市立中学校剣道部員が竹刀をスティック代わりにホッケー遊びをした際、竹刀がすっぽ抜けて生徒の眼に直撃し失明させた事故

2019.01.11 スポーツ中の事故

神戸地方裁判所平成9年8月4日判決

大阪高等裁判所平成10年5月12日判決

事案の概要

本件は、市立中学校の剣道部員が竹刀をスティック代わりに、鍔をパック代わりにホッケー遊びをしていたところ、竹刀がすっぽ抜けて15メートル離れていた場所にいた原告の左眼を直撃し、失明させた事故について、被告の国家賠償法1条に基づく損害賠償責任が問われた事案です。

本件事故当時、本件中学校の格技室の北半分を柔道部が畳を敷いて使用し、南半分を剣道部が使用していましたが、格技室を使用するのはこれらの部だけではなく、卓球部等の他の部が使用するときは、剣道部は、中庭等で練習をしていました。

剣道部顧問のH教諭は、主に放課後の練習に立ち会い指導をしていましたが、剣道部の練習の開始から終了まで立ち会うことは少なく、途中から様子を見にくることがしばしばであり、職員会議等のため立ち会わない日もありました。

H教諭は、練習開始時から立ち会わない場合、キャプテンの生徒に、その日の練習内容を指示し、キャプテンが部員にこれを伝えて練習を行っていました。

H教諭は、部員に対し、竹刀の握り方や面の打ち方、防具の使い方等の技術を指導していたほか、剣道をする上での礼儀作法について、一通りの指導をしましたが、それ以上に、部員が練習以外で、遊びのため竹刀や鍔を使用しないように注意することはなく、練習の開始前や終了後に部員の行動を監視するようなことはありませんでした。

また、剣道部が使用する竹刀、鍔、防具等は、学校の備品、私物を含め格技室内の施錠されていない開閉扉のついた防具棚に保管されていましたが、その整理は、専ら部員の自主的な行為に委ねられていて、現実には、竹刀は十分整理されないまま横積みにされた状態に置かれていました。

剣道部では、本件事故以前から、格技室において、主として練習開始前に、他の部員がいるにもかかわらず、男子部員が竹刀や鍔を使ってホッケー遊びをしたり、竹刀を野球のバットのようにして振り回して遊ぶことがありました。

乙山は、平成5年6月に、本件中学校に転校してきて、剣道部に入部した生徒でしたが、以前の中学校でもホッケー遊びをしたことがあり、同校の教諭からしてはいけないとの注意を受けたことはなかったものの、この遊びが多少危険であると感じてはいました。

本件中学校に転入したところ、剣道部員が同じ遊びをしていたので、同校でも同様の遊びをするようになりました。

乙山は、ホッケー遊びをしている最中に、H教諭が格技室に来たことが一、二度ありましたが、H教諭の姿を見てすぐに止めていたので注意を受けることはありませんでした。

H教諭は、部活動が始まる前に部員が格技室でおしゃベリをしているのを見つけると、遊ぶなと注意をすることがありましたが、部員がホッケー遊びをしたり、竹刀を野球のバットのようにして振り回して遊んでいることに気付いたことがなく、これらの行為をしないようにと注意を与えたことはありませんでした。

また、ホッケー遊びを周囲で見ていた他の剣道部員は、振り回した竹刀が付近の者に当たる危険性を感じることはありましたが、そのためにホッケー遊びの禁止を学校側に訴えたことはなく、また、本件事故まで、ホッケー遊びの際に竹刀が手元からすっぽ抜ける状態で飛び出したことはありませんでした。

本件中学では、平成5年9月20日午前9時ころから午後4時前ころまで、校庭において、全校生徒による体育祭の予行演習が行われました。

午後の演習では、部活動の各部がユニホームを着用してする行進の練習も行われ、剣道部員は、防具の胴及び垂を着用してこれに参加しました。

予行演習の終了後、生徒はいったんそれぞれの教室に戻り、ショートタイム(ホームルーム)が行われた後解散し、各自下校するか部活動をすることになっていました。

剣道部員は、同日は剣道部に格技室の使用が割り当てられていなかったため、行進練習で使用した防具を格技室内の防具棚に片付けた後、素振り等の練習をするため竹刀を持って中庭に集合するように指示されていました。

乙山は、同日午後四時ころ、指示に従い防具を格技室内の防具棚に片付けましたが、すぐには中庭に向かわず、同じ二年生の剣道部員である丙川と、防具棚から本件中学の備品である竹刀と鍔を持ち出し、竹刀をスティック代わりに、床の上に置いた鍔をパック代わりとして、竹刀の剣先を鍔の中央の穴に入れ、勢いをつけて竹刀を、アッパースイングのようにして前方に思いっきり強く振って、鍔を床上を滑らせて打ち合うホッケー遊びを始めました。

原告は、そのころ、防具を片付けるために格技室に入り、他の剣道部員約10名とともに防具棚前で防具の整理をしていました。

すると、ホッケー遊びをしていた乙山が、玄関ホール前付近から原告の傍らにいる丙川に向かって鍔を打とうとして竹刀を強く振ったことから、竹刀が同人の手からすっぽ抜ける形で飛び出し、その剣先部分が、約15メートル離れた場所にいた原告の左眼を直撃しました。

本件事故当時、H教諭は三年生の副担任でクラス担任をしていなかったため、運動会の予行演習終了後は、職員室にいたところ、乙山があわてふためいて駆け込んできたので、急きょ格技室に駆けつけて初めて本件事故が発生したことを知りました。

原告は、本件事故により、左眼球癆の傷害を受け、受傷の当日に神戸市立中央市民病院に入院し、平成5年10月13日まで治療を受け、その後、平成6年12月29日までの間に15日間通院治療を受けたが、左眼を失明し、義眼装着を余儀なくされました。

裁判所の判断

第一審判決

第一審裁判所は、

「教育活動の一環として行われる部活動やこれと密接な関係にある生活関係においても、学校管理者たる校長や指導担当教諭に、部活動に参加する生徒の安全を図る義務がある。」

としながらも、

「しかし、剣道は、伝統的な格闘技であるといっても、防具を着け、竹刀を持って練習や試合をする範囲内では格別の危険性があるものではなく、竹刀も、衝撃を吸収するため割竹四枚を組み合わせた上、剣先を革等で丸くまとめてあるという形状に照らし、それ自体危険性のあるものとはいえず、中学生ともなれば、危険性の認識やその回避について相応の経験、判断力が備わっているのであって、過度の監督は生徒の自主性、自立性を損なうおそれのあることをも考慮すれば、竹刀の目的外使用によって具体的な危険の発生が予見されるような特段の事情のある場合を除いては、顧問教諭において竹刀や防具の使用について一般的な注意をし、また、竹刀が目的外に使用されているのを発見した場合に注意する以上に、竹刀の目的外使用による危険発生を防止するために、常時の監視や他学校との連絡による調査まですべき注意義務はないというべきである。」

と判示しました。

その上で、本件において、「特段の事情がある」といえるかについて、

  • H教諭は、部員らが竹刀を使ってホッケー遊びをしていたことを認識していたことは認められるものの、前記のとおり竹刀自体に本来的な危険性があるものとはいえず、実際に竹刀が手元からすっぽ抜けるような状態で飛び出したことはなく、部員らがホッケー遊びによる危険を訴えたこともなかったこと
  • 部員がH教諭の注意に従ってホッケー遊びを直ちにやめていたこと

を勘案すれば、

「S校長あるいはH教諭において、ホッケー遊びによって、本件のような重大な人身事故が生じることを予見すべき特段の事情があったとはいえない。」

として、

「したがって、H教諭において、竹刀の使用方法について一般的な注意をしたほか、部員らがホッケー遊びをしているのを発見した折に口頭で注意するに止まり、それ以上の措置をとらなかったことに過失があるということはできない。」

とし、

「また、S校長において過失があるといえないことも同様である。」

と判断しました。

これに対して、原告は、

「S校長やH教諭が竹刀の管理について十分に注意しなかったことも本件を発生させた原因である」

と主張しましたが、第一審裁判所は

「竹刀が本来的に危険なものであるといえないことは前記の通りであるから、S校長やH教諭が、部活動後、格技室に施錠する以上に同室内の防具棚に施錠しておく等の措置を採らなかったとしても、これをもって本件事故の発生に結びつく過失があったということはできない。」

と原告の主張を排斥し、

「S校長及びH教諭に部活動及びこれに密接に関係する生活関係において指導監督上の注意義務違反があったものとはいえないから、被告に本件事故についての責任を認めることはできない。」

と結論づけました。

控訴審判決

控訴審裁判所は、

「教育活動の一環として行われる部活動やこれと密接な関係にある生活関係において、学校管理者たる校長や指導担当教諭に、部活動に参加する生徒の安全を図る義務があることは前記のとおりである。

しかしながら、部活動が、本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みると、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合を除いては、顧問の教諭において個々の活動に常時立会い、監視指導すべき義務までを負うものではないと解するのが相当である。」

と判示しました。

その上で、本件について、

  • 本件中学校においては、剣道部の部活動で使用する竹刀や鍔が、格技室の施錠されない防具棚に収納され、その整理は部員の自主的な行為に任されていたことから、本件事故が発生するまで、男子剣道部員らが、竹刀や鍔を勝手に持ち出して、格技室内において、練習の始まる前に、他の部員がいるにもかかわらず、竹刀と鍔を使ってホッケー遊びをしたり、竹刀を野球のバットのように振り回したりすることが度々あり、時にはその最中に指導教諭が来たのをみて止めることもあったこと
  • 本件事故の加害者、被害者ともに当時、中学二年生になっていて、一般的には、危険性の認識やその回避について相応の経験、判断力が備わっているとはいえるものの、部員である生徒らの日頃の行動から見ると、それらの能力は未熟なものであるといわざるをえないこと

からすると、

「指導教諭らにおいて、平素から剣道部員らの格技室内での行動や、竹刀や鍔の使用状況に十分な注意を払っていれば、男子部員らが竹刀と鍔を使ってホッケー遊び等を行うなど、剣道用具をその本来の目的外の用途に使用していることに気付く筈であり、またそのことを十分に予測しえたものといえること、これに加え、竹刀それ自体危険性のない道具であるとまではいえず、防具を着用していない複数の他の部員がいる格技室内で、竹刀を振り回したり、強振して鍔を床上を滑走させたりすると、他の部員の身体等に対する危険が生じることも容易に予測しえたものと認められるから、本件においては、顧問教諭に本権のごとき事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能とされる特段の事情があったものというべきである。」

と判断しました。

また、控訴審裁判所は

「なお、これまで剣道部員らがホッケー遊びによる危険を顧問の教諭に訴えたことがなかったこと及びホッケー遊び中に、竹刀が手元からすっぽ抜けるような状態で飛び出したことがなかったことは、前記認定のとおりであるけれども、本件事故が予測不可能な、極めて例外的かつ偶発的現象であるとまではいえないし、また他の部員がホッケー遊びを指導教諭らに申告しなかったといっても、他の部員においてそれが危険な行為ではないと思っていたからであるとまではいえないことからして、右のごとき事情は、本件において、前記の特段の事情があったとの認定判断を左右するものではないというべきである。」

とも判断しました。

そして、控訴審裁判所は、

「そうすると、H教論は、剣道部員の生徒らに対して、格技室内の防具棚から勝手に竹刀や鍔を持ち出して、これらを剣道用具としての本来の目的外の用途に使用して、他の部員らの身体等に危険を及ぼすおそれのある遊びや行為を行わないように指導し、監督すべきであり、これらの行動が、一日の授業が終了し開放感に満ちた放課後の部活動の開始前に行われやすいことに鑑みると、放課後、部活動の開始前に格技室等の練習場に赴き、部員の生徒らか、整然と部活動の準備をしているかどうか監視し、部員の生徒らがホッケー遊び等を行っているのを発見したならば、直ちにこれを中止させるとともに、以後、このような行為を厳禁することを部員全員に周知徹底し、指導教諭が差し支えがあるときには予めキャプテンの生徒にこれを指示しておくなどの措置をとるべき義務があるというべきである。」

と、顧問教諭としての注意義務の内容を示した上で、

「ところが、H教諭は、竹刀の使用方法についての技術的な指導及び礼儀作法についての一般的な注意をしていただけであり、剣道部の練習の開始から、終了までを通して練習に立ち会うことは稀で、練習前の格技室に赴いて部員の行動を監視することもなかったため、男子部員らが格技室において、練習の始まる前に、他の部員がいるにもかかわらず 学校の備品の竹刀と鍔を使ってホッケー遊びをしたり、刀を野球のバットのように振り回したりして、剣道用具をその本来の目的外の用途に使用していたことに気付かずにこれらの行為を禁じる措置をとらないで、なすがままにさせていたものであることが明らかであり、これらの点において、H教諭に前示の注意義務を怠った過失があるというべきであり、この過失と控訴人(一審原告)の前記受傷との間に相当因果関係があるものというべきである。」

と判断しました。

これに対して、被控訴人(一審被告)は、

「剣道がスポーツとしては最も安全な部類に属するものであり、中学二年生にもなれば、竹刀を目的外に使用してはいけないことは当然に分かっていたはずであり、竹刀を用いた悪ふざけが起こることを予測して常時監視しておくことまで要求することは過大な求めである」

と主張しました。

しかし、控訴審裁判所は、

「剣道は、我が国の伝統的な格闘技であって、素振り練習以外の、他の部員相手に竹刀を持ってする練習(稽古)や練習試合の場合には、必ず面、胴、小手などの防具を着用することとしていること、竹刀は、衝撃を吸収するため割竹四枚を組み合わせた上、剣先を革等で丸くまとめてあるという形状をしていることから、打ったり、当てたりする限りにおいては、その危険性はさほどではないといえるが、剣先で突く場合には、その危険性は高く、特に、稽古や試合中に竹刀の竹材が折れ、その折れ口が相手の面がねのすき間から突入して顔面に怪我をさせる事故が発生していることは公知の事実であることからすると、剣道が危険性のないスポーツであるとは直ちにいうことはできない。」

「ましてや、防具を着用していない複数の他の部員がいる前記格技室内で、竹刀を振り回したり、竹刀を強振して鍔を床の上を滑走させたりすることは、他の部員の身体に対する著しい危険を発生させる行為であるというほかない。」

「そうして、竹刀は使い方いかんにより危険な武器と化するものであるから、学校長や指導教諭は、部員の生徒に、竹刀の使用方法について、技術的な指導を与えるだけではなく、その目的外使用を厳重に禁じる措置をとることはもちろん、本件事故の加害者、被害者ともに当時、中学二年生になっていて、一般的には、危険性の認識やその回避について相応の経験、判断力が備わっているとはいえるものの、それらの能力は未熟なものであるといわざるをえないことからすると、部員の生徒らが、部活動の行われる格技室内においてこのような目的外使用をしていないかどうか監視すべきことは、決して過大な要求ということにはならないというべきである。」

として、控訴人(一審被告)の主張を排斥しました。

その結果、控訴審裁判所は、

「H教諭に部活動及びこれに密接に関係する生活関係において、指導監督上の注意義務違反があったというべきであるから、被控訴人は、国家賠償法1条1項に基づき、本件事故により控訴人が被った損害を賠償すべき責任がある。」

と結論づけました。

教育活動とは無関係ではないのかとの争点についての各裁判所の判断

本件では、第一審と控訴審とでは顧問教諭の過失の認定によって結論を異にしました。

ただ、本件事故は、剣道部の本来の練習中ではなく、防具を棚に片づけた後に竹刀等を用いてホッケー遊びをしたことにより発生したものであり、教育活動とは関係ないのではないか、という点が争いになりました。

この点については、第一審も控訴審も同様の判断をしています。

まず、第一審裁判所は、

「 原告や乙山が、ショートルーム終了後に防具を収納すると共に、その後に予定されていた部活動である中庭での練習に備えて竹刀を取り出すため、格技室に立ち寄った際に本件事故が発生したものであり、教育活動の一環として行われる部活動と密着した生活関係において発生した事故であり、このような場合にも、学校管理者たる校長や部活動の顧問教諭は、部活動に参加する生徒の安全を図る義務があることは当然であるといえる。」

と判示しました。

また、控訴審裁判所は、

「控訴人や乙山が、ショートタイム終了後に防具を収納するとともに、その後に予定されていた部活動である中庭での素振りの練習に備えて竹刀を取り出すため、格技室に立ち寄った際に本件事故が発生したものであり、本件事故は、教育活動の一環として行われる部活動と密着した生活関係において発生した事故であり、このような場合にも、学校管理者たる校長や部活動の顧問教諭は、部活動に参加する生徒の安全を図る義務があることは当然であるといえる。」

と判示しました。

このように、いずれの裁判所も、本件事故が部活動と密着した生活関係において発生したとして職務関連性を認めたことになります。

「中学生がふざけあってけがをしたのだから学校は無関係である」とはいえないケースも存在するといえます。

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