遅れながらも、一定の冷却措置を開始しているところ、これらの行動が、Aの救命が可能となる時間を延長させることにつながる行為となった可能性は否定できない。
  • 被告病院搬入時から午後3時頃までの約2時間の間、体温降下に有用な処置は、冷却していない輸液のみであったにもかかわらず、一時的にAの全身状態(意識状態を除く。)の回復が見られ、発汗の再開も見られたことを考慮すると、被告病院に搬送された時点におけるAの状態は、いまだ回復不可能な状態にまでは達しておらず、したがって、被告病院において直ちに冷却措置を開始したとするならば、なおAの体温を低下させるなどして救命することが可能であったと推認することができる。

との事情に照らせば、

「Aの重度の熱中症の発症から被告病院搬入までに約1時間程度を要していたことを考慮したとしても、F医師がAの被告病院への搬入後直ちに適切な冷却措置を開始していれば、Aが救命され生存し得た高度の蓋然性があったものと認められる。」

と判断しました。

この点について、被告豊後大野市は、

「Aが被告病院に搬入された時点では、既に、回復不可能の状態にあり、救命可能性がなかった」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「上記文献は、人工呼吸管理を要した症例を挙げて予後の悪さを示すものであるのに対し、本件において、Aは、被告病院搬入時のSPO2は97%であり、自発呼吸も認められており、搬入時直ちに人工呼吸管理を要する状態ではなかった。

このような事実関係に照らせば、本件は上記の文献が紹介する症例と同様のものであるということはできず、したがって、上記の文献を根拠としてAが被告病院搬入時点において救命可能性がなかったとすることはできない」

として、被告豊後大野市の主張を排斥しました。

以上より、裁判所は、被告病院搬入後に直ちにAに対して冷却措置を実施しなかったF医師の過失と結果(Aの死亡)との間には、相当因果関係があると認定しました。

被告大分県に対する損害賠償請求の成否について

裁判所は

「被告Y1及び被告Y2についてはそれぞれ過失が認められ、公務員である被告Y1及び被告Y2が、国賠法1条1項の公権力の行使に該当する公立学校における教員の教育活動において、同人らの過失により損害を生じさせたものであるから、公権力の主体である被告大分県が、国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。」

と判示しました。

被告豊後大野市に対する損害賠償請求権の成否について

また、裁判所は

「F医師については過失が認められ、同人の過失により損害を生じさせたものであるから、F医師の使用者である被告豊後大野市は、民法715条1項本文に基づく損害賠償責任を負う。」

と判示しました。

被告Y1及び被告Y2に対する損害賠償請求権の成否について

原告らは、

「国又は公共団体が国家賠償責任を負う場合であっても、公務員個人に重過失が認められる場合は、公務員個人も損害賠償責任を負う」

と主張しました。

しかし、裁判所は

「公務員関係については、国又は公共団体が国家賠償責任を負う場合には、公務員個人は民法上の不法行為責任を負わないと解すべきである(最高裁昭和30年判決参照)。

本件においては、前記のとおり、被告大分県が国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うから、被告Y1及び被告Y2は、原告らに対する不法行為責任を負わない。」

として、原告らの被告Y1及び被告Y2に対する請求を棄却しました。

本件でも顧問教諭らの損害賠償責任は認められなかった。

この記事をお読みいただいた方々の多くは、顧問教諭による数々の言動に驚かれたのではないかと思われます。

それでもなお、本件において裁判所は顧問教諭らの損害賠償責任を否定しました。

それは、顧問教諭らが「公務員」であることが理由です。

この点について、原告らは、顧問教諭及び副顧問教諭に対してのみ控訴して、同人ら個人としての損害賠償責任を認めるよう争いました。

その控訴審判決については別途紹介できればと思います。

なお、顧問教諭による言動を「体罰に当たるのではないか」と考えた方々もいらっしゃることでしょう。

また、「体罰」ではなくても「暴行」に当たると考えた方々もいらっしゃると思います。

しかし、本件では顧問教諭の言動としては主張しているものの、これを体罰や暴行に当たるとして損害賠償を求めてはいません。

その点について解説したいと思います。

被害生徒の死因は「熱射病」と診断されました。

つまり、顧問教諭による暴力行為により死亡したと認定されたわけではありません。

また、顧問教諭による暴力行為により被害生徒が傷害を負ったと認定されたわけではありません(頭部のけがは被害生徒が 女子部室の方へ歩いて行った際に壁に額を打ち付けたことによるものであって、顧問教諭による暴行でけがをしたわけではありません)。

したがって、仮に顧問教諭による暴力行為が「体罰」や「暴行」に当たるとしても、被害生徒の損害はその暴力行為により発生したものにとどまることとなり(けがをしていないことを考えると少額の慰謝料にとどまる可能性があります)、死亡に伴う損害については因果関係が認められないこととなるのです。

なお、仮に顧問教諭による暴力行為と死亡との因果関係が認められたとしても、顧問教諭個人に対する損害賠償責任はやはり「公務員だから」という理由で認められなかったと考えられます。

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