キックボクシングにおける「危険の引き受け」が問題になった事例

2018.10.22 スポーツ中の事故

東京地方裁判所平成16年12月3日判決

事案の概要

原告が本件ジムの会員であるAとミット打ち等の練習をした後、同人と軽いスパーリング形式の練習に切り替えて練習をしていたところ、被告から「入れてもらえますか。」と声をかけられました。

まず、Aが被告との間でスパーリング形式の練習を行い、代わって原告が被告と3分1ラウンドの練習をすることになりました。

原告が被告に対し、「軽めにお願いします。」と声をかけて練習が開始されました。

その際、原告はヘッドギアを装着していましたがマウスピースは装着していませんでした。

他方で、被告は、膝サポーターを装着していませんでした。

当初は、受け返し程度の軽い練習でしたが、残り30秒くらいになったころから、被告が、ライトスパーリングという試合形式にやや近い程度の打ち合いに切り替え、攻勢に転じたため、原告は防御に回ることになりました。

原告は顎を双方のグローブでガードしていましたが、被告は、軽くジャンプし、原告の顔面に膝蹴りを行いました。

被告の右膝が原告の前額部に当たり、その衝撃で原告は歯を強く食いしばったために、原告は、上前歯1本の破折と下前歯2本に激しい痛みを伴う傷害を負いました。

そこで、原告は、被告に対して、不法行為に基づく損害賠償を求めました。

裁判所の判断

被告の違法性について

裁判所は、まず

「キックボクシングは、相互に相手の身体に対し、手拳及び足部により打撃を加え、その有効性の有無、程度により勝敗を競う競技であるから、身体に対する打撃やその接触を含まない競技に比べ、身体の安全性に対する危険度は相当程度高い競技である。

そして、その危険性の故に、ルールが厳しく定められているとともに試合やスパーリング形式の練習においては、グローブの外、頭部を保護するためのヘッドギア、歯牙や口腔内を保護するためのマウスピース及び打撃を緩和するための膝サポーターなどの装具を身体に装着することとされているのである。」

とキックボクシングの危険性について判示した上で、

「一般にスポーツの競技中に生じた加害行為については、それがそのスポーツのルールに反することがなく、かつ通常予想され許容された動作に起因するものであるときは、その競技に参加した者は、その危険を予め受忍し、加害行為を承諾しているものと解するのが相当であり、このような場合、加害者の行為は違法性を阻却するものというべきである(もっとも、被害者が受忍を求められる違反の程度は、当該競技の性質に応じて判断されるべきであるが、一般的には、その違反の程度が軽微な場合は除かれるというべきである。)。」

「原告は、本件事故当時、本件ジムに約3年通い、スパーリング等を含め練習を積んできたから、スパーリング形式の練習が定められたルール内で行われ、かつ相手の攻撃が、通常予想され許容された動作に起因するものであるときは、身体の安全性に対する危険を認識し、かつ受忍していたものとみるのが相当である。」

との判断を示しました。

その上で、裁判所は、

「顔面は、身体の最枢要部に当たるから、これに対する攻撃は、厳格なルールの下でなされる必要があるところ、膝蹴りは、手拳による打撃より、格段に威力があるから、膝蹴りが顔面に当たった場合の衝撃の程度は、手拳によるそれよりも相当に強度であるというべきである。

現に、「2002年1月改正」の「アマチュア試合規約」にも「第10条の反則技」として「③顔面へのひざ蹴り」が挙げられている。

また、本件ジムにおいては、顔面に対する膝蹴りについては、その打ち込みも防御も特段の指導はなされていなかったというのであるから、本件ジムにおけるスパーリング形式による練習の際に、膝蹴りによって顔面を攻撃することは、ルールに反していたといわなければならない(そして、前記のところから、膝蹴りによる顔面攻撃は、軽微な違反とはいえないと解される。)。

そうすると、顔面に対する膝蹴りは、本件ジムにおけるスパーリング形式における練習において、通常予想され許容された動作に起因するものとは認められず、原告において、顔面に対する膝蹴りを予見し、かつ回避することは期待することができなかったものと認められる。

したがって、原告が、これを防御することができず、その衝撃によって原告が傷害を負うおそれがあることは被告において十分予見することができたものとみるのが相当である。」

と判断しました。

この点について、被告は

「スパーリングにおいては、必ずしも自分の狙った場所だけではなく、相手の予期せぬ動きによって、本来禁止されていた部位に打撃や蹴りが当たったり、当てるつもりのない打撃や蹴りが当たることは往々にして起こり得るのであり、本件においても、被告が、膝蹴りをフェイントに使おうとして膝を上げたところ、原告が頭を下げたため、たまたま被告の膝が原告の前額部に当たったものである」

と主張しましたが、裁判所は

「被告の主張のとおりであれば、原告の受けた衝撃もさほどのものではなかったと思われるから、原告の被った本件傷害の程度を説明することができないというべきであるし、そもそも膝を上げれば相手はよりガードを固めようとするのが自然の動きであると思われるから、原告のガードを崩すために膝を上げてフェイントをかけたとする被告の主張は合理性を欠くというべきである。」

と判断しました。

その結果、裁判所は

「被告の原告に対する本件膝蹴りは、スパーリング形式の練習においても、ルールを逸脱していたものとみるのが相当であるから、原告が、本件について危険を引き受けたものと解することはできない。」

と判断しました。

過失相殺

他方で、裁判所は、

「被告とは、技量において相当の格差があったとしても、原告も、本件事故当時、キックボクシング歴として3年程度の経験を有していたから、到底、初心者ということはできず、キックボクシングの危険性については相当程度の認識を有していたものと認められる。

また、本件ジムにおいて、マウスピース装着が徹底されていなかったとしても、受け返しやスパーリング等の練習においては、相互に打ち合いになるから、マウスピースを装着することは、原告程度の経験を有している者にとっては、十分わきまえられていたものと認められる。

原告は、マウスピースを装着しないことについて種々弁解するが、その弁解及び被告が膝サポーターを装着していなかったことを考慮に入れても、同被告に原告の生じた損害をすべて負担させることは、損害の公平な分担という観点からみて、公平を失するといわなければならず、原告も責任を免れないというべきである。

原告がマウスピースを装着していれば本件傷害が生じなかったか否かはともかく、その被害の程度は相当程度軽減されていたものと認められる。」

とし、

「被告による膝蹴りが極めて危険性を有することを考慮しても、原告に対し、4割の過失を認めるのが相当である。」

と判断しました。

「危険の引き受け」とは何か

一般的に、スポーツには事故やけがについて一定のリスクが内在しているといえます。

例えば、野球ではデッドボールでけがをするリスクがありますし、ボクシングやフルコンタクトの空手などでは相手から殴られたり蹴られたりしてけがをするリスクがあります。

もっとも、スポーツに参加している選手は、そうしたリスクを承知の上で自発的に参加しています。

このように、スポーツに参加している選手が、事故やけがなどのリスクを予め受忍し、加害行為を承諾しているという理論を「危険の引き受け」といいます。

しかし、スポーツ選手といえども、どのような状況で起きた事故でどのようなけがを負ったとしても「予め受忍している」とはいえません。

そこで、本件において、裁判所は「一般にスポーツの競技中に生じた加害行為については、それがそのスポーツのルールに反することがなく、かつ通常予想され許容された動作に起因するものであるとき」には「加害者の行為は違法性を阻却するものというべきである」と判断基準を示しました。

逆にいうと、「スポーツのルールに反した加害行為」である場合や、「通常予想されない動作や許容されていない動作に起因した加害行為」である場合には、被害者が危険の引き受けをしていたとは認められないものとして、違法性を阻却しないということになります。

「スポーツにはけががつきものだ」という言い方をすることがよくありますが、だからといって、被害者がどのようなけがを負っても加害選手に損害賠償を請求してはならないという意味ではありません。

「スポーツにはけががつきものだ」という考えが、泣き寝入りという結論にならないようにしていただければと思います。

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